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リアクション
「ええっと、イラストは別途部屋の隅の方で進めてもらうとして! 何か意見や質問ありますか?」
樹が会議を進行させるため、会場を見回した。
手を上げて、まず起立したのはイルミンスールのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だった。
「このように、十二星華について情報を纏めるのは有意義だと思いますが……『女王候補に推せる物がいるかどうか見極めるため』というのは納得いたしかねます」
クロセルが断然と言った。
「以前、俺が女王候補擁立を提案した時は『6首長家6学園の協定』と『テロ』を理由に情報収集すらされず一蹴されました。ティセラを推すつもりは現在もないのでしょうが、仮に十二星華の中に女王候補に相応しい者がいたとしてもミルザムさん以外の女王候補擁立は、協定を破ることになり裏切り行為になるという問題について解決できるものなのですか?」
クロセルの言葉に、アーデルハイトは目を伏せて考え込む。
「そもそもなんでそんな協定したんでしたっけぇ〜?」
エリザベートが首を傾げる。
「そうじゃのう。その一般的には伏せられている協定のことから、説明する必要があるかもしれんの……」
アーデルハイトが一呼吸置いた後、6首長家と6学園で結んだ協定について説明を始めるのだった。
現在、シャンバラ地方では王国再興運動が起こっている。
2017年には、シャンバラ地方で特に勢力のある6首長家と、地球先進国の首脳が空京でサミットを開き、シャンバラ王国復興の議定書が決議された。
議定書により、6首長家および6学園はシャンバラ古王国および女王についての調査を行うことが義務づけられたのだ。
主な理由は、現在のシャンバラでは地球人はさまざまな種族と個別に交渉を行う必要があり、統一された政府があれば窓口を一本化できる、となっている。
しかし、真の理由として――シャンバラからさらに東、パラミタ大陸中央付近に『エリュシオン』という大帝国の存在が確認されている。帝国も地球とシャンバラ地方の接触に気づいており、シャンバラ侵攻計画を進めているものと思われる。
そのためなるべく早くシャンバラに統一国家を作り、エリュシオンの侵略に対抗できる体制を作る必要があった。
シャンバラ王国復興運動に際し、独自にシャンバラ古王国と女王についての調査を行っていたツァンダ家の当主の娘、ミルザム・ツァンダが調査の結果、女王器の一つ『朱雀鉞』を手に入れた。
朱雀鉞はシャンバラ古王国の女王が権力の象徴として実際に手に持っていたと伝わる女王器だ。また、その他、白虎・玄武・青龍・麒麟といった五獣にちなんだ女王器が存在している。
これらを女王の血を受け継いでいる者が持つことで、『女王候補』を名乗ることが可能となる。
ただ、どのように女王たるものが復活するのか分からないため、あくまで『女王候補』に過ぎない。
そこでツァンダ家はミルザムに『女王候補宣言』をさせることを、5首長家に打診し、協定を結んだのだった。
ただし、キマクにも呼びかけたのだが、キマクが応じることはなかったため、正確には協定は5首長家で結ばれた。
またその際、ヴァイシャリー家は最後まで渋っていたのだが、鏖殺寺院の動向を鑑みて、ラズィーヤの命には代えられないと、最後の最後で承諾した。
「更に……」
アーデルハイトは声のトーンを落としてこの場に集いし者に言う。
「この女王候補宣言には、鏖殺寺院の目をミルザムに集中させ、その裏で女王器や女王の探索自体を行うといった狙いもあったのじゃ」
「その女王候補宣言の式典に、十二星華という予想外の存在が突如現れたというわけですね」
クロセルの言葉に、アーデルハイトは深く頷く。
「なるほど……ミルザムさんを否定するわけではなく、女王を目指して更に切磋琢磨してもらうためにも、ミルザムさんには『正常な』競争ができる対立候補が必要だと思っています。そのためにも、蒼空学園とライバル関係にあるイルミンスールで対立候補を出せるのであれば、自分も協力したくありますが……」
と、クロセルは探るようにアーデルハイトに目を向ける。
「協定を破るわけにはいかんのじゃが、状況が変わった。ヴァイシャリー家の出方次第では協定が破棄される可能性も高いからのう」
「敵となる存在の目を引き付けるといった理由でも、候補が複数いることは決して悪いことではないでしょう。6首長家同士で争いを起こしたりしなければですが」
「うむ」
「女王候補ね。ティセラってのに協力してる奴を省いて、蒼空に保護されてんのも省くともう4人位しかいねーじゃねえか」
エフェメラのパートナーフォルトゥナ・フィオール(ふぉるとぅな・ふぃおーる)が、メモを取った紙を見ながら呟く。
「ホイップ、アルディミアク、正体不明の蛇使い座、存在しているらしいが情報の出ない射手座……」
吐息をついた後、指を一つの名前の上で止める。
「俺は、ホイップを推薦する。消去法だがな」
