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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■空京2
 よく晴れた日だ。
 空京を構成する様々なデザインのビルのガラスが青空を映し、時々、太陽の光を返している。街路樹や公園、屋上庭園が充実しているから緑が少ないとは余り感じない……のは、普段居るのが海の真ん中だからだろうか。
 ヒュゥ、と抜けたビル間の向こうに見えていたのは空京スタジアム。先程まではシャンバラ宮殿が見えていた。その地下から地球の海京へ伸びているのはパラミタと地球を繋ぐ巨大エレベーター天沼矛。
(有事となれば、あの場所から運び出されたイコンで私たちはパラミタを駆る)
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は、双子の姉である天貴 彩華(あまむち・あやか)の操縦する飛空艇の後部席からそれらの風景を眺めていた。
(「彩羽〜みてぇ〜」)
 ふと、操縦中の彩華から精神感応の呼びかけを受けて、彩羽は、はたりと自分が軽い思索にふけていたことに気づいた。自分もまた、精神感応で返す。
(「なに? 彩華」)
(「くーきょーデパートぉー」)
 その言葉を受けている間に、まさにその建物が側方へと現れた。
 こちらを応援する多くの人たちの姿があり、建物にはめこまれた綺麗な大判のガラスに、マリンブルーの機体にまたがった彩羽と彩華の姿が映る。それらはあっという間に過ぎ去って、機体はコースに従ってカーブを描いていく。
 上半身を投げ、機体を傾けるのに一役買う。
「彩羽〜」
 今度は実声。
「うん?」
「夏限定のアイスだってぇ〜」
「うん」
 直線に入る。この先を抜けて行けば、もうじきハイウェイの入り口。
「このレースが終わったら一緒に試しにいこうね、彩華」
 

 空京、会場近くのカフェ。
「あー……後ろがちょっと騒がしいけど気にすんな」
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)は携帯電話にそうボヤきながら、テーブルの上にアゴを乗せて、カフェの一角に投影された映像を見ていた。
 周囲では幾つかの団体が、そこに映し出されるレースの状況に早々と一喜一憂して騒がしい。それでも会場や会場外よりは幾分マシだし、なによりここは外と違って空調が効いているから涼しい。
 本当は天御柱学院の寮でお菓子でも食べながら気楽に実況中継を眺めているつもりだった。そこから、レースの状況を出場中のパートナー、エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)へ伝えるだけの、非常に感嘆な仕事だと思っていた。
 が、地球とパラミタでは情報の伝達にタイムラグがあることに気づいたため、結局、リーリヤは空京にやって来て、カフェで大きなパフェと一緒に実況を眺めている。
 携帯の向こうで、エルフリーデの声。
『……問題ありません。現状は?』
「そうだなぁ……スタートの時の妨害の効果で、やっぱり東が優勢ってとこか。でも、西側で何人かが食い込んでる。特に葦原明倫の……グロリアーナとかってお姫様。あれが、ナガンのビックリマシーンを追い上げてってる。上手くすりゃチェックポイント前に抜けるかもな」
『ビックリマシーン……。なるほど、二機を連結していた、あの……』
「そう。後ろの機体のブーストでガンガン飛ばしてるけど、要所要所でガンガンぶつかってる。やっぱり取り回しが難しいみたいだぜ――あ」
 切り替わったスクリーンの映像に、思わず声を上げる。
『……? どうしました?』
「今、映ってて」
『……何がですか?』
「おまえが。ばっちり。せっかくだし手ー振ってみろよ、ウサギちゃん」
 からかうように言ってやる。
『……定期連絡を終わります』
 ぽそっと言い残して、エルフリーデが電話を切る。
 スクリーンの映像は既に他の選手へと移っていた。リーリヤは携帯電話をテーブルの上に置いて、パフェを一口含んだ。
「恥ずかしがり屋さんめ」
 尻尾を一振りして、ニンマリとしながらつぶやく。


