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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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【4】おれたちのポリスストーリー……2


「全員整列ーーっ!!」
 警察署に重装備の警官隊が配置された。
 カラクル・シーカーの逃亡を許してしまったため、万勇拳の警察署襲撃は完全に読まれてしまったのだった。
「万勇拳諸君、近くにいるのはわかっている、大人しく投降したまえ。君たちには弁護士を雇う権利がある」
「権利はあっても雇う金がないわ……!」
 物陰に身を隠し、老師は苦虫を噛み潰した。
 そこに、裏口の様子を見に行ったジャングル・ジャンボヘッド(じゃんぐる・じゃんぼへっど)が戻って来た。
「全然だめです、老師。警官隊にガッチリガードされてしまっています」
「むぅ、愛美の奴め。肝心なところでしくじりおって、まだまだひよっ子じゃのぅ」
 どうしたものかと足踏みをしていたその時、ガッシャアアンと凄まじい音が轟いた。
 パトカーの上に降り立ったのは大地の戦士マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)だった。
「来たぞ! 万勇拳だ!」
「俺は大地の戦士、万勇拳の戦士ではない」
 マグナはポーズを決めた。
「しかし万勇拳に弟子入りした仲間のため、そして空京に秩序を取り戻すため、戦う!」
 相棒の近衛 栞(このえ・しおり)リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)は万勇拳の門下生なのだ。
「何が秩序だ、この悪党が!」
「悪党か……そうよびたければよぶがいい。ならば悪党らしく人暴れさせてもらおう!」
 人、それを開き直り、という。
 パトカーをふんぬと持ち上げると警官隊に放り投げた。パトカーは爆発し、警官隊は慌てて退避する。
「よし今じゃ、連中の隊列が下がった! 天宝陵万勇拳、鍛え抜かれた拳舞を見せつけてやるのじゃ!」
 この機を逃さず、老師率いる万勇拳一派は警察署に突入する。

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 正面から入るとすぐに、各種事務手続きを行うためのロビーにぶつかる。
 カウンターの向こうで仕事をしていた警官は目を白黒させたが、すぐに状況を理解し応戦に飛び出してきた。
 小さな門下生紫桜 瑠璃(しざくら・るり)は修行の成果を見せるため、無邪気に警官隊に向かって行く。
 騒然とした現場に似つかわしくない子どもの姿に警官達も少なからず動揺を隠せなかった。
 しかしこんな時大人がしっかりしなくてどうするのか。
 子どもを正せるのは大人、子どもを叱るのは大人、子どもを導くのは大人の役目なんじゃあないのかと。
「君たちは万勇拳に騙されているんだ、目を覚ましなさい!」
「騙されてないの! 騙されてるのはお巡りさんのほうなの!」
「あのミャオとかいうじいさんにそう言えとおしえられたんだな、可哀想に……」
「猫の先生は悪くないの!」
「だめですわ、瑠璃ちゃん。あの人たちにわたくしたちの声は届きませんわ」
 同じく子ども門下生の片栗 香子(かたくり・かこ)は言った。
「むむぅ……なら、懲らしめるの!」
 瑠璃は「わー!」と叫びながら、警官隊に飛び蹴りを放った。
 けれども警官の透明ポリカーボネートの盾は攻撃をみすみす通しはしない。
 何度弾かれても、瑠璃は蹴りを繰り出すが、今の彼女には警官の防御を突破するだけの技は出せないようだ。
(……たく、何やってんだ、あいつ。めんどくせぇな、ほんと)
 香子はやれやれと肩をすくめた。
(まぁ要するに腕試しがてら警官どもをぶっ潰せばいいんだろ。そりゃそれで面白そうじゃねぇか)
「……瑠璃ちゃーん、お助けしますわ」
 邪悪な本性を心のポケットに締まって、香子は警官隊に攻撃を仕掛けた。
 売り出す必殺のその技は『御犯津真撃』だ。
 敵のパンツのみにダメージを与えるという、なんでこの世に存在しているのか意味不明の奥義である。
「……でも、そう思うのは素人ですわ」
 目標部にピンポイント攻撃を仕掛けられるなら、仮に目標をパンツではない別の箇所に変えたらどうなるか。
 応用次第ではあらゆる防御を貫通する恐るべき技に変貌するのだ。
「名付けて……奥義『破臓真撃』! うらあああああああっ!!」
 盾を打った掌撃は防御を貫き、警官の内臓にダメージを与えた。
「がはっ!?」
 悶絶する警官の姿に、他の警官達は顔を見合わせた。
「気を付けろ、あの子ども特殊な訓練を受けている!」
「よし、集中攻撃で速やかに身柄を押さえるぞ!」
「……あら、狙われてます?」
 ところが、突然吹雪いてきたブリザードが彼らの行動を妨害した。
 柱の陰から、二人の保護者である緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が強烈な見守り攻撃を放ったのだ。
「……じゅ、巡査長。なんだか柱のところに鬼の形相の人が……。あの子を攻撃したら大変なことになる気がします」
「気のせいだ。たまたま北風が吹いただけで、あの人はたまたまこの場に居合わせて騒動に巻き込まれた強面の市民だ」
 KYな警察に理解を深めてもらうべく、遙遠は戦鎌ディープブルーを構えた。
今度は鎌構えてますよ! 絶対ただの市民じゃないですよ!
