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紙ペットとお年玉発掘大作戦

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紙ペットとお年玉発掘大作戦

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■第一章 のんびり協力宝探し

 穏やかな風が木々を揺らし、澄んだ湖が広がる。
 空京の片隅の静かな湖畔は、空の色を映した深い青に染まっている。
「ナー、ナァー」
 小さな鳴き声を発するのは紙でできた三毛猫。土の地面をてくてく歩いている。
「こっちに宝があるのか?」
 紙猫に語りかけるのは本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)。その後ろを、騎士兜をかぶった重装備のクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がついていく。
「おにいちゃん、魔物は大丈夫かな?」
「今のところ、反応はないから大丈夫だ」
 本郷涼介は発動させている【殺気看破】で、何も感じないことを確認する。
「あ、待って!」
 紙三毛猫は宝を求めてどんどん進む。クレア・ワイズマンと本郷涼介は急いで追いかけた。
 紙三毛猫が進む先に、紙ドラゴンが飛んでいた。羽ばたくその姿は本物のドラゴンのように雄々しい。
「頑張ってください、紙ドラゴン」
 その姿を見上げながら、沢渡 真言(さわたり・まこと)が微笑む。
「お姉様、紙ドラゴンにお名前はありませんの?」
 てくてくと歩きながら、首を傾げるのはティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)。その手には弁当と水筒の入った籠が提げられていた。
 ふわふわとした服を着た彼女の姿は、花の妖精に似た華やかさと愛らしさがある。
「そうですね。名前はありません」
「でしたら、メリュジーヌというお名前だと可愛いと思いますわ」
 きらきらと瞳を輝かせ、ティティナ・アリセが紙ドラゴンを見上げた。沢渡真言はふっと笑って頷く。
「わかりました。今からこの紙ドラゴンは、メリュジーヌと呼ぶことにしましょう」
「きっと、メリュジーヌも喜びますわ」
 メリュジーヌを見上げ、二人は微笑む……と、足元に紙三毛猫が近付いてきた。
「意外と速いな」
 早足で歩きながら紙三毛猫を追いかける本郷涼介。
「おにいちゃん、待って!」
 その後をクレア・ワイズマンが追いかける。
「よろしければご一緒に、探しませんか?」
 通り過ぎようとする二人に、沢渡真言が語りかける。本郷涼介が振り返った。
「紙ペットを接触させると何か起こるようですし」
「ああ、いいぜ。紙猫、止まれ!」
 彼の声に答えた紙三毛猫は、ぴたっと止まった。
「メリュジーヌ、来てください」
 沢渡真言が呼ぶと、メリュジーヌは応じて戻ってきた。
 クレア・ワイズマンが急いで紙三毛猫を抱き、二人に近寄る。沢渡真言のローブを引っ張って、ティティナ・アリセが背後に隠れた。
 その肩で、メリュジーヌが翼を休める。
「俺は本郷涼介。よろしくな」
「私は沢渡真言です。よろしくお願いします」
「私はクレア・ワイズマン。よろしくね」
 クレア・ワイズマンはティティナ・アリセに近寄って屈み、にっこり笑いかけた。
「……わ、わたくしは、ティティナ・アリセですわ」
 やや緊張した面持ちで、ティティナ・アリセが頭を下げた。
「よろしくお願いしますわ」
「ではティー、メリュジーヌを接触させてみてください」
「クレア、頼んだぜ」
「うん。じゃあ、いくよ」
「わかりましたわ」
 頷きあって、二人は紙ペットを近付ける。
「ナァアー」
「キュゥウー」
 二匹の紙ペットは小さな手を伸ばし、ちょん、と触れ合った。その瞬間、二匹がまばゆい光に包まれた。
 四人が見守る中、広がった光は徐々に収束していき、二匹が開いた口の中へ入って行った。
「ナァ!」
「キュウ!」
 鋭く鳴いた二匹は、二人の手からすり抜けた。
「これでいいのかな? ありがとう、ティティナ殿!」
「いいえ、こちらこそですわ、クレア様」
 にこにこ笑い合う二人を尻目に、紙ペット二匹は茂みの方へ。
「あ、メリュジーヌが!」
「紙猫、どこに行くんだ?」
 沢渡真言と本郷涼介は慌てて追いかける。二匹は程近い位置に止まり、くるくると回っていた。
「ここですか?」
「こっちも見つけたみたいだな」
 紙ペットが示す場所を、二人は配給されたスコップで掘り返す。ほどなくして宝箱が姿を現した。
「あ、これは……!」
「おっ、いいな」
 重みのある懐中時計と、魔法医学書がそれぞれ入っていた。

