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第二章 かけらを集めて
「面倒くさいな〜」
「どんな依頼でも依頼は依頼、しっかり果たさねばなりません」
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)に引きずられてきた閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、気だるげに溜め息をついた。
 軍手を装備したレイナは静麻から見てやる気満々だ。
 また同行するクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)クァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)も今回の任務を勤め上げるつもりっぽい。
「その内ドロンするにしろ、最初からガミガミ言われるのは勘弁だしな」
 静麻は胸中でづけもらすと、「よっこらしょっ」としゃがみ込んだ。
「真面目に草むしり…だと!?」
 静麻と同じようなセリフは緋山 政敏(ひやま・まさとし)
 パートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)に連れてこられたのも同じだが、今日の政敏は一味違った。
「ま、ちと気になる事もあるし、たまにはいいか」
 真面目な面持ちの政敏に、こっそり窺っていたカチェアは嬉しそうだ。
「草むしりからだね。あそこにいる人達と一緒に綺麗にしようじゃないか」
「美幸ちゃん軍手だよ。子供達の分もあるからね」
「さすがです、リーンお姉様。みんな、ちゃんと軍手を手にはめて。無理はしないで下さいね」
 菜綾達に連れられた子供達も合流すると、素早く軍手を配るリーン。
「男女ペアになって下さいね」
「え〜」「何であたしがあんたとなのよ!?」「こっちだってお断りだよ」
「ケガをしないような配慮です、じゃ作業に入って下さ〜い」
 ぶーぶー言う子供達を、美幸はニッコリ追いたて。
「庭の端から計画的に抜いていくのが効率的でしょうか」
 クリュティり提案で、子供達に配慮しつつそれぞれ位置につきスタートだ。
「少しでも残せばそこからどんどん増えていきますから、頑張りましょう」
 そう言うレイナに、真剣に大きく振られる小さな首たち。
「先ず、少し水をまいて、土を柔らかくしておくの。そうすると、草むしりも根抜きをしやすいし……こういう下地作りは必要ね」
 草むしりする場所に水をまいていたカチェアは、不思議そうな瞳達にそう応え。
「ちなみに皆さん。雑草さんだからといって適当に扱わないように、これも大事な肥やしになりますからね」
 美幸はそう釘を刺し。
 子供達は暫くの間、結構真剣に草むしりに没頭する事になった。
「………………」
 その中、不気味なほどに同じ姿勢のまま、延々続けるクァイトスに。
「凄いけど何かちょっと……」
 女の子はやや引き気味。
「クールじゃん」「カッコ良くね?」
 男の子は目を輝かせていたり。
「こいつ今日は武装外してるんだが、武装してるともっとカッケーぞ」
「「「お〜っ」」」
 若干名、早々に飽きてきたらしい男の子達は、静麻に食い付く食い付く。
 話題の的の当人は、ひたすら黙々と草むしりを続行しているが。
「……真面目にやってらっしゃらないなら、雷魔法でもぶつけておけばよろしいかしら?」
「静麻はともかく、子供達や庭の植物を傷つけるかもしれないからダメです」
 レイナのもっともな制止に、
「なるほど、それもそうですわね……残念ですわ」
 ポツリ、零れたチェルシーの黒い呟きに、理沙は気付かず。
「みんなでやると何か楽しいよね」
「では、こちらのゴミも片付けておきますわね♪」
 美麗は手際良く、集めたゴミを片づけていくのであった。
「…モーちゃん、悪いけど、これ退けてくれないかな?」
 草が生い茂っている場所は、蛇やモンスターなどが入り込んでいても気付き難い。
