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リアクション
●押し込め! さらに押し込め! そして打ち破れ!
「俺たちはここで、敵の増援や伏兵を警戒しよう。皆は中へ向かってくれ、頼んだぞ」
リンネ一行を始めとした者たちが内部で激しい戦いを繰り広げているアジト、その入口付近では白砂 司(しらすな・つかさ)が、同じく駆けつけてきた冒険者と言葉を交わし、送り出していく。
冒険者が未だ把握していないアジトの構造、敵の存在を調査、警戒する彼らの行動は、今はめぼしい成果が上がっていなくても、同行する冒険者に安心のようなものを与えていた。現に、声をかけられた冒険者が感謝するように頷き、深く暗く続く階段を降りていくのであった。
(ありえない、とさえ思わなかった所。意識の外側……そこに、意地悪な答え、神秘の種はある。俺たちのしていることは愚直で臆病なだけかもしれない。……しかし、意味がなくとも、なかったからこそ、安心して笑えるというものだ)
一人心に呟いた司の携帯が、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)からの着信を告げる。
『司君? やっぱりありましたよ、アジトの裏口。作りも匂いもおんなじだし、間違いないですね! 壊してきちゃいましたけど、問題なかったですよね?』
「ああ、よくやってくれた。他に何かあるか?」
司の問いに、サクラコが答える。
『何かこう、流れを感じるんですよ。地下水とも思えませんし、何なんでしょうね?』
「……それはマグマかもしれん。近くには火山もある、何かの拍子に活動が活発化する可能性もある、か」
司が視線を向ける先には、かつてのシャンバラの首都が今は火山となって活動を続けているはずであった。
『魔王だか何だか知りませんが、それが司君の言うマグマってやつの餌食になってしまう分には構わないんでしょうけど――』
「内部で戦っている者が巻き込まれるのは避けなければな。……とはいえ、やれることといえば、この入口を補強して崩れないようにするくらいか。後は実際に巻き込まれかけた時に、助けに行くくらいしかないな」
『ちょ、ちょっと! ダメですよそんな、命あってのものですよ!』
心配して喚くサクラコを宥めて、戻って来いとだけ伝えて司が携帯を切る。
(華々しい成果など、どうでもいい。最後にこっそり、笑えればそれでいい)
見上げた空に、一筋の星が流れ落ちる――。
「はぅ〜、リンネちゃんもう疲れたよ〜」
内部では、魔法を行使し終えたリンネが盛大に息をついてうな垂れる。
「だらしないんだな。こんな時くらい、まだまだ大丈夫! って言うものなんだな」
「そーよそーよ、元気出してよね、リンネ!」
「ええっ!? リンネちゃんそういう役回りなのぉ!?」
「そうですよ、リンネさんは『アインスト』のリーダーなんですから」
「うぅ……リーダーって辛いんだね、今よ〜く分かったよぉ……」
モップスとカヤノ、セリシアにハッパをかけられ、気を取り直してリンネが頭をあげる。皆、「まだまだ大丈夫!」と口にしないことからも、限界が近づいているのが明白なのだが、今は気にしていられない。
……それに、彼らは決して、孤独ではない。
「この先がアジトか! 幽綺子、しっかり捕まっていろよ!」
「ええ、このようなところで振り落とされる私ではありませんわ」
西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)を後ろに乗せ、音井 博季(おとい・ひろき)が段差をものともせず、白馬を駆って大講堂へ一直線に向かっていく。広々とした空間に飛び出して直ぐに、状況を見て取った博季が剣を抜き、ためらうことなく手綱を引く。それに馬が応え、地面を思い切り蹴って飛び上がり、奮闘するリンネの頭上を飛び越して、闇の気を放とうとしていた信者を踏みつける。そのままスノーボードに乗るかのごとく信者を地面に擦りつけて衝撃を吸収し、即座に反転して立ちはだかる信者を蹴散らして、呆然と見守っていたリンネの前で馬を止める。
「大丈夫か、リンネ!? あなたが心配で助けに来た」
迷いなく言い放つ博季の姿は、窮地の姫を救いに来た騎士そのものであった。
「……向こうが騎士なのは認めるけど、リンネが姫だなんて認めたくないんだな」
