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第3章  買い出し♪


「美緒おねえちゃんやラナおねえちゃんはどんなスイーツがスキかな〜。
 みんなはなにをたべたりしたいのかな〜ボクはやっぱり、あま〜いケーキに紅茶です〜♪」
「私、唐揚げ食べたいです。
 照り焼きでもしょうが焼きでもいいですけど」
「肉を食いたい?
 紅茶とかに唐揚げって変じゃないか?」

 ケーキ屋さんの硝子の前で、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は立ち止まる。
 視線を余所に、アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)はがっつりタンパク質を要求。
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が、ごもっともなツッコミをかました。

「俺は果物メインにしようかな。
 ブトウにキウイにナシ、リンゴ、バナナ。
 つけあわせにクラッカー」
「おぉ〜それならボクのスイーツにも繋がります〜♪」
「飲み物はダージリンとアッサム、アールグレイとコーヒーにジュース各種で。
 コーヒーは面倒だから高めのドリップで、紅茶は茶葉にしよう。
 ミルクと砂糖もいるか」
「みんながスキなスイーツをよういして、みんなによろこんでもらいたいですね」

 スレヴィの言葉に嬉しくなり、にこにこ笑顔のヴァーナー。
 甘いものを欲している者同士、仲よくなれたみたい。

「任せたぞ!」
「なんで私がこんなに大量の荷物を持つんですかー!?
 スレヴィさん手ぶらってずるくないですか!?」
「俺はほら、アレだ。
 城に着いてお化けが襲ってきたときのために、身軽にしておかないと」
「でも、退治組の人がいますし……そんなこと言って楽をする口実じゃ?」
「なにかあったら守ってやるから安心して運べよ。
 がんばれ!」
「……いまいち納得できませんが、そういうことにしておきます。
 どうしても騙されてる気がするんですよねぇ」

 買ったものを、どんどんアレフティナへとスライドさせていくスレヴィ。
 こりゃまぁ確信犯だな。

「つまみ食いとかしたら、怒る?」
「怒るにきまってるでしょう!?」
(ちょっと多めには買い込みましたが、そんな簡単に渡すわけにはいきません)
「相変わらずの食いしん坊さんですね」
「みなさんがお待ちですのに、まったく……」
「ふぃーちゃんもしーちゃんもくーちゃんも……けち〜っ!」

 お店を出たその瞬間から、『つまみ食い』とか言い出しちゃってる天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)
 経験からして分かってはいるものの、パートナー達は許さない。
 まずは、フィアリス・ネスター(ふぃありす・ねすたー)がすごい剣幕できっぱりとお断り。
 すると荷物をささっと、次原 志緒(つぐはら・しお)クラウディア・テバルディ(くらうでぃあ・てばるでぃ)が隠す。
 皆の連携プレーで、しばらくは時間稼ぎ。
 このまま無事に城へ到着できるとよいのだが、どうなることやら。。。

「古いお城の花園でお茶会かぁ。
 いいお茶会になるように、準備をしっかりしなきゃねー」
「お茶会に必要そうなものといえば……お茶と茶菓子はもちろんですわね。
 あと、ティーカップやテーブルクロスなども購入しましょうか。
 放置されていた古城ですから、テーブルクロスなどもボロボロでしょう」
「だったら、テーブルとか椅子も用意していったほうがいいかも。
 ピクニックみたいにじかに座るのもいいけど、お花を下敷きにするのはあんまりよくないと思うんだ」
「そうですわね」
「椅子とかテーブルの色も、花の色に合うように考えた方がいいよね」
「華やかな場所に合うものを選びましょう」

 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、ともに商店街を歩いていた。
 買うものやその色彩まで、ウィンドウショッピングをしながらご相談。
 話の内容は、次第に小夜子の恋愛にまで発展していった。

(なんというか、こんなときまで調べようとするのは職業病に近いな、これ)

 自身にあきれて、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は軽く溜息。
 ただ、それが自分なのだと思い返すと、携帯電話を開いた。

(城のこと、大学のスパコンで調べてみるか……以前の所有者のことや、棄てられた理由。
 それに、所有者がそのあとどうなったのか、とかね)

