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海の魔物を退治せよ!

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海の魔物を退治せよ!

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第1章 それぞれの目標


「注目!!」
 星の砂の砂浜に集まった生徒達を前に声を張り上げたのは、イルミンスール魔法学校のアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だ。
「いいか、校長からとはいえ、これもれっきとした依頼なのだから、夏だの海だのと浮かれ過ぎず、気を引き締めてかかるように!」
 引率として来たからには無茶をしがちな生徒達に注意のひとつも促そうとするが、当の生徒達はアルツールの話を聞かず、友人と笑いあい、きらめく海を前に目を輝かせていた。
「そういえば、学校の行事で地域の清掃活動とかって割と定番だよな」
 イルミンスール魔法学校の和原 樹(なぎはら・いつき)は、地球での事を思い出しながらそう呟いた。
「そうですね。私の学校にもありました」
 それを聞いていた蒼空学園の小林 恵那(こばやし・えな)が懐かしそうに微笑む。
「綾音さんの学校にもあったのぉ?」
 アリスの橘 百合(たちばな・ゆり)が、パートナーで葦原明倫館の橘 綾音(たちばな・あやね)に尋ねる。
「え、えーと…その…私は……」
 幼い頃から戦場にいた自分には縁のない話だと、百合にどう伝えたものか綾音は言い淀んでしまった。
「いいなぁ。私も、綾音さんと一緒にぃ、お掃除したかったですぅ」
 淋しそうに拗ねて見せる百合に、綾音の頬が緩む。
「それじゃ、今日は一緒に、たくさんお掃除しましょう」
「はぁい!」
 お互いを見てニコニコとほほ笑みあう綾音と百合の姿に、恵那はほんの少し羨ましい気持ちになった。
「私も、パートナーと一緒に来れば良かったです」
「あ、私もそう思ったわ」
 天御柱学院の珠洲峰 マユ(すずみね・まゆ)が、恵那の言葉を聞いて話し掛けてきた。
 2人とも、一緒に来るはずだったパートナーが来られなくなってしまったのだ。
「ほら、ここって、『2人で一緒に小瓶に星の砂を詰めたカップルは幸せになれる』っていう言い伝えがあるじゃない? 一緒に掃除するだけでも、もっとパートナーと仲良くなれるかなって思って参加したんだけど、これじゃただの清掃活動で終わりそうね」
 マユが残念そうに言う。
「え? それって、『小瓶に星の砂を詰めたら幸せになれる』っていう話じゃありませんでしたっけ?」
 恵那が、聞いていた話と違う噂に首を傾げた。
「そうなの?」
「いえ、私も詳しくは知らないので、どっちが本当なのかはよく分からないです」
 いずれにせよ、絆を深めたい相手が不在なのでは関係ない話だと、2人はお互いを慰めるように頷きあった。
「ふぅん」
 イルミンスール魔法学校の師王 アスカ(しおう・あすか)は、2人から少し離れた場所にいたが、その話はしっかり聞こえていた。
「アスカ?」
 アスカに無理やり連れてこられたパートナーの吸血鬼、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、アスカの企み顔に気付き、訝しげに声を掛けた。
「何を考えているんだ?」
「砂浜をどうキレイにしようかなって考えてたのよ」
 アスカの楽しそうな笑顔を見て、ルーツの背筋にゾクリと悪寒が走る。
(絶対嘘だ……)
 鼻歌まで歌いだしたアスカに、ルーツは不穏なものを感じとっていた。

「清掃を行う者は必ず素手を避ける事。エビおよび蟹退治に向かう者はもう一度装備の確認を……」
 アルツールがまだ話している最中、生徒達の後方から、低く不気味な笑い声が響いてきた。
「まさかこんな所で逢えるとは皮肉なものだな、勇者なぶらよ!!」
 イルミンスール魔法学校の自称魔王ことジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)が、高らかに笑いながら、同学校の相田 なぶら(あいだ・なぶら)にびしりと指を突き出した。
「なんだ、キミも来てたのかぁ」
 のんびりと言うなぶらにジークフリートが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「その余裕も今日までだ。勇者なぶらよ、俺とどちらが多くの食材を狩れるか勝負だ!!」
「いいよぉ。勇者を目指すものとして、魔王を名乗る者に負けるわけにはいかないからね」
 2人の間に見えない火花が散る。
「では俺は蟹を狩る。女王に朔よ、ともに参るぞ!!」
 ジークフリートの声に応えて、イルミンスール魔法学校の赤羽 美央(あかばね・みお)と蒼空学園の鬼崎 朔(きざき・さく)が彼の後に続いた。
「あ、仲間がいるなんてずるいなぁ」
 なぶらの言葉に、百合園女学院の咲夜 由宇(さくや・ゆう)、イルミンスール魔法学校のルイ・フリード(るい・ふりーど)とそのパートナー達が手伝いを申し出てくれた。
「よし、じゃあ俺達は、パラミタ伊勢エビを退治だね。頑張ろう!」
 ジークフリートに続き、なぶら達までもが海岸に向かった。

「いかん、このままではエビ退治も蟹退治も先を超されてしまうではないか!」
 突然の展開をぼんやり見ていた蒼空学園の九条 亜紀哉(くじょう・あきや)は、その事に気づくと、たまらず彼らの後を追って走り出す。
「確かに。悠長に構えていても食卓にエビも蟹も並ばないな」
 天御柱学院のアステル・ヴァレンシア(あすてる・ばれんしあ)も亜紀哉に続く。それをきっかけに、エビや蟹退治目当ての者達が次々と海岸へ向かい始めた。
 話を続けていたアルツールは、諦めたように大きくため息をついた。
「まったく、落ち着きのない。いいか、全員くれぐれも気をつけて行動するように!」
 アルツールの話が終わるのを合図に、残っていた生徒達も、それぞれの目的に向かって動き出した。