「ボクも彼女を推薦します」
エルも大好きなホイップをティセラやティセラ達に与する者の手から守る為にもと推薦をする。
「ホイップ・アルデバランは、心優しく多くの人から愛されています。女王候補としての資質をミルザムやティセラ以上に備えていると思われます」
「彼女の献身の心は尊く女王候補として相応しく思います。十二星華はその身を狙われているようですから……そんな彼女の身を護るにはイルミンスールを挙げての保護が必要だと思います」
ホワイトもまた、エルの言葉を引き継いで、ホイップを推した。
「彼女は校長と顔見知りで、校長も彼女のお人よしの善人という人柄は知っているはず」
アルツールがエリザベートに目を向ける。
「んー、嫌いじゃないですぅ」
ホイップを思い浮かべて、エリザベートはそう言った。
「イルミンスールの生徒ということで我が校の権威もそれなりに強化できるし、彼女の性格的に各勢力にとって政治的にも軍事的にもいろいろな意味で無害。……更に、司馬先生も意見があるそうだ」
アルツールは司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の方に顔を向けて頷く。
「わしも、ホイップ君を女王候補として推挙する」
厳しめな顔で、仲達は意見を出していく。
「理由はこのように『皆に慕われており、なおかつ政治・軍事的才能がほぼ皆無なのが周知であり政治・軍事的には何もできそうにない』から」
「政治、軍事能力がないことがよいと?」
アーデルハイトの問いに仲達は深く頷く。
「今の時代、座を巡って揉め事の種になりそうな君主制なんぞ、ただの象徴で十分。イギリスを真似て、政治の実権は議会と内閣が受け持ち、議会も常任だが権限の弱い貴族の上院と、選挙で選ばれた下院の二院制にすればよい」
「それは地球的な思想じゃのう。検討の余地がないとは言わんが」
アーデルハイトが眉間に深く皺を寄せる。
「待って!」
ドアが開いて、少女が顔を現す。
イルミンスールのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)から知らせを聞いた、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が会議室に駆け込んできたのだった。
「気持ちはわかるけど……それが、いいのかもしれないけど」
エリザーベート、アーデルハイト、そして皆を見回す。
「ボクはホイップとは親友のつもりだし、エメネアとはちゅーもしたから、知らない仲じゃないと思ってる。ホイップとエメネアなら、そういうことを説明して、頼み込めば候補になってくれるかもしれないけど……ボクは絶対反対」
カレンは心情的に訴えていく。
「2人とも優し過ぎて、人の上に立つタイプじゃないんだよ」
優しいからこそ、頼めば候補になってくれるだろうけれど。
戦乱の中にあるパラミタのトップに立ち、重荷を背負わせることは――カレンとしては、絶対にしたくはないことだった。
「象徴だとしても今以上に狙われるだろうし、自由な行動が奪われるだろうからな」
ジュレールは心配気にカレンに目を向ける。
不毛な勢力争いにホイップ達を巻き込むことで、カレンが傷つくのではないかとジュレールは気を揉んでいた。
「俺は女王擁立自体反対だ」
教導団の制服を来た男――【独立傭兵団「風の旅団」】アイギス・グリッド(あいぎす・ぐりっど)が発言する。
「説明もあったように調査を行うことが義務づけられたのは、エリュシオン帝国に対抗するための体制を一刻も早く整えるためだったはず。新たに女王候補を擁立するというのは、より一層シャンバラ地域を混乱させてしまうのではないか? 挙がっている意見も一理あるとは思うが、ティセラがエリュシオンの使者として現れたということは、やはりエリュシオンもシャンバラ地方に目をつけているということ。時間の猶予は残されていないと考える」
「でも、蒼空学園だけずるいですぅ〜。百合園にまで先を越されたら、立場がないですぅー!」
エリザベートがバンバン机を叩き出す。
「学校や6首長家との間で交わされた約束を、自分の都合だけで破るのはだめだと思います!」
エリザベートにびしっと言ったのは、椎名 舞(しいな・まい)だ。
「約束を破る子はよい大人になれません!」
「ヴァイシャリーが破ろうとしてるんですぅー!」
「ティセラが交渉を持ちかけただけで、ヴァイシャリー家の動向はまだ不明です。いいですか、校長先生が起こした不利益はそのまま本国に跳ね返ります」
舞の言葉に、エリザベートが頬を膨らませる。
「もし負けてしまったら、シャンバラでのイルミンスールの影響力は地に落ちて、さらには本国から校長職も取り上げられてしまいますよ!」
「嫌ですぅ! どうにかするですぅー!」
「皆さんお集まりですから、よりよい方法を考えていきましょう」
舞はエリザベートの側に近づいて、茶菓子を差し出しながら諌めていく。
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