校長室
インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【3】 Re:CHURCH【3】 宿舎は一階と二階で構成されている。一階部分には食堂や警護にあたるテンプルナイツの部屋があり、二階部分に書庫や神官の居住空間がある。 二階の奥にあるのが司教・メルキオールの部屋だ。 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、陰形の術で身を隠し、息を殺し、こちらに向かってくる気配に意識を集中した。 小さな足音を立てて現れたのは、神官……ではなく神官に扮した淡雪だった。教団とクルセイダーの繋がりを示す証拠を求めて宿舎を調査しているのだが……、 「……偽りを司る黒鳥の翼が、真実の光を覆い隠している」 今のところ、それらしきものは見つかっていなかった。 彼女が通り過ぎるの待って、レンはメルキオールの部屋に歩を進めた。 「思ったより楽に潜入出来たな……」 レンはザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)に連絡をとった。 「外の様子はどうだ?」 教会を監視出来るビルの屋上にザミエルは居た。何かあった時に援護出来るよう、ここでライフルを構えて待機している。 『こっちは……そうだな。さっき正門前でアイドルのゲリラライブが始まったな』 『ゲリラライブ?』 『ああ、ここからだとよく見える。相当盛り上がってるみたいだ』 『……なるほど。誰かの陽動だな。引き続き警戒を続けてくれ』 『了解だ。しかし屋内の援護には期待するなよ。ここからじゃ、おまえらの位置は死角になってるんだからな』 『その時はこっちで対応するさ。リンダもいるしな』 通信を終えると、今度は腕に装着している手甲型の魔鎧クーデリカ・アーム(くーでりか・あーむ)を掲げた。 「何でしょう?」 「クドに連絡してくれ」 「かしこまりました」 クーデリカはテレパシーで、礼拝堂にいるクドに呼びかけた。 (首尾は如何でしょう、クドさん。足止め出来そうですか?) (やるだけやってみますけど、まぁ心配はいらないと思いますよ。しばらくメルキオールさんは動けないと思います) (……そうなのですか?) (だってねぇ……) (ま、お兄さんも頑張ってみますよ) 「……あちらは心配ないとのことです」 「了解だ。こちらの仕事を進めよう」 クーデリカのピッキングで扉を解錠し部屋に入った。 室内は、豪奢な宿舎に相応しく、貴族の一室のように豪華だった。ロココ調の家具が並び、天蓋付きの大きな寝具が横たわる。天井にはシャンデリアが輝いていた。 しかし一部だけ明らかに異質なものがあった。それは壁一面に貼られたポスターだ。 「これは……?」 清楚で優しそうな雰囲気の美しい女性のポスターだった。同じ女性のポスターが、隙間を埋めるように尋常じゃなく貼られている。 この一面だけ、貴族じゃなくて中学生男子の部屋のようだった。 「……しかし、気のせいか? この女性、どこかで見た事があるような……?」 「レン、あれを……!」 「む?」 ロココ調の机の上には、超国家神LOVEの法被にTシャツ、団扇にペンライトが整頓されて置いてあった。 ブロマイドを整理したファイルもあるが、恐ろしいことにファイルには”第14段”と書いてある。ブロマイド、シリーズ化し過ぎ。 「情報を統合すると……この女性が、”超国家神”と言うことか?」 「ベッドを調べてみましょう」 クーデリカは言った。 「重要な情報を漏らさないよう意識していても、眠っている最中は無防備になるものです。何か手がかりが見つかるかもしれません」 「わかった」 レンはサイコメトリで枕を探る。 その瞬間、ポスターの美しい女性の姿が見えた。 「今のは……」 「おそらく夢の映像でしょう」 「夢でまでこの女性を……」 レンはちょっとメルキオールが気持ち悪くなってきた。 そして気持ち悪い上に、大して手がかかりにもならなかった。 「さて、どうしたものか……」 何気なくペンライトを手に取った時、それは起こった。 光る部分が形状を変え、”長剣”の形に変化したのだ。 「?」 慎重にライトをあらためながら操作すると、今度は”戦斧”、次に”長槍”、そして”大槌”と、次々に形状が変わった。 「なんですか、それは?」 「柄の部分に切り替えダイヤルがある。これを回すと、形状が変化するようだ。そう言えば、クルセイダーがこんな武器を使っていたと報告書にあったな」 「では、これを持って帰れば証拠になるのでは?」 「……いや、そう簡単ではないだろう。クルセイダーの武器を押収出来ていない以上、これがクルセイダーの武器と同じものと断言するには手札が足りない」 「……なるほど。それもそうですね」 「まぁとりあえずそれは押収しておこう。あとはこの部屋の撮影を……」 レンは室内を見回した。 「なんだかコゲくさいな……」