「……誰かいるの?」
 くるりと瑠璃が振り返ると、遙遠はひゅっと隠れた。
(遙遠が手を出すのはこのぐらいです。あとは二人とも自分の力で乗り越えてください)
「……上手く行かないならやっぱりどーんした方がいいのかなぁ」
 瑠璃はうーんと唸った。
「うん、悩んでるよりどーんするの! やっぱり瑠璃はこっちの方が大好きなの!」
「どーん?」
 警官隊が首を傾げたその時、ジャコンと突き出された瑠璃のロケットランチャーが火を吹いた。
 着弾とともに爆風を吐き出し、警官隊をボウリングのピンみたいに吹き飛ばす。
「うわああああああ!!!」
「どんどんどーんしていくの!」
 残念ながら、どーん……もといロケット砲を防げる装備など警察署にはない。
「聞いてないぞ、あんなの! 万勇拳って徒手空拳の流派じゃないのかよ! オカシイだろ、あれ!」
「気を付けろ! あいつらすんごいの持ってるぞ!」
「どおおおおおーーん!」

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紅の流れ星参上!」
 続いて飛び出したのは、バンカラ門下生の姫宮 和希(ひめみや・かずき)だった。
 盾を構える警官隊に対し、彼女は持ち前の身軽さで壁を蹴り上がって、彼らの背後に回り込む。
「のわぁ!? 速いぞ、こいつ……!?」
「こちとら万勇拳にもJの字にも恩義があるんだ。ここで恩返しできなきゃ、男がすたるぜ!」
「男? いや、どーみても女にしか……」
「うるせぇーっ!!」
 和希のあびせ蹴りが一閃、顔面を蹴り飛ばされた警官が宙を舞った。
 続く警官の攻撃を壁の三角飛びで天井に避難すると、垂直落下で脳天を踏み付け、そのまま床に叩き付けた。
「ちょこまか飛び回りおって……、お、大人しく縛につきたまえ!」
「喧嘩の相手に泣き言いってんじゃねぇ。男だったら力づくでやってみろよ」
「馬鹿にするなっ!」
 和希はカウンターにあった椅子を蹴り上げ、振り下ろされた警棒を防御した。
「なっ!?」
「気合いが足らねーんだよ、気合いが! 折角の派手な喧嘩なんだ、もっと根性見せろ!」
 鋭い蹴りで足元を刈り取った。態勢を崩した警官はキャスター付きの椅子に倒れ込む。
 その隙を逃さず蹴り飛ばし、前方にいた警官隊にストライクさせた。
「……不甲斐ないぞ、お前ら!」
 一方的にのされっぱなしの警察に業を煮やし、リーダー格のガタイのいい巡査部長があらわれた。
 その構えは柔道。無論のこと黒帯の有段者だ。
「気合いの入った奴で俺は嬉しいけど、ありゃ掴まれたらやばいな……」
「とりゃあーーー!!」
「おっと!」
 巡査部長の伸ばした腕からするり飛び退き、和希は天井高く飛び上がった。
 前回、万勇拳で修行した回転飛び浴びせ蹴り……それを発展させ完成させた奥義がこれだ。
「行くぜ! 奥義『天空流星脚』!!」
 裂帛の気合いをオーラに変え、流星の如く光の尾を引きながら、巡査部長目がけて急降下する。
「バカめ、打ち落としてくれるわ!」
 巡査部長は迎撃の構え。
 しかしその時、和希の短いスカートがひらり、おもくそめくれ上がった。
 露となった白パンは健康的な色気たるや、これには巡査部長も目を奪われずにはいられなかった。
 その刹那の隙が勝負の明暗を分けた。分厚い胸板に蹴りの直撃を食らい、激しくデスクの上に吹き飛ばされた。
「み、見えた……じゃないや、お、おのれぇ……!」
 けれど一難去ってまた一難。
