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第2章  古城を綺麗に☆


「さあ、お片づけの時間です!」

 デッキブラシを手に、高務 野々(たかつかさ・のの)は城へと足を踏み入れた。
 フリフリのメイド服に身を包み、気合い充分。

「ピッカピカにして差しあげましょう!
 人の手を離れて幾年月……徹底的に掃除し尽くして、かつての城の姿をとり戻したいのです」
「うん、お茶会ができるよう、綺麗にしようねぇ」
 けど古城は広いみたいだから、手分けして掃除した方がいいだろうね」

 掃除班は、排除班が城の1階部分を制圧するのを待っていたのだ。
 野々に続いて、清泉 北都(いずみ・ほくと)も城の掃除にとりかかる。

「まずは花園へいたる通路と、お茶会の準備ができる部屋を優先して掃除しようか。
 全部できるか分からないからねぇ」

 箒の柄の先を布で包むと、高所にある蜘蛛の巣をなぞる様にしてとり払う。
 さらに濡らしたモップで、床の汚れを磨いていった。

「あれ?
 そういえば、ソーマはどこに行ったんだろう?」

 気づいた北都だが、すでにパートナーの姿はなく。。。

「古城でお茶会と聞いたから参加したってのに……なんで掃除を選ぶんだよ。
 ま、執事意識が染みついた北都らしくはあるが……」

 独り、誰よりも先を歩くソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)
 ふと気づいて見まわせば、北都どころか、動くモノはなにもない。

「ちっ、また北都のやつ、迷子になったのか?
 まぁいいか……城の構造なんて、だいたい似たようなものだろ。
 お茶会は花園でやるって分かってるんだから、そっちに向かえばいいよな」

 目指す方向を定めて、さらに奥へと突き進む。
 自分が迷子だとは、絶対に認めないソーマである。

「うわー、あっというまにほこりの山ができんぞ……」
「おや、雑巾がもう真っ黒です。
 どれだけ放置されていたのやら……でも、掃除のやり甲斐もありますね。
 がんばりましょう」
「るんるんる〜ん、楽しみだよね〜」

 箒をひとはきすれば、もわっとほこりに包まれるヤジロ アイリ(やじろ・あいり)
 セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)は高い身長を活かし、本棚やたんすの上へと雑巾を走らせる。
 部屋の入り口では、レト・チョコラッタ(れと・ちょこらった)が笑顔でちりとりを構えていた。

「あなたがたのお茶も用意しますから、がんばってくださいね」

 『小人の小鞄』から出てきた小人に、隙間の掃除をお願いするセス。
 キリッとかっこよく決めて、さらに掃除を続ける。

「ごみ袋、もういっぱいだよ〜」
「綺麗になるのが眼に見えて判るから、気持ちがいいな!
 この調子でどんどん掃除しようぜ!」
「えぇ、私の背は無駄に高いので頼っていただきたいところですね」

 ヤジロの持つ袋へ、集めたごみを捨てるレト。
 対照的に綺麗になった部屋を見て、3人とも嬉しくなる。
 窓と扉を全開に固定して、隣の部屋へと移動した。

「疲れたあとにいちいちツァンダまで帰るのもやだし、汚ねぇベッドで寝るのもいやだ。
 古城ってくらいだから、デカい洗濯室みたいのがあるんじゃねえかな?
 そこに使えそうなシーツやら枕があったら、洗濯して寝るときに使えばいいんじゃねえの?」

 という瀬島 壮太(せじま・そうた)の予想はあたり、1階西方に洗濯室を発見した。
 部屋から繋がる庭へと、寝具を持ち出す。

「ふぅ……やっぱり洗濯機なんてねえよな。
 一枚一枚手でやってたらキリねえし。
 たらいと石けん、持ってきといて正解だったぜ」
「それなら、一度に何枚も綺麗になりそうだよね」
「んじゃあミミ、任せた」
「は〜い!」

 たらいに水を張り、石けんを溶かしたミミ・マリー(みみ・まりー)
 壮太と両端を持ち拡げ、ほこりを払ったシーツを、たらいに投入する。
 靴も靴下も脱ぎ捨てて、メイド服の裾を上げてお洗濯だ。

「あとは日当たりがいい場所に干せばオッケーだな」
「お、あそこの生垣なんてどうかな?
 広げて干せば早く乾くかもね!」

 脱水まで終わったシーツを、おひなたに拡げる壮太。
 わきにはすでに、使えそうな枕が干してある。
 茶会参加者全員に足りるよう、ミミと壮太はどんどんとシーツを洗い進めた。

「健康にかかわるので、カビを落としていきましょう」
「メイドとしての腕の見せどころ、掃除のしがいもありますわ!」
(もしかすると、これがラナさんの狙いですかね。
 力仕事は薔薇学の学生さんたちにお任せするとして、私達はお掃除。
 互いに長所を活かしながら力を合わせられる、親睦会の趣旨にはピッタリですわ)

 お台所へ移動して、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)はすべての窓を開けていく。
 そのあいだに、マスクとビニール手袋を装着して、イルマ・レスト(いるま・れすと)も準備万端。

「カビ退治には、やっぱりカビオチールですわね!
 この地球文明の偉大な発明をシュシュっとすれば、どんなカビも怖くありませんわ!」

 勝ち誇ったように構えるイルマは、部屋の奥からスプレーをする。
 だんだんと入り口に近づいてくれば、聞こえてくるのは千歳のつぶやき。

「相当長い期間放置されていたようだが……いや、ちょっと待てよ。
 説明だと、前の所有者リールエルが嫁いでしまって荒廃したんだよな。
 ということは、城の所有権はまだその女性か子孫が保有しているんじゃないのか?
 勝手に立ち入って利用すると、不法占拠になってしまう。
 秋霜烈日、法の番人たるジャスティアの私が、法を犯すわけには……それに。
 城内の荒廃ぶりとは対照的な花園の綺麗さ、人の手が入っているように見える。
 つまり管理人を置いている可能性が……でも、そんな権利関係で問題があるような物件ならラズィーヤさんが使用を許可しないよな」
「千歳、さっきからなにをブツブツ言っているのです?
 少しは手伝ってくださいな。
 家事が苦手なのは分かってますけど、寮の部屋じゃないのですから。
 私一人では手に余りますよ」

 現実に引き戻された千歳は、疑問を頭に残しつつも、イルマを手伝うのであった。

「さぁて、まずはざっくりと片づけからいくわよー」

 掃除班は、いよいよ2階へと進出。
 会議室らしき部屋へと踏み入ったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、ぶんぶんと腕をまわす。

「この本棚、だめでしょ。
 壺も割れてるし、ごみだわ」
「ちょ、セレンフィリティ!?
 なんでもかんでもこっちに持ってこないでちょうだい!」

 入り口近くの一画に、できあがるごみの山。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が文句を言いたくなる気持ちも、よく分かる。

「はぁ……もういいわ。
 捨てられるものはごみ袋に入れて、粗大ごみは……この部屋に置いておけばいいかしら。
 お茶会のあいだは来ないわよね」
「そんな溜息なんてつかないでよ。
 終わりよければすべてよし、でしょ!」

 掃除を終えると、セレアナは粗大ごみにブルーシートをかぶせた。
 見栄えの悪いものをしまい、お茶会を楽しむために。
 たいするセレンフィリティは、最後まで楽観的だった。