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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■ヴァイシャリー5
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)藍澤 黎(あいざわ・れい)の攻防は続いていた。
「しつこいのですよー!」
 あい じゃわ(あい・じゃわ)が弾幕で追っ払おうとするも、ファウスト機はしつこく食い下がってきていた。
「ねぇ、ファウスト。もっと寄せられないかい?」
 神矢 美悠(かみや・みゆう)の楽しげな問いかけに、ファウストが片目を傾げ、
「なんだ? おもしれぇことか?」
「とっときのね」
 美悠の言葉に、ファウストは軽く鼻を鳴らしながら小さく笑んだ。
 次の瞬間、彼の放ったドラゴンアーツが天井にあった鍾乳石の一部を破壊した。崩落したそれが、黎の機体へと落下していく。
「黎、上です!」
「ああ」
 黎が刃を抜き放ち、ランスバレストで瓦礫を打ち弾く。
 その隙に、ファウストは黎の機体に一気に近づいていた。あいじゃわが気づいて、銃口をこちらへ向ける。
「ようやく見えた」
 呟き、笑んだのは美悠。彼女の視線が捉えていたのは、黎の機体のアクセル。
 彼女のサイコキネシスがアクセルを勝手に動かして、黎の機体を急加速させる。
「にょぅ!?」
「な――ッ!?」
 暴走した機体を制御しようと黎がブレーキをかける。しかし、その頃にはアクセルが美悠の視界から離れ、サイコキネシスは作用していなかった。つまり――黎の機体は、ほぼ急停止に近い形になっていた。
 美悠がファウストの耳元で囁きかける。
「ほら、絶好のチャンス」
「どぉりゃあああッッッ!!!!」
 ファウストの機体が黎の機体を思い切り打ち弾く。
「にゅぅ〜〜〜!?」
「クッッ」
 岩壁に打ち付けられ、互いの表面を削りながら、黎は機体をそこから引き剥がした。
「あははははっ、やっぱり最高だね! ねぇ、今度はあたしにもやらせてよ!」
 美悠の恍惚とした笑い声が響く中、ファウスト機が更に黎の機体を狙う。
「沈めぇえええ!!」
「――逃がれ得ぬ、か」
「まだなのです!」
 と――あいじゃわが黎のポケットからある物を取り、ぺよんっと機体から飛び出していた。
「あいじゃわあたっく!!!」
 ころころとしたその体が、空中を渡ってファウストの顔面に当たる。ぺいんっという音。そして、あいじゃわの持っていた煙幕ファンデーションは、ばふんっと煙幕を広げた。
「チッ、やるじゃねぇか。マスコット」
 ファウストが薄く笑む。
 視界を塞がれ、ファウストの機体は壁へと――。


 鍾乳洞――。
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の放った氷術が禁じられた言葉によって増幅され、鍾乳石の間に氷の壁を作り出す。
「間に合わないのー!」
 紫桜 瑠璃(しざくら・るり)の悲鳴。
「くっ!」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)の機体が氷の壁に衝突し、突き破る。が、その先の軌道を正常に保てずに、前方に突き出した鍾乳石にぶつかりそうになる。
 遙遠は、思い切り減速して、なんとか衝突を避けた――が。傍の暗がりの中から、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の刃が閃く。
 太刀筋が走り、機体が大きく傾く。
「――瑠璃!」
「はいなのっ!」
 ほぼ最後の足掻きのつもりで、飛空艇を取り回す遙遠の後ろで、瑠璃がロケットランチャーをナコトへ向ける。
 ナコトの火術が遙遠機へ叩き込まれるのと、ロケットがナコトの機体へ沈むのとは、ほぼ同時だった。


 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)の放ったアシッドミストが視界を滲ませる。
 巻き込まれたのは、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)と黒マスク(ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく))。
「なんのっ、これしき!!」
 レロシャンは酸の霧を突っ切り、鍾乳石の端に機体を擦った。ジッと酸が自身の体も蝕む痛みを堪えながら、レロシャンは気を吐いた。
「この超絶RC号と私は一心同体! 私が耐えているように超絶RC号も耐えているんです!!」
 と――
「フハハハ、ワタシのギガNKをこの程度の攻撃で落とせると思うな!!」
 併走した黒い機体の黒いマスクの選手が高らかに笑う。
 レロシャンは、そちらをじぃっと見やった。
 あちらが、こちらの視線に気づいたらしく、ふ、と顔をそらす。
「……どこかでお会いしませんでしたっけ?」
「フッ……何をおっしゃるやら。サインなら後にして頂けますか」
「いえ、そうではなくて。なにやら聞き覚えのある声のような気が……」
「カンチガイジャナイカナー」
 やたらと甲高い鼻声が返ってくる。
 レロシャンは、ひゅん、と鍾乳石を一つ避けてから、むむっと眉を寄せた。甲高い鼻声の黒い人……。そして、彼女は、ぽんっと手を――打つのは危険だったので、気持ち、そんな表情で顔を明るませ、ずばんっと黒マスクを指さした。
「千葉のランドのミッ――」
「そこまでだ」
 絶妙のタイミングで、イーオンのサンダーブラストが二人を襲う。
「――っく」
 レロシャンは、再び、酸の霧の中を突っ切り――イーオンの方を睨みやった。
「やはり、決着を付けねばならぬようですね!」
 鍾乳石の間を抜けながら、イーオンの機体へと近づいた。
 一瞬、鍾乳石が開けてくれた間に、バッとハンドルから手を離して鳳凰の拳を放つ。が、イーオンの機体には届かない。再び、両機は鍾乳石の森へと潜り込む。
 と――イーオンの機体をレロシャンと挟みこむような位置に黒マスク(ネノノ)の機体が現れる。
 そして、前方から走ったのは、鍾乳石の影に居たナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の火術。ナコトの機体は、そこに残って西の後続を妨害するよう命じられているようだった。
 火術を避けたイーオンの機体を、黒マスク(ネノノ)のソニックブレードが掠める。


