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リアクション
第4章 魔将君臨【6】
「何を仕掛けてこようとすべて無駄。貴様らにオレを止めることはできない」
燃える巨木を引きちぎり、ガルーダはトリシューラを構えた。
頭上でトリシューラを回転させると、恐るべき破壊の力を秘めた神気が渦を巻き、収束していく。
半径30キロを消滅させると言うトリシューラの真価……それが今まさに発揮されようとしていた。
「させるかぁ!!」
ペガサスを駆る規格GUYジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)が迫る。
「おまえのしていることは間違ってる。全面的に間違ってる。たかが女のためにこんなことをして恥ずかしくないのか、今の自分を見てみっともないとは思わないのか、もし、彼女が今のおまえを見たら……と考えはしなかったのか?」
「……虫けらの言葉などに耳を傾ける価値もない」
「この……わからず屋が!!」
とその時、ジェイコブの背後から銃弾と矢の援護射撃が届いた。
ハウンドドックRを片手に銃撃を行うのはメイド機晶姫小尾田 真奈(おびた・まな)。
火天魔弓ガーンデーヴァで無数の矢を上空に放ち、曲射を仕掛けるのが仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)だ。
「広範囲攻撃ならおまえの天眼と言えどもとらえることは出来まい……。真奈、距離を保て、弾幕を張るぞ」
「了解いたしました」
更に高密度の攻撃を放つ……が、ガルーダは余裕綽々の表情。
「そんなものが通用するとでも思ったか……」
ひとたび翼を羽ばたかせると、高温の熱波が巻き起こった。弾丸は蒸発し矢も焼却、攻撃は届く前に消滅してしまう。
「しかし、コイツならどうや?」
弾幕を張る二人の後方から、焔の魔術士七枷 陣(ななかせ・じん)は全能弾を放った。
無数の弾丸と矢に紛れた一発は、ガルーダの視線に捉えられることなく命中、その身体を光で包み込んだ。
「……貴様、何をした?」
陣は不敵に微笑む。
「おまえと槍の繋がりが血管とするなら、その槍の力は血液……そんでそれを止めるのが『血栓』や」
とは言え、実際にそんなものは存在しないので、彼があくまでイメージである。
実際に全能弾が創造したのは『理(ことわり)』である。世界に影響を及ぼす絶対のルール。
効果が半減したブラフマーストラなしの全能弾と言えど、その効果は数十分なら持続することも出来る。
「ふん、ならば神槍で理を断ち切るのみ……!」
神気の収束した槍を構える。
「そうはいくかよ……!」
宮殿用飛行翼を装着した葉月 ショウ(はづき・しょう)がガルーダの眼前を高速で横切った。
全能弾を星輝銃に装填し、銃身を額に付けて念を込める。
「ささやき えいしょう いのり ねんじろ! 全能弾は灰に……以下略、これでも喰らっとけ!」
こちらの弾丸もガルーダを直撃。すると先ほどの光がさらに強くガルーダの身を包んだ。
「こいつは……!」
「考えることは同じのようだな、陣!」
ショウもまた理を創り出したのだ、陣と同じくトリシューラの力の流れを遮断する理を……!
「スタミナ回復を阻止するのは狩りの基本。あとは落とし穴にはめて爆破するだけだぜ!」
「いや、落とし穴さっき使っとったから……」
「なんだって! 素材は持ち込んでなかったのかよ!? 信じられねぇ!」
「いや、全能弾はひとり一発やし……。つか、素材ってなんや」
とかなんとかゲーム脳の戯れ言に付き合ってる間に、ガルーダの身体から急速にトリシューラの力が消えていく。
槍に集結した力も霧散して空間に消えてしまった。
「今や!」
陣は飛空艇を加速させフルスロットルでガルーダに突っ込む。
「貴様ごときに……!」
ガルーダは再び『業火奈落掌・紅蓮葬送』を繰り出そうと手を突き出す。
しかし、これを待っていたとばかりに、陣、そして真奈と磁楠は火術と氷術を繰り出した。
火術で炎の収束を妨害し、氷術で掌に集まった炎の勢いを殺す。
「行け、小僧!」
「ご主人様……!」
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「……ふっ」
トリシューラの加護を失ったガルーダの炎は完全に抑え込まれ、奈落掌はただの掌底にグレードダウン。
とは言え、今のガルーダから放たれる掌低はその巨大さも相まってとてつもない威力になっている。
だからこそガルーダは、天眼で彼らの行動を予知していたにも関わらず攻撃を止めなかった。威力が下がったところで確実にひとりは仕留められると踏んだからだ。その確信は正しく、巨大な掌で打ち付けられた陣は悲鳴を上げた。
「が、がはっ!!」
ぺしゃんこに潰された飛空艇の中、ドロリと血反吐をぶちまける。
両腕両足はその他複数箇所の複雑骨折を伴う大ダメージ……にも関わらず、彼は笑った。勝利の笑みだ。
いつの間に放り投げたのか、『濃厚!乙カレーバー・チキン味』がくるくると彼の頭上で回っている。
「あ……、あとは任せたで……。刹貴……」
ガクンとうなだれた瞬間、彼の中に潜んでいた奈落人七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)が飛び出す。
素早くカレーバーを奪取すると、先の先でガルーダの天眼に触れる前に、遠当てでそれを口目がけて発射した。
流石のガルーダも体内に潜んでる者の行動までは予知出来ない。
「な、なに……!?』
「さぁ、思い出しなよご同輩……。俺達との邂逅より遙か昔に体験した己の末路の恐怖ってやつをさ」
ニヤリと笑うと、重傷状態の刹貴もまた脱力し気を失った。
しかし、そこまでしてやる価値はあった。
チキンカレーと言えば、ガルーダの屈辱的な過去に直結している。
奴隷都市の冥王ガネーシャの語るところでは、かつてガルーダはガネーシャによってカレーにされてしまったと言う。
幾千の時を経てなおもその身に宿る憤怒の炎は消えることはない。
ガルーダの瞳に激しい怒りが……だが、それは一瞬のこと、屈辱とは言え冷静な彼がここで平静を失うはずもない。
だが……である。彼が怒りを鎮めるまでの刹那、ここに生まれた必殺のタイミングが重要だった。
「うおおおおおおおおっ!!!」
ペガサスを滑空させ、ジェイコブが突っ込んだ。
狙いはただ一点、トリシューラを握るその手、全身全霊をかけて強烈な一撃を叩き込む。
インパクトの瞬間、彼の持つ全能弾が輝きを放つ。その刀に宿した全能属性でガルーダの手を真一文字に切り裂いた。
「ぐっ!?」
反射的に手放されたトリシューラがくるくる空を舞う。
次第に槍は収縮し本来のサイズに戻ると、大地に突き刺さり地面を空間ごと七つに切断した。
地殻変動も顔負けの衝撃、ある箇所は隆起しある箇所は深く沈み、ほろびの森に文字通り激震が走った。
そして、ジェイコブは力強い視線を眼下に向ける。
「あとは宜しく頼む!!」
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