リアクション
卍卍卍 「よう、また来たぜ。って、泣いてたのか」 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、座敷で待てど暮らせど明仄の姿が現れなかったので、明仄の部屋に入り込んでその姿を目撃してしまった。 トライブは、正識のせいかと思いこみ、即座にあやまった。 「いや、すまん。この前も……今回も。俺のせいだろ。あんなお目当ての色男と会う時間をさいちまったんだもんなあ。俺は気の利かねえ野郎だ」 明仄は顔を上げて涙を拭く。 「いやですよ、トラさん。田舎のおっかさんを思い出して泣いていただけです」 「あんた、身寄りがなくて売られてきたっていってなかったか」 「……トラさんは、アタシのこと覚えててくれるんですね。嬉しい!」 そういって、にこりと笑う。 相手は海千山千の花魁である。 トライブが聞き出したい情報も簡単にはぐらかされてしまう。 彼はさらにカマをかけることにした。 「しっかし意外だね。天下の七龍騎士、蒼の審問官 正識(あおのしんもんかん・せしる)があんたの想い人だったとはね。けど、当の本人は他の遊女にご執心のようじゃねぇか。悲しいねぇ」 「アタシはトラさんが来てくれればそれでいいんです。他の男のことなど知りません」 「俺は、実は瑞穂藩士日数谷 現示(ひかずや・げんじ)の仲間だったんだ。龍騎士の漆刀羅シオメン(うるしばら・しおめん)を斬った」 「え?」 トライブはようやく反応を得た。 彼はそのままゴロリと横になる。 「俺は一晩、ここで眠らせて貰うぜ。疲れてるから、誰が来ても起きないかもなぁ。突き出せば、あの男の関心の一つも手に入れられるんじゃねぇか?」 「トラさん」 トライブは寝たふりをし、明仄は身動きひとつしない。 やがて彼女は立ち上がり、「トラさん許して」とだけいった。 手紙をしたため部屋から出て行った明仄の後を、トライブが付ける。 すると、妓楼の裏庭に大きな木があり、そこに夜鷹が止まっていた。 明仄が口笛をふくと夜鷹が彼女の腕に止まった。 小さな足袋に紙切れをいれてやる。 「驚いた、伝書夜鷹とは。よく手懐けたもんだ」 トライブが急に現れて、夜鷹は驚いて逃げてしまった。 落とした紙切れをトライブが拾う。 「ふーん、『愛しい正識様』か。綺麗な字だ」 「トラさん許して。後生だから」 明仄が両手を合わせる。 トライブは紙切れをびりびりに破いた。 「――どうして? アタシをお上に付き出さないの?」 「姐さんがあまりにいい女なんでね」 トライブは片目をつぶってみせた 「恋する乙女は美しい。明仄が美人なのはきっと、恋をしてるからさ」 |
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