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第二章 追跡・接触・大混戦
「良い子を悲しませない為にも頑張って全部配りましょう!」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)と共に、プレゼント配りを担当していた。
「以前にもサンタのプレゼント配りの手伝いをした事があるから、要領は何となく分かっているわ……チェルシー」
「はい。あっ、そこを右方向ですわ」
 携帯越し、チェルシーからのナビを受けた理沙とカイルは、効率良く配達していた。
 とはいえ件数は多い。
 襲撃者なる存在が確認されているから、余計に気は抜けない。
「人助けになるのなら手伝うが……襲撃者が子供とはな」
 カイルの口元に浮かんだのは、苦い笑み。
 クリスマスプレゼントを自分たちも欲しかった、という気持ちは分からなくもない。
 だが。
「だからと言って、自分たち以外の子たちを悲しませるような事をしていい訳ではないからな」
 そう思った時、カイルは気付いた。
「あれがそうじゃないか?」
 眼下、街並みをぬうように疾走する、薄汚れた格好の小さな影達。
「う〜、気になるけど」
「連中、空に攻撃する術はないようだな。彼らは他の者に任せて、俺達は先を急ごう」
「子供達が待ってるしね……チェルシー」
「はい。他の方たちに襲撃者について情報を回しますね」
 少しだけ後ろ髪を引かれつつ、プレゼントを待つ子供達の元へと急ぐ理沙とカイル。
 接触しないに越した事はないのだ。
 そして。
メリークリスマス
 ベッドにすやすやと眠る子供に優しく囁き。
 理沙はふと、思った。
 この子供と、今も寒い中プレゼントを手にする為に走り回っている子供達と、どこが違うのだろうか、と。
 それでも。
「悪い事は悪い、だろ」
「うん……じゃ、次の子供達の所に行きましょう」
 理沙は頷くと、チェルシーに次の場所へのルート指示を仰いだ。

「あんた達に上げるプレゼントなんて一個もないわ! そこを通させて貰うわよ!」
 偶然子供達と接触したセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は、身構えつつ吼えた。
「白狼騎士団の名に掛けてどんな犠牲を払っても、プレゼントを目的地に無事に届ける!」
「十年たっていい男になったら俺の所に来な。そしたら、俺のとっておきのプレゼントをやるから」
「私に刃を向けるなら、命懸けで来なさいっ」
 ヘソ出しミニスカの真っ白なサンタコスに、いつもの白大狼の毛皮の外套と帽子という装いのセフィーは、白狼サンタ。
 ヘソ出しミニスカの漆黒と白のサンタコスに、いつもの黒狼の外套で決めているオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)は、黒狼サンタ。
 白銀の甲冑に真紅と白の外套のサンタコスを身にまとうエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)は姫騎士サンタ。
 キリッと凛々しい三人を、子供達はポカンと見上げ。
「うわカッケェ」
「いやアレ、サンタじゃなくね?」
「そだよね、サンタさんって赤いんでしょ?」
「ていうかすげぇ強そうじゃん」
「「「「……」」」」
 脱兎の如く逃げ出した。
 プレゼントは欲しい、全員に行き渡るにはもうちょっとだけ数が足りないし。
 でもその為に仲間の命を危険にさらすほど、子供達は愚かではなかったし、自分達の非力さを十二分に承知していたから。
「……えと」
「ま、逃げたんならいいんじゃね?」
「そうですね、襲うといっても攻撃してくるわけではないようですし……」
「……待て」「待ちなさい!」「大人しく縛につけぃ!」
 傍らをギュゥゥゥゥゥン、と走り過ぎでいく機姫晶達を見るともなしに見つめ。
「行こうか」
 セフィーは苦笑まじりに、促した。
「うわぁ、本物のサンタさんだ!」
 その家の子供は、ベッドで寝た振りをしながら、待っていた。
 自分の元にサンタさんが来てくれるだろうかと、ドキドキしながら。
「あんたが良い子にしてたから、ご褒美だよ」
「ありがとう、サンタさん!」
 嬉しそうに頬を紅潮させる子供の頭を撫でてやるセフィーに、オルフィナもエリザベータもまた優しく微笑み見つめ。
「……良い夢を」
 その瞳をそっと、閉じさせてやった。


「やれやれ子供というのは元気なものだね」
「ええ、それにチームワークも中々のものです」
 エンジュと共に子供達を追いながら、綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)は妙に感心していた。
 2・3人ずつ組になっているようで、それが入り組んだ裏通りなどを器用に使い、追いつかれないように逃亡している。
 それでも、菜織達の追跡を振り切るのは無理なのだが。
「エンジュ君。彼ら個人個人をよく分析しておくと良いよ」
 その中で菜織はふと、そんな風に告げた。
 心を知る事、個性を知る事、それはきっと世界を広げるのだから。
 小さく小首を傾げたエンジュはそれでも、前方に見え隠れする小さな影に意識を集中させた。
 白い袋を持っている一番大きい(といってもたかが知れているが)個体が、リーダーなのだろう。
 ではアレを捕れば、このバカバカしい追跡劇は終わるのだろうか?
「あっ、少しマズいかもしれません」
 思考は、美幸の心配そうな声に中断された。
「ん〜、こちらのようですね」
 その時非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はパートナーであるユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)と共に、ツァンダ郊外にある孤児院を目指していた。
 ユーリカが抱えた調理器具、イグナが持つのは無塩バターや、無精鶏卵、薄力粉、粉砂糖やグラニュー糖、塩、そして、アルティアが用意したチョコチップやアーモンド等の、クッキーに入れる材料を入れた袋。
 そう、近遠達は【調理】特技を持つユーリカを筆頭に、お菓子作りの応援要員として召集に応じたのだった。
 その途中であった。
 前方からすごい勢いで走ってくる集団と出会ったのは。
 気付いたユーリカは難無く避けてやり過ごし。
 クッキーの材料を持ったままイグナは光翼を展開、空に避けて。
 アルティアもまた軽い動作でもって、その集団をかわし。
 だが最後の一人、ただ地図だけを持っていた近遠は、地図しか持っていなかった、運動神経皆無な近遠は、避ける術を持たなかった。
「「「……あ」」」

