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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション


【4】おれたちのポリスストーリー……7


「そろそろこの試合も大詰めだな……」
 試合を見守るレンは言った。
 続いての挑戦者は、彼の相棒でもある悪魔メイドリンダ・リンダ(りんだ・りんだ)だ。
「く……、誰が出てこようと同じことだ。俺の片手を潰したぐらいでいい気になるんじゃねぇぜメーン!」
 バンフーは破壊された手を押さえながら、リンダに向かってdisリリックを繰り出した。

 YO! YO! 顔面凶悪メイド is Here!
 BABYあやせばショックで動転 爺婆世話すりゃショックで昇天
 女の武器は数あれど 顔面凶器はコイツぐらい

 しかしリンダは顔色ひとつ変えず、ラップを聞き流した。
 鬼門封じの効果はとうに消え、イルラップの効果は完全に回復している……にも関わらず、彼女は平然としていた。
「な、なんで効かねぇ……!」
「哀しみならば既に知っているからだ……」
 彼女の目から血の涙が流れた。
「おまえにはわかるまい。オフイベで846プロの社長から『リンダさんは顔怖いから嫌、ノアちゃんの方が良い〜!』とプロダクション入りを断られた時の気持ちが。あの時、私の全ては決まったのだ……」
「……こ、こいつ不幸慣れしてやがる!」
「今、この場に立っているのは悪魔超人レスラーのリンダ・リンダ……!」
 クワワッと目を見開いた。
「所詮、てめえの口撃なんざ試合前のマイクパフォーマンスにも劣る気の入らねぇ戯れ言だ!」
「な、なんだとぉ!」
「私が本当のマイクパフォーマンスってぇもんを教えてやる! 全身の毛穴で受け止めろ!」
 リンダはマイクを構えた。

 いいか! バンフー!!
 お前に言いたいことがある!
 お前さ、ノリノリで喋ってるんだけど実は滑舌悪いよな!
 流暢に喋れなくて噛んで、適当に誤魔化してる時あるよな!
 某動画投稿サイトのうろ覚えで歌ってみたみたいな感じに「ウンウンウーーンッ」ってノリで誤魔化してるよな!
 バレてんだよ!
 お前日本人だろ!

「!?」

 日本人でしかもダンスばっかりで他に何もやってこなかったクチだろ?
 歳幾つだ?
 家族は?
 親御さんはこの仕事のこと知ってるのか!?
 お前もう少し真面目に将来のこと考えようぜ?
 な?
 悪いこと言わないから実家帰って地元で働けって!
 その方が親は安心すんだからさ。

「……ち、ちげえ! 俺はニューヨーク生まれの……!」

 判った判った。
 色々言いたいこともあるのも判った。
 でもな時間ないからもう切るな。
 でもさ最後にこれだけは言わせてくれ。
 お前さ……お口臭い。

「……口臭は自分じゃわかんねぇんだからよぉ。そういうとこ突つくのはやめろよぉ……」
 ドレッドヘアーも心無しかしおしおと覇気を失って見えた。
 この男、disるのは得意だし大好きだが、自分がその矢面に立たされるのは死ぬほど苦手で打たれ弱いらしい。 

