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リアクション
教導団は無能、とアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は断じている。
理由は明白だ。作戦開始から数時間、通信網に難があるとはいえ、これだけ捜索を行って、小山内南ことクランジΣのデータは殆ど集まっていない。
(「図書室全体に包囲網を組んだといったところで、実際は穴だらけでしょうし、これだけ仕掛けの覆い図書室です。隠された脱出経路だってあるはず……」)
つまり、頼りにならないということだ。アルテッツァにとって教導団とは、国軍という権威を笠に着た単なる利益集団である。
(「彼らに体質改善を求めるほうが間違っていると言うべきですか……」)
所詮、軍隊などそのようなものだと考えたほうが気が楽かもしれない。
低く唸りを上げながら、アルテッツァの頭上を小型飛空艇オイレが飛んでいる。通信が困難な状況なので、全員、つかず離れずして探索するしかないのだ。
「ぶー、ぱぴちゃん面白くなーいー」
半ば身を乗り出しながら、パピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)はむくれていた。
「せーっかくいろんな魔術覚えたのに、火術雷術使っちゃダメって、どんだけぇ?」
同乗の親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)は、いい迷惑、と言いたげな顔と口調で応じる。
「パピ、オメーうるさいぎゃ。ワシらはアルやレクに言われたところを探すんだぎゃ」
「だ〜ってぇ」
「だって、何だぎゃ?」
「んもぅ、テッツァが嫌いな『教導団員』バックれてぶっ飛ばしちゃおうとか思ってたのにぃ」
「そんなことしたら図書室が全焼しちまうだぎゃ〜! 場所考えて行動するぎゃ!」
ぐい、と夜鷹は持参のビデオカメラをパピリオの手に押しつけた。
「物騒なこと言うのはやめて、オメーはビデオカメラで周りを撮っておくがいいぎゃ。ワシ、例の機晶姫を念のために殺気看破して探すぎゃ〜」
いつも子ども扱いしている夜鷹に正論を言われ、彼女はますますむくれてしまうのだが仕方がない。
「わかったわよう、撮るわよう!」
とカメラを回した。
後で見返したとき、何か証拠が残っていないかと期待しての行動だ。ちなみに、捜索は夜鷹の担当、警戒はパピリオの担当ということになっていた。
「……ところで」
頭上から視線を戻し、アルテッツァはヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)に問いかけた。
「何か気になったところはありますか?」
「そうねえ。気になるところといえば気になるところだらけと言っても過言ではないわ」
なにせ、とレクイエムは溜息をつく。
「この図書室は生き物だとかなんとか……つまり、内部の配置がころころ変わるってのよねぇ、ひとりでに。だから図書室の概略地図みたいなのはあるけど、てんで役立たずなのよね。事細かに探索しようとすれば」
「最新版の配架図でもダメですか」
「どうも、例のクランジとか言う『異物』が大量に入り込んだことで図書室が拒否反応を示しているのかしらね。変化が激しくて、最新であっても役に立たないわ」
だけど、と言ってレクイエムは口をつぐんだ。再び口を開いたときには口調が重くなっている。
「ディテクトエビルにちょっとした反応ありよ!」
「小山内南、ですか?」
このときにはもう、アルテッツァはサバイバルナイフを引き抜いていた。良く研がれた刃がぎらぎらと光を反射している。肘を九十度にし逆手に握る。両手とも構えたそのとき、
「南って子じゃないみたい。けれどその分、思いっきり暴れてもいい相手みたいよ!」
レクイエムは言い放つやパワーブレスをアルテッツァに降ろす。
「やっちゃって!」
その声に押されるように、アルテッツァは床を蹴り相手に躍りかかった。
灰色のマネキン。表情もなにもない。ただ、両腕に鞭を有するだけの機械人形。
クランジ量産型だ。二体……いや、三体。
鞭の一振りを跳躍で避けると、その相手の首筋に、アルテッツァはナイフの一撃を鎮めた。
「可動部分は装甲パーツが使われていませんね。見込み通りです……」
別の量産型が急展開する。だがその機械は足をもつれさせ転んだ。
「ヤバイの発見、即、氷術! ぱぴちゃんてば頭イイっていうかぁ、天才?」
その足元にパピリオが氷を張りめぐらせたのだった。
彼女の、淡いピンクの髪がふぁさりと揺れた。
「ぎゃ、機晶姫! ともかく撃退するぎゃ!」
夜鷹が飛空艇から飛び降りて着地したのだった。
「観察観察、弱点見っけてやるぎゃ!」
かくて戦いの火蓋が切って落とされた。
「……スコアの魔道書、バカにすんじゃないわよ!」
レクイエムがサポートし、パピリオはひたすら敵を妨害、そして夜鷹は回避に集中して敵の目を逸らす。
そうして敵を狩るのは、
「……久々に、学院を離れたところで、本性をさらけ出して良さそうですね」
そう、アルテッツァの役目だ。
「……個人的に恨みのある機晶姫を、少々捌いてまいりましょうか」
全力で戦えるフィールドがあるのなら、アルテッツァ・ゾディアックは遠慮はしない。
閃く刃、刃、刃。
電撃などものともしない。いや、少々の電撃鞭は戦いのスパイスだ。
アルテッツァの口元には薄ら笑いが浮かんでいた。
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