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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #4『遥かなる呼び声 後編』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #4『遥かなる呼び声 後編』

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 気がつけば、ミフォリーザは何処か見知らぬ場所に立っていた。
 自分が何故か生きていて、パラミタという別の世界にいること、そして、その世界で、かつての世界を復活させようと足掻いている者がいることを知る。
「あんな、腐った世界に固執するなんて、……許さないわ。
 そんなこと、させてたまるものか……」
 なんて醜い。
 ミフォリーザは思う。
 彼女の狂気と破壊衝動が膨れ上がる。
 許さない。そう、その醜い者の縋るものを全て破壊し、絶望を与えてやろう。
 そして絶対的な絶望の中で葬り去る。
 殺してやる。殺してやる。殺して、殺して、殺して殺してころしてころして………………



 アレサリィーシュは、ぼんやりと周囲を見渡した。
 どこか違和感のある風景。
「……生きてる……? いえ、違う……」
 違う。そう感じる。
 現世の世界はアレサリィーシュにとって、まるで別の次元にいるような、そんな奇妙な感覚だった。
「生きてるなんて……」
 ふ、と俯いて笑う。
 ぼろぼろと涙が零れた。ああ、涙など枯れ果てたと思っていたのに。

 あの世界で、死ぬ間際、アレサリィーシュは気が付いたのだ。
 自分が闇の媒介であり、周囲に闇の種を植え付けるような存在であったことに。
「私は、生きていてはならない存在だった……」
 何故あんな目にあってまで、自ら死を選ばなかったのかと、今となっては思う。
「……死のう、今度こそ……」
「そうか。それならあたしが殺そう」
 振り返った先に、同じ前世の世界に生きたマーラの、黄蓮がいた。
 黄蓮は覚醒者狩りをしていた。
 振り上げられる剣を、アレサリィーシュは拒まない。
 一撃で斬り捨てられ、死ぬ瞬間に、カズの名を呟いた。

 最後にもう一度だけ会いたかった、そう思い、いいえ、会わなくてよかった、そうも思う。
 彼は、彼女が知る限りただ一人、未だ闇に侵されていなかった存在だった。
 巻き込みたくは、なかったから。


 黄蓮は、アレサリィーシュの命を喰らうと、さて、と呟いた。
「――ああもう」
 頭からシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)をひっぺがして投げる。
 常時リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の頭を定位置としていた外見カツラのムーンは、リカインが覚醒して黄蓮に変わると同時に
「覗き見は感心しないな」
と放り投げられたのだが、めげずにこの位置に戻って来ている。
 また、リカインを心配するあまり、分からないと言うのに何度も繰り返してリカインの安否を訊ねたキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)は、
「お前は、そんなにその人のことを信頼していないのか」
とたしなめられ、ふと、リカインも年を経るとこうなるのだろうか、と感じた予感に、ストンと落ち着きを取り戻した。
 キューはパートナーロストにより、動くのも辛い状態になってしまったので、黄蓮は置いて来ている。

「全く、みっともなく足掻いたりして、他の世界を好き勝手していいものじゃないだろうに」
 全員がそのつもりで覚醒したのではないのだろうが、この世界にいるべきではないという点に変わりはない。
 黄蓮は覚醒者達を探して斃し、その命を喰らい歩いた。


◇ ◇ ◇


 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、イデアの思いが理解できた。
「俺ならイデアと同じことをする。
 滅び行く我が国を再生させる為なら躊躇いはしない」
「それでも、この方法は駄目なの!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は断言する。
「理由があれば、何をやってもいいわけじゃないわ。
 カルネアデスの板を気取られたら、奪い返すしかないじゃない」
 もっと別の方法はなかったのかと、悲痛な思いで言ったルカルカは、前世に覚醒してしまった。
 パートナーロストの影響はそれほど酷くはなかったが、ダリルは眩暈と格闘しつつ、現世でイデアと戦う。

 ルカルカと入れ替わって現世に現れたカズは話を聞き、
「すまなかった」
と謝った。
「俺は『書』を作り、再生を願った。が、こんな歪な方法によってではなかった……」
 恐らく、ルカルカが覚醒することを選んだのは、カズに『書』を作った責任を取らせる為。
「今此処にいるイデアには最高でも半分しかダメージが与えられない。
 猶予を与えればすぐに回復してしまう。同時に倒すしかないわ」
 そう言っていたルカルカの言葉を、ダリルはカズに伝えた。



 メデューは、フラフラと龍王の卵の上に進み行く。
 周りの状況は目に入っていなかったしどうでもよかった。
 メデューの髪が、龍王の卵に向かって伸びる。
 その生命力を吸い取ろうとしたが、できなかった。
 メデューはすぐに諦め、別の獲物を探す。
 卵の上では他に簀巻きにされた男が拘束を解こうともがいていたが、それは獲物ではないとメデューは無視した。

 突然、どんと仰向けに倒れる。
 風の魔法に倒されたのだと知る間もなく、その胸に剣が突きたてられた。
「お前、この世界に来てもそんな有様なのか」
 苦々しい思いで、黄蓮はメデューを睨み付ける。
 ありがとう、と、あの時この少女は言ったのに。
 だがその言葉も、メデューの耳には届かなかった。
 黄蓮の手に、メデューの髪が絡みついたが、すぐにするりと落ちる。

『……決して自分を見失うなと言ったのに』

 最後の瞬間、悲しそうな呟きが聞こえた気がしたが、メデューの心がそれを認識することはなかった。

 黄蓮は、メデューの命を喰らう。
 一瞬、塵のような光の破片が舞った気がしたが、それはすぐに消えた。



 世界の崩壊に飲まれたことを憶えている。
「だが、ここにこうして在るということは、……蘇ったか?」
 以前より少し身体が軽い気がするが、ささいなことだろう。
「拙者は、拙者の道を歩むのみ」
 敵味方は関係ない。強い者と戦う。
 そんなタウロスと、覚醒者狩りをしている黄蓮が対峙したのは、必然と言ってもよかった。

 タウロスは、元々の身体の持ち主であるラルクの能力に従って、格闘技で戦いに挑むも、あわよくば黄蓮の武器を奪いに出る。
 本来のタウロスの型は二刀流だからだ。
「させるか!」
 しかし黄蓮にその隙はなかった。
「ふむ、ならば!」
 強敵を相手に、タウロスは興奮する。
 屈服させた後で無理やり犯すのも一興か、そう考えるだけで血が沸き立った。

 二人は、互いに一歩も引かなかった。
 タウロスが黄蓮の剣に貫かれ、黄蓮の骨がタウロスの攻撃に砕かれ、互いが息絶えるその瞬間まで、自分の命を相手に与えることを許さない。
「……ふ、手間が、省けたというもの……」
 黄蓮は苦笑する。
 元より、覚醒者達を狩り尽くした後で、自ら散華するつもりでいた。
 この世界に在るべきでないのは、自分も同様だからだ。

 二人は、同時に息絶えた。