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リアクション
【?7―1・拉致】
「ともかく……」
静香はまたループしてしまったことに対し、さほど落胆してはいなかった。
むしろ今度こそという気合いが入っていた。入っていたが……
「もっときちんと探っていく必要があるよね。まあ、そのへんのことは全部ここから出ないとどうしようもないんだけど」
実は今もまたクリストファー達によって、来賓室に軟禁されているのであった。
前ループのように出会くわさないよう気をつけたのだが、結局はこのザマだった。
「べつにいいじゃない。なにかされるわけでもないんだし、守ってくれてるんだからむしろ感謝しないと」
隣で話を聞いている亜美も、幸せの歌を小声で歌う気遣いを見せているクリスティーに感心し、どうやら助けてくれる気は無さそうで。
いつものように自分に任せてと言い置いて、来賓室を後にしてしまった。
「ふぅ、まったく静香ったら」
「こんにちは」
部屋を後にした亜美に、姫宮 みこと(ひめみや・みこと)に声をかけてきた。
「またお会いしましたね、西川さん」
「ああ……えっと確か、姫宮みこと、で名前合ってたかな」
「覚えていてくれたんですね。どうもありがとうございます」
と、顔に出さないよう喋りながら。みことはあることに気がついていた。
自分と亜美が出会ったのは、昨日のループ内での出来事。それを覚えているということは、彼女は既にループを認識しているということになるのだが。
「それにしてもこの前のループは参ったわよね。今日もまたループをしてるみたいだし、一体どうなってるのかしら」
「そ、そうですね」
こっちが問い詰める前に先手を打ってきたことに軽く驚くみこと。
やはり慎重にことを運ばないと危なそうだと再確認する。でないとまた色々はぐらかされるのは目に見えているし、なによりヘタにつつくとこのループを抜け出せてもまた別のループに突入してしまう可能性が非常に高いからだった。
(もっとも、彼女がすべての元凶と決まったわけではないですけどね。ただ、静香校長のネガティブな思いを刺激している点はすごく怪しいですけど)
「そういえばボク、ループの発生する原因はおおむね分かったんです」
「え、ほんと?」
亜美の目が鋭くなったようにみことは感じ、話に乗ってきたことに心の中で喜んだ。
「はい。どうやら桜井静香校長が心の奥底にわずかに持っているネガティブな気持ち。それを刺激されたとき、時間の流れは閉じループが発生するようです。そして静香校長がその気持ちをのりこえたとき、ループから脱出できるようですね」
「ああ。そういえばそれらしいことを、静香も言ってたわね」
「つまりループそのものから脱出できるかどうかは、静香校長の決意しだいということです」
「ふんふん、なるほど」
いつかのように腹の探りあいをしながら、みことは本来の目的に切り込んでいく。
「ですからボク『人の心の奥底の望みを歪んだ形でかなえる存在』がいないか調べるために、図書室に行こうと思うんですけど。西川さんもよかったら手伝ってくれませんか?」
この誘い、ほんとうに人手がいるのもあったが。
彼女の反応を見たいというのもあって。その結果は――
「ごめんなさい。ワタシ、他にやらなくちゃいけないことがあって」
やんわりと断り、そのまま軽く会釈をして去ってしまうのだった。
(さっきは食いついたのに、こんなにあっさり引くなんて。彼女は予想通り、なにかを隠してるみたいですね)
みことは疑いを深めながら、今は図書室へと急ぐことにした。
再び、場面は室内の静香に戻る。
クリストファー&クリスティーペアに見張られながら、静香は策を巡らせていた。
やがてクリストファーがトイレに立ち、バタンと戸が閉まったのを確認し、
(よし! ひとりになった今がチャンス、なんとか彼女の注意を逸らせられれば!)
ある決意を固めて語りかける。
「あ、ごめん。ちょっと水をくれないかな」
「はいはーい。なんだったら、ボクが飲ませてあげようか?」
「……そうだね。口移しで、お願いしたいな」
冗談めかして言った筈のクリスティーの顔が、一瞬硬直したかと思うと、次第にポポポポポと頬に熱を持たせていく。
(し、静香様のほうから言ってくれるなんて!)
