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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第4章 割れた仮面・その4



「そこまでだ、ガルーダ!」
 ナラカエクスプレスの先頭車両上で、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は高らかに言い放った。
 いや、パワードスーツに身を包んだ今はこう呼んだほうが適切だろう。
 蒼空の騎士パラミティール・ネクサー、と。
「レッツ・ナラァァクガイィィン!!」
 拳を突き上げての天地を揺るがす号令。
 このノリはまさか……、仲間はゴクリと息を飲む、ナラカエクスプレスが変形して巨大ロボに!?
 ……と思ったら、何も起こらなかった。
 氷点下のアラスカよりもさむーい空気の中、ネクサーはコホンと咳払いしつつ名乗りを上げる。
「黒い鎧に想いを秘めて、灯せ死者への青信号! 冥界特急パラミティール・ネクサー、定刻通りに只今到着!!」
 ちなみに、特急は特別便の急行で来たの意である。
 おい、さっきのナラクガインはなんだったんだよ、との至極当然な意見が寄せられるが華麗にスルー。
 マスクで表情は見えないが、ネクサーは恥ずかしさで沸騰寸前、彼らの意見をまともに受け止めたら引きこもる。
『ナラカエクスプレスが巨大ロボになったら楽しいいいな……』
 そんな全男子の夢を叶えるため、なんかそれっぽいことをしてみたのだが、現実は無情である。
 そして、決めポーズを取るエヴァルトの横に風森 巽(かぜもり・たつみ)も華麗に推参。
「仮面ツァンダーは諸事情により休業中……、風森巽、死人の谷のリベンジのためここに参上っ!」
 前回の戦闘で仮面が破損してしまったので、今回は中身……じゃなかった素顔での登場である。
「ボク達もいるよ〜」
 二人がババーンとポーズを取るその下では。
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が仲良く手を振っている。
「それにしても、なんとなーく勘付いてはいたものの、ガルーダの正体がルミーナさんとは……」 
「まったくだ……、しかし風森、こうなっては迂闊に攻撃出来んぞ……?」
「とは言え、我々の目的はガルーダの足止めです。なんとしても、もうしばらくはここで持ちこたえなくては」
 それに……と付け加える。
「どちらにせよ。ルミーナさんを取り戻すためには、奴を身体から追い出す必要があります」


 ◇◇◇


 そして、戦闘が開始される。
 ガルーダはナラカエクスプレスに掌を向けると、紫炎を機関砲の如く連続して発射した。
「ここはボクに任せて!」
 そう言って、ロートラウトが飛び出す。
 オートバリアとファイアプロテクトを展開し、飛来する炎を女王のカイトシールドで防ぐ。
 空中に包むように炎が広がる中、これを隠れ蓑にしてネクサーがガルーダ目がけて突っ込んでいく。
「唸れ、鉄拳っ!!」
 降下の加速も味方に付けて正拳一閃。
 さらに連撃を繰り出して畳み掛けるが、出す攻撃出す攻撃、空を虚しく突くばかり。
 しかし、ネクサーはそれにもめげず、すこし間合いを取ると再び攻撃を仕掛ける。飛び込み正拳からの正拳連撃、そう、紛れもなく先ほどと同じ攻撃である。無論のことこちらも避けられてしまったが、それに気にする素振りもない。
「貴様、何の真似だ……?」
 もし、ガルーダが本当に未来を視るならば……。
 ネクサーは考えた。
 同じ攻撃を連続で出したらどうなるのだろうか。ガルーダの目に未来がどう映っているのかはわからない。だがもしも、映像のように映っているのだとすれば、繰り返される同じ攻撃が未来と現実の混同を引き起こすかもしれない。
 作戦としては悪くはない……、しかし、ガルーダに隙を作らせるには一歩遠かった。
「食らえっ!」
 ほんのすこし動きが鈍った瞬間、ネクサーは鉤縄をガルーダの腕に巻き付けた。
 たしかに隙は生まれた。
 ただ、それは未来と現実の混同によるものではなく、ネクサーの意図を量りかねての緊張によるものだった。
 鉤縄を巻き付ける隙はあったが必殺のチャンスとは言いがたい。
 そして、もう二度とこの手は通用しないだろう。
「……だが、腕を取っただけでも前進。このチャンスを逃してなるかっ!」
 縄を引っ張りガルーダを引き寄せる、間合いに入ればしびれ粉で身体の自由を奪う算段。
 だが……。
「ナラカではこんなものをチャンスとは呼ばん……!」
 静かに言うと縄に火を放った。
 そして、ネクサーが縄を手放した隙を突いて急接近、鋼鉄のパワードスーツに業火奈落掌が放たれる。
「つぅ……!!」
 爆発と共に強烈な衝撃が突き抜ける。
 直撃を受けたスーツは融解の危険性を警告、爆発で入った亀裂から高熱がなだれ込む。
「うわああああっ!!」
 