「そこ、突っ込むの禁止!! ゴメンね、ありがと! ちょっとビックリしちゃったけど、カッコよかったよ!」
モップスのお尻に火の玉を放って、リンネが博季に感謝の言葉を投げかける。
「私が来たからには、リンネには傷ひとつつけさせない!」
「くす……あら、私はどうなのかしら?」
「幽綺子もだ!」
言った自身の言葉を自ら証明するかのように、博季が騎乗という機動力を生かしての防衛を行う。信者が攻撃に移る前に先んじて攻撃を放ち、それが結果としてリンネ一行への攻撃を減じることとなっていた。
「よ〜し、やっちゃうよ〜!」
そして、この場に駆けつけたのは彼らだけではない。階段から地を蹴って飛び上がり、またもリンネの頭上を飛び越して霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が手近な信者に飛び蹴りを見舞い、着地と同時に拳や脚から闘気をほとばしらせる。
「おいおい、付き合う私のことも考えてくれ。いきなり敵の真ん中に飛び込むのは危険過ぎるぞ」
後から追いついて来た霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が冗談交じりに呟きながら、左手一本で振るった槍で襲いかかろうとした信者を吹き飛ばす。
「そんな時でも私を守ってくれるのが、やっちゃんでしょ?」
「おまえなあ――」
「透乃ちゃん! もぅ、しっかりしてよね!」
「はいはい、透乃ちゃん。……そこまで言われたからには、私の身に代えてでも守ってみせよう!」
泰宏が言い放つのと、複数の信者が同時に二人に飛びかかるのはほぼ同時のこと。
「そうでこそ、やっちゃんだね!」
泰宏に微笑んで、透乃の振るった拳が信者の顔面を捉える。見た目からは想像付かない威力を秘めた一撃に、身体能力は普通の信者が耐えられるはずもなく、おかしな向きに身体を捻りながら吹き飛んでいく。その後も、鬼神の如き猛々しさで透乃が拳を、蹴りを放ち、泰宏が透乃にできる隙を庇うように動きながら、槍の一撃で迫る信者をはねのけていく。
「うわ〜、みんなすごいね〜。リンネちゃんこれで一休みできるかなぁ?」
「ちょっとリンネ、のんきなこと言わないでよ! 突然出てきて、いいとこ持ってっちゃってさ! 負けてられないわよ!」
「おっ、いいこと言うじゃねぇか。そうだよなぁ、ちょっと疲れてるからって、遅れを取るわけにゃいかねぇよなぁ」
階段から、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が飛び降り、地面を揺るがして着地する。
「キメラ倒してすぐ、ってのは流石にしんどいが……ああして闘ってんの見せられちゃ、やるしかねぇぜ!」
ラルクが自らの拳を掌に打ち付ければ、その拳に炎が宿り、銜えていた煙草にも燃え移って昇華するように消えていく。
「随分とあっっつ苦しいおっさんが来たわね! ま、そんくらいじゃないと、あたしがあいつらぜーんぶ凍らせちゃうんだけど!」
「がっはっはっは! 威勢の良さは認めてやる。だがな、あいつらを倒すのは俺だ」
気が合ってるのかすれ違ってるのか分からない会話を交わしながら、ラルクとカヤノが相対する無数の信者を前に、自信たっぷりといった表情を浮かべる。空元気、と言われれば否定はできないだろうが、時にはそういうのも必要だ。
「成る程。数で圧倒するってか? そう簡単に押し切れると思うなよ!」
言い放ったラルクに、信者の一人が守刀を手に飛びかかる。刃が捉えたのは、しかし硬い地面のみ。立ち上がり振り向きかけた信者の側頭部を、垂直に立つ柱をまるで床にでもするように蹴ったラルクの振り抜いた拳が捉える。
「あんたたちうざったいのよ! コレクションにすらなんないわ、串刺しになっちゃいなさい!」
カヤノの両手に冷気が凝縮され、そして掌を下から上へ振り上げれば、二筋の氷山が地面から天井へ伸び、信者を吹き飛ばし貫いていく。その足場の悪い中をラルクはものともせず駆け抜け、隙を晒した信者を拳で地面に沈めていく。
「はわわ、敵さんが一杯なのです。でもでも、此処を突破しないとセイランさんを救出できないですし、頑張るしかないのです」
同じく、階段から地面に足を着けた土方 伊織(ひじかた・いおり)が、無数にうごめく黒衣を前に竦みつつも、手にしたロッドをぐっ、と握り締める。
「私にお任せください。騎士の端くれとして、お嬢様はきっと守りきってみせます」