 ・
 ・
 ・

ごにゃ〜ぽ☆
 次なる挑戦者は、鳴神 裁(なるかみ・さい)に憑依する奈落人物部 九十九(もののべ・つくも)
 しかしバンフーはさっきの攻撃、もとい口撃がこたえたのか、田舎の親のことを考えてちょっとブルーになってた。
「親父ももう定年だしな……。そろそろ孫の顔も見たいだろうし……。ちゃんと就職したほうがいいんかなぁ……」
「……なんか目が虚ろだけど大丈夫?」
「!?」
 人生の袋小路に突入しかかったが、危ういところで正気を取り戻した。
「俺様、M.C.バンフー! Hip-Hopの伝道者! 俺のリリックの前じゃお前ら全員敗北者! HO!」
「ヒップホップはほっとでくーるでかっこよくていかしてるよね☆ でも、ボクのXMAだって負けてないよ♪」
 九十九はニッコリ笑った。
「よーし、どっちがよりスタイリッシュかSABだ☆」
「……え、さぶ?」
「……え、SABをご存知ない? まさかヒップホップ界のカリスマともあろうお方がそんなこと……だよね?」
「ば、バッカおめぇ、バカ知ってるよ。あーあれだろ、さぶだろ、ゲイ雑誌の……」
じゃ始めよっか☆
 ちなみにSABとはスタイリッシュアクションバトルの略、XMAはエクストリームマーシャルアーツの略だ。
 バンフーは横ノリビートを刻んで、無事なほうの手でチェケラッ掌を繰り出した。
 九十九はバンフーのビートに合わせステップ、同じ呼吸をとることでチェケラをリズミカルにかわした。
「このビートは俺の……!」
「ダンスは一緒に踊ったほうが楽しいでしょ♪ そーれ、れっつブレイキン♪」
 音楽を友とし、心のままにリズムを刻み、熱いソウルを表現する。それが九十九のバトルスタイル。
 武闘にして舞踏……そして舞闘なのだ!
「舞、武は定まった型の連続、其処に個々の呼吸、拍子を当てる事で動きを表現するという共通項目がある」
 ジュピター・ジャッジメント(じゅぴたー・じゃっじめんと)は言った。
「歴史を紐解けば、時の権力者に武を禁じられ、舞の型に取り込んで武を継承することもあった。そもそも古において武と舞に区別はなく、神に奉納するため振るったものを舞とよび、外敵から身を護る時に振るったものを武とよんだのだ」
 同一の起源を持ち、歴史的、文化的、精神的に密接に関係があるが故に『武と舞は互いに相通ず』なのだ。
「いっくよーっ!」
 トリックとフリップを織り込んだ軽やかな動きで、九十九はバンフーに蹴りを叩き込んだ。
 くるくる宙を回転する度に、彼女の纏う魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が閃光を放ち舞闘を演出する。
 蹴りが決まった時は炎が周りに飛び散り、目にも美しく楽しい技を次々に見せつけた。
「ぐ……、俺様より目立とうだとぉ……!」
 苛立ちを浮かべながら、チェケラを放つ……がかすりもしない。
「凄い威力の技だと思うけど……それじゃだめだよ。キミの拳には魂が、熱いソウルが感じられないよ!」
「!?」
「ソウルをこめた真の舞闘は敵をも魅了するんだ。まだ未熟なボクはまだその域には達してはいないけれど……」
「うぐ……」
 九十九は気付いていなかったが、バンフーの技に陰りを落としたのは、彼女の技の冴えによるものだった。
 自由で華やかで希望に溢れたXMAは、功名心を根元に持つKenpowから見るととても眩しく輝いて見えた。
「もっと自由に、もっとほっとに、もっとくーるに、もっと情熱的に……!」
 九十九は必殺の構えをとった。
「もっと魂を燃やして無心に自分を表現しなくちゃ。忘れないでね、音楽は人を愉しませてナンボだってことを
「ぐあああああああああっ!!」
 必殺の7連蹴り技コンボが、バンフーを吹き飛ばし、壁に激しく叩き付ける。

 ・
 ・
 ・

 ズンズンダンダン♪ ズンズンズンダンダン♪
 ズンズンダンダン♪ ズンズンズンダンダン♪ ズンズンダンダン♪
「……ポッと出の奴が粋がりやがって」
 万勇拳一番弟子八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は署長室のステレオのスイッチを入れた。
 先ほどバンフーが刻んでいたビートに肩を揺らしながら、彼女は札束に火を点けて煙草を火を点ける。
「こちとら一年前から『好きな音楽はジャジー&メロウヒップホップ』って自由設定に書いてんだよ!」
「……て、てめーもHip-Hopを使うのか……?」
メーン!

『ファッキン・ウェイキング・アップ』

 作詞:八ツ橋優子 a.k.a 天宝陵『万勇拳』一番弟子
 作曲:八ツ橋優子 a.k.a 天宝陵『万勇拳』一番弟子
 うたとおどり:八ツ橋優子と万勇拳門下生一同

 ニセモンだらけの空京 警察もだらけて空虚
 ホンモンのライム見せてやるよ
 シャベクリ倒すから目を覚ましな

 バンフー署長のイカしたルック? イカくさいの間違いだろ?
 ドレッドグラサンゴールドアクセ あくせくとテンプレばかりで個性ゼロ
 半端な格好で繰り返すカッコー
 巣を横取りするだけが能なら 素で突きつけるぜNO

 無実の奴らを取り締まり 警察は今はトチ狂い
 ナンバーワンがジャブラの犬なら吠えてみろよワンワン
 そら三回まわせばエサの時間

(ここでDJが三回スクラッチ)

 ディスに答えるかバンフー
 お前のトーフみてえなクンフーじゃ無理ならヤフーでアンサーを探しときな

 中華街でアイヤーと聞こえりゃ 注目はイヤでも集まる
 オーディエンスは見てるぜ 黒楼館の所業
 だがそれも諸行無常
 万勇拳の勝利は目前 一発逆転は当然 完全試合でサーセン

