空京

校長室

建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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救世主復活 1


 ジークリンデは、戦いながら寝所を進むうちに姿が見えなくなった理子に電話をかけた。
「はぐれてしまったけど大丈夫? 今はどこにいるの?」
「私は平気よ! そろそろ一番下に着きそうね」
 ジークリンデは一瞬、言葉を失う。
「……リコ、救世主復活の儀式場は、寝所の真ん中辺りよ」
「えええええ?! こういうのって最深部にボスがいるもんじゃないの?!」
 リコは愕然とする。が辺りをキョロキョロ見回す。
「ヒャッハー! 性帝陛下と分かれるなり道に迷うとはな! リコ、やはりお前には陛下が必要なんだ!」
「たっ単に行き過ぎただけじゃない!」
 黎明がリコに助言する。
「そうです。行き過ぎたのであれば、戻れば良いだけです」
 ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)もリコに、優しくほほ笑んで言う。
「わたくし達が魔物を倒していけば、それだけ、他の方の脅威が減るでしょう。サポートさせていただきますので、ご心配なさらないでくださいな」
 またライバルであるリコと競って、先を目指してきた小鳥遊美羽(たかなし・みわ)も、どうにか気を取り直す。
「こうなったら、リコ! どっちが先に儀式場まで戻るか勝負よ!」
「望むところだわ!」
 彼女達は、さっそく来た道を引き返す。だが先程の戦いの物音を聞きつけて集まってきたモンスターと鉢合わせる。
 鮪はデラックスモヒカンを揺らして、ショットガンを乱射しまくった。
「ヒャッハァー!! 性帝陛下のお心を汚す汚物は消毒だァ〜!!」
 ネアは自身にパワーブレスをかけ、たおやかな外見にそぐわぬ巨大なウォーハンマーを振り回して魔物の群れに突進する。
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、美羽とリコにパワーブレスをかけた。美羽は大剣型の光条兵器を振るいながら、リコの背を守るように戦う。
 普段は、ライバル視する理子より活躍して目立ちたいと思っている美羽だが、空京市民の命がかかっているとなれば別だ。
「この作戦が終わったら、次こそリコより手柄を挙げるからね!」
「楽しみにしてるわよ!」
 モンスター相手に剣を振るい、美羽とリコは言葉をかわした。


 行き過ぎなかった生徒達は、儀式場に迫ろうと鏖殺寺院の兵と戦いの真っ最中だ。
 英霊アンブレス・テオドランド(あんぶれす・ておどらんど)はヒロイック・アサルト【三千世界の剣】を発動。召還された無数の剣や槍が、鏖殺寺院兵士に襲いかかる。
「この俺様を止められると思うなよ!! おおおおおぉぉぉ!!」
 アンブレスは大音声で吼え、敵の注意を自身に引きつける。

 一方、古めかしい神殿のように装飾された儀式場では。
 鏖殺寺院の長アズール・アデプターが祭壇に立ち、朗々と古代シャンバラ語の祈りの言葉を述べている。
 祭壇前の広場には魔法陣が描かれ、数十人の信徒達がひざまずいていた。彼らは儀式前に配られた短剣を握り、何事か祈っているようだ。
 エレクトリック・オーヴァーナイト(えれくとりっく・おーばーないと)ジェミエル・エレクトロニクス(じぇみえる・えれくとろにくす)は、倒した鏖殺寺院の制服をまとって儀式に紛れ込んでいた。
 エレクトリックは目だけを動かし、儀式場内を見る。
(変ね。いまだに生贄が用意されないなんて。直前に呼び出すのかしら?)
 鏖殺寺院の一員メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、熱を帯びた声で言う。
「ああ……ついに救世主様に降臨されるのね! なんて素晴らしい!」
 メニエスの額には、鏖殺寺院の紋章がくっきりと浮かんでいる。
 彼女の言葉に触発されるように、信徒達が「救世主様! 救世主様!!」と熱っぽい声を上げていく。
 メニエスの隣ではミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が儀式の進行とメニエスの様子に対し、満足そうに唇の端を上げて笑んでいた。
 儀式が進むにつれ、周囲の神殿に異変が生じる。蟲や怪物の体の一部のように、奇怪な形へと変わっていく。

 そこへウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)がライトブレードをかかげ、飛び込んできた。
(このような強大な力を解放させるわけにはいかない!)
 ウィングは信徒には目もくれず、床の魔法陣に斬りつける。
「不信心者がッ」
 信徒達が、短剣を振りかざしてウィングに斬りかかる。ウィングは剣圧で彼らを斬り飛ばす。
 ウィングをメニエスの光術が襲う。
「奇跡の瞬間の当事者になれるっていうのに、何故邪魔するわけ!?」
 メニエスは憤懣に満ちた表情で、儀式の輪を離れ、やってきた生徒達の前に立ちふさがる。ミストラルもそれに倣う。二人とも、白輝精から儀式での注意は聞いている。
「素晴らしい光景を見るためにも、あなた方はここで止めさせてもらうわ」
 彼女の腕の一振りで、激しいファイアーストームが生徒達を襲う。強力な魔法に、儀式場になだれこもうとしていた者達は、たまらず後退する。
 しかしクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)がタワーシールドを掲げ、魔の炎をさえぎった。
「君も儀式を守りたいんだろうけど、僕だって守りたいんだ……! 騎士として、その攻撃を、通させるわけにはいかないよ!」
 メニエスの魔法の威力は強い。
 クライスのパートナーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が、彼と共にナイトシールドを構えて並び立ち、魔法に対抗する。
「主と共に、すなわち地球の民と共に生きると決めたのだ……。貴公らの目的、果たさせるわけにはいかぬ」
「救世主様が降臨なさる場を荒らすど、神罰ものね!」
 メニエスはアシッドミストを放つ。クライス達は、とにかく持ちこたえて他の生徒に機会を作ろうとする。