 縦横無尽に鍾乳石が突き出している。
 加えて明かりが少なく、視界も悪い。それでも、八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)はスピードを緩める気はさらさら無かった。
「――チッ」
 先に直感があった。
 飛空艇の端が鍾乳石に触れ、散った火花が辺りを一瞬だけ照らし出した。接触で起こった耳障りな音が遅れて聞こえ、頭にざらついた余韻を残す。
 そして、機体から手に伝わる振動の変化で、八ッ橋は悟った。
 レースの邪魔にならない場所へと機体を移動させて――そこで、”丁度”だった。少しだけ不時着めいた彼女の小型飛空艇は、地を滑り擦って、傾き、止まった。
 熱を持った機体が鍾乳洞の底に溜まっていた水分をシュウシュウと焼いている。
「……フゥ」
 八ッ橋はスタート以来、張りっ放しだった気を開放して、洞窟の天井を仰いだ。
 しばしの間を置いて。
 煙草を一本取り出し、そいつに火を点ける。
 細く吐き出した煙は薄闇に昇り、少し離れた場所で弾けた火花の明かりに照らされ、揺れた。
 
「これはさすがに――」 
 厳しいかもしれない。
 椿 椎名(つばき・しいな)は必死に機体を繰っていた。鍾乳洞窟だ。幾本もの鍾乳石の隙間を縫うように進んでいる。減速はしていない。初めから接触は覚悟していた。ここで勝負を賭けるつもりだったのだ。
「うひゃーい!」
 ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が背中の方でただただ楽しそうに高い声をあげている。ズァ――と斜めに突き出した岩肌の下を潜り抜ける。一瞬でも気を抜けば、正面衝突。無傷に抜けるなんて到底出来ないだろうが、それだけは避けなければいけない。
 神経を張り詰めて、薄い闇の中で濃い闇を掠め抜けていく。時折り、機体の端を擦って散った閃光が闇を払う。
(持ってくれよ……もう少しなんだから)
 薄く喉を鳴らし、目を細めた先には光が見えていた。地上の光だ。
 ――ガッッン、と機体が大きく揺れる。
「ッ、くそ!!」
 軌道がぶれて、反対側に突き出していた鍾乳石に機体を擦りつけることになる。機体全体が軋みをあげる。
「なろぉ……意地でも抜けてやるからなぁ」
「ふれー、ふれー、がんばれー、椎名ー」
 ソーマの、ずいぶん気楽な調子の応援を背に、椿は、力任せに機体を傾かせた。突き出した岩壁と鍾乳石との、わずかな隙間を擦り抜ける。
 やがて、椎名たちの機体は光の中へと飛び出していた。
 

 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)たちは、こちらを狙って火術を放ってきたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)をスナイプで撃墜し、外へと飛び出していた。
 見えていたのはヴァイシャリーの街並み。
「予想以上に順調だったな」
 ジーベックが機関銃を仕舞って、運転席へと体を伸ばす。
「後はお任せしますわ」
 彼と入れ替わるように運転席から身を避け、三田 麗子(みた・れいこ)は言った。ジーベックがハンドルを握る。
「さて、この先で予想通りに行くと良いが」

▼現在順位

1位:【西】椿 椎名(つばき・しいな)ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)(ライト)
2位:【東】桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)(ライト)
3位:【東】牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)(ヘビー)
4位:【西】イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)(ヘビー)
5位:【東】レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)(ヘビー)
6位:【東】黒マスクネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく))(ヘビー)
7位:【東】真口 悠希(まぐち・ゆき)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)(ライト)
8位:【東】藍澤 黎(あいざわ・れい)あい じゃわ(あい・じゃわ)(ライト)
9位:【東】メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)(ノーマル)
10位:【東】緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)(ヘビー)
11位:【西】クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)三田 麗子(みた・れいこ)(ヘビー)
12位:【東】メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)


リタイア:【東】テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)(ノーマル)
リタイア:【東】ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)(ノーマル)
リタイア:【東】シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)(ライト)
リタイア:【東】七瀬 巡(ななせ・めぐる)(ヘビー)
リタイア:【東】ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)(ヘビー)
リタイア:【東】八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)(ライト)
リタイア:【西】アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)(ノーマル)
リタイア:【東】ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)(ヘビー)
リタイア:【西】ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)神矢 美悠(かみや・みゆう)(ヘビー)
リタイア:【西】緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)(ノーマル)