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リアクション
第一曲 〜未来への意志〜
第一楽章「承前」
まだF.R.A.G.が休戦を持ちかけてくる前。
サロゲート・エイコーン製造プラントで機体の搬出準備が完了して間もないときのことである。
「ひとまず形にはなりそうだ」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)はプラントに残り、許可を得た上で大型荷電粒子砲の開発に取り掛かっていた。
「あまり気負い過ぎない方がいいと思いますよ?」
高嶋 梓(たかしま・あずさ)が息抜きを、と食事を用意した。それを口に運んだ後、仕上げの作業に入っていく。
イーグリット・ネクスト――ジェファルコンの装備品である新式プラズマライフルに使われている技術を考えれば、今の技術力でも十分目処が立つ。
プラヴァーの重火力パックにはエネルギー消費こそ激しいものの、その威力を上回るプラズマキャノンも搭載されている。亮一が目指すのは、さらにその上の「対要塞」用だ。
シャンバラではまだ移動要塞はおろか、空母すらない。対し、エリュシオン帝国はカンテミールの力添えがあったとはいえ、マ・メール・ロアのような巨大浮遊要塞を有していた。
エリュシオンとは和平が結ばれたとはいえ、懸念すべきことはある。ポータラカ人の故郷と言われるニルヴァーナ。
ポータラカ関係のレポートによれば、彼らと同郷の者達がパラミタの古代種族を滅ぼしたという。サロゲート・エイコーンのモデルになるほどの力を持った「オリジナル」な者達を一度は倒しているのだ。
ポータラカ人達によれば、イコンが完成したことでニルヴァーナに勝利したということだが、仮に古代種族を滅ぼしたのが彼らの造った未知なる超兵器だったとしたら――。
その存在を危惧した一派がポータラカ人だとしたら、彼らがパラミタの人々に技術を提供したことも辻褄は合う。考え過ぎかもしれないが。
しかし、それが今でもパラミタのどこかに眠っていて、何者かがそれを蘇らせるようなことがあれば、今のシャンバラがそれに対抗するのは厳しい。
この大型荷電粒子砲は、あくまでもそういった「最悪の事態」に備えたものだ。
「あとは機体に接続すれば完成です」
ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が告げる。
荷電粒子砲を有効化するために必要な電力量は最低でも十ギガワット以上、亮一の想定する威力を踏まえると機体単体ではどうやっても確保出来るものではない。
そこで粒子砲に大型機晶ジェネレーターを搭載し、プラヴァーの動力炉と直結、連動させることで瞬間的に電力量を乗倍化することを図る。それでようやく稼動域といったところだったため、重火力パック用のエネルギーカートリッジも組み込み、ようやく必要な量の電力を得るに至った。
「これでようやく試射が行える」
テストパイロットとして足を運んでもらった佐野 和輝(さの・かずき)を呼び寄せる。
「これよりテストを行う。準備を始めてくれ」
その頃、彼のパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)はプラント内にある一室で待機していた。
本来、イコンは二人で乗らなければ真価を発揮出来ない。とはいえ、新武装のテストだから問題ないと和輝が判断したのだろう。
『ヤダ! 和輝と離れたくない!!』
プラントまでついて来たものの、彼の「大丈夫、俺とアニスは、いつも繋がってるんだ。だから、そんな顔をするな」という言葉で言いくるめられてしまった。
「うぅ……和輝ぃ」
用意してもらったご飯を食べるものの、目の前がボヤけ、全部がしょっぱく感じる。涙が止まらないのだ。
海京クーデター以後、彼女の和輝への依存はさらに強くなった。隣にいなければすぐ不安定になるほどに。
「搭乗機はプラヴァーか……」
和輝は荷電粒子砲を搭載したその機体を見上げた。外装ユニットで固定化されたそれは、砲身と機体が融合し、原型となっているプラヴァーの姿がかろうじて分かる程度となっていた。
待機時間の間に、シミュレーターでの操縦は済ませている。満を持して機体に乗り込むが、
『出力が足りない。このままでは試射を行えない』
亮一から通信が入った。
イコンはパイロットが一人だと、出力が本来の30%になってしまう。シミュレーターの時点で違和感を感じていたものの、その事実を和輝は知らなかった。
『やはり、パートナーは必要だ。今呼んできてもらう』
アニスを乗せ、改めて機体を起動させる。
目を輝かせている彼女を見ると、どこか複雑な気持ちだ。自分自身も彼女がいることでほっとはしているのだが、このまま互いに依存し合ってていいのだろうか。
プラントのハッチが開き、機体が射出される。
大荒野がエリュシオン領になっていた関係もあるため、密かに行われた。
「汎用機として開発されたとあって、操縦は難しくない。が、このサポートシステムは便利だとはいえ、やっぱり動きが限定されるな……解除してしまおう」
和輝の操縦技量は決して低くはない。そのため、サポートシステムを切った方が操縦しやすいのだ。
『所定ポイントに到着。これより、テストを開始する』
ある程度実機の感覚に慣れたところで、荷電粒子砲の発射準備に入る。
「発射!」
トリガーを引く。
その反動はすさまじく、姿勢制御のためにスラスターを全開にしても後方へ押し出されるほどだった。
「アニス……大丈夫か?」
「うん、平気」
試射を終え、二人はプラントへ帰投した。
* * *
「まだまだ実戦投入にはほど遠いな……」
亮一が試射データを見ながら呟いた。
磁場の影響による軌道のズレや減退を含めた上での射程距離はは許容範囲だったが、エネルギー効率が悪すぎる。一発撃っただけで機体のエネルギーを七割消費するほどだ。
「電力供給源をどうにかするのと、反動をどう緩和するかだな。計算上では、ジェファルコン並の出力が必要になる。高機動パックとの融合でもまだ厳しい」
現状における問題点をまとめ、設計データとともにソフィアは海京に戻る前のホワイトスノー博士に提出した。
「大層な物を考えたな」
呆れているのか感心しているのか、口振りからは判断し難い。
「こんな物を造ってますけど、亮一って根は平和主義者なんですよね。『機晶姫やイコンはただの戦争の道具じゃない! 人と共に歩む存在なんだ』ってよく言ってますし」
「だが、何かを守るためには諸刃の剣となるような大きな力が必要になることもある。大事なのは、そういったものを完成させたときに、初心をしっかり覚えているかどうかだ」
力を生み出すことを、彼女は否定しない。
だが、それを成す資格があるのは、力に溺れない意志を持つ者だけだと博士は考えているようだった。
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