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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
 
メカ小ババ様
 
 
「くそ、いったいどこに隠れたって言うんだ」
 朝から小ババ様を追い回している山葉涼司は、いらだちを隠しきれなかった。昼過ぎからは校庭で何やらイベントが予定されているらしいが、そんな物への出席よりも今は小ババ様駆除の方が先決であった。
「餌となる光を囮にしているのに、出てこないですね」
 一緒に小ババ様駆除にあたっていた火村 加夜(ひむら・かや)も首をかしげる。以前現れた小ババ様は、光ケーブルや光術による光球などに引き寄せられて姿を現したということだが、今回はさっぱり光に食いついてこない。
「できたら、一人お持ち帰りしたいですのに」
「何を言ってるんだ。害虫は駆除しないとだめだ」
 裸眼の眼光鋭く、山葉涼司が言った。
「ふっ、いいことを言うじゃん」
 小ババ様を捜して二人のいるホールへと現れた王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)が、山葉涼司たちの会話を耳にして言った。
「せっかく無差別に小動物を潰せると思ってやってきたのに。とんだ期待はずれだったわ。まったく、手持ち無沙汰だったらありゃしない。そうねえ、ちょうどいいから、お前のメガネを壊して……」
「メガネがどうかしたか」
 絡んでくるような王城綾瀬に、山葉涼司は鋭く言い返した。
「メガネがない……」
 王城綾瀬が唖然とする。これでは、壊すべきアイデンティティーが存在しないではないか。
「ちっ、だったら、本体を……」
 王城綾瀬が、たぎる破壊衝動のむけどころを山葉涼司にしようとしたとき、バタバタとやってくる者がいた。
「見つけたのだよ!」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が、山葉涼司にむかって言った。
「貴様は我々の小ババ様を奪ってしまった。これは許されざる反逆行為といえよう」
「穏やかじゃないぜ」
 自信満々の毒島大佐に、山葉涼司が言い返した。
「ふっ、面白い」
 予期せぬ展開だが、これはこれでと王城綾瀬がほくそ笑む。
「よって、貴様の罪に我々自らが処罰を与える。死ぬがよい」
「このときを待っていた……必ず死なす!」
 毒島大佐の言葉を継ぐようにして、突然現れたプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)が光条兵器で頭上から山葉涼司に切りかかった。階段の踊り場から、山葉涼司にむかって飛びかかってきたのだ。
 ブンという光条兵器特有の唸りと共に、プリムローズ・アレックスの身体が吹っ飛んだ。自らの光条兵器ブライド・オブ・ブレイドを抜いた山葉涼司が振りむき様に斬り返したため、激しい勢いで毒島大佐たちの方へと飛ばされたのだ。
「いたたたたた……」
 もんどり打って倒れた毒島大佐と王城綾瀬が、プリムローズ・アレックスと共にふらふらと立ちあがった。
「蒼空学園校長を狙うなど、いい度胸だな。もちろん、それは全学校を敵に回す覚悟あってのことだろうな」
 淡々と山葉涼司が言い放った。
「もしそうなら、ここで潰す!」
 ブライド・オブ・ブレイドを構えて、山葉涼司が言った。
「だめです。学校が壊れちゃいます」
 あわてて火村加夜が山葉涼司を止めようとする。
「なあに、人と違って建物は直せる」
 不敵に山葉涼司が言った。
「やあねえ。冗談に決まっているじゃない」
 山葉涼司が本気なのを見てとると、毒島大佐はいったん退散していった。
「なあに、何かあったの?」
 騒ぎを聞きつけて、近くにいたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)と共にやってきた。
「なんでもない。それよりも、イルミンスール魔法学校の者のようだが、今回の件、いったいどういうつもりだ」
 光条兵器を収めた山葉涼司が、カレン・クレスティアに詰め寄った。
「事と次第によっては……」
「それだけれど、本当に小ババ様が現れたと思っているの?」
「どういうことだ? 実際にこの目で見ているんだぞ」
 カレン・クレスティアの言葉に、山葉涼司は聞き返した。
「まだ少し調べただけだけれど、小ババ様の仕業にしてはおかしいと思うんだよね。多少の電波障害はあるみたいだけれど、前のときみたいに通信網がずたずたにされているわけじゃないじゃない。みんなが光り物でおびきだして捕まえようとしているみたいだけれど、あまりうまくいってないみたいだし」
「それはそうですが……」
 確かに空振り続きだと、火村加夜が首をかしげた。
「それに、一番大切なのは、イルミンスールは今回の件にまったく関与していないってことだよ。だって、小ババ様はここではなくてイルミンスールにいるし、今までだって増えたりはしていない。なんで、蒼空学園に残っていた小ババ様が、今ごろになって増殖するわけ? きっと、今いるのは小ババ様の偽物だよ。小ババ様に変装したちっちゃいゆる族とか、それこそ、小型ロボットかもしれないじゃない」
「だが証拠はない。いいだろう、俺は通信網の再チェックをする。確かに、現時点でラインの切断は報告されていないからな。その間に小ババ様を捕獲して、本物でないと証明してみろ」
「いいわ」
 山葉涼司の言葉を受けると、カレン・クレスティアは小ババ様捕獲にむかった。
 