 そろそろ目を覚ます時間だろ ポリスボーイズ・アンド・ガールズ
 一日署長の長い一日も終わり ポリス・イズ・ノット・ユアーズ

 優子のラップにバンフーは言葉を失った。
 バンフーのラップをはるかに上回るリリックとライムはストリートの芸術だった。
 ニューヨーク生まれと言いつつその実、埼玉の田舎(秩父)で野山を駆け回っていたバンフー。
 彼より、横浜でやさぐれていた優子のほうがヒップホップ精神をよく理解しているのは当然かもしれない。
「そ、そんなバカな……。この俺様より、こんなジャリがナイスなラップを……」
「おい、どうしたドレッド野郎。だんだん顔つきがイモくなってきたぞ」
「ぐ……」
 気が付くと、バンフーを守ろうと暴れていた警官達が呆然と立ち尽くしていた。
「……俺、なんでこんなとこで戦ってるんだっけ?」
「あれ、署長ってあんなんだったかな……。どうしちまったんだ俺……。ここ最近のことが思い出せねぇ……」
「ま、MAZUI……っ!!」
 警官達の思考が混濁しているのは、バンフーのカリスマが失墜しかかっていることを意味する。
 それもそのはず、バトルでも押されてる上、自慢のラップでも大敗してしまうと、何がカリスマだかわからなくなる。
 その時、署長室の扉がぎぃぃぃぃ……と開いた。
 扉の前でセーラー服をなびかせ、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)はアブノーマル感を隠すことなく仁王立ち。
鬼羅星! ようやく会えたな、バンフー!」
「お、お前は……(誰だ?)」
「オレを恐れるあまり軟禁したのが運の尽き、自ら懐へ招き入れるとは笑止千万! 直々に天誅を食らわせてやる!」
 と意味不明の供述をしているが、彼が警察でに連行されたのは前回、公園で裸になっていたからである。
「てめーがカリスマラッパーというならオレはカリスママッパー! オレのマッパラップ・瞬極脱でお前を倒す!!!」
「結局、誰だかわからねーが……うおおおおおおおおーーっ!!!」
 全闘気を全開にして、バンフーは震い立った。
 何故ならば……。
「こんな見るからにふざけた奴にまで負けたら、完全にカリスマが消失しちまう! 絶対に負けられねぇ!!」
「見るからにふざけた奴……? それがてめーの驕りだっ!!」

 お前ラッパー オレマッパー!
 てめぇ刻む クソビートオレヒート! 熱くなるハート! 脱ぐぜぱーっと!

 マフラーを外す動作でまずは裏拳一発!

 そして終わる かち割る 悪い思考! 悪の野望!
 このちから そのちから どの地から湧き上がるちから!

 セーラー服を脱ぐ動作を両肘による打撃に変え二連撃!!

 てめぇの地は ニューヨーク? it JOKE?
 田舎臭さ ぷんぷん! オーラ 無い無い 大爆笑!

 脱ぎ去ったスカートを鞭の如く打ち付けて痛打!!!

 オレとお前! ハートとハート! 拳と拳!
 脱ぎ去れ虚言という服 プライド!
 己認め 全裸で マッパで ラッパーで!

 二段蹴りとともにパンプスを破棄!!!

 決めるぜ 極めるぜ この勝負!
 さぁさぁ さぁいご(最後)だ とどめだ お前喰らえ! お前Cry!!

 脱いだ黒タイツは双鞭の如し! 左右からの神速四連撃!!!!

 これが黒楼館倒す力 万勇拳の力 瞬極脱!!!

 最後は跳躍。
 くるくると丸まり前転しながら、溜めた力を解放するようにパンツを一気に脱ぎ捨てる……!
 解放された脚は万勇の力を帯び、回転する斧の如くバンフーの頭に踵を落とす!!!!
「ぐわあああああっ!!!」
 流れる泥流を思わせる最低最悪の連撃は、バンフーを打ち倒すとともに、そのカリスマを完膚なきまでに破壊した。
 全てを解放した鬼羅は股間の銘刀をぎらつかせながら仁王立ち。
 全てを失い崩れ落ちるバンフーを見下ろす。
「全てを出し尽くし、パンツを下ろしてこそラップだ。偽りというパンツで己を隠すラップには絶対に負けないっ!」
「く……! ち、ちくしょう……! 俺の負けだ……っ!!」
M.C.バンフー、死亡確認ッ!!
 レンは声高に叫んだ。
 優子は、悔しさのあまり床を殴りつけるバンフーに、そっと手を差し伸べた。
「な、なんの真似だ……?」
「Hip-Hop Kenpowを万勇拳でもう一度やりなおしな。今度こそ、あんたならいいラッパーになれるはずだ」
超Wide……。お前ら、ふところ超Wideだぜ……。ほんとに負けたよ……」
 バンフーは優子の手をとった。
「格闘じゃ強い奴がルールだ。M.C.バンフー、今日から万勇拳でイチから学ばせてもらう……ZE!」