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○12月14日
今日は雪中行軍出発の日。雪景色がとってもきれい。楽しい訓練になるといいな。
―――――――――
「うわーすごいね! こんな雪みたことないよ!」
褐色の肌の美少女、湯島 茜(ゆしま・あかね)は純白の山肌を見上げて思わずはしゃぐ。
「東京じゃこんなに雪降らないし、めいっぱい遊べそうだよね? エミリー?」
茜はパートナーの獣人エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)を振り返る。
「前を向いて歩かないと転ぶであります」
「あはは、へーきだって。……ぐは!」
雪中にめいっぱい人型を作って茜はひっくりこけた。
「大丈夫? は……は……は〜くしょんっっ!」
鼻をすすりながら一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)が手を差し伸べる。彼は代々騎士の家系。倒れている女性は見捨ててはおけない性格だ。
「ど、どうも」と、茜は森次の手を取る。できれば鼻を拭いた方でない手を出して欲しかったのは置いておいて。茜はぱんぱんっと雪を払い、
「助かったよ。あらためてありがとう。あなたの名前は?」
「……キミにかけてる時間はないんだゴメンねっ」
「へ?」
ぽかんとしている茜を余所に、森次は夕凪 牧人(ゆうなぎ・まきと)とじゃれ合っている。
「君こそ大丈夫? 僕は森次の風邪が心配だよ」
「平気だよ〜。雪山で運動すれば風邪もよくなるかな?」
「そうさ。きっとよくなるよ(なーんてね。風邪で弱っていく森次もかわゆすぎ)」
「そっかぁ。もしものときは、ほら、あのへんにお爺ちゃんが浮いてるし、絶対安心だね」
「(はうっお化けの話はヤメテッ)もももも、もしも寒くなったら言ってね。ボクの○○○の中であっためてアゲルから♪」
「いや、そ、それは……」
そんなこんなで延々と。
「それがしは撤退を進言スルであります」
「……珍しくあたしも同意する」
と、そんなところへ、
「フフフ、そこの風邪っぴきの軟弱な貴様らっ。俺様を見ろ、いや、俺様を見ずにはいられまいっ!」
と、薔薇学マントに赤マフラー。赤い仮面の全裸男が巨大なクマの上から名乗りを上げる。変熊 仮面(へんくま・かめん)と巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)だ。
変熊仮面は颯爽とイオマンテから飛び降り、ヤバい部分をマントで微妙に隠しながら腰に手を当て仁王立ちした。
「冬は全裸っ。否、冬こそ全裸っ! 俺様が登場したからには今この瞬間がクライマックス! 貴様らも俺様と共にハイキングを楽しむがいい」
中隊全員の視線が変熊仮面に集まっていた。
「なんだアレは……」
「変態だ……」
「いや、変クマらしいぞ……」
「茜君、アレは同じ薔薇学の生徒のようでありますが……」
「あたしのせいじゃないよっ」
茜は頭を抱えた。たしかに茜のせいではない。
「変熊さんの言うとおりですわ」
派手なパラソルにお弁当入りのバスケットを下げ、白百合女学院の制服を着たツインテールのお嬢様が拍手をする。青葉 帆風(あおば・ほのか)はそういって周囲を見回し、
「でもそろそろティータイムになさいませんこと? 誰かお茶を入れてくださいません? 茶葉はキームンがいいかしら」
と、専属の執事でもいるかのように呼びかけた。帆風はもちろん、防寒対策なんてものは何一つしていない。もはや「雪山をなめてる」なんてレベルではない。
「あ〜あ。なんだかあたしが普通に思えてきたわ」
「それがしも同意であります」
茜はとんでもないメンツに囲まれたもんだとため息をつきながら、持参したチョコレートをかじった。
―――――――――
今日は面白い人たちとたくさん出会えました。帆風さんはちょっぴり寒そうだったので、手袋を貸してあげました。今夜は明日に備えて早めに寝ます。
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