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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

リアクション

「う〜ん、美味しいですぅ♪」
「カキ氷が雪だるま形というのが、なんとも可愛いのぉ」
 コルセスカと結和の作ったカキ氷に、エリザベートたちは大満足していた。
「この、ミニ雪だるまがカキ氷を運んでくるところも、可愛くてたまらないですぅ」
「来年の夏は、ぜひイルミンスールに店を構えてもらいたいぐらいじゃな」
 よちよち歩きでカキ氷を運ぶコルセスカのミニ雪だるまも、人気の一つとなっていた。
「でも――」
 ふと、エリザベートの顔が曇った。
「少しだけ寒くありませんか?」
「うむ……そうじゃな。雪も降って氷像が目の前にあってカキ氷まで食べていれば、流石に寒くなってくるのぉ」
 今日一日、様々な納涼方法で涼しくなってきたエリザベートたちは、もう充分というほどに涼しさを得ていた。
「夜ということもあって、だんだん涼しくなってきましたし、そろそろ納涼大会もお開きですねぇ」
 エリザベートのワガママで始まったイルミンスール大納涼大会も、終わりの時期が近づいてきたようだ。
 
 ――もちろん、彼女のために集まった生徒達から言わせれば……ここからが本番だ。

「おい、エリザベート! こっちへ来るがいい!!」
 突然、カキ氷を頬張っていたエリザベートは、ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)に手を引かれた。
「ちょ……ちょっと、どこに連れて行く気ですかぁ!?」
 あまりに突然なことだったため、エリザベートは軽々と持ち上げられる。ほぼ、拉致に近い状態だ。
「見ろ、エリザベート! お前が涼しくなりたいと言い出すから、魔王であるこの俺はアレを作ったぞ!」
「へ?」
 ジークフリートに連れてこられた屋上の隅には――
「その名も、風雲雪だるま城だ!! 存分に、遊ぶがいい!」
 巨大な氷の城が、そこには建っていた。
 しかも、エリザベートや生徒が遊べるようにと、外壁には氷の滑り台やブランコ、城の頂上付近には氷のジャングルジムまで取り付けられている。
「よく、あんな物を短時間で作れましたねぇ……」
「禁じられた言葉で魔力を増幅し、鬼神力で体を2倍のサイズへ大きくしたからな。まさに、持てる技術を駆使した芸術的作品と言えるな」
「スゴイですねぇ……じゃ、私はもう戻ります」
「待て、どこに行くのだ?」
 うまい具合に話しを反らして、その場から離脱しようと考えていたエリザベートだったが、バッと腕を掴まれてしまう。
「は、離すですぅ! もう、寒いんですぅ! あんな城で遊んだら、凍死しちゃいますぅ!」
「何を言う! 子供は風の子元気の子だと、日本では言うらしいぞ。遊んで寒さを吹き飛ばすんだ!」
「いやぁあああ!? 離してくださいぃい!!」
 遠くでエリザベートが連れ去られりさまを見ていて、アーデルハイトは思った。
「魔王が自分の根城に生け贄をさらっていく姿にソックリじゃ……」

「うぅ……鬼です、悪魔ですぅ。霜焼け寸前ですぅ! 許すまじ、雪だるま王国ですぅ!」
 風雲雪だるま城から、命からがら脱出できたエリザベート。彼女にしてみれば、奇跡の大脱出劇だったのだが、それはまた別のお話し。
「って、何だかさっきよりも外の気温が下がってるような気がしますぅ!? まだ、雪だるま城の方が暖かかったですよぉ!?」
 ファイアプロテクトが効いているはずなのに、いつの間にか吐く息まで白くなっていた。
「一体全体、何がおきたっていうんですかぁ? まさか、氷河期でも来たんじゃ――って、ん?」
 ガタガタと体が震えだしたエリザベートは、ふと何かに気づいた。
「この、懐かしい音色は――」
 チリン……チリンリリン。
「ふ、風鈴じゃないですかぁ!? なんだか、耳の中まで寒いですぅ!」
 風鈴は凍てつく風に揺られて、寒やかな音を鳴らす。
「一体、風鈴を設置したのは誰ですかぁ――って、あ!」
 彼女の視線の先――そこには、読書にふけるレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)と、パートナーのリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)がいた。
「こんばんは、エリザベート校長。何か御用ですか?」
「御用ですか? じゃないですぅ!! いったい、何をやってるんですかぁ!」
 ただ単にレイナが読書に興じているだけなら、エリザベートも無視していただろう。
 だが、レイナにはエリザベートがどうしても無視できない点が一つだけあった。
「どうして、氷術を使って風鈴を揺らしてるんですかぁ!」
「美央さんが雪だるま王国のよさを伝えると張り切っていたので、手伝いをしています」
「手伝わなくていいですぅ! 寒いから、止めてくださぁい!」
 寒さのあまり、怒りの沸点が下がってしまっているエリザベートは、駄々っ子のように地団太を踏む。
「す、すいません……エリザベート様。風鈴は、私がレイナお嬢様のお手伝いをしたくて吊るした物なんです……」
「……大丈夫ですかぁ? 唇が真っ青ですよぉ?」
「すいません……実は寒いのが苦手なんです。でも、レイナお嬢様のお手伝いが出来るなら、たとえ倒れても平気です」
「私が平気じゃないですぅ!」
「……そんなに寒いなら、アチラに行ってみては如何でしょうか? ワタシのパートナーが、コタツを用意していました。一緒に入ってくるといいんじゃないですか?」
「ほ、本当ですかぁ!?」
 レイナが指差す方を見てみると――
「おーい、エリザベート校長! こっち来て一緒に温まろうぜ!」
 レイナから少し離れた場所で、パートナーのウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)がコタツに入って暖を取っていた。
「ありがとうですぅ! 助かりましたぁ!」
 何故か、レイナに感謝するエリザベート。どうやら、寒さで考える力まで凍り付いてきたようだ。
「まぁ、冷やすのは止めませんけど」
「お、鬼ぃ!!」
 結局、レイナの氷術を止められないまま、エリザベートはコタツに向かってまっしぐらするしかなかったのだった。

