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リアクション
東京へ
新幹線で東京へ向かうことになった桐生 円(きりゅう・まどか)達。
三人で座れる席はないかと車内を歩いていると、先頭を行くふとオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が足を止めた。
じっと何かを見ているので視線の先を追えば、ボックス席に新聞や雑誌を山積みにして読み漁ってる人がいた。
一番上に積んであった雑誌の表紙は、これから円達が調べにいこうとしているパラ実校長石原肥満の写真。
席に散らかっている他の雑誌や新聞も、開いているページからして石原校長関係だとわかった。
円とオリヴィアが目を見交わしていると、席の男が気づいたようで。
「あ、座るんだった? ごめん、片付ける」
慌しく片付け始めた。
円達はここに座ると決めたわけではないのだが、新聞や雑誌も気になったので落ち着くことにした。
「見てもいい?」
「どうぞ」
スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が買い込んだらしい新聞・雑誌から石原校長の写真が表紙の週刊誌を抜き出し、円は開いた。
少しして、スレヴィから「観光に来てたの?」と聞かれた。
円達は武装はせずおそろいのスーツで来ていた。円にいたっては、ちぎのたくらみで十歳くらいになっている。
答えようと口を開いた時、突然ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が「あっ!」と叫んで、携帯を取り出すとどこかへかけた。
もうじき発車するという時点で、連絡したい誰かを思い出したのだろう。
「やぁ、ミネルバちゃんだよー。石原ちゃんの裁判とか渋谷ちゃんにお金出したところを調べに、東京に行くのだー! なんか買ってきてほしいお土産とかあるー?」
円とオリヴィアが何とも言えない目をミネルバに向けるが、彼女は電話相手のバズラ・キマクとのおしゃべりに夢中になっていた。
「うんうん、最新だね。オッケー。待っててねー」
バズラと接しているうちにBLのおもしろさに目覚めてしまったのか、今も東京に行くのだからと最新のBL本を買って帰る約束をしたようだ。
ミネルバが電話を切った後、スレヴィが言った。
「なーんだ、同じ目的か。それじゃとりあえず一緒に行動しないか?」
「いいけど……キミは東京着いたらどこへ向かう予定?」
「東京地検。面会申し込んでみる」
「裁判中だったら傍聴できるかしらねぇ」
オリヴィアがのんびりと言って窓の外を見た時、新幹線は発車した。
それから東京に着くまで、円、オリヴィア、スレヴィは新聞や雑誌から石原校長逮捕の内容を得ていった。
それらには、おおまかにこんなふうに書かれている。
『パラミタに渡った政界の黒幕についに司法のメスが!』
『談合、賄賂、政治献金……日本の腐敗の象徴が招いたシャンバラ分離独立!』
円が新幹線に乗る前に読んだ記事も、こんな感じだった。
どれも石原校長を悪く言うものばかり。
どこの出版社が最初に書いたのかと調べてみたが、号外を含めてもどこもほぼ同じ頃で正確なことはわからなかった。
「こんなのもあった」
と、スレヴィは円達に携帯に保存した、石原校長の生い立ちの記事を見せた。
そこには、彼は満州出身で、戦後日本の闇社会でのし上がり、ついには政界にも隠然たる影響力を持ち、関連企業団体は数知れず……などとある。
「裏ボスって感じねー」
オリヴィアの言うことに円もスレヴィも頷いた。
円もスレヴィも、石原校長の逮捕と渋谷の台頭は何かしら関係があるのではないかと考えている。
やがて東京駅に到着すると円とミネルバは渋谷駅へ、オリヴィアとスレヴィは桜田門駅でそれぞれ降りた。
円とミネルバは、駅を出てまず目に入るはずのビルがないことに感嘆の声を上げた。
甲子園でガイアがバットの代わりに使っていた109。
無残に下のほうで折られたままだ。
「上のほうはどこへ行ったんだろうね?」
「本屋どこかな」
二人の会話はかみ合っていなかった。
それから円は渋谷のチーマーと首領・鬼鳳帝について探ってみることにした。
同じ音のディスカウントショップと関係があるのかどうか。
一通り巡ってわかったのは、渋谷のチーマーが中心となってキマクに建てた首領・鬼鳳帝は、実は秋葉原の店がモデルらしいということだった。
