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リアクション
●prologue2
黙っていればその横顔は、女性で通ることだろう。
愁いに満ちた目で、冬への衣替えを終えつつある景色を眺めていれば、なおさら。
眺めている、というのは真実とは異なっていた。なぜなら今、バロウズ・セインゲールマン(ばろうず・せいんげーるまん)の瞳には、あと数枚限りの葉を残すだけの樹も、かさかさと音を立てて渦を巻く木枯らしも、まったく映ってはいなかったからだ。
強いて言えば、空の灰色だけがその視界を埋めていた。バロウズの髪と、同じ色の空。
無人の公園。ベンチに浅く腰掛け、バロウズは独り、自分のこれまでを見つめ直していた。
寒い季節が近づいている。寒さは、バロウズにとってどうしても、ヒラニプラ山脈での記憶を呼び覚ますものだった。
風が冷たい。けれどこの『冷たさ』は、普通の人間が感じるそれと同じなのだろうか。
(「……クランジ。
殺戮人形としてその身を改造され、契約者すら上回る力を単体で発揮する鏖殺寺院の機晶姫」)
客観的に捉えることはできない。なぜなら彼自身、クランジの一族なのだから。
ユマ・ユウヅキ、パイ、ローラ、大黒美空……ラムダ。彼女らはバロウズにとって姉妹(シスター)といっていい。血は繋がっていなくても、境遇や考え方が違っても、彼女らの出会いにはすべて、音叉が音叉に反応するように共鳴するものを感じた。
姉妹だからこそ、とバロウズは思う。
彼女たちに殺戮人形としての生き方以外の、『人』としての生き方を知って欲しかった、と。
(「けれど、それは僕の我儘なんでしょうか? 元より殺人人形になり切れなかった僕はまだ『人』になれる余地があった。ですが、より純粋な殺戮人形――クシーさんやラムダさんのような――には、到底受け入れられることではなかったのかもしれません」)
考えるほどに心が沈んだ。『人』として云々というのは、価値観の押しつけかもしれない。
クランジΛ(ラムダ)はもういない。クランジΞ(クシー)も、クシーとしての生涯はもう終わっている。
だがこの先、ラムダやクシーのような、あるいは、もっと非人間的な『姉妹』が出てこないという保証はないのだ。
そうなれば自分はどうするべきか。また、止められずに彼女らの命が散るのを見ていなければならないのか。
澱のように心に沈んだこの思考を、よく通る声が突き破った。
「こんなところいたの……バロウズ、大変よ!」
呼ぶ声に彼が顔を上げると、アリア・オーダーブレイカー(ありあ・おーだーぶれいかー)が険しい表情でこちらに走って来るのが見えた。
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Tears of Fate
part1: Lost in Memories
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