一度は言ってみたかった言葉をこの瞬間言えたことに、サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が喜びたい思いを心の中に秘めて、伊織を守るように進み出る。
「リ、リンネせんせー、どうすれば敵さんの注意をこちらに引きつけられますか? あの階段からセイランさんの救出に向かいたい人もいるはずです」
伊織が指し示した階段は、大講堂の天井にさらに別の空間があることを示している。そこには囚われた『サイフィードの光輝の精霊』セイラン、そして冒険者がいると推測されていた。
「んー、じゃあ、「大切にしてるあのおかしな装置を破壊しちゃうよー!」って叫んでみよっか!」
「はわわ、そ、それは僕も考えましたけど、僕、そーいうの得意じゃないですよ……」
「だったら、やっぱり魔法だよ! みんながどんどん来てくれたから、今ならこの人たちを押し返せるよ! 伊織ちゃん、一緒に頑張ろっ!」
「私も、微力ながらお手伝いしますわ。皆さんで、セイラン様を助け出しましょう」
『我のことも忘れてもらっては困るぞ?』
リンネがまず手を差し出し、そこにセリシアとサティナの手が重なる。
「騎士の誓いというものでしょうか。さ、お嬢様」
「は、はわわ……」
ベディヴィエールに付き添われる形で、伊織の手も重なる。伝わる温もりが、たぎる想いが、皆に立ち向かう力を与える。
「伊織ちゃんは魔法でベディちゃんを援護! セリシアちゃんは魔法のブーストをお願いね!」
「分かりました。伊織さん、少々よろしいですか」
言ってセリシアが、皆にそうしてきたように、伊織の持つ杖にリングの力を与える。
「はわー、凄いですー……何か僕、ちょっとだけ自信つきました!」
微笑むセリシアに頷いて、伊織が詠唱を開始する。淡い光がひときわ強く輝き、そして生み出された魔法の霧が、信者を強酸の海に包み込む。それは比較するなら、霧吹きとジェットスプレーくらいの違いがあった。
「私も負けていられませんね。……参ります!」
隊列が崩れた信者の群れを、ベディヴィエールの繰り出した槍が襲う。酸で弱っていた信者にはその攻撃を防ぐ術はない。
そうして少しずつ、リンネ一行は信者の群れを大講堂の奥へと押し込んでいく。しかし、あるところまで進んだところで、今度は両脇の階段から現れた信者が、その位置から闇の気を放ち始める。角度をつけて降り注ぐ闇の気が、リンネ一行の進軍を阻み、戦線は膠着状態に陥る。
「も、もうダメかも〜。リンネちゃんお腹空いたよ〜」
「ボ、ボクもなんだな」
ふらふらと地面に崩れ落ちるリンネとモップス。身体のどこもケガはしていないものの、自動車で言えばガス欠状態だ。
「モップス、何か持ってないの? あの美味しくないスープでもいいからさっ」
「ないんだな。ボクはあのスープは作れないし、他人の作ったスープだから美味しくないんだな」
『ギャザリングヘクス』で生成されるスープは、作った本人に対して最も効果を発揮する。他人が作ったスープを飲んでも、美味しくないばかりか大した効果が得られないことが多い。その理由の一つには、一人一人魔力の波長が異なるからだとか言われているようであるが、確固たる理由は判明していない。それでも、お腹は満たせるので全く効果がないわけではないのだが。
「あの、よかったらこれ、いかがですか?」
そこに、影野 陽太(かげの・ようた)が用意したスープが差し出される。
「あ、ありがと〜。……あれ? どーしてだろ、結構美味しいかも」
「本当なんだな。不思議なんだな」
口にしたリンネとモップスが、他人のスープであるにも関わらず飲めるばかりか、身体に再び活力が戻ってくるのを感じて顔を見合わせる。
「よっぽどお腹が空いてたからかな? とにかくありがとね! あ、一本もらってっていい? 何かの時に使えそうだから」
「ええ、いいですよ。皆さんのために用意してきたものですから。お口に合ったようで何よりです」
陽太から瓶に詰められたスープを受け取り、リンネが大事にポシェットにしまう。一方、やはりヘバりかけていたセリシアとサティナ、カヤノとレライアには、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が用意したスープが振る舞われる。
「あれだけお願いされては、仕方ありませんわね。今回だけの出血大サービスですわよ!」