 北都に応えたモーベットは予め、先行して確認していた。
 ついでに虫も移動させる事も忘れない。
「探検だ、リアルジャングル探検じゃね?」
「モンスター退治とか」
「男子、サボってないでちゃんと仕事してよ」
「バ〜カ、こういうのは男のロマンなんだよ」
「バカはあんたよ、イクタ。あんた来てから男子みんなガラ悪くなっちゃって」
「!? うるせ……」
「はいっそこまで!」
 更に険悪になろうとした子供たちを、佳奈子が押し止めた。
「ちょっと言い過ぎ、かな? 後、楽しくするって約束でしょ?」
 注意した女の子は小さく「……はい」と頷き。
「イクタ達もね、パートナーをほっぽり出してってのは可哀相よ」
 男の子達もまた、エレノアに諭されると、バツの悪い顔になった。
 男女ペアで、相手の男の子がどっかにいってしまった女の子達は不安そうだったから。
「うん。それに、ちゃんとした知識がなかったり準備が不十分じゃ、冒険にはいけないからね」
 更に北都がやんわりと告げれば、「……ごめん」「こっちこそ、悪かった」とかもごもご言うからカワイイものだと、見ていた者達は思った。
「仲直りしたんや、もう水に流すんやで?」
 髪を可愛いらしくシニヨンにまとめた由乃 カノコ(ゆの・かのこ)は言って、
「皆でお花見ば楽しんだらちゃんと後片付けするように、楽しくお花見するための準備もまた然りー! 頑張ろら!」
 気合を入れ直すように「おー!」と拳を突き上げた。
「ん〜、やっぱ楽しないとあかんな。ほな、歌でも歌おか」
 【幸せの歌】を口ずさむカノコとロクロ・キシュ(ろくろ・きしゅ)に、子供達からぎこちなさが完全に消えた。
 ちなみに、気合の入っているのはカノコだが、手際が良いのは掃除が得意なロクロだったりする。
「カノコの田舎ではな、亡くなった人のためにお花ば育てると、咲かせた分だけその人の魂がきれいになるって言われてての」
 皆の手で少しずつ確実にキレイになっていく庭に目を細め、カノコが言った。
「地球にいた頃はホンマかどうかわからんかったけど…パラミタにはおばけも悪魔も当たり前におる。せやけの、ばーちゃんが遺したものにはきっと意味があるはずや」
 カノコが言いたい事を何となく感じ取って、ロクロはチラッと笑んだ。
「ばーちゃんの願いが叶ったら、絶対じーちゃんは元気になる! カノコはそう思うねんな!」
 祈るというより、信じるように。
「ロクロさん、お庭がきれいになったら一緒に桜のお絵描きしよなーっ」
 元気の良いお誘いを、ロクロが断るはずはなかった。

「それにしても……カタリナという人は何を思って……こんな依頼を出したのでしょうか?」
 手の中で、ブチという音を立てて草が千切れる。
 もれ聞こえたカノコの言葉は、エンジュには正直良く分からないものだった。
 そもそも、今抜いているモノとこれから植えようとするモノの違いが、分からない。
 聞いたら奈夏が困ったような気がして、聞けないけれど。
 分からないのは、自分が『違う』からなのか。
 その心中は分からないものの、淡々とした中にどこか苛立ちめいたものを見て取り、美羽はエンジュを宥めるようにそっと笑った。
「きっとカタリナさんは、自分が死んで元気をなくしているヴィクターさんに、また笑ってほしいと思っていたんじゃないかな……」
「僕もそう思うな」
「死ぬというのは……いなくなると言う事です……いなくなったら終わり……ではないのですか」
 その言葉に奈夏が何か言いかけ……結局、開けた口を閉じたのが、美羽には分かった。
(「ケンカとかじゃないっぽいけど、ん〜何かちょっと噛み合ってない感じよね」)
「確かに終わりかもしれないけど、残るものもあるのよ、きっと」
「うん。誰だって自分の大切な人が笑顔でいてくれると、嬉しいものなんだよ」
 エンジュもそうだろ?、コハクに尋ねられ、エンジュはチラと奈夏を見やり。
「エンジュが幸せで笑顔でいてくれたら、っていつも思ってるよ?」
 奈夏の言葉に、何故かちょっと項垂れた。
 手の中で、また草がブチ、と嫌な音を立てた。
