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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「それでは、お料理勝負の審査を始めたいと思います」
 そう宣言する大谷文美の隣には、審査員である藍澤黎とあいじゃわ、悠久ノカナタ、琳鳳明、そして、なぜか、小鳥遊美羽も座っていた。
「こちら、肉じゃが定食になりますわ、御主人様」
 まず、エイボン著『エイボンの書』が、ほくほくの肉じゃがと、ジャコを散らしたキュウリとワカメの酢の物、豆腐と油揚げの味噌汁、御飯といった構成の定食膳を運んできた。
「ほくほくして美味しい♪」
 ちゃっかり審査員席に座った小鳥遊美羽が、思わずほっぺを押さえて言った。
「うん、酢の物といい味噌汁といい、ちゃんとした和食の世界だ」
 藍澤黎が、あいじゃわに肉じゃがを食べさせてあげながら感心する。
「ありがとうございます、御主人様」
 エイボン著『エイボンの書』が、ニッコリとかわいらしく微笑んだ。
 
『コチラハ、ぽとふニ、がーりっくとーすとノせっとデゴザイマス』
 続いて、ロボットメイドたちが料理を運んでくる。鍋から具材を皿に取り、残ったスープをスープ皿に入れて提供する。ポトフの標準的な食べ方だ。
「これは、味が絶品ですう、ねえ、琳鳳明さん」
「今食べてんだから、話しかけないでよね!」
 大谷文美に意見を求められた琳鳳明が、凄い剣幕で言い返した。さっきから、ほとんどしゃべらずに、一心不乱に出された料理にがっついている。
『オカワリハ、イカガデショウカ』
 最近流行の声優の音声合成ソフトの声で、メイドロボたちが訊ねた。
「ぼぢぼんぼらうばよ」
 まだ口一杯に頬ばったまま、琳鳳明が空っぽの皿を差し出した。
「気配りはなかなかだの。まあ、人が操作しているのだから当然か」
 悠久ノカナタが、コントローラーを持つジェイドに油断なく目を走らせて言った。それに気づいたジェイドが、ハーイと陽気に手を振って挨拶を返す。
「油断ならぬ……」
 あわてて目を逸らすと、悠久ノカナタはそうつぶやいた。
「調理が完璧なのは、さすがレシピ通りに作れるロボットならではというところか。ふっ、そうでなくてはな」(V)
 さくっと、ガーリックトーストを囓りながら、藍澤黎が言った。
 
「でもでも、メイドさんに大切なのは、やっぱり愛情だよね」
 そう言うと、ミルディア・ディスティンが、こんがりと焼けたトーストとコーヒーを運んできた。トーストの上には、原形をとどめたいちごジャムが一粒乗っている。
「はい、御主人様たちに愛情♪」
 手作りバターの入った絞り袋を持ったミルディア・ディスティンが、審査員の前におかれたトーストに、順にハートマークを書いていく。
「めしあがれっ♪」
「ぽっ……」
「食えればいいのよぉ」
 かわいらしく頬染めるあいじゃわとは対照的に、あくまでも琳鳳明は食い気優先であった。
 
「それでは御主人様、海軍カレーのフルコースをどうぞお召しあがりくださいませ」
 続いて、ローザマリア・クライツァールとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがカレーのセットを運んできた。カレーはグレイビーボートに入れられており、グリーンサラダ、ゆで卵、バターロール、コーヒーが添えられている。
「なぜ、カレー・ライスにパンがついてるんだもん?」
 炭水化物づくしかと、小鳥遊美羽が小首をかしげた。
「そ、それは……」
 グレイビーボートからライスにカレーをかけるサービスをしていたローザマリア・クライツァールが少し焦る。
「にゅ……、珍しくはない、の。パンは、自由に食べられるのが普通、なの」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが、エッグスタンドに載った半熟卵を並べながら説明した。件のバターロールは、バスケットに入れられて自由に取れるようになっている。
「食べられれば、問題ないよね!」
 相変わらずの食欲を見せて、琳鳳明が言った。
 それにしても、さすがにそろそろ審査員たちはお腹が一杯になってくる。幸いだったのは、今のところ、まともな物しか出てきていないことであった。
 
