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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!
伝説の焼きそばパンをゲットせよ! 伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

リアクション

 自ら獲得競争に乗り出した者もいれば、偶然それに居合わせた者もいた。


「なーんか、うるせーなぁ。せっかく暖かくなって、気分良く昼寝してたのによぉ」
 夜月 鴉(やづき・からす)は、体を起こすとぼさぼさの黒髪をかき上げた。腹の減り具合に「もう昼か」と思いつつ食堂に向かう。その途中で、購買部の喧騒に気がついた。眠そうな顔で目をこらすと、100人以上の生徒達がもみ合っている。
「ねぇ君、この騒ぎ、なんなのですか?」
「あ?」
 男に話しかけられたかと思って振り返った鴉は、明るい茶色の髪をした生徒がこっちを見ているのに気付いた。
『女? いや……男?』
 顔と胸とを交互に見つつ、購買部に視線を戻す。 
「ああ、伝説の焼きそばパンだ」
 パートナーの魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)ユフィンリー・ディズ・ヴェルデ(ゆふぃんりー・でぃずう゛ぇるで)が、目を輝かせながら話をしていたのを思い出した。
「デンセツノヤキソバパン?」
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)校長にCDを借りる目的で、蒼空学園を訪れていた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、購買部の混乱を見つめるばかりだった。しかしどうやら「デンセツノヤキソバパン」が原因らしいことはわかった。
「デンセツってのは、伝説だよね。ヤキソバパンって何だろ、焼きそば? 山羊蕎麦? 山羊傍パーン! 山羊が傍でパーンって爆ぜたら……いや食べ物だから、食べ物、ガンバレ、私の思考能力」
 悩めば悩むほど、小躍りする山羊が頭に浮かんでくる。
「まいったなー、山羊しか浮かばなくなってきたよ。いいや、買ってみれば分かるだろ」
 終夏はスキル風の鎧を発動させ、周囲の喧騒や騒動から身を守りつつ、混乱の中を進んでいった。
「たかだか、パンごときに……」
 後ろ姿を見送りつつそう思ったものの、ユフィがあまりにも夢中になっていたのを思い出す。
「伝説ねぇ、行ってみるか」
 夜月 鴉(やづき・からす)もスキルトレジャーセンスを発動させると、購買部前の混乱に身を投じた。

「いやー、楽勝、楽勝」
 剣道の試合を終えた瑞江 響(みずえ・ひびき)は、応援についてきたリア・レオニス(りあ・れおにす)と、のんびり中庭を歩いていた。
「結構、接戦だったように見えたぜ」
 リアが軽口を叩くと、響は顔の前で人差し指を振る。
「わかるだろ。紙一重で勝つのが、達人の証拠なのさ」
「さっぱりわかんねぇ」とリアが笑うと、2人の目の前を何人もの生徒が走っていく。
「おい、危ないだろ」
 しかし誰も振り向くことなく、走り去っていった。改めて2人が見回せば、あちこちで生徒が走っている。
「何があるんだ?」
「さぁ」
 興味津々で追っかける。すぐに目的地が購買部だと分かった。
「蒼学ってのは、そんなに飢えてんのか」
 リアは、呆れた様子で集団を眺めている。
「時間も時間だしな。俺も腹が減った」
 響がお腹をさすると、「任せとけ、ここの学食で好きなのをご馳走してやる」とリアがウインクした。その時、2人のはるか頭上から声が降ってきた。
「キャー! どいて、どいてーっ!」
 2人が顔を上げると、青いリボンを揺らした女の子──秋月 葵(あきづき・あおい)が、すごい勢いで飛び降りてくるところだった。
 ぶつかる! と葵が目をつむった瞬間、リアと響は軽く体をかわして、葵を両側から支えた。
「あら?」
 衝撃がないのを不思議に思った葵がこわごわ目を開けると、響とリアが頭の上から覗き込んでいた。
「大丈夫か? オチビちゃん」
 ゆっくり地面に下ろすと、響が葵の服についた埃を払う。
「ありがと。でもレディに向かって、オチビちゃんは失礼よね」
 響とリアは、同時に噴き出した。
「俺の辞書には、レディの項目をどう読んでも空から落っこちてくるとは書いてないなぁ」
 響にリアも合わせる。
「レディってんなら、もうちょっと出るトコ出て、引っ込むトコ引っ込んでないとな」
 痛いところを2つも突かれた葵は、頬を膨らませてそっぽを向いた。
「そんなこと言うあなた達だって、紳士とは程遠いじゃないの! ともかくありがと。じゃ、急ぐから」
 購買部に走ろうとする葵を、響が引き止めた。
「そんなにちっこいのに、あんな混雑してるのに突っ込むのは無茶だろ。こいつがご馳走してくれるって言うから、学食に行こうぜ」
 リアは「おいおい」と思ったものの、女の子1人くらいならとうなずいた。
「それは嬉しいけど、今日はあっちが良いの。早くしないと売り切れちゃうから、離してちょうだい」
 響とリアは顔を見合わせる。
「なぁ、オチビちゃん、何がそんなに人気なんだ?」
 葵は2人が全く状況を理解していないのに気付いた。
「教えてあげても良いけど、それなりに聞き方ってものがあるんじゃない?」
 リアは肩をすくめて、深く一礼した
「青いリボンの似合う素敵なレディ、あの騒ぎの原因を、どうかお教えください」
 葵は「よかろう」とばかりにニンマリ笑う。
「伝説の焼きそばパンが50個限定で売ってるの。早く行かないと売り切れちゃうから、じゃあねー」
 それだけ言って、混雑に飛び込んでいった。
「リア、聞いたことあるか?」
「確かどっかの駄菓子屋ですっげぇ人気なんだとか」
 2人は同時にうなずくと、すぐさま人垣へ飛び込んでいった。瑞江 響(みずえ・ひびき)は、スキル博学を発動させ、人の流れや動きを計算した。
「リア、右斜め45度、空いてるぞ!」
「了解!」

 伝説の焼きそばパンの噂を聞いて購買部を訪れた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、あまりの人だかりに唖然とした。
「一度は食べてみたかったのですが、今回は諦めましょう」
 パートナーのフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)を促して、その場を離れようとした。
 ふと思いついて携帯電話を取り出すと、購買部の喧騒にカメラを向けて10数枚シャッターを押した。
「せっかくですから、駄菓子屋に行ってみましょうか。そちらでも焼きそばパンを買うのは無理でしょうけど、もんじゃ焼きも美味しいそうです」
 駄菓子屋と聞いて、フィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)の目が輝いた。