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第16章 冒険屋ギルド「自然と共に」「激闘の雲海」「あなたは冒険」



 促されて講堂を出て裏庭に出たレンの眼前では、三つどもえの激戦が繰り広げられていた。
「動物たちと語らうファンタジーの価値がどうして分からないのですか!? 今求められているのは心を豊かにする夢なのですよ!」
「ヌルイ事を! 血湧き肉躍る戦いこそが、人の心を奮い立たせるんだ!」
「分かってない、みんな分かってない! 人目を引くのはいつだってアイドルなのよ! 秋葉原四十八星華の私のPVが、今時の人達に一番マッチするんだってば!」
 そう議論しながらミサイルをぶちまけ、得物を振るい、魔法をぶっ放し合っているのは、
「あのぅ……冒険屋ギルドのお知り合い、ですよね?」
「ええ、そうです」
 レン・オズワルドのパートナー、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)の三人である。
「フン、何が動物との触れ合いだ、何が歌とパフォーマンスだ! そんなモノに引かれて来る奴らなんざ、冒険屋にはお呼びじゃないぜ!」
 メティスのぶちまけたミサイルが、ザミエルの「ヒロイックアサルト」で全てたたき落とされる。流れ弾が講堂に穴を開けなかったのは、こういう事情があったようだ。
「つまらん甘さは命取りになる! 勝手に死ぬのは構わんが、ウチで死なれるのは迷惑なんだよ!」
「殺伐とした心では、冒険はただの盗掘、血も涙もない効率と欲得ずくのハック&スラッシュでしかありません! 夢を持った優しい心の持ち主だけが、真の冒険者たり得るのです!」
「みんな、私の歌を聴くべきなのよ! 全てはそこから始まるの、これは絶対譲れない! 」
 ノアが「光る箒」で空間を自在に飛び交い、得物である「忘却の槍」を縦横無尽に振るう。
「すみませんけど……何とかしてくれませんか? さっき、学校側からクレームつけられまして、このままだと鑑賞会が……」
「分かった。ちょっと待ってて下さい」
 レンは、近くの水場からホースを引き、先端を三人に向けると、蛇口を全開にして容赦なく水をぶっかけた。
「きゃああっ!」
「ぐあぁっ! 一体どこのどいつが……! あ」
「ひどぉい、ビショビショだよぉ……って、レン?」
「ちったぁ頭冷えたようだな」
 レンは水道を止めた。
「そーかそーか。お前等三人別々なPV作ったんだな? じゃあそいつをさっさと一度に流そうじゃないか……映研さん、できますよね?」
「……えぇ、もちろん」
「……そういうことだ。さ、ビデオ寄越せ」
「ちょ、ちょっとまって下さい! いくら何でも3本一度に流すなんて!」
「そうだぞ、レン! いくらお前でも横暴が過ぎるってもんだぜ!?」
「私の歌が台無しに……!」
「黙れてめぇら!」
 レンは一喝した。
「てめぇらのやんちゃのせいで、皆さんにどんな迷惑がかかりそうになったか分からねぇのか!? 十数える間待ってやる、その間にビデオ寄越さなきゃ、上映は中止だ!」
「……分かりました」
「……仕方ないな、それなら決着は十秒以内に……」
「ちょっと待ってて、5秒もかからないから」
(ダメだこいつら。分かってねぇ)
「あー、映研さん。すみませんけど冒険屋ギルドPVの上映、都合によりキャンセルって事で……」
「わーっ! お願い、私の歌だけでもーっ! っていうか私の歌だけで十二分っていうかー!」
「ノア貴様! 抜け駆けは許さん!」
「待って下さい、レン! 冒険屋ギルドの上映の順番は一番最後にしてあったはず……」
「やかましいっ! 四の五の言わずにとっとと出せっ!」

 その後、プログラムの順序が変更され、メティス、ザミエル、ノア、確認の制作したPVが、スクリーンに同時に上映された。
 結果、三分割された画面のそれぞれに、全く違う内容の映像が映る事となった。
 メティスの作った、パラミタの動物たちが空京の冒険屋に「僕の自然を守って!」と助けを求める映像。
 ザミエルの作った、ウェーバーの「魔弾の射手」をBGMにした空峡での対空賊戦の映像。
 ノアが、冒険屋ギルドのオリジナルテーマ曲を歌って踊る映像。
 右上で「人は自然と調和しなければ」と語る隣で、左上の画面では情け無用のドッグファイトが繰り広げられ、それらの下では所属不明な制服を着た女の子が「あなたといると 胸が Doki Doki いつでもどこでも 冒険活劇」などと歌っていた。
「何だよこのカオス!」
「わけわかんねぇっ!」
 失笑とブーイングが客席に渦巻く。
「……事前にお話しておけば、PV上映の時間は、多少長くてもきちんと時間確保して貰えたみたいですね。何て無益な争いだったんでしょう」
 観客席についたメティスは溜息をついた。
「……お前事前に『根回し』してたんじゃなかったのかよ?」
 ザミエルが横目でメティスを睨む。
「私の歌が……」
 ノアが頭を横に振った。
 会話を横で聞いていたレンは「黙れ」と切り捨てた。
「どうせ誰のPVを最初に流すかって事でまた揉めるに決まってるだろ、お前ら」
 返事がない。どうやら否定できなかったようだ。
 ……鑑賞会ではこんな形になってしまったが、どの映像も特に公序良俗に反している様子はない。学内のネットなりTVなりで流す分には問題はなさそうだった。
(――いや)
 レンは思い直した。
(流す前に、こいつら連れてあちこちに謝りにいかないとなぁ)
 流されるPVを見ながら、レンは頭を下げる相手やその順番を考え始めた。