 空京の中空を這うハイウェイにそって、何機もの小型飛空艇が疾走していた。
 その中盤ほどに位置していたジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)の駆る飛空艇がカーブにそって曲線を描いていく。
「――もう少しってとこだな」
 ジィーンは傾けていた機体を起こしながら呟いた。
「楽しそうだね」
 後部席で周囲警戒に余念の無いクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が言ってくる。ジィーンはそちらの方を振り向かぬまま、小さく笑って、
「まあな。勝負事は嫌いじゃないし……じゃじゃ馬を慣らしていく楽しさってのは今も昔も変わらないもんだぜ」
 ハイウェイは絡み合いながら、ビルとビルの隙間を縫うように抜けて街の外へと向かっていた。ゴーグル越しに見える景色の中に未だ開発中の区画が多くなってくる。空の青を背景に伸びる未完成ビルの骨影。そこから首を垂れるのはクレーンなどの工事機械達。
「ところで……」
 と、クライスが言って、少し迷うような間を置いてから続ける。
「さっきから僕たちの後ろにぴったり付いて来ている彼なんだけど」
「ああ」
「えと……なんていうか、いいの?」
 クライスの問いかけに合わせて、ジィーンは”彼”の方へと視線をやった。上手いことこちらの死角に入り込んでいるために視認できない。
「とりあえず、東のユニフォーム着てるんだろ?」
「うん。でも、ちょっと不気味じゃない?」
「気になるなら、聞いてみろよ」
「へ?」
「いやだから、本人に意図を聞けば早いだろ?」
「……うう」
 クライスが少しばかり渋った様子を匂わせてから、”彼”の方へと向いた気配。
「あのー、すみません。そこで何をやってるんですか?」

「ほぅ、こちらの隠れ身に気づいたか」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)は、前方を行く飛空艇からこちらへと問いかけてくるクライスを見返しながら不敵に笑んだ。
「出来れば再び街へ戻ってくるまでは、誰にも気づかれずに、と思っていたが」
「いえ、あの……飛空艇ですし、レースですし、さすがにそれは無茶な、ような……」
 クライスが、かくん、と肩をこかす。
 輪廻には、何故、彼がそのように『どうしよう?』といった表情を滲ませているのかがいまいち解らなかったが、それはまあ、果てしなく些細な事だったので放置して、
「ともかく、こちらとしては一応の狙いを持ってこうしている。良かったら、このままの状態を保たせてもらいたいのだが?」
「ええと……」
 クライスが運転しているジィーンの方をちらりと見やる。ジィーンの片手が「構わない」というように振られたのが見える。クライスがこちらへ向き直り、
「それは、問題無いそうです」
「ありがたい。お礼に、レースが終わったら薬の実験に立ち合わせてやろう」
「いえ、いいです」
「遠慮するな、少年」
「だって、あの……いきなり実験に立ち合わせてやるって言われても」
「楽しいぞ」
「……はあ」
「原因不明の爆発が起きたりして」
「やっぱり遠慮します。断固」
「嘆かわしいな。昨今の若人には知的好奇心というものが足らない」
「ジィーンさん……助けて」
 がっくし、とクライスが頭を垂れる。
 輪廻には、何故、彼がそのような仕草をするのかはサッパリ理解出来なかったが、それはまあ、やっぱり些細な事だったので放置することにした。

◇ 
 選手たちはハイウェイ上を滑り抜け、機体は筒状のトンネルの中へと突入していく。

「仕掛けます」
「頑張って美央ちゃん!」
 飛空艇を繰る赤羽 美央(あかばね・みお)の後方で四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は美央の肩を揉んでいた。
 美央の機体がヒュゥッと軌道を巡らせて、琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)機を狙う。

(「……琳。来るよ。九時方向」)
 鳳明の背中にべったりと貼りつくように頬を寄せている天城からの精神感応に、彼女は「へっ?」と声を漏らした。はた、と気づけば先程までやや前方を走っていたはずの赤羽&四方天機が居ない。
(「スリーカウント後でタイミングを合わせて。――1……2……3……今」)
「ぇえっ!?」
 鳳明は状況を把握するより早く、機体を上方へと加速して逃していた。逃れたばかりの下方を掠める赤羽機、そして、迫る丸みを帯びた天井。
(「減速して。それから、機体を反転させるつもりで左へ。――機首を保ったまま加速して」)
「ひぇえええっ!!」
 わけが分からないまま、ただただ言われた通りの行動を実行して、気づいた時にはトンネルの天井に貼りつく様に走行しながら赤羽たちを逆さまに見下ろしていた。
 赤羽の無表情がこちらを見上げる。
「惜しかったです」
「ぶ、ぶつけ合いとか危ないから止めない?」
 ひくっ、と口元を弱々しく笑わせながら提案してみたり。
 唯乃がぱちくりと瞬きし、赤羽が、ぽつ、と言う。
「言われましても」
「……だよねぇ」
 鳳明がたっぷりと溜息をこぼすと同時に、ザァッとトンネルを抜ける。