 宝を発見した喜びの声も届かぬ場所。
 穏やかな湖面を傍らに、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)と共にゆったりと歩いていた。
 太陽の光が湖面に反射してきらきら光る。
 ささやかな木々のざわめきと、鳥の鳴き声が遠く聞こえるだけの、喧騒から離れた美しい湖畔の雰囲気を、二人は楽しんでいた。
「……静か、ですねぇ……」
「うん、空気も澄んでるよね」
「……はい。気持ち、いい……ですぅ」
 手をつないだ二人は微笑み、先を行く紙狐をゆっくりと追う。
 紙狐はぴょこぴょこ跳ねるように進み、宝を探しに走る。
「日奈々、紙キツネが先に行っちゃったよ。少し急ぐ?」
 冬蔦千百合が銀のツインテールをぴょこんと跳ねさせ、如月日奈々に問いかける。
 如月日奈々は、首を傾げて少しばかり黙り込むと、おずおずと口を開いた。
「……ゆっくり……行きたい、ですぅ」
「わかった。紙キツネ、ゆっくり行こう!」
 冬蔦千百合が声を張り上げて呼び掛けると、紙狐は一声鳴いて進む速度を緩めた。
「これで、大丈夫だよ」
「……千百合ちゃん……ありがとう、ですぅ……」
「日奈々のためだもん、当たり前だよ」
 微笑み合う。と、二人に人影が近付いてきた。
「誰か来たみたいだね」
「…………」
 二人は立ち止まり、振り返る。
「んふ、どんな魔物が出てくるのかの〜」
 楽しそうに笑うファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、紙ネズミから目を離さぬまま、楽しげに微笑んだ。
「……ん?」
 ふと眼を上げると、少女が二人、彼女を見ていることに気付いた。
「わしは、怪しい者ではない。安心するのじゃ〜。なんなら、協力しても良いぞ」
 言って近寄る。如月日奈々と冬蔦千百合が、ゆっくりと近寄ってきた。
「わしはファタ・オルガナじゃ。おぬし達は?」
「あたしは冬蔦千百合。この子は如月日奈々だよ」
 如月日奈々が、ぺこりと頭を下げた。
「このネズミと、おぬし達の狐を接触させてみるのじゃ」
「うん、わかった。いいよね、日奈々?」
「……はい。……お願い、しますぅ……」
「んふ、こちらこそよろしく頼むの〜」
 二人の少女達をじっくりと見つめ、ファタ・オルガナは紙ネズミをつまみ上げて突き出した。冬蔦千百合が紙狐を抱え、差し出す。
 二匹の尾が、ぱさりと動き、触れあうと光に包まれた。
 その光をごくりと飲み込んだ紙ネズミは、いきなり飛び出して小石のまわりをぐるぐると回った。
「おっ、早速見つけたのじゃな?」
 紙ネズミが示した位置を掘り返すと木製の宝箱が姿を現した。ひょいと持ち上げ、二人を見る。
「欲しいなら渡してもよいが、どうかの〜?」
「ううん、あたし達はあたし達で見つけるからいいよ。ね、日奈々」
「……うん……」
「んふ、そうかの? では、遠慮なく……」
 宝箱をしっかりと抱え、微笑むファタ・オルガナ。
「ヲオオッォオオウ!」
 と、鳴き声が遠く聞こえた。ファタ・オルガナは紙ネズミを回収し、走りだした。
「わしは魔物を倒しに行かねばならぬでの〜。おぬし達のこと、忘れぬぞ!」
 という言葉を残して。
「コォオオン」
 紙狐が高く鳴き、くるくると円を描くように走り始めた。
「そこに何かあるの?」
 冬蔦千百合と如月日奈々は紙狐に近寄る。円の中心に冬蔦千百合がスコップを差し入れ、数回土を掘り返すと宝箱が姿を現した。
「はい、日奈々。開けてみて」
 促され、如月日奈々はゆっくりと宝箱の蓋を開ける……。
 中には、ささやかな装飾のされた白い杖が入っていた。