「……あ」
「う〜ん、何か上手くいかないねぇ」
「……燃やします」
「だっ、ダメだから!」
「エンジュ。こっち来てみー」
 そのぎこちない空気に、政敏はエンジュを明るい口調で手招いた。
 ごめん、借りるなと奈夏に目線で謝り。
 カチェアが水を掛け、柔らかく下地を作ってくれた、所。
 政敏は雑草の根っこの具合を確認してから、エンジュに尋ねた。
「この根を残さず、引き抜けるか?」
「……残さず、は無理かもしれませんが」
「大丈夫、見てるから」
 不安が滲むエンジュに、それを払拭するような笑顔を向けてから、政敏はエンジュの手にそっと自らの手を添えた。
「もっと気楽に、力を抜いていこう」
 随分と強張ったそれから力が抜けるのを確認してから、『加減』を教える。
「……ぁ」
「な、出来ただろ?……お〜い、奈夏」
「引く抜くのは、根が残るとそこからまた生えてくるから。燃やすと、根が残ってしまいます」
 奈夏を呼ぶだけで何も説明しない政敏のフォローをするように、カチェアが補足した。
「ほら、これ」
「エンジュ上手にむしれた……ううん、抜けたわね」
 ていうか私より上手なんですけど、という奈夏に自然とエンジュの頬が緩んだ。
「ていうかこの根、見てみろよ」
「雑草って最初は深く強く根付くのよ。その後は浅く広く根を張るけど、雑草がそうなる場所の土は耕されていて良土なのよね……心も似た所があるのかもね」
 リーンは笑いながら言って、チラとエンジュを見つめた。
 子供達や奈夏に軍手を配る際、リーンは『わざと』エンジュに渡さなかった。
「で何を悩んでいたの?」
 突然の問いに奈夏は小首を傾げ、エンジュは身を強張らせた。
「誰かを傷つけるかも知れないけれど、方法と加減が分かれば大丈夫だったでしょ?」
 引かれようとした汚れた手を、リーンとカチェアが手で包むようにして、払った。
「困った時はお互い様!、だからな、大丈夫なんだよ」
 この雑草のように、エンジュの心にも深く根が張っているのでは、と政敏達は案じていた。
 もしこれでやわれげられたとしても、どこかで欠片と出会い、浅く広く根付くかも知れない、けれど。
「でも、一緒に考えたり相談しあって、心も一緒に耕していきたい」
 政敏にエンジュは頷き……奈夏は俯いた。
「奈夏も!」
 リーンはギュッと抱きつくと、その顔を空に上げさせた。

「……お〜い、奈夏」
「おっ、エンジュちょっと元気になったっぽい……呼ばれてるって、奈夏!?」
「……あっ、ごめんなさい」
 気が気ではなかった所に元よりの不器用さが崇り、まだらっぽい惨状と化している奈夏周辺。
「いいよ、こっちはキレイにしておくから、行っておいで?……お〜い、皆も手伝って」
 慌てる奈夏を政敏の元に送り出し、美羽は子供達を呼んだ。
「ここやって、後は桜の方だね……みんな、ラストスパートだよ☆」
「草むしりが終わったら花を植えて、そうしたら花見の席にご同席させて頂いて……って、静麻?!」
 何だかんだ言って疲れ知らずの子供達と爽やかに労働に勤しんでいたレイナは、美羽に呼ばれ立ちあがり……驚愕した。
 大人しく草むしりに励んでいると思われていたパートナーの姿が、いつの間にか消えていたのだ。
「まさか逃げられた? いつ逃げたんですかあの人は!」
「途中、子供らがケンカを始めた頃、マスター静麻はエスケープしました」
「はぁっ? 気付いていたんですか、クリュティ?!」
「はい。ですが今回、クリュティにはレイナに報告義務はございませんでしたから」
 同じく、実はクァイトスも静麻がドロンしたのに気付いていたりした。
 ただ、

1.草むしり以外の指令を受けてない
2.静麻のエスケープ確認は指令外
3.故に報告義務が発生しない

 以上三つの理由により、完全スルーで草むしりに邁進していたのだ。
「静麻ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「レイナお姉ちゃんも大変だね」
 子供達の慰めがちょっぴり切ない麗らかな春の日でした。