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リアクション
第4章 割れた仮面・その1
ニコニコ労働センター前駅。
ガネーシャの元に向かった隊のため、時間を稼ぐガルーダ陽動部隊だが、戦線は大きく後退しつつある。
ハヌマーン子飼のスーパーモンキーズと違って、ニコ働の警戒に当たる死人戦士は統率の取れた軍勢だと言うことも理由だが、統率者たる【ガルーダ・ガルトマーン】が一騎当千の戦力を個人で有している点も大きい。
いつの間にやら戦闘は撤退戦の様相を呈し、とうとう後ろにはナラカエクスプレスが見えてきた。
これ以上の後退は不可能、背水の陣である。
死人戦士の軍勢を相手取るのは、数時間前に味方になったハヌマーンとスーパーモンキーズだった。
戦闘能力ではハヌマーン勢が軍配が上がるが、総合的な戦略や統率ではガルーダ勢に軍配が上がるだろう。
「みなさん、無理をしないでくださいねぇ〜。悠々と討ち取れる相手ではないのですよぉ〜」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は彼らに付き添い、ウォーハンマーで敵を潰して回っている。
「相手を倒すことよりも自分の身を守ることに集中してください〜」
とは言ったものの、これまで突撃一辺倒の戦闘しかしてこなかったモンキーズに防衛戦をさせるのは難しい。
攻撃が最大の防御とか言う迷信を信じちゃってるので、より組織化されたガルーダの配下には苦戦している。
まあ、おかげでそのフォローをするメイベルは仕事にことかかないのだが。
その傍らで、相棒のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は鈍器で敵の後頭部を狙いに行っている。
「セシリア。どうしましょう〜、お猿さん達が全然言うこと聞いてくれないんですぅ〜」
「しょうがないよー。だってリーダーがあれだもん」
そう言って、ウォーハンマーで指した先には、敵も味方も掻き混ぜながら大暴れをするハヌマーンの姿があった。
「子どもお守りだと思ってサポートしよ。ほら、あんなところに隙だらけの後頭部が……、じゅるり……」
「こらこら、目的を見失ってはいけませんよ」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が咎める。
「あくまで時間稼ぎが目的なんですから」
「でもでも、すっごーい隙だらけだよあの死人」
「もう、セシリアさんたら……。ただでさえモンキーズの皆さまでは隊列を維持出来ないのですから、わたくし達で防衛の隙間を埋めなくてはなけません。セシリアさんまでお猿さまの側に行かれてはどうしようもありませんわ」
「お猿さまの側かぁ……、うん、僕人間の側でいたいや」
「賢明な判断ですよぅ」
そこにくるくるとバク宙を決めながらハヌマーンが後退してきた。
「おい人間のメス共、一端下がれ。ガルーダの野郎が前に出てきやがった」
見れば死人戦士の軍勢がサッと左右に別れ、禍々しいオーラを纏ったガルーダが姿を現した。
襲いかかるスーパーモンキーズを瞬く間に紫炎で焼き払い、六枚の赤翼を広げてこっちに向かってくる。
「ど、どうしましょう〜」
フィリッパは後方に向けて合図を出す。
すると、ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)は機晶キャノンの連発で、ガルーダの眼前に弾幕を張った。
「さあ、今のうちですわ。体制を立て直しましょう」
ガルーダ相手に真正面からぶつかってはこちらの被害も甚大である。
ひとまず退いて体制を立て直すのが先決、巻き上がる爆発と土煙に紛れてメイベル達は後退を始めた。
そして、入れ替わるようにシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は前に出る。
「随分と扇情的な衣装でお出ましじゃないか」
ふひゅ〜と気の抜けた口笛を吹くと、ガルーダは立ち止まりこちらに眼を向けた。
異貌の仮面の向こうに感じる圧倒的な気配に思わず息を飲む。
軽薄な調子のシルヴィオだがその実、心の目はガルーダを冷静に観察しているのだ。
「そういうのも悪くはないけど、そのボディにはもっと清楚な服の方が似合うと思うぜ。ガルーダさんよ」
「なんだ、貴様は?」
「俺のことはどうでもいいさ。それよりも、あんたのその身体が気になるね。胸のサイズや形、腰周りや太腿の肉付き……そのプロポーションは、間違いなくルミーナ嬢のものだぜ。露出の高い服を選んだのが裏目に出たな!」
「シルヴィオ……あなた、どうしてルミーナ様の胸のサイズなんて知ってるの?」
意気込んで指を突きつける彼に、アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)は怪訝な顔を浮かべる。
「それくらい見れば大体分かるよ。女性経験の賜物かな、なんて……」
そう言いかけた時、鼻先をかすめて炎が飛んでいった。
渦巻く紫色の火炎弾は後方に築かれたバリケードに直撃し大爆発を起こす。
「……無駄話はそれぐらいで充分だ。元の身体が誰のものだろうとオレにはどうでもいい」
「ま、待て待て。じゃあ、あんたはその身体が何者なのか知らないと言うのか?」
「知る必要もない」
むむむ……、とシルヴィオは唸る。
「なぁ、一つ重要な疑問があるんだが……、オレとか言ってるけど、あんたの性別ってどっちなんだ?」
「……男に決まっているだろう」
「そんな……!」
衝撃の告白にアイシスはわなわなと身を震わせる。
「男のくせにそんな破廉恥な格好して……、しかもルミーナさんの身体で……、早く着替えてください!」
「ルミーナ嬢かどうかはまだ疑惑の段階だけど、たしかに女性の肉体に入り込むってなんだかイヤラシイよなぁ」
ガルーダは無言で全身に炎を纏った。
そして、燃え盛る腕を一振りし、津波の如き炎で二人を焼き払う。
「きゃああああ!!」
「やばい……、こ、殺される!」
デスプルーフリングを持たない二人に炎が直撃でもしたら、早々にこちら側の住人になってしまうだろう。
寄せては返す冥界のファイアストームから死にものぐるいで二人は逃げるのであった。