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リアクション
第4章 魔将君臨【2】
「壮太〜、今何か飛び散ったよ〜」
ミミ・マリー(みみ・まりー)は曇天を一瞬赤く染めた総司を指差した。
契約者の不良少年瀬島 壮太(せじま・そうた)は「はぁ?」と空を一瞥し、興味なさそうに肩をすくめる。
「……きたねぇ花火だ」
二人はナラカエクスプレスに揺られている。目指すはガルーダの斜め後方、奇襲を仕掛けるには格好の場所だ。
「この辺りでよろしいでしょうか、瀬島様」
「ああ、問題ない。止めてくれ」
扉に手を伸ばす壮太。と、ふと思い出してトリニティに顔を向けた。
「……そう言えば、まだ礼も言ってなかったっけ。協力してくれてありがとな、トリニティ。あんたのくれたマハースリスティがあればガルーダのヤツを止められるかもしれない。何とかやってみるからよく見ててくれよ」
「お役に立てたのならなによりです。どうかご無事で」
かすかに口元をほころばせるトリニティ。傍目にはいつもの無表情だったが、これまで一緒にいた壮太にはわかる。
これは彼女の笑顔なのだ、と。壮太はぐっと親指を立て外に飛び出した。
そして、この場所で下車したのは彼らだけではなかった。
勝利の塔攻防戦での立役者のひとり如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)とそのパートナー達もここで降りた。
しかし前回の傷がことのほか重傷らしく、彼とアルマ・アレフ(あるま・あれふ)は満身創痍の状態だった。
「おいおい……そんな身体で戦う気かよ!?」
壮太は言った。
「大人しく寝てるには、あまりにもまわりが騒がしいんでね……」
冗談を言ってみせると、祐也はラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)に手を引かれ、ワイバーンに乗り込む。
壮太はしょーがねぇなぁ、と相棒に目を向ける。ミミは頷くと小型飛空艇ヴォルケーノをゆっくり浮上させた。
「如月さん、僕も一緒に行くよ。あんまり無茶しちゃダメだからね」
驚く祐也に代わり、ラグナは「ありがとうございます」とペコリ頭を下げて飛竜を上昇させる。
一方、地上に残った傷だらけのアルマには壮太が肩を貸した。
「な、なに……?」
「あんたはこっから何か仕掛けんだろ? オレもやることがあるが……まぁ攻撃ポイントまでは肩貸してやる」
「あ、ありがと……」
「壮太ー、ナンパしちゃダメだからねー」
上から注がれる言葉に顔をしかめる壮太。
「うるせー! 俺だってTPOぐらいはわきまえるっつーの!」
かくして戦闘が作戦が始まった。
高度を上げて飛行するのはミミのヴォルケーノ。ミサイルポッドを発射してガルーダを挑発する。壮太のほうへ誘導するのが役目だが、今はもうひとつ、低空飛行で背後に回り込む祐也たちに注意を向けさせないと言う目的も出来た。
「あんまり面識はないけど、同じ学園の仲間だもの……、ルミーナさんは絶対に連れて帰る……!」
ミサイルの群れが目標の気を引いてる隙に、ラグナは手綱を引いて一気に急上昇を始めた。
背後を走れば『天眼』に捉えられることもない。
「しっかり捕まって祐也ちゃん!」
「ああ……!」
頭上をとったところでワイバーンは急降下、祐也は残された力を振り絞り、ガルーダに視線をぶつける。
「惚れた女のために世界を手に入れる……それ自体は否定しない。俺だって、同じ状況ならどうするか分からないからな……。けど、俺にも退けない理由はある……護りたい仲間がいる……、だからあと少し、動いてくれ、俺の身体……!」
眼前を横切る刹那、祐也は大量のイカ墨をサイコキネシスでもって、その目にぶちまけた。
「なにッ!?」
不意を突かれたガルーダは完全に視界を奪われた。
「祐也……!」
「へっ、ボロボロの割りにはやるじゃねぇか……!」
様子を窺っていたアルマと壮太は感嘆とともに顔を見合わせ、それぞれ全能弾を装填して構えをとった。
「さあ、とっととルミーナを取り戻して……、皆で一緒に帰ろうぜ、地上にさ」
壮太の全能弾がカッと煌めくや、足元にポッカリと空いた『巨大な落とし穴』にガルーダが飲み込まれた。
続いてアルマも動く。苦痛で震える腕をなんとか固定し、照準を定める。
「まったく祐也のヤツ……、怪我人に責任重大なポジション与えるんだから……」
でも……、祐也があれだけやって、あたしが泣き言言うわけにはいかないわよね……、決意を固め引き金を引いた。
弾丸はちょうど落とし穴の中央上空で顕在化、イメージは……『強粘度の大きな沼』。
落とし穴に流れ込んだ泥はガルーダの腰元に達し、一切の行動を封じようと執拗にまとわりつく。
「これは……!?」
ガルーダの表情に戸惑い。だがしかしすぐに冷静を取り戻した。
「妙なことが起こると思ったが……、そうか、伝説の武具『ブラフマーストラ』の力か……、おもしろい」
六枚の深紅の翼をはためかせ、ガルーダは沼から飛び立つ。
だがその瞬間、またひとつマハースリスティの光が、ガルーダの頭上に瞬いた。
「逃がしません……!」
魔導銃を握りしめ、力強く言い放った少女は、山葉の恋人火村 加夜(ひむら・かや)だった。
彼女のイメージしたものは『大きな網』、翼を狙って発射されたそれは翼を絡めとり、飛行能力を削ぎ落とした。
「き、貴様ら……!!」
「どんなにもがいてもダメだと思いますよ。簡単には引きちぎれないよう、ちゃんと念を込めましたから……」
加夜の言うとおり網の強度は相当なもの、破ることができずガルーダは再び沼に沈んでいった。
加夜はほっと一息。
「でも、トリシューラはまだ握ったままですね……、槍から引き離せればどうにか出来ると思うのですが……」
「……それでも十分ナイスタイミングだったわ」
そう言って、アルマが親指を立てると、加夜のほうも微笑みを返した。
「ありがとうございます。そうですね、あとのことは第二部隊のひとたちにお任せしましょうか」
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