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夏休みを取り戻せ!(全2回/第1回)

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夏休みを取り戻せ!(全2回/第1回)

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 イルミンスール魔法学校近郊の町、ルクオールが、突然、冬になってしまった。
 突然どこからかあらわれた青い髪のスレンダーボディの美女、「冬の女王」の力のせいであった。
 しかも、「冬の女王」は、魔法学校校長のパートナーであるアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を町の中央に築かれた氷の城へとさらっていってしまったのである。
 「ふっふっふ……。かわいいお嬢さんがいるぞよ。わらわの城にくれば、なんでもしてやるぞよ」
 「なに、それは本当か!? ……あーれー、さらわれるー」
 「冬の女王」の言葉に、アーデルハイトは意味ありげな言葉と、明らかに棒読みな悲鳴で答えていた。
 そして、この事件を知った魔法学校校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、全校生徒の前で宣言した。
 「わたしのパートナーである大ババ様がさらわれてしまったのはぁ、学校の一大事ですぅ。それに、ルクオールは、シャンバラ地方の貴族たちの別荘地でもありまぁす。ルクオールを夏に戻して、大ババ様を助け出すまでは、イルミンスールの夏休みは中止ですぅ!
 夏休み中止宣言にどよめきが上がる中、魔法学校の熱血男子生徒、ジャック・サンマーは拳を振り上げた。
 「ようするに、アーデルハイト様を助け出せばいいんだろ! 俺たちにできないことはないぜ! ルクオールの町を丸ごと炎の魔法で溶かしちまおうぜ! ファイヤー!
 しかし、本当にそんなことをしたら、大量の水蒸気や雪崩が発生して、大変なことになってしまう。
 ルクオールを夏に戻し、アーデルハイトを救出するほか、ジャックを止める必要もあるのであった。