 だが儀式はすでにクライマックスを迎えていた。鏖殺寺院の長アズールが、高々と宣言する。
「ついに我らの神、救世主ダークヴァルキリー様が復活される時が来た! 贄を捧げ、門を開くのだ!!」
「オオオオォォォ!!!」
 信徒達が歓喜の声をあげ、持っていた短剣でみずからの胸や首を突きまくる。
「やめてぇッ!!」
 エレクトリックとジェミエルも、鏖殺寺院の制服をまとった体が勝手に動き、短剣で我が身を突き、切りまくる。
 噴き出した血潮が、互いと儀式場を紅に染めた。信徒達は歓喜の表情で、血塗れた床に倒れて絶命していく。
 レクトリック達は必死の抵抗で、死亡こそ免れるが意識をなくす。


 空京の繁華街。付近一帯に避難勧告が出たため、辺りは無人だ。裏通りにあるネットカフェには、客も店員もいない。
 その女子トイレのロッカーの中で、小さな命が消えようとしていた。モップで隠されたバケツに、何かが入ったゴミ袋がある。袋の中には、生まれたばかりの赤ん坊が入っていた。まだへその緒が付いたままだ。
 しかし赤子は、まだ生きたかった。指し伸ばされた手に、必死につかまる。


 ギャアアアアアアアアッッッ!!!


 激しい悲鳴のような声が空京全土に響き渡った。
 人々は耳を押さえ、ガラスがひび割れる。空京の空が黒く染まっていく。
 鏖殺寺院の神、ダークヴァルキリーが復活を遂げたのだ。
 真っ暗になった空京上空に、黒いヴァルキリーが出現した。
 だが、その容貌は怪物そのものだ。

 浮遊砲台でも、その姿を確認できていた。
 救世主が地下に注意を向けた時、砲塔が魔法弾を発射する。ダークヴァルキリーに着弾。その身を覆う闇が散った。空京をおおった闇が消えていく。
 しかし。身にまとう闇が祓われても、救世主に傷は無い。
 ダークヴァルキリーは怒声をあげた。


「こんなモノ、返すぜ!」
 聖冠を託されし者大宮金平(おおみや・こんぺい)は寝所の魔法陣の中に立ち、聖冠クイーン・パルサーを救世主に突き返そうとする。だが聖冠が現れない。
「んん?! いったい、どうなってるんだ?」
 金平が聖冠に意識を集めると、救世主は聖冠を「返す」相手ではない、と伝わってくる。
 ニニフ・エスタンシア(ににふ・えすたんしあ)が金平の腕を引っ張る。
「もう、このくらいにしておきましょうよ。ヘルのサポートなんかやめましょう」
 ニニフは周囲に転がる鏖殺寺院信徒の死体の山に、かなり怯えている。
「俺はヘルを信じるぜ! 救世主の注意を引ければいいんだ!
 闇の救世主ダークヴァルキリーとやら!! 聖冠はここにあるぜ!」
 金平は救世主にアピールせんと叫ぶ。


 ダークヴァルキリーは地上を見たが、またすぐに注意を砲台に戻す。そして高速で浮遊砲台に接近するなり、一撃で叩き潰した。

 ギャアアアッ!

 救世主は、不機嫌そうな悲鳴のような声をあげる。
 金平が冠で注意をそらしている間に、ヘルと彼に味方する生徒達は間一髪で砲台から逃げていた。小型飛空艇や空飛ぶ箒で、気絶したヘルの長い体を抱え、滑空と落下の間の速さで地上に降りていく。
 追おうとしたダークヴァルキリーが、ふと気配に気づいた。


 ドージェ・カイラスが空京を臨む崖のフチに立っていた。漢の視線がダークヴァルキリーに注がれる。
 耳障りな悲鳴をあげ、ダークヴァルキリーはドージェを挑発した。
 ドージェは睨み返す。そのひと睨みは、ダークヴァルキリーの精神を攻撃する。
 ダークヴァルキリーは耳をつんざくような悲鳴をあげながら、寝所の中にテレポートした。
 ドージェはそれを見届け、空京に背を向けた。そのまま歩き去っていくドージェに、マレーナが驚いて聞く。
「ドージェ様、どちらへ?」
「修行だ」
 ドージェの表情は、いつになく楽しそうだ。
 ダークヴァルキリーごしに更なる強者を感じ取り、それが現れるまでに、更に更に強くなろうという意欲が沸いたのだろう。
 ドージェは強敵を求め、シャンバラの外へと向かった。取り巻きたちも、彼を必死に追いかけた。