 そうは言っても、買い出しの任務をおろそかにするつもりはない正悟。
 荷物持ちを引きうけているため、開いているのは片手だけ。
 上手い具合に接続すると、情報の検索を始めた。
 
「予算は限られていますが、工夫次第で絢爛豪華なお茶会にすることができます。
 無駄なく、最適かつ最上級のお茶会を演出します!」

 こう述べて、ローデリヒ・エーヴェルブルグ(ろーでりひ・えーう゛ぇるぶるぐ)は買い物リストを差し出す。

「なるほど、茶器はリサイクル品を買うのですね」
「古いデザインや売れ残りの在庫品のなかには、骨董的に価値が高いレア物が破格の安値で売られていることもありますから」
「茶葉やお菓子などは……問屋?」
「問屋や製造所から直接大量購入した方が、高級茶葉でも安く購入できます。
 お菓子については、自作という方法もありますけどね。
 紅茶にはスコーン、コーヒーにはシュトゥルーデルでしょうか」
「あと最後のピアノレンタルって……あの?」
「えぇ、せっかくの親睦会ですし、優雅な音楽もあると素敵ではありませんか?
 ピアノか、無理なら蓄音機など欲しいですよね」
「弾き手はどなたが?」
「もちろん、ピアノでしたら私がみなさんに披露します」
「は〜い!
 私が荷物をお持ちします」
「それは助かります。
 ヒルデガルドでしたら、グランドピアノでも軽々運べますものね」

 ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)の質問に、自信満々で答えるローデリヒ。
 頭のなかでは、楽しいお茶会のイメージができあがっているようだ。
 そしてこの豪華の前提には、ヒルデガルドの怪力がある。

(さすがは貴族だけあります。
 普段は倹約家ですが、客をもてなすときや娯楽には惜しげもなく予算を注ぎ込んで、絢爛豪華にふるまうのですよね。
 もはやこれは、貴族の嗜みというよりローデリヒのポリシーなのでしょう)

 ローデリヒのことを分析して、1人納得する幸祐であった。

「あっ……あのさ、ラナくん?」
「はい、なんでしょうか?」
「ずばりラナくんは、ウェルチくんのことをどう想っているんだ?」
「えっ!?」

 あらかたの買い物を終え、古城への帰路をたどるクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)
 隣を歩くラナ・リゼット(らな・りぜっと)に、意を決して話しかけた。
 いわゆる、コイバナというヤツである。

「きゅ、急にそんなことを訊かれましても……」
「クリストファーさんったら、ホントにずばりすぎるよね。
 そりゃ困るって……」

 困惑するラナを、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)がかばった。
 しかしながら、ラナの恋路が気になるのは、クリストファーに同じくで。

「クリストファーさんもボクも、声楽を修める者としてラナさんを尊敬しているんだ。
 それに、ウェルチは大切な後輩。
 大好きな2人だからこそ、悩んでいないか心配なんだよね」
「あっ、あぁ、クリスティーの言うとおりだ!」
(正直、フェンリルと美緒はお似合いだと思うんだよな。
 けど互いのパートナー間に確執があるようだと、2人とも遠慮するんじゃないか?
 もしかすると、ラナがウェルチのことを怨んでいても、おかしくはないからな……)
「そう、なんですね。
 ありがとうございます」

 クリスティーのフォローを受け、クリストファーもぶんぶんと頭を縦に振る。
 安心に似た気持ちを覚え、ラナはゆっくりと、口を開いた。
 曰く、かけがえのない友人であると。

「美緒とフェンリルは理想の恋人同士に見えるね。
 ウェルチはキミの大切なモノをすべて奪ったんだから、キミも奪ってみたくないの?」
「なっ……」

 ラナの応えに満足できなかったブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が、ラナにけしかけた。
 そんな生ぬるい台詞は、求めていない。

「そう……考えたことも、過去にはありました。
 ですが美緒に逢い、私は変わったのです。
 そして、ウェルチに逢わなければ、美緒との関係もありえませんでした。
 いまではすべて、よい経験だと思っています」
「ふぅん……」
(真実みたい……ちょっとつまんないの)

 ブルタの【嘘感知】は、うんともすんとも鳴らなかった。
 ラナとウェルチが争うことはなさそうだと、浅からぬがっかりするブルタであった。