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リアクション
「ヴァイシャリーで語ったというティセラの目的は強い国を作ることでありこれは問題がないと思うが、従わないものを洗脳・殲滅するというその手段は容認できない。クイーンヴァンガードは触れ込みのわりに功績を挙げているとは思われず、また的外れな強権行動は目に余るものがあり、ミルザムが指揮しているとすれば指導力について大いに疑問があるのではないかと思います」
風恒がそう指摘をし、アーデルハイトが難しげな顔で軽く首を縦に振った。
「クイーン・ヴァンガードは地道な活動も含め多くの功績を上げておるのじゃが、不祥事や失敗に皆目がいくものじゃからのう」
「ミルザムの勢力は維持を蒼空学園、つまり地球の日本の支援に頼りすぎており、女王として擁立した場合シャンバラは事実上の属領的立場になる恐れがないか」
イルミンスールのダレル・ヴァーダント(だれる・う゛ぁーだんと)の意見に、会場に集まった者達が複雑そうな表情を見せる。
「一シャンバラ人としてそのような事態を容認しかねるという者は自分を含め少なくないはずで、無理に擁立してもかえって混乱を招くのではないか」
「それは、ミルザムの擁立にも反対といういみかの?」
アーデルハイトの問いに、ダレルは頷きはしなかった。
「反対とまでは言わないが。ティセラもミルザムも、他の十二星華達も、そして擁立の方法もふさわしいとは思えぬのでな」
「そうだな。我もイルミンスールの擁立に反対だ」
メイコのパートナーマコト・闇音(まこと・やみね)が口を開く。
「女王候補の対立による争いは、十二星華だけでなく多くの者を巻き込み、メイコのように熱くなる者もいる。だが、女王候補争いに参戦しても被害が増えるだけだ。金より知識、開発より研究という魔法学校だからこそ、敢えて中立を宣言してはどうだろうか」
日和見と言われたとしても、争いの被害者や関わりたくない者の支えとなる独自の立ち位置が必要だとマコトは提案していく。
「浮足立ってはアズールさ……アズールの思うつぼではないか?」
「独自の立ち位置で、蒼空学園に勝つにはどうしたらいいんですかぁ〜。反対するなら、方法を教えて下さい〜」
エリザベートは生徒達を睨みつける。
会場がざわめいていく中、びしっと一つ手が挙がった。
「いんすますぽに夫か、申してみよ」
アーデルハイトの言葉を受けて、いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が立ち上がる。
「僕もイルミンスールが女王を擁立するのは違うと思うのです。むしろ、イルミンスールは知識をいかして女王に誰が相応しいのか見極めることで影響力を発揮するのがいいのではないでしょうか」
「見極めても何も得られないですぅ〜」
エリザベートの言葉はとりあえずおいておいて、ぽに夫はアーデルハイトに向けて言葉を続けていく。
「今日のように冒険者を使って情報を集めると同時に、占星術を使って星の動きを見極めてはいかがでしょう」
「ヒヒヒッ。いんすますぽに夫の言うことも尤もでございます」
波羅蜜多ビジネス新書 ネクロノミコン(ぱらみたびじねすしんしょ・ねくろのみこん)が賛意を示し、ぽに夫は皆を見回す。
「イルミンスール主導の情報収集機関を設立しましょう! どうですか、みなさん?」
ぽに夫の提案に、擁立反対者から賛成の声が上がる。
「擁立ではなく、情報機関であっても、女王の血を受け継いでいる方の協力は必要ですし、その際には皆で保護もするはずです」
ポイップ擁立派も、情報機関設立に関しては反対する理由はなかった。
「ううむ……」
アーデルハイトはしばらく考え込む。
「シャンバラにおいて、イルミンスールが情報面を牛耳るということじゃな」
「蒼空学園の生徒を使ったり、情報を掴んだりすることが出来るですかぁ?」
「まあ、そうなるかもしれんな」
エリザベートも乗り気になっていく。
「よし、その件については私の方でザンスカール家と相談の上、決めさせてもらうとしようかの。十二星華のことだけではなく、失われた知識を補う情報収集は世界樹を育てたイルミンスールがふさわしいからのう。設立がかなった際には、皆の活躍を期待しておるぞ」
会場から、イルミンスール生の拍手が沸き起こった。
「【星の黄昏】という名前はいかがでしょう。十二星華の結末を見届ける名前にしようと思い、黄昏という名前をいれました」
ネクロノミコンが早速そう提案をする。
「これこれ、まだ決定はしておらんぞ。誰もが所属しやすいような名前を考えねばの」
アーデルハイトが軽く苦笑しながら言った。
「情報機関の設立、大賛成ですわ。エリュシオンの侵攻に備えるためにも無理に女王候補を立てるより、独自の立ち位置を築く方が重要ですもの」
イルミンスールの狭山 珠樹(さやま・たまき)も意気込んで立ち上がる。
「そして、独自の情報といえば、ポータラカの情報が今こそ必要ですわ!」
「ポータラカですかぁ?」