「どうも、いろいろと話を聞いてると、敵はメカ小ババ様のような気がするんだよね」
「だったら、水をかければ壊れるのではないのか?」
 カレン・クレスティアの言葉に、ジュレール・リーヴェンディが聞き返した。さすがに今日は、レールガンはおいてきている。以前のように、エントランスのガラスを大量に吹っ飛ばしてしまったのでは、当然のように蒼空学園とイルミンスール魔法学校との仲が悪化してしまうと考えてのことだ。
「そう思って、水風船を作ってきてあるんだよね。はい」
 カレン・クレスティアが、ジュレール・リーヴェンディに水風船を渡しながら言った。
「うむ。これで濡らして氷づけにしてしまえば、偽小ババ様でも捕まえられよう」
「さて、どこを探すかだけれど……」
 本物じゃないとすれば、従来の方法はまったく無意味だった。だいたい、移動中に発見された物が数件だけで、前のように集団で光ケーブルを無差別に囓っていたりはしていないらしい。いったい、どこに集まっているのだろうか。
 今のところ、携帯にノイズが乗るという情報は山葉涼司からもみんなに知らされている。さきほどカレン・クレスティアが顔を出してきた対策本部とやらでも、その情報はもたらされていた。
「では、携帯をセンサーとして使うしかないであろうな」
「そうよね」
 携帯を取り出すと、二人は電波異常の場所、アンテナの本数が変化する場所を探して校内を歩き回った。とはいえ、もともと携帯のアンテナは数歩移動しただけで微妙に変化するものだ。簡単に見つかるものとは限らなかった。
「おや、イルミンの人だよね。小ババ様見つかった?」
 同様に校内を探索していたイルミン生の五月葉 終夏(さつきば・おりが)シンフォニー・シンフォニア(しんふぉにー・しんふぉにあ)が、ばったりとカレン・クレスティアたちに出会って声をかけてきた。
 何でもかんでもイルミンスール魔法学校のせいにされてはたまらないと、五月葉終夏も小ババ様を捕まえて蒼空学園の誤解を解こうとしていたのだった。
「騒いでいるわりには、姿が見えないんだよね。隠れちゃってるのかなあ」
 カレン・クレスティアも肩をすくめる。
「むむ、この近くが怪しいのだ。我からは逃れられぬ」(V)
 携帯電話のアンテナを見ていたジュレール・リーヴェンディが言った。微妙にアンテナが二本から三本に変化している。
「けろけろ」
 探してみましょうと、シンフォニー・シンフォニアが誰か隠れていそうな教室へとぴょんぴょんと入っていく。
「じゃあ、がんばるとしますか」(V)
 小ババ様と負けず劣らず小さいカエル型機晶姫のシンフォニー・シンフォニアの後を追って、五月葉終夏たちも教室の中に入っていった。
 無人の教室の中に、誰かがいるような気配はない。
「小ババ様はちっちゃいからね。床の下とか、よく探してみようよ」
 カレン・クレスティアの言葉に、一同はそれぞれ机の下などを探していった。
「いたんだもん!」
 五月葉終夏が教壇を指さした。壁際に、小ババ様がいる。よく見ると、なぜか壁にあったモジュラーケーブルのコネクタに口から出したケーブルをさし込んでいる。
「通信してるの? なんで? いやあ、こりゃあ笑えない……」(V)
 五月葉終夏が驚いて目を白黒させた。いや、口からケーブルを出している時点で、ものすごく異常だ。
「やっぱり……。捕まえて調べるわよ。ジュレ!」
 カレン・クレスティアが持っていた水風船を素早く小ババ様に投げつけた。バシャンと、みごと命中して小ババ様が水浸しになる。
「キンキンになるがよい」
 すかさず、ジュレール・リーヴェンディが小ババ様を氷づけにした。
「ゴパ……」
「やった、捕まえた」
 カレン・クレスティアたちが、大喜びする。
「何かしら?」
 その声に、近くを通りかかった浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が教室の中をのぞき込んだ。
「けろけろ(キャッチ)」
 シンフォニー・シンフォニアが、凍りついた小ババ様を舌でクルンとつかむと、自分の方に引き寄せた。
 ブチンと、モジュラーケーブルが引きちぎれる。
「シパ……」
 ずんぐりむっくりとした三頭身の小ババ様が、ほとんど凍りついてブルブルと震えている。
「けろけろ(キャッチ)……、けろけろ(アーンド・リリース)……、けろけろ(楽しーい)」
 ほとんど動けなくなった小ババ様を舌で捕まえたり離したりして、シンフォニー・シンフォニアが遊んでいる。
「サパ……」
「なんてことを。小ババ様、逃げてください!」
 それを見た浅葱翡翠が教室の中に飛び込んできた。えーいとばかりに、サイコキネシスで小ババ様を教室の奧へと飛ばすと同時に、シンフォニー・シンフォニアやカレン・クレスティアたちを床に伏せさせて動きを封じた。
「ニパ……、イパ……、ゴパーン!!」
 突然、凍りついて停止していたメカ小ババ様が自爆した。
「きゃあああ、小ババ様があ!」
 あまりのことに、浅葱翡翠が悲鳴をあげる。
「助かった……」
 浅葱翡翠のおかげで、奇跡的にも五月葉終夏たちに怪我はなかった。
「やっぱり、あれはメカ小ババ様だよ。それにしても、捕まると自爆するなんて、なんて恐ろしいんだもん。通信をしていたみたいだけれど、いったい何をしていたんだろ。とにかく、みんなに知らせなきゃ」
 そう言うと、カレン・クレスティアは携帯をかけ始めた。