「お身体は大丈夫ですか、エリザベート師!?」
 ウルフィオナとコタツに入っているエリザベートのもとに、大量の毛布を持った音井 博季(おとい・ひろき)が駆けつけてきた。
「うぅ……寒いですぅ。足元は暖かいけど、背中が寒くて寒くて凍えそうですぅ」
「エリザベート師……かなり弱っていらっしゃいますね。これをお使いください」
 博希は寒さで弱ったエリザベートの肩に、そっと毛布をかける。
「ティセラブレンドティーもお持ちしましたので、どうぞお飲みください」
「ありがとうです……あぁ、温かいですねぇ」
 博希が火術で温めて出してくれたティセラブレンドティーは、エリザベートの体の芯まで温めた。
「なぁなぁ、音井ー」
「ん? どうしました、ウルフィオナさん?」
「ここらへんさみぃし、一緒にコタツにあたろうぜー……」
「そうですね……エリザベート師も心配ですし、せっかくなのでお邪魔させていただきますか」
「ただし。どう考えてもエリザベート校長が寒がるだろうから、ミニ雪だるまは目に付かない場所に置いて来い?」
「う……たしかに、そうですね。和やかで涼しげな雰囲気を出せればと思って、連れてきたのですが、この状況では逆効果ですね」
「あとぉ……ティセラブレンドティーを取り出すときに見えたんですけどぉ、できればスノードームも仕舞って来てくださぁい。見るだけで寒いですぅ……」
「う、うぐっ……わかりました」
 博希は、ミニ雪だるまとスノードームを仕舞い込んだでくると、ウルフィオナのコタツへと入る。
 彼ら三人は、しばらく他愛も無い話しで盛り上がっていたのだが――それも、束の間の平和にすぎなかった。

「ふっ、甘いな校長。そんな所でぬくぬくと温まっていては、涼しくなれないのだよ」
 エリザベートたちから少し離れた位置で、原 萌生(はら・もえにいきる)は何やら巨大な機器を準備し始めていた。
「納涼大会の終了宣言はまだ出せれていない、つまり我々生徒は校長を涼しくさせる義務があるのだよ」
 そう言って不敵な笑みを浮かべた萌生は、準備した機器のスイッチに手をかける。
「校長、クーラーがなければ扇風機を使えばいいのだよ。スイッチオンなのだよ」
 グッと機器の起動スイッチが押し込まれ、萌生の用意した――特性巨大扇風機の羽が、一気に勢い良く回転を始めた。
 そして、扇風機は驚異的な強風を生み出し――
「うわっぷ!? な、何ですかこれぇ!? 吹雪ですぅ!!」
 今までゆっくりと舞い降りていたはずの唯乃が作る人工雪が、萌生の扇風機が生み出す強風に煽られて吹雪と化した。
「な、なんだ!? どうしていきなり吹雪なんだ!?」
「どうなってるのよ、これぇ!?」
 イルミンスールの屋上は、熱帯夜から一転して猛吹雪が吹き荒れる異常気象となった。
「さ、流石にこれはシャレにならないですぅ! 雪だるま王国、は直ちにこの吹雪を止めるですぅ!!」
 最早、コタツや火術だけではどうすることもできない状況に、エリザベートはガタガタ震えているしかなかった。
 と、そこへ――
「これこれ、皆の衆! 実質気温を下げることばかりに気を取られてはいけませんよ!」
 何やら、またまた厄介そうな雪だるま王国の一員――クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が現れた。
「や、やめるですぅ!! これ以上この場所が冷えたら、寒さで死んじゃいますぅ!」
 本気で雪だるま王国の人間を拒否し始めたエリザベート。
 だが、彼女の願いもむなしく……クロセルは、一気にコタツの板上に駆け上がった。
「氷術や氷菓子で気温や体温を下げてしまうのが、納涼を得るために最も手っ取り早いのは確かですが、冷やし過ぎは身体に悪いのです」
「そうですぅ! だから、もう本っっ当に納涼はいらないんですぅ!」
「もっと、こう……風鈴みたいな体感温度を下げる工夫があって然るべきです!」
「話を聞いてくださぁい! お願いしますですぅ!!」
 泣き喚くエリザベートなど、まるで眼中に入っていないかのように、クロセルの暴走は加速していく。
「今こそ! この雪だるま王国騎士団長が、もっとスマート&クールな納涼方法があることを教えて差し上げましょう! どんなに暑くても、鳥肌が立つぐらい涼しくなる方法があるのです!!」
 とんでもない自信に満ち溢れたクロセルは、スッとメガホンを取り出すと――
「校長先生が、ゼッコーチョー!!」
 氷術よりも何よりも恐ろしい最凶の納涼魔法――DAJAREを大声で唱え始めた。
「コンドルが趣味にのめりコンドル! 朝食食べれず 超ショック! モノレールにも乗れーる!!」
 容赦のない連続攻撃に、エリザベートの体力はだんだんと削られていき――
「も、もうダメ……寒すぎますぅ……」
 ついに、エリザベートの意識は途絶えた。