第1章 エリザベート校長と魔法学校での冒険準備のこと

 イルミンスール魔法学校の校舎内で、剣の花嫁、シャルル・ピアリース(しゃるる・ぴありーす)は、アーデルハイト誘拐の知らせを聞いて、救出のための準備をせっせと行っていた。
 「すごく寒そうだし、防寒具や薬も必要かもしれないよね。とりあえず、ボクと、祐太の分……んんっ!?」
 シャルルの黒い瞳が大きく見開かれる。目の前には、ベンチに寝そべって気持ちよさそうに寝ている、パートナーの神名 祐太(かみな・ゆうた)の姿があった。
「こらーっ! アーデルハイト様が誘拐されたっていうのに、何やってるの、キミは!」
 シャルルに叩き起こされ、ベンチから転げ落ちた祐太は、不服そうな声をあげた。
 「なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ……」
 そう言いつつも、祐太はふと何か思いついた顔をして、シャルルに真面目な顔を向ける。
 「ちょっとここで待ってろ」
 「え?」
 突然の言葉に不思議そうな顔をしつつも、シャルルはパートナーの背中を見送った。
 祐太の向かった先は、イルミンスール魔法学校校長、エリザベートのいる校長室だった。
 「俺達がアーデルハイト婆さんを助けるための取り引きだ。何か、レアアイテムをくれ!」
 相手が校長だろうとまったく気にせず話す祐太に対して、エリザベートは小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
 「あなたはイルミンスールの生徒でぇ、わたしは校長ですぅ。生徒と校長といえば、家来と主人も同然でぇす。よって、あなたにあげるレアアイテムなどはありませぇん!」
 のんびりした口調ながらも、エリザベートは胸を張って語る。自分よりずっと背が高く年上の祐太を見上げつつも、威圧的な態度が全開であった。
 「じゃあ、どうしろっていうんだよ。おまえのパートナーを助けに行ってやるんだぞ」
 憮然として答える祐太に、エリザベートは部屋の片隅を指し示して見せた。
 「あちらに、冬になったルクオールに行くための装備を準備している者がいますぅ」
  研究員のルキ・ウエストテイル(るき・うえすとている)が、大量の防寒具の山の前にいた。衣類だけではなく、ロープや救急箱など、雪山での冒険に必要そうな装備は、すべて整っている。
 「もしものことを考えて、いろいろな道具を準備しました。どうぞ、皆さんで使ってください」
 「ありがとう! これなら、全員分の装備がまにあうだろうな」
 微笑むルキに、祐太は感謝の言葉を返す。当初の思惑は外れたが、これだけ準備してもらえば困ることはないだろう。
 「いえいえ、とんでもありません。私は、万一の事を考えて、学園に残りますので、生徒の皆さんは、どうぞ気をつけて、アーデルハイト様を助け出してきてくださいね」
 祐太とシャルルは、ルキの用意した装備を仲間たちの元へと運んでいった。それを見送りながら、ルキは、青い瞳を細めて独りごちる。
 「外は寒そうなので出たくないなんて、素直に喜んでくれてる彼らにはとても言えませんね……」
 「ん、何をぶつぶつ言ってるのですかぁ?」
 エリザベートの怪訝そうな顔に、ルキはあわててかぶりを振った。
 「いえ、なんでもありませんよ。ははははは」
 ルキは、乳白金色のセミロングの頭をかきながら、そそくさと退室した。
 そこへ、ルキとちょうど入れ違いになるように、校長室のドアがノックされ、魔法学校教師のアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が入ってきた。
 「失礼します。校長、折り入ってお話が」
 アルツールのクールで整った顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。いかにも何か企んでいそうであった。
 「突然ですが、エリザベート校長は、昨今の生徒達の気質に対して、どうお考えかな。いかにも素直な良い子が多いとは思いませんか」
 「べつに、いいことなのではないんですかぁ〜」
 興味なさそうに答えるエリザベートに、アルツールは畳み掛ける。
 「それこそが問題なのです! 本来、魔術師とは悪魔さえも欺く知性と狡猾さを持つべき。知識の探求者たるもの、もっと疑り深くなるべきなのですよ」
 アルツールはとうとうと語る。
 「ここは、夏休みを中止にした上で、今を冬休みにして、冬休みの課題をアーデルハイト様救出にすればいかがですかな。後出しに対して抗議がきても、話を良く確認せず飛び出していった方が悪いという『教訓』を与えられるのだから問題はない。ついでに、生徒は早く冬休みを楽しみたいと考えるはずなのでアーデルハイト様救出に集中して一石二鳥! 無論、救出までの過程で各々が何をやったかはきっちりしっかりレポートを書かせ成績評価の対象とする方向で。これを機会に、生徒たちがもう少し疑り深くなって、魔術師として大成する一助になってくれれば幸い。本当に。嘘じゃないない。これは、そう……愛のムチッ!」
 力説するアルツールに、エリザベートは眉間にしわを寄せて答えた。
 「あなたの言うことはなんだか面倒なので、最初にわたしが決めたとおりでいいのですぅ〜」
 けんもほろろな態度に、さすがのアルツールといえど脱力する。
 「うーむ。校長もまだ幼いということか……」
 「なんだか、お取り込み中のようだけど、お邪魔するよ?」
 そこへ、シャンバラ教導団の軍服に身をつつんだ長身の女性、蒼 穹(そう・きゅう)が苦笑しつつ入ってきた。
 「む、他校の生徒がわたしに何の用ですかぁ〜?」
 「まあまあ、そうかまえないでよ。別にスパイしようっていうわけじゃあないんだ。ちょっと気になったんで、エリザベート校長に直接確認しようと思ってね」
 蒼 穹は、エリザベートに目の高さをあわせると、耳打ちするように言った。
 「あの、アーデルハイトのわざとらしい棒読み……これはあなた方が仕組んだイベントではないのか? もしそうなら、協力するよ?」
 この事件には裏があると踏んで、事情を知らないのは気持ち悪いと考えた蒼 穹は、エリザベートとアーデルハイト、「冬の女王」がつるんで、ビックリイベントを仕掛けているのなら、それに協力するつもりでやってきたのだ。
 「そんなの、全然違いますぅ。このわたしが、大ババ様と一緒になって、イベントなんてしかけませぇん。「冬の女王」なんていうのも、全然知らない人ですぅ。今回は、大ババ様が勝手に怒って出て行ってしまったのですぅ」
 「勝手に怒って出て行った、って?」
 蒼 穹が、エリザベートの瞳をじっと覗き込むと、エリザベートは露骨にそらしてみせた。
 「わたしは、ぜんっぜん、悪くありませぇん。超ババ様が、おおげさに騒いでいるのですぅ」
 そう言いつつも、エリザベートはどことなくばつが悪そうであった。
 アルツールと蒼 穹は、どうしたものかと顔を見合わせた。