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【借金返済への道】眠れるアイスタイガー

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【借金返済への道】眠れるアイスタイガー

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第1章


 空京にある薬屋の中から弾んだ声が聞こえてきた。
 勢いよく扉が開き、ホイップが、店内へ向けて言葉を発する。
「おじさん! 有難う! 頑張ってくるね」
「気をつけてな〜」
 魔女のホイップがぽっちゃりした中年の男性にお礼を言って、元気よく出て来た。
 ホイップが出てきた薬屋の扉はゆっくりと閉じて行く。
 その様子を店の影から窺っている者が2人。
 ホイップ達の会話を盗み聞きしていたようだ。
 両方とも波羅蜜多ツナギをマイクロビキニ風に改造している。
 道行く人が目のやり場に困りながら去っていく。
「ヒャッハー! 金儲けの匂いがするぜ。行くぞフル!」
 そんな人達を意にも介さず羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は自分の後ろにいるフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)へと言葉を掛ける。
「おうよっ!」
 2人は空京を後にし、パラミタ西側の草原へと走り去って行った。


「そういえば……1人じゃ無理っておじさん言ってたけど、どうしよう……う〜ん」
 店を出たホイップが空京の大通りを、独り言を呟きながら歩いている。
「ホイップ!」
 後ろから肩を叩かれ、呼び止められた。
 声のした方へと体を向けると、そこには見知った顔が数名。
「ボク達が手伝うから、借金なんてサクッと返しちゃおうよ!」
「ホイホイちゃんはアイスタイガーの毛を取りに行くわけね? 薬屋さんとの会話が外まで聞こえてたよ。しょうがないから付いていってあげる」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)響希 琴音(ひびき・ことね)がそう告げる。
「良いの!?」
「勿論! 実はあの時の司書さんからホイップに請求書を送ったって言われてさ。探しに来てたんだよ」
 ホイップに対してカレンが伝える。
「ホイップちゃん、ボクも財政ピンチだからカンパとかは出来ないけど、一生懸命お手伝いするからね」
 峰谷 恵(みねたに・けい)は、この前より少しだけ胸が大きくなっている。
 その素敵バストに目が釘つけとなる。
「なんでピンチ?」
 胸から目を離さず琴音が疑問を口にする。
「この前の薬で特注のブラが壊れちゃって。で、新調しに行ったんだけど……なんかまた大きくなってるらしくて。はぁ……今持ってるブラ全部使えなくなったら……特注だからお金に羽が生えて飛んでっちゃう」
 自分の胸をヨイショと持ちあげて恵が答える。
「我がその胸から血を吸って、小さくしてやろう」
「ダメに決まってるでございます!」
 アーチボルド・ディーヴァー(あーちぼるど・でぃーう゛ぁー)が、またも恵から承諾を得ようとするのを深見 ミキ(ふかみ・みき)がダメだしする。
「うん。その方法は謹んで遠慮させてもらうね」
 苦笑いしながら恵が言う。
「ぅんふふふ〜。それじゃあ、思い切ってもっと大きくしちゃうのは〜、どう〜?」
 恵の背後から手がにゅっと出して、胸を揉みだした。
 巫丞 伊月(ふじょう・いつき)が居たのだ。
「ひゃあ!」
 恵が小さく悲鳴を上げる。
「さすが下等生物なのです。そんなゲスのやるような事を平然とやるなんて」
 伊月の隣にいたエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)が冷たく言い放つ。
「あら〜? もしかしてエレノアちゃんも大きくしてほしいのかしら〜」
 恵から離れた伊月が手をわきゅわきゅ動かしながらエレノアに詰め寄る。
 が、さらりとかわすエレノア。
「ボクも混ぜてくれ〜! つか、揉ませろ!」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)が鼻血を垂らしつつ、横に居たソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)へと両腕を伸ばす。
「きゃ〜っ!」
 悲鳴を上げたソアにエルが触る直前に雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が爪で撃退する。
 エルの腕には見事な傷跡が出来た。
「ご主人に何してるんだ〜? あぁん?」
 更に指をパキポキと鳴らし威嚇する。
「あ、あははは。やだなぁ、本気にしないでよ。ボ、ボク必要な物買ってくるから!」
 エルはそう言うと猛スピードでこの場を離れた。
「何をしておるのじゃ、ケイ! おぬしも加わらぬか!」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)緋桜 ケイ(ひおう・けい)をけしかける。
「な、何で俺が加わるんだよ!」
「むっ? 胸触り勝負ではないのか?」
「違いますよ。カナタさん」
 勘違いしているカナタに水神 樹(みなかみ・いつき)がやんわりつっこむ。
「はいは〜い! 私はホイムゥの胸揉む〜」
 元気良く手を上げて宣言したのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
「ホイップさん、すみません! こうやって図書館の時も美羽さんがご迷惑をおかけしていたのですね」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がフォローしながらホイップの胸を触ろうとしている美羽を押しとどめる。
「そ、そんな事ないよ……多分」
 目を反らしながらホイップが答えた。
「ホイムゥひど〜い」
 みんなから笑い零れる。
「それじゃぁ、買い物はエルさんが行ってくれてるみたいですし、みんなでもう少し人を集めましょうか。あ、ホイップさんは目印として草原側の出口に居て下さいね」
 樹が提案すると皆頷き、それぞれ思い思いの人へとアタックをかけに散ったのだった。


 1時間後。
 待ち合わせの場所には、かなりの人数が集まっていた。
「今日は宜しくお願いします!」
 ホイップがみんなに向かって頭を下げる。
「……アイスタイガーとは珍しい生き物なんだろう? なら、見物しに行く価値はある。別にお前の為じゃない」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が冷たく言い放つ。
「むぅ、気の毒だと思ってるくせに……。ボクは借金の理由はしらないけど、精一杯頑張るね!」
 そのパートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は可愛らしくガッツポーズを取る。
 他にも、色々な思いはありそうだが、沢山の人が集まってくれた。
「ではでは、元気にしゅっぱ〜つ!」
 美羽が号令を取り、出発となった。


 そんな皆の様子をこっそり見ていたのはクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)
「皆さんに、あまり危険がないと良いですね」
「……ああ……そうだな」
 そして見守るように後を付いていく。


 真夏の昼の日差しはかなり強く、みんなの上へと降り注ぐ。