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リアクション
第17章 アンチ・ヴァンガード「クイーン・ヴァンガードとは何なのか?」
「それでは最後の紹介です。
プログラムNO.15、『アンチ・ヴァンガード』」
画面の隅に、「協力:蒼空学園歌劇団俳優会」の表示。
とあるオフィスビルの廊下で、ふたりの女子がすれ違った。ひとりはクィーン・ヴァンガードの制服を着て、もうひとりは私服で片手に大きめのバッグを下げていた。
「先輩」
と、制服を着ていた方のサンドラ・キャッツアイが、振り返った。
「? 何かしら?」
そう言って足を止めるのは、私服を着ているリカイン・フェルマータ。
「辞められるのですか?」
サンドラの問いに、「ええ」とリカインは頷いた。
「自分なりに、落ち着いて考えてみたくなったの。クイーン・ヴァンガードって何だったのか、これから何をすべきなのか、って」
「それなら、中にいたままでも十分できる事ではありませんか?」
「私にはできなかったわ。相変わらずパラミタは落ち着かなくて、毎日の仕事は相変わらず目の回るような忙しさ。
で、ふっ、と思いついたのよ、『クイーン・ヴァンガードって何なんだろう』って」
リカインは苦笑した。
「そしたら、その問いかけが、ずっと頭の中でぐるぐる回って、止まらなくなった。これじゃもう、任務は果たせないでしょ?」
「疲れただけですよ。しばらく休養されれば」
「否定はしない。けど、休養期間中に、問いに答えが出るとは限らない――さんざん悩んだけどね」
「……私にクイーン・ヴァンガードとしての振る舞いを教えてくれたのはあなたです。あなたがいなくなったら、私はどうすればいいのですか?」
「どうもしないわ。
あなたは胸を張ればいいの。クイーン・ヴァンガードとして、これからも在り続けなさい」
わずかに俯くサンドラ。
「……先輩はそう在る事ができなくなったんですよね?
そうですよね。ロイヤルガードが組織された今、クイーン・ヴァンガードは実質上解体されて、存在意義なんて……」
「私は今でも信じたいのよ。今のパラミタに、クイーン・ヴァンガードはまだまだ必要な組織だ、って。
外からここを見る事で、答えを私は探してみたいの。『クィーン・ヴァンガードとは、何なのか』。それを見つけるまでは、私はきっと前には進めない」
「……私が止めても、無駄でしょうね」
「誰かに相談すべきだったかしらね――それだけは反省するわ」
嘆息の後、リカインが挙手敬礼をした。
「どうか、元気で」
「お世話になりました」
サンドラも敬礼を返す。
リカインが先に敬礼を解いた。そうしてから、サンドラも敬礼を解く。
やがて、既にクィーン・ヴァンガードでなくなったリカインは、サンドラに背を向けて歩き出した。
しばらくその後ろ姿を見送っていたサンドラも、リカインに背を向けて任務に戻った。
文字が被さる。
「クィーン・ヴァンガードとは、何なのか。それを考えて、話し合ってみませんか。
アンチ・ヴァンガード >検索」
「補足をしておきます」
PV終了後、司会が口を開いた。
「本PVの意図は、殊更に『クィーン・ヴァンガード』を批判したり糾弾したりするものではありません。
コミュニティに『アンチ』という文言が入ってはいますが、本PVは『クィーン・ヴァンガード』という組織について客観的に考えてみよう、と呼びかける事を意図して制作された映像であります」
が、そのフォローにも関わらず、館内には何やら微妙な空気が流れていた。
観客席の中には、「クィーン・ヴァンガード」に所属している者も少なからずいた。自分の入っている組織がこんな形で取り上げられて、いい気持ちのする者はそういないだろう。
同時に、映研の人間は、依頼されてこの映像を作っただけなのであって、食ってかかるのも筋違いだというのも分かっているのだ。文句を言うとしたら、依頼主であろう「アンチ・ヴァンガード」というコミュニティ、そしてその代表者であろう。
そして観客席の片隅で、秘密結社「アンチ・ヴァンガード」の発起人兼代表者兼たったひとりの構成員である青島 兎(あおしま・うさぎ)は、少しばかりビビっていた。
(う〜。まさかこんな妙なPVになるなんて〜)
正直、もっとおバカで色々笑える内容になる、と思っていたのだが。
さらに、いきなりマイクを差し出されてコメントを求められたりしたら――考えて、彼女は少し血の気が引いた。
だが。
司会のマイクは向けられる事はなく、「映研」副会長による「閉会のあいさつ」が始まった。