 デスクに仰向けになった彼の目に、スキンヘッドに刺青、アサシンマスクの完全にカタギじゃない男が映った。
 直前の白パン映像も陰る風貌の麺’Sアサシン、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)だ。
「やれやれ、ひでぇ食材だなこいつは……」
 ため息を吐くなり、巡査部長の巨体を麺生地を返すようにひっくり返した。
 神速の手技でかけられた回転は尋常ではなく、彼は空中でくるくると錐揉み回転を始めた。
「ぬおおおおおおっーー!!」
 アキュートの両手が凄まじい速さで閃き、トントントンと目標の身体を数カ所突いた。
 するとボンッと爆発が起こり、打ち上げられた巡査部長は天井にめり込むと、そのまま帰ってこなかった。
「……まだダメだな、ありゃ50点ってとこか」
 不満げなアキュートに、今度は更にいいガタイの警部補が挑んできた。
「巡査部長がやられたか……、しかし奴は空京警察中間管理職の中でも最弱、本官はそうはいかんぞ!」
「……そうかい、かかってきな」
「ふんっ!」
 警部補は奇麗な正拳を放った。
 この動きから察するに空手の有段者だ。
 基本に忠実ながら技に漲る気の凄まじさは、警部補が日々鍛錬を怠っていない証拠だろう。
「なるほど。さっきのよりは料理のしがいのある素材だ」
 次々に繰り出される拳を、彼は柳の如く掴みどころのない手技で捌いていった。
「なんだこの男の拳技……? 見たこともない手捌きではないか……」
「見たこともない? そりゃあんたが家事を手伝ってねぇ証拠だ」
「なに?」
「家に帰ったらかみさんの料理を手伝ってやんな、ちったぁ見聞が広がると思うぜ?」
 アキュートの放った突きが警部補の胸を打った。
 その途端、警部補の脳裏になぜだか中太麺が喚起された。
「!?」
 アキュートの攻撃更に続き、肩、腰、腕を次々に攻撃を浴びせた。
 その度に何か生ザーサイだとか、金華ハムだとか、ピータンだとか、なぜだか食べ物が頭をよぎってしまう。
「い、一体なんなのだ、このビジョン……はっ!?」
 立ちはだかるアキュートの向こうに、とても美味しそうな冷やし中華のビジョンが見えた。
「見えたか、おっさん……。俺の拳術の源流が……!」
 アキュートの技は冷やし中華……いや、彼風に言うなら『冷死厨火』作りから体得したものなのだ。
 細密な手技は麺生地を練る動きから、神速拳打は料理の手際の良さから、攻撃の正確さは調味料の分量の研究から。
「な、なんだ力が抜けていく……!?」
「それはあんたの気が上手く回ってねぇからさ」
「なに……?」
「俺の拳打は相手の気の流れを操る、そう、小麦粉の練り加減を操ってコシのある麺を作るようにな……!」
 そして必殺の構えをとった。
「はあああああ! 奥義『練気爆砕衝』! 麺〜〜〜〜んっ!!
 トドメの正拳が胸を打った瞬間、警部補の体内の一点に集められていた気が爆発を引き起こした。
 自らの気を武器に奪われ、吹き飛ばされた警部補もまた、天井にめり込んだまま気を失った。
「まだまだだな……。80点だ」
 料理が武術に転ずるなら、その逆もしかり。彼は戦いの中で自らの料理の腕を図っていた。
 とは言え、技術的な麺で言えば、失礼、面で言えば、彼の技はほぼ完成しているといっていいだろう。
 足りないのは技ではなく食材なのだ。
「黒楼館に伝わる香酢『千華酢』……あれを手にいれなきゃ、100点の冷死厨火はイメージ出来ねぇな……」