「むぅー。逃しました」
「どんまいどんまい、美央ちゃん。まだまだ勝負は始まったばかりだよ」
 唯乃は美央を励ますように、もむもむもむもむっと肩を揉み続けていた。
「唯乃さん」
「ん? なあに?」
「少し気になります」
「んー……そうね。確かに、この序盤で控ている人たちが多いのは気になるところだわ。この先、少し注意しておいた方が良いかも」
「いえ、そうではなく」
「え?」
「肩が揉みに揉まれて、なんだかお餅みたいな気分に」
「あ、ごめん。つい、ね」
 ももももっと揉んでいた手を、ぱっと離す。どうにも応援に熱が入ると手元に気合が入ってしまう。後、なんか肩の揉み心地も悪くなくて……というのは置いておいて。長丁場のレースだ。これから疲労も貯まるだろう。
「疲れたら言ってね。また肩揉みくらいはするから」
「はい、その時はお願いします」
「よーし、じゃあ、優勝目指して気張ってこー!」
「おー」

 その後方、立川 ミケ(たちかわ・みけ)の操る機体が筒状トンネルの中を、くるんくるんと螺旋を描きながら軽快に走り抜けてきていた。
「なななーん」
 ひゅぱーん、とトンネルを抜けた機体が空中で、再び大きな円を描いてハイウェイと水平になる。
 そして、肉球スタンプでデコられた『なルラトテップ号』は、そのままハイウェイを疾走して行った。
 
『にゃはーーーん!!』
『ちょっと、盛大に鼻血を噴いて後頭部から倒れてる場合じゃないのヨ〜!』
『……ううっ、すみません。猫好きの私には刺激が強すぎたらしく……。でもしかし、立川ミケはよく操縦できますねぇ』
『色々と補助をつけるのが認められたみたいヨ〜』
『おおー、素晴らしきかな。猫好き大会運営委員たちよ!』
『……ミンナがミンナ、自分と一緒だと思ったら大間違いヨ〜』
『さあ! そんなこんなでトップ集団がチェックポイント付近へと到達しました! 最初の区間点を得るのは一体誰だー!?』


 ハイウェイ。チェックポイント付近――
「ギャハハハハハッ! こりゃ案外、取り回しが難しいもんだねェ!」
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、カーブでの衝撃に震える操縦桿で強引に舵を取りながら笑っていた。後部に無理やり連結しているクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)のブーストで、これまた無理くりに加速をしている。そんな無茶な形のせいでカーブだのなんだのではやたらと苦労していた。
「きっついなら、今からでも分離すればいいじゃーん?」
 後方で、死んだ魚のような目をしたクラウンが言う。
 ナガンはそちらの方へと視線を流して、片目を「ああァん?」と笑み細めた。
「出落ちにすんの? そりゃ少し違うだろォ? 丁半勝負は覚悟の上だぜ。やるならやるでやり切っちまえばやれちまうからやったもん勝ちってな――お分かり?」
「出落ちは勘弁ってとこまでは分かったじゃん」
 それで十分だったらしい。クラウンはひらひらっと、おどけた調子で片手を振って薄らと口元だけで笑った。ナガンはニンマリしてから、視線をコースへと戻した。この緩やかなカーブを超えれば直線がある。
 右腕を側方へグゥと伸ばして、指を鳴らす。それはクラウンへの合図だった。後方のブーストが強く加速し始める。
 ギラギラと夏日を返すビル間を突き抜けるハイウェイ。そこにあった空気が突風となって、顔面を吹っ飛ばす。
「ヒィーーーハァ!!!」
 続く道の先、ハイウェイの途切れた端にリングは浮いていた。
 そのド真ん中を突き抜けて、荒地へと飛び出して行く。

▼現在順位

1位:【東】ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)(ライト)
2位:【東】クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)(ヘビー)
3位:【西】グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)典韋 お來(ライト)
4位:【東】四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)赤羽 美央(あかばね・みお)(ヘビー)
5位:【西】琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)(ライト)
6位:【東】国頭 武尊(くにがみ・たける)猫井 又吉(ねこい・またきち)(ヘビー)
7位:【西】アルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)ヘラ・オリュンポス(へら・おりゅんぽす)(ライト)
8位:【東】立川 ミケ(たちかわ・みけ)(ライト)
9位:【東】ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)(ノーマル)
10位:【東】織田 信長(おだ・のぶなが)(ヘビー)
11位:【東】南 鮪(みなみ・まぐろ)(ヘビー)
12位:【西】六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)(ライト)
13位:【西】アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)(ライト)
14位:【東】クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)(ヘビー)
15位:【東】四条 輪廻(しじょう・りんね)(ライト)
16位:【西】天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)(ライト)
17位:【西】エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)(ノーマル)

『いつの間にか又吉&武尊機が上がってきていましたね』
『途中でブーストしていたからネ〜。さあ、ここからは荒地が続くワヨ』
『広い広い荒地を超えると一転して、狭い谷底を進むコースとなっています。さあ、どんな闘いが繰り広げられるのかー!』