 ◇◇◇


 燃え盛るネクサーを一迅の冷気が救う。
 ティアは氷術で無数の氷柱を空中に生成、それをガルーダを包囲するように発射したのだ。
 360度を取り囲んだ氷柱はキラキラと輝き、まるでクリスタルで作られたドームのようにも見える。
 しかし、ガルーダは回避する素振りさえ見せない。
「焼け石に水だと忠告したはずだ」
 周囲を飛び交う氷柱だが、直撃しても彼女の発する熱風のバリアによって蒸発してしまう。
「ふっふっふ……、わかってないなぁ。氷ってのはぶつける以外にも使い道はあるんだよ」
 そう言うと、ティアは光術を放つ。
 氷は鏡のように光を乱反射し、クリスタルドームの内部は氾濫する閃光で瞬時に真っ白に染まった。
「これは……!?」
 視界が奪われる中、ガルーダの耳に声が響く。
「一歩足りないと言ったな……、ならば! 二歩、三歩と先に進むまでだ!」
「どこにいる……!」
 ガルーダは殺気看破を頼りに周囲に警戒を張る。
 確実に迫る巽の気配を感覚で追うも、やはり天眼の能力ほどの精度は発揮出来ない。
「一撃必殺、速攻で決める……!」
 白の世界で巽は青心蒼空拳の構えを取る。
 視界が回復するまでもはやいくばくもなし。ティアの作ってくれたこの時間は、一秒たりとも無駄には出来ない。
「未来が見えるというのなら、その未来、振り切るぜ! 神速<アクセル>!」
 超感覚と神速を併用し超加速、一気に近付くと鳳凰の拳を応用した二段回し蹴りを放つ。
 右から繰り出す一撃で中段から左下段に蹴り抜き、後ろ回し蹴りを同じく中段から左へ一直線に蹴り抜く。
「……くっ!」
 咄嗟に炎のバリアを展開して身を守るが、盲目の状態で蹴りの衝撃を殺しきるのは難しい。
 二連撃に押されてバランスを崩すと、それと同時にとんぼ返りで大ジャンプし、空からガルーダを捕捉する。
「青心蒼空拳! 雷光三段蹴りっ!」
 轟雷閃&雷光の鬼気で、右脚に稲妻を一点集中。
 そのまま流星となって、炎を纏うガルーダにイナヅマキックを叩き込む。
 ドオオオオオオンと言う大地を揺るがす轟音と共に、炎のバリアに必殺の一撃が突き刺さった。
「このまま……、いっけえええええええええっ!!」
「ず……、頭に乗るな、小僧っ!!」
 未だ霞む目をこじ開けガルーダはスパークする蹴り足を紫炎を纏った手で掴む。
 稲妻と業火、異なる二つの力がせめぎあう……、そして、爆発と共に両者は大きく吹き飛ばされた。
 二度、三度と地を跳ねる巽に、ネクサーは慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫か、風森っ!」
「う、うう……、な、なんとか……」
 至近距離で紫炎を浴びた所為か、着ていた制服がところどころ焼け焦げている。
 だがまだ、焼け焦げ程度ならかわいいもの、一番のダメージはイナヅマキックを放った蹴り足のほうだ。おそらくあの刹那、ガルーダは奈落掌を繰り出したのだろう、爆発の影響で脚はボロボロ……、溢れ出す鮮血が止まらない。
「代償は大きかったようですね……」
「ま、まだ脚は残ってるな……、待っていろ、すぐに手当をしてやる……!」
「いや、それよりもルミーナさん……、いえ、ガルーダを……。奴はどうなりました……?」
 爆風が巻き上げた砂煙がゆっくりと晴れていく。
 砂塵の中に影がひとつ、激しい電撃に右腕を焼かれたガルーダが殺気を全身から振りまいて立ち尽くしている。
「やるな、小僧……、すこしおもしろくなってきたぞ……!」
 ダラリと垂れた腕から滴る真っ赤な血がそのダメージの証。
「これでもまだ足りないと言うのか……」
 巽とネクサーは戦慄を覚えた。
 これほどのダメージを与えてもなお、ガルーダはルミーナの身体に留まっている。憑依を解かないのはまだガルーダが追い込まれていない証拠、しかしこれ以上のダメージを与えるのは、宿主たるルミーナの命に関わってきてしまう。
 本当に殺す気で挑まなければ、あるいはガルーダは危機と受け取らないのかもしれない。
「さて、続きといきたいところだが……」
 口の端を歪ませ、彼女は携帯を取り出した。
 ビービーとバイブレーションが作動、タクシャカから環菜の移送完了の報が入ったようである。
「時間だ」
 深紅の翼を広げると、天高くガルーダは飛翔する。
 それに伴って、死人戦士の軍勢もゆっくりと後退し、戦線から離脱していった。