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リアクション
救世主復活 2
寝所の中では、床や天井が怪物化して蠢きはじめていた。
ダークヴァルキリーが咆哮をあげ、寝所の中を飛んでいく。
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がダークヴァルキリーに懸命に呼びかける。
「たたかうまえにお話をしましょう! みんなで一緒に仲よくしたいんです!」
聖冠を託されし者東雲いちる(しののめ・いちる)もやはり訴えた。
「私達は、まだ鏖殺寺院の事もあなたの事も、知らないことが多いと思うんです。何も知らないのにその救世主が悪だと決めつけるのは違うような気がします。教えてください。あなた達の事を!」
ダークヴァルキリーが真っ黒い炎を吹き上げた。救世主と話そうとした少女達を、魔の業火が包み込んだ。
「な、なんて事を!」
生徒達は怒りをたぎらせるが、ドージェより弱いとはいえ、暴れ狂うダークヴァルキリーに手も足も出ない。唯一、メニエスだけが面白そうに観察している。
「ひいいいいい!」
のこのこと寝所にやってきた自称アズールは、悲鳴をあげてジークリンデにしがみついた。
「は、離してください。危ないです」
勇敢にダークヴァルキリーと戦おうとしていたジークリンデは、腰に抱きつかれて慌てる。自称アズールは泣き声を出して、反対に強くしがみつく。
「いやだいやだいやだ! 怖いんだ、助けてくれ!!」
「でしたら、後ろに下がりましょう」
ジークリンデは、離そうとしない自称アズールを連れて、いったん後方に下がろうとする。
その前方にダークヴァルキリーが現れた。
ギャアアアアアアア!!
憤怒か悲鳴か分からない叫びを上げ、ダークヴァルキリーは闇の奔流を放った。
「クッ……!」
ジークリンデは槍に精神を集中させ、奔流をふたつに突き破る。ガラン、と音がして彼女の鎧がかけ落ちた。
(なんて強さなの……。でも今、この人を狙って攻撃を……?)
ジークリンデの腰には、まだ自称アズールがへばりついてヒイヒイ言っている。
(鏖殺寺院の長の名前を騙ったから怒ったのかしら?)
そこに行き過ぎていたリコや小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が駆けつける。
「大丈夫、みんな?」
「なんかすごいのがいるよ、リコ!」
「さては、あれが親玉ね!」
リコ達を加えた生徒達はダークヴァルキリーと戦おうとするが、怪物のような救世主はふたたび咆哮をあげながら飛んでいってしまう。
ヘルを砲台から助け出した生徒達は、スガヤキラ(すがや・きら)の案内で身を隠せる場所に向かう。ヘルは砲台発射の衝撃で、下半身がヘビの状態で気絶してしまっている。この形体は、長くて重い。智彦も含め、皆でかついで運ぶしかない。
「まさか、こやつを運ぶ事になるとはな……」
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が半ば呆れつつ、ドラゴンアーツでヘルをかつぐ。
前々から気にかけていたファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)に空京で偶然会い、その時「何か人手が必要なら、いつでも呼んでくれ」と言ったら、こうなった。
ファルも、やはりドラゴンアーツでヘルをかついでいる。
「ありがとう、ブルーズさん。コユキの仲良しさんだから助けたいんだ。後でミスド、おごるね」
キラはとあるマンションに一同を導いた。
「古めかしいマンションね。追手にすぐ見つからないかしら?」
心配そうなリネンに、キラが鍵をかざす。
「大丈夫だ。ここはこの鍵を持った奴でないと、魔法で入れない仕組みになってるらしい」
「こんな隠れ家が用意できるなんて、すごいです」
ココがキラを尊敬の目で見る。キラは頭をかいた。
「いや……ある奴に頼んだというか……頼んで断られて、その帰り道に気づいたらポケットにこの鍵と部屋の地図と説明を書いた紙が入ってた」