エリシアの用意したスープも、概ね好評をもって受け入れられる。知識をもってすれば、効果を増すことが出来るのかもしれなかった。
「さて、ここが頑張り所ですね。できることなら、数の優位性をどうにかしたいところなんですが……」
呟いて、御凪 真人(みなぎ・まこと)が周囲に視線を配れば、両脇の階段に陣取り交代で闇の気を放っていた。
「このままでは撃たれっ放しになってしまいますね。両方の階段を制圧し、敵を階段の入口まで押し返せないでしょうか」
「その役目、俺たちに任せてくれないか?」
真人の声に答えるように、増援として駆けつけた鈴木 周(すずき・しゅう)が名乗りをあげる。彼はよかったのだが、その彼に続く者たちの顔ぶれに、居合わせた者たちが一様に驚いた様子を見せる。
「ど、どーして精霊のみんながここに!?」
代表するように、リンネが声をあげる。今回の精霊祭の主賓であり、守るべき対象である精霊が、危険極まりない地に自ら足を踏み入れているのだ。
「わたくしたちも、セイラン様のため、お手伝いしますわ!」
「危険なのは承知しています。迷惑はかけさせません!」
「お願いですわ! わたくしたちも連れて行ってくださいませ!」
『サイフィードの光輝の精霊』エレン、ネーファス、メリルの訴えに、冒険者の心が揺れる。自らの身を危険に晒しても同胞を助けたいという想いは、人間が多分に持ち合わせている感情であり、それを知って無下にすることは難しかった。
「……では、俺たちも同行しましょう。力及ばず精霊を失っては、元も子もないですからね。ではもう数名、俺たちと反対側の階段に向かってくれる方は――」
「じゃあ、私たちが行くわ! 精霊だけじゃなくて他にも捕まってる人がいるって話なんでしょ!? だったらやるしかないじゃない!」
階段を降りて大講堂に舞い込んできた伏見 明子(ふしみ・めいこ)が名乗りをあげる。
(……何? まさか、彼らの姿が見えないのは……いや、彼らに限ってそんな……)
「ねえ、真人。今の話……」
「なになに!? 捕まっちまったヤツが他にもいるのか?」
セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)とトーマ・サイオン(とーま・さいおん)の言葉を受けて、真人が思考を断ち切って口を開く。
「……いずれ判明することです。行きますよ、今は精霊を守りながら、階段の敵を押し返すのが第一です」
自らのやるべき事を再確認した真人、そして周が向かって右側の階段へ、明子がパートナーを連れて左側の階段へ向かっていく。
「シウスは、俺が止め切れなかった敵とかを頼むぜ。ラルクのおっさんとやりあってた腕、信頼してるぜ!」
「心得ました。皆のために力を振るいましょう」
『ウインドリィの風の精霊』シウスが頷いて、周の背後に控える。
「カカ、ウレイヌス、二人はあの闇の弾をどうにかできねぇか?」
「うーん、威力弱めるとか、方向曲げるとかならいけるかも! やってみるぜ!」
「善処してみよう」
『ナイフィードの闇黒の精霊』ウレイヌスとカカが頷き、後ろに下がる。
「三人は、後ろや横の警戒だ。敵に動きがあったら教えてくれ。無事に終わったらキャンプファイヤーだよな? すげぇ期待してんぜ!」
「ええ!」「お任せください!」「期待には応えてみせますわ!」
「ユリネは支援を頼むぜ。人間の暮らしって、場所によっても色々だからさ。帰ったらイルミンスール以外の話とかもしてやるよ!」
「ありがとうございます。楽しみにしていますわ」
『クリスタリアの水の精霊』ユリネが、エレン、ネーファス、メリルと所定の位置につく。
「俺は先頭に立つ! 誰もやらせはしねえ!」
最後に周が一行の先頭に立つ。氷結のミサカ、雷電のシウス、光輝のエレン、ネーファス、メリル、闇黒のカカ、ウレイヌス、そして周が炎熱の如く闘志をたぎらせ、五属性揃い踏みである。
「よっしゃ、行くぜ!!」
周の号令で、精霊たちも行動を起こす。
「俺たちも行きましょう。俺はここで精霊の護衛と援護に回ります。セルファ、トーマ、手筈通りにお願いします」
「分かったわ!」
「よっしゃ、いっちょやってやるか!」
真人の放つ弓が信者を捉え、その中をセルファが切り込んでいく。
(疲れはある……それに数も多い。時間をかけるだけこちらが不利になるわね。……なら、短時間で決着をつける!)