「じゃあ、恥ずかしいから。目を閉じてやってくれるかな」
「は、はい!」
そしてクリスティーは水をくぃとふくませ、目を瞑る。
(ゴメン。でも僕は、いかなきゃいけないんだ)
即座に静香は、出口に向かって移動を開始する。
ニンジャの心得はない静香だが、メイドとしての歩き方には自信がある。
慣れない身体だけに足音を立てずに動けるかどうかの不安はあったが、どうにか悟られずにドアの前まで辿り着くことができた。
目を瞑って唇を突き出し静香の姿を手さぐりで探すクリスティーに、もう一度心の中で侘びをいれて、外へ出た。
出てすぐ、今まさに入ってこようとしたアルテッツアとレクイエムと再び出くわした。
「あ、ごめんなさい」
静香はふたりの横をすり抜けていこうとして、
「決意は固まりましたか? パートナーを守りたいのか、パートナーに守られたいのか」
「え?」
すれ違い際にかけられた言葉に、思わず静香は振り返った。
「ゾディー。はやくしないと、また警備員に捕まるわ」
「そうですね。それじゃ、桜井校長。失礼します」
だがそのままふたりは早々と行ってしまって。
静香も、結局追うことはせず反対側の廊下へと駆け出した。
(守るか、守られるか……か。たぶん、僕の答えは)
考えながら、角を曲がったところで。
こたつがあった。
「は…………?」
呆気にとられて、思考がパニクった。
気温が低いのでこたつがあることに問題はない。
しかし、廊下のど真ん中にあるのはどう考えても問題がある。
近づいてよくみれば上にちゃんとみかんまで乗っており、しかもジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)が足を中に入れていて。
「メリークリスマス!」
こっちに声をかけてきた。なんだか心もち声が上擦っているように聞こえた。
「日本ではおこたとおみかんでクリスマスを祝うのでしょう? 静香様もご一緒にいかがですか?」
突拍子のない申し出に、静香はどうしたものかと戸惑うしかなく。
ここは『クリスマスには少し早いよ』と言おうとしたが、
(そういえば。このループが起きてなければ、もうとっくにクリスマス迎えてたんだな)
と思い、ちょっと切ない気分になってきた。
「ごめん、僕ちょっと急いでるから」
もっとも誘いにはさすがにのらなかったが。
「作戦変更! 先手必勝じゃん!」
「うん! 何事も腕力で解決するのが地祇のたしなみだしね!」
通り過ぎようとしたところへ突如アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)と岸辺 湖畔(きしべ・こはん)が、飛び出してきた。
「残念ですわ。日本人である静香さんは、おこたとおみかんの誘惑には逆らえないと思っていましたのに」
更にジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)も物陰を顔を出す。前の三人は、全員が彼女のパートナーだったりする。
わざわざ先の先まで使って飛びついてきたアンドレを避け切れなかった静香は、そのまま湖畔にも抱きつかれあっさり押し倒された。あまりの手ごたえのなさに、攻撃したふたりのほうがわずかに呆気にとられ。
(……あれ、静香校長ってこんなにひ弱かったっけ? それに手に当たるこの感触は……)
アンドレはふにふにぷにぷにと胸を中心に触り、
(あれ? 香りが違う? 静香さんのような静香さんでないような……)
湖畔は体臭にぴくぴくと鼻をひくつかせて、
共にひょっとしてという思いを抱くことになった。
「あ、みなさん、手荒な真似はよしましょうね……」
ジュスティーヌのセリフはかなり遅かったが、一応静香を押さえる力は緩められた。
それでも身動きとれない静香に、ジュリエットは一言。
「縛られるなら、ザイルとロープ、どちらがお好きですか?」
「縛られるということはもう確定なの!? とりあえずザイルは嫌!」
(あら、静香さんはロープがお好みかしら。それは残念)
などと勝手なことを思いながら、しっかりロープで縛りあげた上でパートナー達に運ばせ、歩き始める。
「な、なんなんだよもう! 一体これはどういうつもり?」
「ふふ。静香さん、あなたまたラズィーヤ様を避けていますわよね?」
「え? な、なにをいきなり」
「図星でしょう? そしてそれは、おこづかいを無駄遣いしてしまったとか、今日のおパンツは実は【蒼フロ倫】だとか、そういう隠し事があるためですわ! サイオニックであるわたくしには判りますのよ!」
それはおもいっきり独断と偏見であり。
そのせいで今自分がこんな目に遭ってるのかと、静香はとんでもなく疲れて、抵抗する気が消失した。
ラズィーヤがどんなおしおきをするのかわくわくのジュリエット。
流されるまま協力してしまった自分を少し反省気味のジュスティーヌ。
静香が女の子になっているのがわかり、ちょっと興味深げなアンドレと湖畔。
四人は思い思いの考えと静香を抱えながら、ラズィーヤのいる校長室へと向かっていった。
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