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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【5】


「あ、格納庫から出てきた……」
 高崎 朋美(たかさき・ともみ)高崎 トメ(たかさき・とめ)は格納庫の前に整列する資材の隙間から、大文字たちの様子を窺っていた。
「悪い先生じゃなさそうだし、騙すのは気が引けるけど、皆のためだもんね……」
「どうやって足止めする気や?」
「あのね……」
 トメが尋ねると、朋美は耳打ちした。
「あんた、あたしにそんな事を……」
 その作戦内容に、トメは呆れ顔を浮かべた。
「まぁいいわいな、かわいい朋美の頼みじゃもの」
「よし。じゃ先に回り込むよ」
 そそくさと準備に向かう2人。
 その時、ちょうど彼女たちと入れ替わりに現れた結城 奈津(ゆうき・なつ)が、格納庫から出てきた大文字に近付いていった。
 整備科では、いや町中でも浮きまくってるプロレスコスチュームの彼女は、ビシィと大文字に挑戦状を叩き付けた。
「あたしはまだるっこしい事は苦手だ。先生、ちょっと聞きたいことがあるからソコの校舎裏に行かないか?」
「この私に挑戦状だと……?」
 挑戦状。漢の魂をくすぐる響きだ。大文字の目にボッと炎が揺らめいた。
「この前は邪魔が入っちまったしな。それに先生がホンモノだってのも判った。だからこそ、改めての『挑戦状』だ。漢同士、魂で語ろうぜ……! 漢に性別は関係ねぇ! 漢は漢だ!あざけりの無い、グローバルな視点で捉えた漢らしさ……それが漢だ!」
「言ってることはまるでわからんが、言葉ではなく心で君の漢の魂は伝わった! おもしろい! その挑戦、受けて立とう!」
「校舎裏で待ってるぜ、先生!」
 奈津は不敵に微笑む。そして先に校舎裏へと向かった。
 大文字はしばらく腕組みして、漢の魂を高めたあと校舎裏に向かい始めた。
 ここで一緒に行けばいいのに、と思った人は、オス度が足らない。待っていたぞ、待たせたな、このやり取りがなくて、なんの決闘か。そして、これから決闘するってのに仲良く歩いてたら気まずいだろ、常識的に考えて。
「……ぬ?」
 ところがその時、緊張感を削ぐようにトメが立ちはだかった。
「あんたぁ、あんたやないのぉ!」
「ぬぬ!?」
「あたしの銀次郎はん! 忘れたんか、あたしやないの、あんた、あたしと手に手をとって、狭い鳥かごから逃げさしてくれた……一生おまえとおる、ちゅうてくれはった、銀次郎はん、大事な大事な旦那様……」
 突然、現れて、突然、抱きついてきた謎の老婆に狼狽する大文字。
「し、知らん! あなたと結婚した覚えはない!」
「勇作さん……」
「!?」
 大文字は振り返り、真っ青になった。
 目の前には、セクシーな衣装でお洒落した荒井 雅香(あらい・もとか)が立っていた。
「あたしったら馬鹿ね……。独身だなんて、男の嘘を簡単に信じちゃって……」
「も、雅香さん! ち、違う!」
「そうよね、年上が好きだって言ってたもんね……」
「あんたぁ!」
「は、放しなさい、おばあさん! 私はあなたの旦那ではない!」
 そこに朋美がやってきた。
「ああー! すみませんすみません!」
「君んちのおばあちゃんか?」
「すみません。うちのおばあちゃん、今日は特に具合が悪くて……ほら、帰るよ、おばあちゃん」
「あんたぁ!」
「あちゃー、先生の事、おじいちゃん、自分の旦那さん……ええ、ボクのおじいちゃんだと思い込んでるみたい」
「なんと……」
「それじゃ勇作さんの奥さんじゃ……?」
「そ、そうだ! 私は独身だ!」
「あの、先生……」
 朋美は言いにくいんですけど感を全開にして言った。
「すこしの間、おばあちゃんに付き合ってやっていただけませんか? しばらくすれば、また他の事に興味がいきますから……」
「むぅ……」
 困り顔を浮かべたが、根っから人の良い彼は、芝居に付き合うことを承諾してくれた。
「あんたぁ!」
「あ、ああ……、今日はいい天気だな、おまえ」
「ああ、銀次郎はん!」
 トメは大文字の首に手を回した。その目が妖しく光った。
「ぐおおおお!!」
 みしみしと大文字の身体が悲鳴を上げた。
「こ、この技はコブラツイスト……! な、何をする!」
「あ、なんで逃げるのン、あんたの小梅、トメやがな」
「あ、あの、先生、ごめんなさい! うちのおばあちゃん、ちょっと愛情表現が独特だから……でも、死なないようにたいていは加減してくれるから、大丈夫です」
「大丈夫なわけあるか!」
 続いて卍固め。