「う、う〜ん……なんですかぁ?」
 誰かに揺り起こされる感覚がして、エリザベートは目覚めた。
「ここはぁ、屋上です……よねぇ?」
 キョロキョロと辺りを見渡してみた限りでは、さっきの極寒状態と何ら変化はない。
 だが、一つだけ。一つだけ、エリザベートは大きな変化が訪れていることに気づいていた。
 それは――
「こ、これは……夢じゃないんですよねぇ? 死んでましたとかいうオチじゃないんですよねぇ!? 吹雪も相変わらず冷たいから、現実なんですよねぇ? だったら……だったら、どうしてコタツに鍋焼きウドンと、肉まんが乗ってるんですかぁ!?」
 知らぬ間に、コタツの上には熱々の鍋焼きウドンとホカホカの肉まんが用意されていた。
「と、とにかく……食べてみて、本物かどうか確かめるでしゅ!」
 もはや、語尾はヨダレで赤ちゃん言葉になるほど、エリザベートは目の前の食材に興奮して飛び掛った。
 ところが――
「おっと、これはボクたちが用意したものだから、勝手に食べてもらっちゃ困るなぁ?」
 エリザベートの飛び掛った鍋焼きウドンと肉まんは、吹雪の中から現れたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)によって奪われてしまった。
「な、何をするんですかぁ!?」
「何って……これはボクたちが作ったものだよね、ジュレ」
「そうだな、これは間違いなく我等が手間暇かけて作ったものだ」
 実は、この二人――エリザベートをいじめるため、わざわざカセットコンロから何からまで用意して、料理を作ったのだ。
「納涼を求める校長は、そこで涼しくなっているとイイと思うよ?」
「そうだな、涼しくしなければ留年になってしまうのならば、温かくするなど出来ようはずもないな」
「お……鬼ですぅ……」
 ガタガタと寒さに震えるエリザベートを目の前に、カレンはひたすら鍋焼きウドンをすすり続けた。でなけれな、顔がニヤついてニヤついて大変なことになってしまいそうだったからだ。
「うぅ……寒いですぅ……ひもじいですぅ……」
 目の前に温かい食べ物があるのに食べれないという残酷な現状に、再びエリザベートの意識が遠のき始めた。
「エリザベート校長! お気を確かに持ってください!」
 薄れ行く意識の中で、美央が駆け寄ってくるのが見える。
「こうなってしまった以上、もう仕方がありません。ここは雪だるまにお祈りして、寒さに対する耐性を上げてもらいましょう」
「こここ……こんな寒いときに祈ってる暇なんか、なななな無いですぅ……は……早く、暴走してる……一員を止めないと……凍結しちゃいま、すよぉ……」
「……というか、もう凍結しちゃいます……ね……目の前……が……真っ白で、す……」
 最早、巨大扇風機が巻き起こす吹雪は、女王である美央にすら止められないようだ。
 そしてとうとう――
「うぅ……私が、ワガママを……言ったせいで……こうなったんでしょうかぁ……? か、神様……ご、ごめんなさい……ですぅ」
 エリザベートは、神に贖罪すると同時に、寒さに耐えかねて意識を失ってしまうのだった。