 ユーリカ達の目の前で、
 ドンっ
 という鈍い音が響き。

「ひゃうっ!?」
 直後、気の抜けた声と共に、激突された近遠は、吹き飛ばされた。
「「「「「あっごめんねぇぇぇぇぇ」」」」」
 吹き飛ばされた先でまた別の子供にぶつかり、更に弾かれ、何回転かした後、近遠は地面と仲良くなっていた。
「……大丈夫、ですか?」
 その集団を追っていたエンジュ達は、思わず足を止めた。
 目的遂行の為にはスルーが吉、なのだが放っておけなかったのは。
 奈夏と同じような匂いを感じ取ったのかもしれない。
「あ、大丈夫ですから」
 慣れてますからと同義語で告げた近遠に、アルティアが【ヒール】を使うのを確認し、エンジュは再び追跡に戻った。
「中の一人がサンタ袋を背負っていたな、アレが件の襲撃者なのだろうか」
 視認したイグナは呟いた。
 プレゼントを狙う襲撃者の話は聞いていた。
「謝ってらっしゃいましたね」
 ふと零れたアルティアの言葉に、ユーリカは腕の中の調理器具へと目線を落とし。
「そうですね。とにかく、急ぎましょう」
 手当を受けた近遠は、一度子供達が去った方向を見てから、皆を促した。


「ね、ママ。ルルナ達喜んでくれるかな?」
「うん絶対、喜んでくれるよ」
 その時、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)は小型飛行艇に白い袋乗せ……つまりプレゼントを持って、孤児院へと向かう所だった。
「……あれ?」
 夜魅が首を傾げたのは、ちょっと目を放した隙に肝心の袋が消えてしまっていたから。
「あれ? プレゼントの袋、落としちゃった?」
「ん〜、噂のプレゼント泥棒さんかしら? まぁ予備が此処にあるから、このまま行きましょ」
「さすがはママ!」
 パカ、と開いたトランクの同じような袋を見つけた夜魅は嬉しそうに笑い。
 そうして母子は、孤児院へと向かった。
 引き起こされた事態を、まったく知らぬ間に。
「さっきまで寝ていたはずなのに!」
 同時刻。
 留守番を任されたルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)は、青ざめて家の中をウロウロ探しまわっていた。
 先ほどまでぐっすりと寝ていた筈の赤子白夜・アルカナロード(びゃくや・あるかなろーど)の姿が、どこにも見当たらないのだ。
「気を付けていたはずなのに、いったい何処に!?」
 白夜はまだ『はいはい』出来ないが、代わりに【レビテート】で、ふよふよすることが多くなったのは承知していた。
 だがしかし、力もそう長くは続かないはずで。
「まさかコトノハ達を追って……とにかく、探さないと」
 ルオシンはコートを引っつかむと、慌ただしく家を出たのだった。

 そして場面は戻り。
「「「………………」」」
 ストリートチルドレン達は奪った袋の中身に言葉を失っていた。
 人形やぬいぐるみは良い、てか可愛いよね!、と逃避しようとしても現実は変わらない。
「きゃきゃきゃ♪」
 子供達の目の前では、楽しそうに笑う赤ん坊が一人いた。
 実は白夜、意図せずコトノハ達が持ち出したサンタ袋の中に紛れてしまっていたのだが、この時点では誰も知らない。
「カワイイ。そっかぁ、赤ちゃんってコウノトリじゃなくてサンタさんが運んでくるんだね」
「違います。子供じゃないんですから……子供でしたか」
 白夜のぷにぷに頬っぺたを軽くつつきながら言う女の子に、七日が突っ込んだ。
「ていうかこの赤ん坊、捨てられたんじゃねぇの?」
 だが別の子供がポツリと言うと、彼らは顔を見合わせ押し黙った。
「あり得る、よな」
「この子そういや……浮いてるし」
「こんなカワイイのに……」
 もれる声はどれも暗く沈んでいて。
「……これを」
 その中で七日が気付いた。
 袋の中、折りたたまれた紙に書かれた『孤児院』というメモに。
「やっぱりこの子、捨てられたんだ」
「ね、この子あたし達で育てられないかな。あんなトコ……かわいそうだよ」
 ストリートチルドレンの中には、孤児院から逃げてきた者も結構いた。
 身寄りのない子供達が収容される場所は、国の方針や経営者の考え等で天国にも地獄にもなる。
「それはそうだけど……ムリだろ」
「冷静に考えて、不可能と言わざるを得ないでしょうね」
 それでも、この中では一番年かさの子供と七日が、首を横に振った。
「というか考えが甘すぎです」
 そして反論は出ない。
 七日に言われずとも彼らは知っていた。
 自分達がどれだけ無力なのかを。
 だから。
「もしもう少し大きくなって、酷い目に遭ってたら……連れだしてやるから」
 小さな小さな手を握りしめ、そう約束してやる事しか、出来ず。
 真っ白な温もりを汚さないよう、そっと抱き上げた。