「ぬおおおおお!!」
「こ、このババァ! 勇作さんに何すんのよ!」
 雅香はトメを止めようとするが、逆に振り回されてしまった。
「な、なにこのパワー!? ただのババァじゃない!?」
 そして、トメは大文字の巨体を持ち上げ、真っ逆さまにブレーンバスターを決めた。
「あたしが死んでも、後添いは取らんと……約束したやないの……。せやのに、この子は何?」
「!?」
 雅香を指差した。それから爛々と目を光らせ、倒れた大文字に迫った。
(うん、そろそろいいかな)
 朋美はトメを羽交い締めにした。
(もうそのぐらいで)
(なんや、ちょっと乗ってきたところなのに)
(それだけ痛めつければしばらく動けないし、十分よ)
 朋美は大文字に微笑む。
「ありがとう。なんだかおばあちゃん良くなったみたい」
「へ?」
 トメを引っ張って、そそくさと去っていった。
「ありがとうございました、ありがとう〜〜〜」

「な、なんだったんだあの老女は……?」
「大丈夫、勇作さん?」
 雅香は傷付いた大文字の顔を、ハンカチで拭いた。
「むぅ。恥ずかしい姿を見せてしまったな……」
「ま、まぁ犬に噛まれたと思って、気にしないほうがいいわ」
「そうなんだろうが、犬に噛まれる事はあっても、老婆にプロレス技を食らうことはあまりないからな……」
 そこに校舎裏で待ちくたびれた奈津が、肩を怒らせてやってきた。
「いつまで待たせる気だ!」
「あ、忘れてた……。すまんすまん」
「漢の約束を何だと思ってんだ! もういい、ここで決着をつけてやる!」
 ビシィと指を突き付けた。
「あんたを呼び出したのは……まぁ来なかったけど、ほかでもないG計画のことだ」
「!?」
「先生……あんたは漢だ。だから嘘が下手だな。何を隠しているのかは知らないけど、先生にとっての”とびっきり”なんだろ。あぁ、言いたくないのはわかってるぜ。だからこの挑戦状だ」
「どういうことだ?」
 大文字は立ち上がった。
「決まってんだろ。漢の進む道を決めるのは拳だけだ! あたしが勝ったら質問に答えてもらう! その代わり先生が勝ったらあたしはもう一切G計画とやらについて先生には聞かねぇ!」
「……む」
「なに、心配いらねぇよ。常人相手に契約者が小細工使ったりはしねぇ。スキルとかそういうのは無し、この身一つでヤってやるさ!」
「ふっ、契約なら私も電気と水道、クレジットカード含め、10はしてるわ。負けておらん」
「よっしゃ、じゃあいっちょブチかますかっ!!」
 両者は拳を合わせ、漢と漢の魂のぶつかり合い、決闘を開始した。
「始まったか……」
 奈津の師、ミスター バロン(みすたー・ばろん)は見届け人となり、竜虎の戦いを見守っている。
「なんなの一体、次から次へと勇作さんに……!」
「漢には戦わねばならない時があるのだ。己の誇りと維持と守るべきものを賭けてな」
 不安そうな雅香に、バロンは言った。
「しかし……(企画書を見られた時の慌て様からして、そう簡単に喋ってくれるとは思えん。まぁ喋ってくれれば御の字だが、勝負がつかなくても時間稼げればそれでいい)」
 奈津のタックルをノーガードで大文字は受け、そこから渾身のラリアットで奈津を吹き飛ばす。両者、”受けてナンボ”のプロレス精神で、正面から技を受けまくるガチンコ勝負だ。
(ふむ、一般の地球人に引けを取るとは思えんが、もし大文字が契約者なら? もし地球人ではなかったら? もし……グランツ教等の組織から何らかの力を与えられていたら? 根拠のない妄想だが、この勝負でそこら辺も見えるかもしれん)
 バロンはカッを目を見開いた。しかし勝負は明らかに奈津が優勢だった。
「おりゃあああああ!!」
「ぐっ!?」
 大文字の鉄拳が奈津の身体を空中に吹き飛ばす。
 奈津は空中で自らの姿勢を正し、ボディプレスで一撃、そこから胴回し蹴り、更にドラゴンスクリューで大文字を地面に沈める。
 防御を捨てたガチの殴り合いは、常人と契約者の根本的な身体能力の差を浮き彫りにさせた。
 目に見えて疲弊する大文字に対し、一度のアタックで流れる連続攻撃を繰り出す奈津。しかも彼女には大文字を気遣い、頭と腕を狙わず、胴と脚に攻撃を集中させる余裕もあった。
「大文字は契約者ではないようだな……。しかし、あの気迫……。ただの技術者ではない、あれは戦士の目だ」
 バロンは唸った。
 ボコボコにされるが大文字は決して倒れない。それどころか、目にたぎる炎を更に熱く燃やし、彼は何度でも立ち上がって向かってくる。
「なんてタフガイだ……!」
「倒れなければ負けではない! よって、私が負ける事はない!」
「く……っ!」