同音の店との関係ははっきりとはわからなかったが、レンのバックにヤクザがついているらしいことはわかった。
また、109はパラミタに持っていかれたらしいことも。
これらのことは、渋谷にたむろしている不良から聞いた情報なので、どこまで本気にしていいのかわからないが、まるっきり嘘と決め付けることもないだろう。
調査中、ミネルバは周囲に気を配り、円にちょっかいをかけてくる素振りを見せた者には、きつい睨みで追い払っていた。
歩き疲れて一休みしていると、オリヴィアから連絡が入り石原校長と面会できるからすぐ来るようにと言われ、円とミネルバは急いで店を後にしたのだった。
石原校長は裁判中ではなく、取調べ中だった。
「傍聴してみたかったわー」
と、残念そうにするオリヴィアに苦笑し、それならとスレヴィが面会を申し込んだら時間を指定してくれたのだ。
時間ギリギリに到着した円とミネルバを加え、監視の下、四人は石原校長と対面した。
彼は疲れた様子もやつれた様子もなく、ニコニコしていた。
「もう怖い顔の人ばかりでのぅ……いじめられとるんじゃよ〜」
と、いつもの調子で嘘泣き混じりに言う石原校長。
「えー、校長も? 俺達もいじめられててさ〜。いじめられてる人がいじめられてる人に相談していいのかな」
調子を合わせるスレヴィに石原校長はますます泣く。
「子供の喧嘩じゃろう? 話くらい聞いてやるぞ」
「それが、子供の喧嘩だと思ってたら何だか親が力を貸してるみたいで……ずるいんだ」
円達が不良から得た情報を聞いたスレヴィは、レンの背後に権力者がいると半ば確信した。
円自身も同じで、不良の集団が首領・鬼鳳帝を建てられるほどお金を持っているとは思っていなかったことから、ヤクザと聞いた時に納得したのだ。
「そうか、子供の喧嘩に親がのぅ。最近の親は過保護でいかんの。周りの大人がガツンと言ってやらんとのぅ」
石原校長とスレヴィが嘘泣き混じりの会話をしている間、円は注意深く校長の言葉を聞き、オリヴィアは仕草や表情をじっと観察していた。
短い面会時間が終わり、東京地検を後にした四人はニヤリと笑みを交し合う。
石原校長は何か準備している。
そういう感触が確かにあった。
後はキマクに戻って、このことを友人達に知らせるだけだ。
「その前に本屋いこう!」
明るいミネルバの提案に、少しだけ息抜きをすることにした。
それでも夜にはキマクに着くだろう。
卍卍卍
場所はキマクに戻る。
如月 和馬(きさらぎ・かずま)はある人物……いや、生首の消息を追っていた。
その生首は
セリヌンティウス。
先日の野球でボール役を務めていたエリュシオン帝国の龍騎士の一人だ。
「何もなし、か……。やっぱ女じゃないとダメか?」
自分とは別れてセリヌンティウスを探している
エトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく)はどうなっただろうか、と和馬は思った。
エトワールは、豊かで綺麗なラインを描く胸がはっきりとわかる服を身に纏い、ゆったりと歩いていた。
商店街が潰れたことで人が減ったかに思えたが、いるところにはいるのである。
もっとも、彼女が会いたいのは人ではなく龍騎士だが。
しかし、何故か寄って来るのは人ばかり。
「よー、ねーちゃん! こっちで一杯どうだい?」
だの、
「なぁ、いくら?」
だの、エトワールの不快指数を跳ね上げさせていく。
それでも常と変わらない様子を保っていられたのは、ここで暴れることの無意味さを充分理解していたからだ。
そんな時、和馬から連絡が入った。
下品な誘いの声を振り切って和馬のもとに到着したエトワールが聞かされたのは、セリヌンティウスはここにはいない、という言葉だった。
和馬の表情も渋い。
「ドージェと一緒に行ったそうだ」
和馬があまりにも長い時間同じ範囲をうろついているので、不思議に思った露天商の男が声をかけてきたのだ。
それで話してみたところ、ドージェは手に生首を掴んでいたとの答えだったのだ。
セリヌンティウスのことだろう。
さらにその露天商の男は「噂で聞いたんだが」と続けた。
「セリヌンティウスは七龍騎士という、龍騎士の中でも特に偉い龍騎士だそうだが、品性に問題ありとか何とか言う理由で、その資格を剥奪されたらしいんだよ。教員免許も持ってるっつー話だが、よく免許取れたよな!」
と、彼は明るく笑った。
やれやれ、と和馬とエトワールはほぼ同時に肩を落とした。
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