エリザベートに頷いて、珠樹は言葉を続けていく。
「十二星華関連の事件で注目される女王器や星剣と呼ばれる強力な光条兵器は、ポータラカの技術で作られているものが多いのでは!? 滅びていなければ、五千年間国を閉ざしたポータラカへ行けば、更に発展した技術が手に入るかもしれませんわ」
「滅びてはおらんはずじゃ。しかし、ポータラカの連中は中々外に出てこないからのう」
アーデルハイトは腕を組んで考え込む。
「ポータラカとの接触は絶対必要ですわ! 十二星華と対抗するためにも」
珠樹が強く訴えていく。
しばらくして、アーデルハイトは深くうなづいた。
「確かにそうじゃのう。こちらの剣の花嫁も強化せねばならぬ。そのためには……そうじゃのう」
アーデルハイトは珠樹に目を向けた。
「唯一接触を取っているらしい、マレーナに協力を要請せねばの」
珠樹は目を輝かせて頷く。
「ポータラカの情報もほしいけどさ、それ以前に、隠されてる情報があるんじゃないか? 十二星華の情報も意図的に隠されていたんじゃないかと思ってんだ」
実がアーデルハイトに目を向ける。
「当時から生きてる連中ならある程度知っているんじゃないのか? なんだか、おかしいぜ! アーデルのばあちゃんだって、隠してる事があるんだったら、もったいぶらないでそろそろ教えてくれよ!」
「いや、私も女王の側近だったわけじゃないからのう……」
「私も気になっていることがあります」
イルミンスールのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が挙手し、話始める。
「女王像についてなのですが、ティセラさんは、バラバラになった女王像の胴部を大切に持っていました。他にも、先ほども話題に上がりましたが、幼馴染から聞いた話では山羊座のリフルさんの星剣が破壊されて洗脳が解けた際に、どこからか突如、女王像の左腕が出現したそうです」
「ふむ」
アーデルハイトが興味深そうに頷く。
「ティセラさん率いる十二星華は女王像の破片を別々に所持しているのかもしれませんね。でも、何故そんなことを……?」
「ティセラは今までに、空京のレプリカ女王像破壊事件や、聖像を祭った獣人の村の襲撃事件を起こしているな。単に五獣の女王器を捜索していただけでなく、十二星華にとっては女王像自体に意味があるのかもしれねーな」
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がソアの言葉を引き継ぐ。
「まあ実は、ティセラがアムリアナ女王の熱狂的なファンで「出来の悪い像は許せませんわ! ぷんぷん!」って感じなのかもしれないがな。はっはっは!」
大きな声で笑い、会場が苦笑に包まれたその時。
エリザベートの携帯電話が鳴った。
「……そうですかぁ。引き続き、頼みますぅ」
エリザベートは時折こうしてヴァイシャリー家で行われている舞踏会の様子の報告を受けていた。
「ティセラはアムリアナ女王が大嫌いなようですぅ」
エリザベートがそう言うと、ベアはぽんと手を打った。
「なるほど、熱狂的なアンチで「出来の良い像は許せませんわ! 一番美しいのはわたくしですわ、ぷんぷん!」ってわけだな、はっはっは!」
ベアの言葉に、再び会場内が苦笑に包まれた。
「十二製菓の情報何もなかったですー!」
突如子供の声が響き、女性が1人――イルミンスールの十六夜 泡(いざよい・うたかた)が現れる。
いや1人ではない。胸のポケットに、小さな子供を入れている。この子リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が声の主だ。
「お菓子じゃない方の情報はほんの少し見つけたけどね」
くすりと笑いながら、泡はアーデルハイトに近づいて、図書室で調べてきた情報を纏めた紙を渡すのだった。
纏めたといっても、得られた情報は僅であったが。
「3つほど、気になることがあったわ。1つはイルミンスールの大図書室でも殆ど情報が見つけられないという事実」
「情報が隠されているということかっ」
実が悔しげに言う。
曖昧に頷いて、泡は説明を続ける。
「あとは『女王のクローンとして作られた存在がいた』という記事。おそらくはそれが十二星華。また『十二星華を持っている星剣は光条兵器でありながら女王器』ということ」
「なるほどな」
アーデルハイトは深く息をついた。
「調べるです。急いで調べてイルミンスールの立場を作るのですぅ!」
エリザベートはぺしぺしと机を叩く。
「とりあえずは、今日出た十二星華の情報を書物にまとめて関わりのある人物に配布するなり、販売することとしようぞ」
アーデルハイトがそう言って、腰を上げた。
「それでは、続いて二の腕のラインについてお聞きしましょう!」
……珠輝のマニアックイラスト作成も佳境に入る。
そうしてして作成された十二星華に関する情報のうち、信憑性の高いものが本に纏められて、希望者に配布されたのだった。
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