かざした盾で闇の気を防ぎ、最小限の動きで振り抜いた剣が、信者を地面に伏せさせる。そこに攻撃を見舞おうとした信者が、飛んできたナイフを背に受けて崩れ落ちる。
「オイラの役目は敵の攻撃の流れを断つ、ってことだよな!」
トーマが、自らが攻撃の対象にならぬよう注意を払いながら、信者の攻撃の機会を攻撃することで奪っていく。一方左側の階段へは、明子を始めとした一行が駆け込み、頭上の集団を切り崩すべく突撃を敢行する。
「フラム! ポンコツなんて言ったのは謝るわ。……当てにしてるわよ」
箒にまたがった明子から加護の力を施され、フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)が歓喜に打ちひしがれる。
(こ、これは……! ついにマスターが私に前衛を任せてくださった……!)
「九條さんも手伝って!」
「……あいわかった。先駆けは久方ぶりだが、努力しよう」
次いで加護の力をかけられた九條 静佳(くじょう・しずか)が、明子の本気なのを悟ってあえて何も言わず、主の求めるものを満たさんと行動を起こす。簡素な作りの手摺を軽やかに駆け上がり、信者の集団へ躍り込んだ静佳が、振り抜いた一撃目を手近にいた信者に、下から上への二撃目、引き戻しての三撃目で別の信者を打ち倒し、階段を降りながら四撃目、五撃目、六撃目をすれ違いざま信者へ叩き込み、七撃目を打ち込んだ信者を盾に闇の気の攻撃を防ぎ、階段の一番下に陣取っていた信者を切り伏せる。八連撃、この間わずか数秒。
「故有って嘗ての名は言えぬが……代わりに今の名を名乗っておこう。
伏見明子が盟友にして日ノ本の英霊が一柱。九條静佳、推して参る」
武器を構え名乗りをあげた静佳が、続く者たちを奥のスペースへ導くべく、まだ残る信者の群れへ飛び込んでいく。
(って、いつの間に美味しい場面を奪われたー!? ええい、この期待に応えられぬ用では機晶姫失格! 覚悟しろ狂信者共!!)
フラムベルクが静佳の後方から銃を構え、たむろする信者へ弾丸を見舞う。いかに数が多くとも、それを優に上回る弾幕には信者も為す術無く行動を封じられていく。
「弾切れだと……!? だが、今の私は今までの私ではない!」
単発銃に切り替えたフラムベルク、キメラ戦の時はここで止められたが、今回は彼女を止める者はいない。舞うように信者と対峙する静佳と対照的にその動きは遅いながら、決して歩みを止めることなく階段の制圧に向かう。
「この体、易々と砕けると思うなよ!」
構えた銃から弾丸が発射され、壁を一部砕きながら、群れる集団をも砕いていく。
(やれやれ、二人とも張り切るねえ。ま、僕はお嬢様のお守りっと。……飼い主の側に居られるのは、悪い気はしないね)
静佳とフラムベルクが突破力を行使する中、サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)は明子を守る力となる。地面から高い位置にいる明子、おそらくこの中で最も狙い易いであろう彼女へ飛びかかっていく信者を、飛空艇を操作して眼前に滑り込み、剣の一撃で叩き落す。
(……ああ、実に僕向きの戦いだ)
傍目には、向かってくる信者を片端から叩き落としていくように見える戦いに、サーシャが満足気に微笑む。
キメラ戦を潜り抜けた冒険者たちの援護が加わり、戦況は徐々にリンネ側に優位に傾きつつあった。
果たして彼らは、夜明けまでにセイランを救出し、ケイオースを元に戻すことが出来るのか――。
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