そこは豪華なマンションの部屋だ。部屋の中だが、噴水やミラーボールがしつらえてある。そして大量の花弁。豪華は豪華だが、何かが違う。
探してみると、部屋の中にはキラが持つのと同じ合鍵も数本あった。
ヘルは、巨大で派手なベッドに寝かされる。体にマヒが残っているが、徐々に回復するはずだ。
現時点では鏖殺寺院から裏切り者として見られてはいないが、今後の身の振り方は考えねばならないだろう。
混乱のつづく寝所。
セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は解せない、という表情でギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)に聞いた。
「死んでなどいませんわよね?」
おたがいのパートナー、ヴァーナーといちるの事だ。
「ああ。だが、ひどく遠い所にいるようだ」
ギルベルトは募る心配を押し殺し、答えた。
「大丈夫か? 俺の声、聞こえるか?」
ヴァーナーといちるは、そんな声を聞いて目覚めた。
四、五歳程の小さな子供が、彼女達を心配そうにのぞきこんでいる。黒髪に琥珀色の瞳、血色の悪い肌をしていた。
辺りは暗闇だが、なぜかおたがいの姿は普通に見えた。
「ボクたち、燃されちゃったんですか?」
ヴァーナーは目をこする。頭がぼーっとして、夢を見た後のようだ。
いちるも体を起こす。
傍らの少年をよく見るとシャツの下に無数の傷がある。しかも足首には黒い鎖が繋がれ、周囲の深い闇に消えている。
「大変! 手当てしないと」
「じゃあボクがヒールしてあげますね」
少年は手を振った。
「待った。この空間は幻だ。傷も幻覚なので、ヒールの無駄撃ちになる」
いちるは眉をひそめる。
「幻覚? でも、こんなに痛々しいのに……」
いちるは少年を抱き上げようとした。彼はいちるの腕をもがき出る。
「待て待て待て! なぜか、こんな昔のエグい姿になってるけど、俺の実体は約三十のおっさんだぞ?! 女生徒にだっこされるワケに行くか」
しかし今度はヴァーナーにハグされた。
「こんなにちいさいのに、おじさんです?」
少年はじたばたと、ヴァーナーの腕をもがき出る。
「そう。小さいおっさんなので……だから、頭をなでるんじゃない」
少年?は二人から距離を取ると、改めて言う。
「二人が救世主に攻撃された時、この船の緊急排出装置で異空間に放り出して、そこを救命装置で拾いあげた状態だ。すぐパートナーの所に戻すから、安心しろ」
口調から、やはり彼は見た目通りの子供ではないようだ。いちるは聞いた。
「あなたはダークヴァルキリーの事を知ってるんですか? 鏖殺寺院は、そして鏖殺寺院の救世主はいったい何を成すと言うのですか?」
少年は長い沈黙の後、答えた。
「……五千年前、ダークヴァルキリーとシャンバラ女王は戦い、鏖殺寺院もシャンバラ王国も滅んだ。……どう思う?」
ヴァーナーは彼に聞かれ、素直に答える。
「けんかしないで、みんなで仲よくすればいいのに」
少年はにっこり笑い、彼に目線をあわせてしゃがんでいたヴァーナーの頭をなでる。
「ダークヴァルキリーを止められるのは、シャンバラ女王だけだ。おそらく女王を守る……彼ら……」
少年は苦しげにノドを抑える。
「シャンバラ各地に……いるはずなんだ。忠実な……目覚めさせ……。女王だけが闇……を封じ……。クッ……こんな所でも、縛が……ッ」
突然、空中にヴァーナーといちるが現れた。セツカとギルベルトが、おたがいのパートナーを抱きとめる。
「あれれ? もとのところに、もどっちゃいました……」
ヴァーナーは見回すが、やはり周囲にあの少年はいない。
いちるとギルベルトは、それどころではないようだ。
「きゃっ、ギルさん?! ど、ど、どうしよう」
「何をしてるんだ、お前は。いきなり空中に現れるから、こんな形になっただけだ」
ギルベルトはつっけんどんに言い放ち、赤くなったいちるを離して、そっぽを向く。
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