「ノンノンノン、いけまセーン。カレーを食べるならばこちらデース。本場タイ風カレー、絶品デース!」
 他人が作ったカレーなど早く片づけろとばかりに、アーサー・レイスが、ローザマリア・クライツァールたちがおいた海軍カレーを押しのけるようにして自分のカレーを審査員たちの前においた。
「ん? なぜ審査員にリンさんがいないのデース。ぜひ、このカレーを食べていただきマース」
 アーサー・レイスがキョロキョロと周囲を見回すので、リン・ダージはさっとチャイ・セイロンの陰に隠れた。
「さすがに、このカレーを食べるには勇気が……」
 アーサー・レイスのカレーを前にして、悠久ノカナタがちょっと凍りついた。高分子ポリマーカレーに始まり、地祇カレーなど、イルミンスール魔法学校におけるカレー食中毒事件は列挙に暇がない。
「食えるなら、なんでもこいだわ!」
 ここで一週間分の食事をすます勢いで、琳鳳明がアーサー・レイスのカレーをがっついた。
「チャレンジャーだな」
「勇気があるよね」
 感心したと言うよりは、少し呆れて藍澤黎と小鳥遊美羽が言った。
「でも、おいしいなのです」
 いつの間に食べ始めていたのか、スプーンを持ったあいじゃわがニッコリしながら言った。
「死にはしないようだな」
 食べなければ審査はできないと、悠久ノカナタが意を決してタイ風カレーに手をつける。
 酸味が強く、独特の癖のある辛さを持つが、まずいことはない。むしろ、意外にも美味しかった。とはいえ、時間差できた激辛の味に、審査員一同は少しのたうつはめになったが。
 
「ではあ、お口直しに、フルーツケーキとハーブティーをどうぞお」
 最後に、デザートに的を絞ったチャイ・セイロンがケーキセットをサーブしていく。
「もちろん、ケーキは別腹よ!」
 底なしの胃袋を見せた琳鳳明が、当然のように叫んだ。
 アプリコットと梨を主体として、各種のベリーで綺麗に飾られたフルーツケーキは、つやつやとしてとても美味しそうだった。ちょっと堅めのスポンジの中には、レーズンやナッツが入っている。上品な甘さは、カレーで痺れた舌の感覚を取り戻してくれ、ミントティーは食べ過ぎた食後の気分をすっきりとさせて消化を助けてくれた。
 
「では、審議に入ります」
 一通り食べ終わったので、大谷文美が審査員たちを集めた。
「やはり、フルコースというのは評価は高いかと」
「こだわりの逸品もいいんだもん」
「食べられればみんなオッケーよ」
「メイドたるもの、愛情は大切ですよねえ。そういえば、一人だけメイドでない人がいたような……」
「にゅ、からいの、あまいの、美味しかったなのですよ」
 相変わらずなかなか意見がまとまらない。
 その間に、各チームは後片づけに入っていた。メイドたるもの、使ったキッチンはピカピカにして立ち去るというのは常識である。
「ははははは、見よ、スーパーみのるんビーム!」(V)
 後片づけをかってでた新田実が、皿についた汚れをアシッドミストで洗浄しようとするが、案の定皿ごと溶かしてしまう。
「何やってるのよ。邪魔しないの!」
 コチンと新田実の頭を拳固で叩いてリン・ダージが言った。もっとも、後片づけはチャイ・セイロンとベアトリーチェ・アイブリンガーに任せているので、彼女自身は何もしていないのだが。
 ローザマリア・クライツァールのキッチンでも、レイラ・ソフィヤ・ノジッツァが呼び出されて洗い物をさせられている。
「日堂真宵、どこにいマース。皿洗いは、貴様の仕事デース」
 アーサー・レイスは日堂真宵を捜して周囲をキョロキョロしたが、こうなることは予想済みであった日堂真宵は、さっさと姿を隠してしまっていた。
「私たちも、ちゃんと後片づけしないと評価が下がりますよ」
 高務野々が、すかさずジェイドにアドバイスした。
「それが、皿洗いのプログラムが消えてしまってるのですよ」
「えーっ、だから、あれほど本家メイドである私の意見を聞いてっていったのに……」
「誰が、プログラムを消したんだ、誰が」
 オプシディアンが、鋭く高務野々を睨みつけた。先に彼女がコントローラーを勝手にいじったために、用意してあったパターンプログラムの一部が消えてしまったらしい。
「また、黒歴史ですね」
 悲しげにアクアマリンがつぶやいた。
「あうううう……」
 その言葉に、高務野々が頭をかかえて苦しむことになる。
 
    ★    ★    ★
 
「結果を発表します」
 やっとこ意見をまとめて、大谷文美がマイクを持った。
「素朴で奥深い味の肉じゃがが一番美味しかったということになりました」
 審査員に和食を食べ慣れている者が多かったのが大きかったらしい。
「メイドロボは、着せ替え勝負と同じく、実使用はまったく問題ないと言えます。けれども、調理段階や食後の愛情がメイドとしてやや欠けていると判断し、人間メイドの勝ちといたしました」
「完全ではなかったとはいえ、今回はしかたないですね」
 あまり悔しがるでもなく、ジェイドがつぶやいた。