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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■ヴァイシャリー3
■ヴァイシャリー湖
 耳を忙しく掠め続けていた音がふいに消えた。
 一気に、とんでもなく開けた風景の中へと飛び出したのだ。
 ワッと視界一杯に現れたヴァイシャリー湖の水面はどこまでも青く広く、その上に広がる夏の空にもまた澄み切った青が広がっていた。
 飛空艇の底が薄く水を切る。実際には風圧が水面を裂いたのかもしれない。かすかな水飛沫を引き連れ、八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は、アクセルを前回にしたまま、グッと機首を持ち上げた。
 スピードを落とす理由は無い。はなっからそんな気もさらさら無い。バゥッと水面を爆ぜて八ッ橋の機体は青空の方へと飛んだ。
 なだらかに上昇する八ッ橋の視界の果てに、向かうべき小島と古城の姿が小さく見えていた。
 そちらに軽く視線を強めてから、八ッ橋は細く息を抜いた。じきに手の届きそうなほど晴れ抜けた青空を見やる。
 夏の匂いをはらんだ軽やかな風の中を貫いて行く。


 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の後方に桐生 円(きりゅう・まどか)機がピッタリと付いている。
 彼女たちは、ミネルバ機を風除けに耐久力を温存しながらスピードを得ているのだ。街中もそうやって抜けてきた。
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)真口 悠希(まぐち・ゆき)の機体も彼女たちと同じように、巡がアシスト機となって悠希機の足を溜めている。
 そして、水上へと出た今、二組はブースト加速によって順位をあげようとしていた。


 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はタイミングを測っていた。
 折角、良い位置を取れたのだから、なるべくそれを最大限に活かしたい。
 ひらりと太陽の光を返す湖面の上空を滑っている。
 遠くの方ではこちらを観戦している船がちらほらと見えた。時折り、キラキラと小さく光るのはオペラグラスに反射した光だろう。
(湖に潜んだ妨害者の気配もありませんし――やはり、ここはじっくりとチャンスを…‥)
 と――ブーストを爆ぜた音が後ろから迫り、
「先に行かせてもらうよ」
 青いユニフォームを着た椿が笑みとウィンクを残して通り過ぎていった。
「まーたーねー!」
 彼女の後ろのソーマがぱたぱたと手を振っていく姿が遠ざかっていく。
「なのー!」
 紫桜 瑠璃(しざくら・るり)が手を振る気配。
 と、後方を飛ぶ音が増えた気がして、遙遠は後ろを軽く見やった。見えたのは、ブーストで加速してきているミネルバと巡の機体。それらの後ろにチラリと見えるのは、円機と悠希機。
「頃合いかもしれませんね――瑠璃、仕掛けましょう」
「はーいっ、なの!」
 瑠璃が片手を、んびっと上げてから後部座席で上半身を後ろへとひねり込む。彼女が構えていたのは機晶ロケットランチャー。それを、湖に向かって連射する。
 幾つもの軌道を描いて湖に刺さったそれらによって、巨大な水飛沫が立ち上がる。
 水柱が空中へと膨れ切った絶妙の間で。
 遙遠は魔術を完成させていた。
 空間に生み放たれた氷嵐が、足早に連続する軋んだ音を響かせながら、虚空へとそそり立った水の塊を凍りつかせていく――

