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リアクション
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「どうだ、トレジャーセンスに何か反応はあったか?」
じっとして両手を大きく広げている雨宮七日に、日比谷皐月が訊ねた。
「ありましたが……無茶苦茶です」
ちょっと困ったように、雨宮七日が答えた。
「そんなにお宝だらけなの?」
ちょっとわくわくしながら翌桧卯月が聞いた。
「それは、何をお宝と呼ぶかによりますね。私たちは、そのう……何を見つけても喜んでしまいそうな者たちですから」
宝物の定義が広すぎると、こういうことになる。とはいえ、特定の物ではなく、自分にとって価値がありそうな何かという曖昧な定義しかできないのも事実だ。この島に何があるのか、正確に知っている者は誰もいないのだから。
「いいじゃないか、かたっぱしからゲットしようぜ」
その方が、翌桧卯月も楽しめるだろうと、日比谷皐月が言った。
★ ★ ★
「さすがに、上陸には手間取ったけど、なんとか誰にも気取られることなく島に入れたようね」
「はい、メニエス様。さっそく、調査を開始いたしますか?」
「当然よ」
ココ・カンパーニュたちが上陸した場所からはかなり離れた場所に上陸したメニエス・レインたちは、自分たちの思惑に則って島の調査を開始した。
現在逃亡者である彼女たちにとっては、確実に安全な拠点は喉から手が出るほどにほしかった。
この島であれば、外部からの侵入は困難。規模から言えば、軽くイコンでさえ隠せそうだった。植生によっては自給自足も不可能ではないだろう。それを確認することが、今、最も重要であった。
★ ★ ★
「なんとか生きて辿り着けたけど、帰りはどうするの?」
ゴチメイたちと離れ離れになって島に打ち上げられたパビェーダ・フィヴラーリが、茅野菫に訊ねた。
「心配なんていらないじゃん。ない物は現地調達が基本だよ。この島で、格好いい幻獣を手なずけて、それに乗ってゆうゆうと帰還するんじゃん」
自信満々で、茅野菫が言った。
はたして、そう都合よくこの島に幻獣が住んでいるかは分からないのだが。仮にいたとしても、はたして首尾よくて名づけられるかは相手次第だった。
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「何もいませんねぇ」
藪を野球のバットで叩きながら、メイベル・ポーターが言った。
「あまり変な植物を捕まえてもだめですよ。もしタネ子さんのような植物が出てきたらどうするんですか」
「大丈夫ですぅ。このバットの前に、言うことを聞かない者なんていませんですぅ」
真顔で、メイベル・ポーターがフィリッパ・アヴェーヌに答えた。
「凄い、あのバット、何か特別製なんですか?」
素直に疑問を口にするステラ・クリフトンに、フィリッパ・アヴェーヌは笑ってごまかすしかなかった。
「ミッドナイト・シャンバラに投稿できるようなネタが出てくればいいんだけどなあ」
こちらも野球のバットであちこちを叩きながら、セシリア・ライトが言った。
「まったく、フィーネの奴め、いつの間にか姿を消してしまうとは……」
後でお仕置きだと思いながら歩いてきたイーオン・アルカヌムは、周囲の生態系が完膚無きまでに叩き潰されているのを見て呆然とした。
「なんだ、この生態破壊は。貴重なサンプルを絶滅させては、意味がないであろうが」
いったい何がこんなことをしたのだと身をかがめて調べていたイーオン・アルカヌムにむかって、何かがヒュンと振り下ろされた。
「危ない!」
間一髪で、セルウィー・フォルトゥムがイーオン・アルカヌムを後ろに引っぱって助ける。
「あらあ、野生動物じゃなかったですぅ」
残念と、メイベル・ポーターが言った。
「野生動物だって、野球のバットで殴ったら、ただの肉塊になるだろうが!」
危ないだろうと、イーオン・アルカヌムが叫んだ。
「大丈夫ですか?」
現在のメイベル・ポーターたちの中の唯一の良心であるステラ・クリフトンが、イーオン・アルカヌムに駆け寄ろうとしたが、セルウィー・フォルトゥムがそれを拒んで独自にヒールをかけた。
「だってえ、ちょうどいい小動物に見えたんですぅ」
ぶつぶつと、メイベル・ポーターが言い訳をした。しかし、いったい何にちょうどよかったのであろうか。
「せっかく、この島の植物を調べようと思ったのに……」
「あら、私たちも、そう思っていたのですよ」
台無しだと口にしかけたイーオン・アルカヌムに、フィリッパ・アヴェーヌが言った。
「それならもっと優しくしないと……。ふむ、それにしても、変わった植生だな」
気をとりなおしたイーオン・アルカヌムが、あらためて周囲の植物を観察してみた。
地衣類が多いようであるが、それはこの霧に代表されるような湿度を考えれば妥当なのかもしれない。それよりも、一部の植物は、海草のような特徴を備えていた。表面にぬめりを持ち、全体が長い葉のようになって、周囲の樹に絡みついている。
「実に面白いな」
見たことのない植物群だと、イーオン・アルカヌムは持ってきた小瓶に植物のサンプルを切り取って入れた。
「ねえねえ、むこうにもいろいろ生えてそうだよ」
セシリア・ライトにうながされて、一同はゆっくりと移動していった。
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「せっかくリンちゃんたちに食べてもらおうと、たくさんおかし持ってきたのに……。いいんだもん、隠された遺跡を見つけだして、すんごいお宝を見つけだすんだから」
ゴチメイたちとはぐれてしまった小鳥遊美羽は、トレジャーセンスを駆使して、一番何かありそうな場所を目指して進んでいた。
長い間放置されていた島なら、きっと超古代の何かがあったって不思議じゃないはずだ。
「あーん、誰かいないのー」
なかなか人と出会うことができず、小鳥遊美羽はとぼとぼと一人で進んで行った。
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「いちおう、今のところスライムとかは出てこないみたいだよね」
周囲に注意しながら、ズィーベン・ズューデンが言った。
「気をつけないとね。メカ小ババ様が出てきたということは、この島にオプシディアンたちが先回りしていても不思議じゃないですから」
ナナ・ノルデンがうなずく。
「うん、だから、スライムとかも気をつけないとね」
こんなに湿気の多い場所でなら、マジックスライムぐらい出てきても不思議ではないとズィーベン・ズューデンは思っている。魔法戦を主体に戦うズィーベン・ズューデンとしては、マジックスライムは最大の脅威だからだ。
「ロボメイドとかも隠れているかもしれないんだもん。とにかく注意して進んで、相手の真意を探りあてよ」
一緒に打ち上げられた三笠のぞみが、ナナ・ノルデンたちに同意した。
「それにしても、いったいどこに隠れているんでしょう」
「もしかしたら、マ・メール・ロアのように、この島も移動要塞か何かなんじゃないのかなあ」
それらしい建物や入り口がないかと探すナナ・ノルデンに、三笠のぞみが言った。
「そうすると、やっぱり施設その物は地下なのかなあ。やっかいだよね」
「とにかく、足で探すしかありません」
溜め息をつくズィーベン・ズューデンを、ナナ・ノルデンが励ました。