「くるわよぉ〜」
 先にオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の声があった。
 そして、突然、目の前に現れた氷の壁。
「邪魔だよーっ!」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が、咄嗟に盾で機体を守るようにしながら、それを突きり、高く澄んだ音が爆ぜる。
 一方、七瀬 巡(ななせ・めぐる)は無防備に氷の壁に突っ込んでしまっていた。
「うひゃああっ!?」
 衝突の衝撃で、がっくんっと体が思い切り揺れて、シートからお尻が浮く。それでも、機体は軋みながら、氷の壁を突き破った。顔を打つ氷の礫冷たくてちょっぴり気持ち良かったが、シートに打ったお尻の痛さで、そんなことはどうでも良くなる。
「うー……いったぁいぃ」
 と――前方で可愛らしい声が聞こえる。
「あったれー、なのー」
 そちらの方へ顔をあげれば、迫っていたのは瑠璃の放ったロケットだった。
「うわわわ!? ちょ、ちょっとタンマー!」
 巡は必死に機体を巡らせロケットを避けようとした――が、後部に被弾する。
 ほぼ同時に、オリヴィアの放った毒虫の群れが遙遠機を包み込み、その間にミネルバ、円機、悠希機が遙遠機の横を抜けていく。
 その間に――
「巡さまーーっ!」 
 悠希の声遠く、巡は、ばっしゃーんと湖の中へ落ちていた。
 いっそ爽快なダイブの後、水の中を掻いて、ぷはっと水面に顔を出す。「巡ちゃーん、だいじょーぶー!?」
 悠希機の後部席に乗っている七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の声が聞こえて、巡はそちらの方へと手を振った。
「ごめーん、リタイアしちゃったー!」
 そして、こちらを心配そうに見ている悠希の方へと笑って、
「悠希ねーちゃーん! せっかくだからカッコいいところ見せてよねー!」
 エールを贈った。


 下方、チェックポイントのリングが見えた。
 八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は、体を沈み込ませるように、グゥッと機首を思い切り下げた。
 アクセルを全開にしているのは変わらない。機体はチェックポイントに向けて急下降していく。
 増していく落下感。
 それ以上に、重力によって更に加速していくスピードへの高揚感がある。機体がビリビリ震えている。その微細な振動が皮膚と筋肉と骨とを伝わって、体の真芯を震わせる。それがもたらずのはやはり高揚。
 だが、彼女の視線は冷静にチェックポイントを見据えていた。機体は街を出た頃から、既に限界だった。
 湖を超えて、艇底の影が風の波を描いた緑の草ッ原の上を滑る。
 その影が膨れ上がって。
 ビゥ――と八ッ橋はリングの中心を斜めに突っ切った。瞬間、エンジンを強制的に停止させ、全身で飛空艇を繰る。上へ。斜めに地面へと突き刺さりかけた機首がわずかに草っ切れを宙に散り舞わせる。間髪入れずにフルアクセル。草ッ原の表面を擦って、機体は、地面すれすれでその高度を保ち、地面と平行方向へ滑った。
 が、その目前に迫る、朽ち掛けの石壁。
「――……」
 イメージの構築と動作は、ほぼ同時だった。
 冴え渡った理性の指示通りに、コンマ何秒の遅れもミスも無く、八ッ橋は機体を捻らせた。機体はそのままのスピードを保ったまま、石壁にまとわりつく蔓草を揺らし、尖塔への道を辿っていく。


▼現在順位

1位:【東】八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)(ライト)
2位:【西】椿 椎名(つばき・しいな)ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)(ライト)
3位:【東】ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)(ヘビー)
4位:【東】桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)(ライト)
5位:【西】緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)(ノーマル)
6位:【西】イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)(ヘビー)
7位:【西】アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)(ノーマル)
8位:【東】牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)(ヘビー)
9位:【東】ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)(ヘビー)
10位:【東】真口 悠希(まぐち・ゆき)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)(ライト)
11位:【東】レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)(ヘビー)
12位:【東】黒マスクネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく))(ヘビー)
13位:【東】藍澤 黎(あいざわ・れい)あい じゃわ(あい・じゃわ)(ライト)
14位:【東】メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)(ノーマル)
15位:【東】緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)(ヘビー)
16位:【西】クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)三田 麗子(みた・れいこ)(ヘビー)
17位:【西】ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)神矢 美悠(かみや・みゆう)(ヘビー)
18位:【東】メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)


リタイア:【東】テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)(ノーマル)
リタイア:【東】ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)(ノーマル)
リタイア:【東】シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)(ライト)
リタイア:【東】七瀬 巡(ななせ・めぐる)(ヘビー)