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リアクション
「禁猟区に反応ありだ。一時の方角と十時の方角」
「アイアイ! ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)、突貫しまーす!」
「菅野 葉月(すがの・はづき)、続いていきます!」
バウエル・トオル(ばうえる・とおる)が独自の感覚空間を広げ、急ごしらえの壁の奥から接敵を知らせる。それと同時に構えたランスの突破力でヴァーナーと葉月が突貫を仕掛ける。
「ぬ! 十二時、二時に反応追加だ!」
「なら、叩かれる前に迎撃だよ! 氷術展開!!」
「雷術展開!」
さらにミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)の魔術支援が後を追い、ほぼ確実に敵を仕留める。
「ふぅ、ありがとうねセツカちゃん。ミーナちゃん」
とは突貫一撃で戻ってきたヴァーナー。
「ふふ、どういたしまして。けど、少し突っ込みすぎの気もしますよ?」
「そうかな?」
「周りに味方がいる状態だからじゃないかな? ある程度突進で引っ掻き回せば後ろから援護が来るし、横には僕もいるしね」
とは少し遅れて戻った葉月。多少しんがりを勤めてくれたのかもしれない。
「だよね! よーしご褒美にちゅーしてあげよう!」
言うが速いかズキューンと一発かます。
「!!??」
「おわぁぁぁぁぁ!? な、なにをするだぁぁぁぁぁぁ!!」
が、それにおもくそ餅を焼かれたのがミーナ。そりゃそうだ、友人一人増えただけでも嫉妬すると聞く。I☆TA☆ZU☆RAな接吻なんて言語道断であろうよ。
「? あ、そっかうらやましかったんだね! んじゃミーナちゃんにもちゅ〜」
ドーンッ!! ともう一発ヴァーナー。
「!!?? …………、え、あだ、これって葉月と間接キス……!?」
「気にするところはそちらなのですか?」
ポッと頬を染めるミーナに対してつっこむセツカ。
「ん? 何をやっとんじゃ?」
休憩から戻ってきた棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)は開口一番相方のバウエルにそう聞いた。そらそうだ、なぜか幼女がところかまわずU☆N☆BA☆LA☆N☆CEな口付けをかましているのだ。
「あぁ、亜狗理か。いや、彼女なりのスキンシップだろ? なんなら貰って来たらどうだ?」
「ふん、馬鹿をいっちゃいかん。俺は硬派じゃけんのぉ」
「亜狗理のおじさんにもちゅ〜♪」
ずきゅーん。
「…………!? 初めてだったのにッ……!」
およよと泣き崩れる硬派。
「え、そんな!? まさかキスが嫌いな人がいただなんて!!」
「いや、彼が泣き崩れたのはそういう理由じゃないと思うよ?」
などと葉月がツッコんでいると、
ズズンッ……。
と、鼓膜が響いた。
「なんだ、これ……?」
「ちっ、ろくな予感がしない……! 亜狗理、禁猟区を相乗させて最大まで範囲を広げるぞ!」
「! 任せろい!!」
一瞬で精神を建て直し、バウエルに呼吸をあわせ、スキル:禁猟区を広範囲に渡って展開させる。
「!? なんじゃあ、こいつは!?」
「で、でかい……!?」
はじめに陣営内にてそれを目撃したのは、樹の命にてカメラを防衛していたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)であった。
「はは、やだな〜、もう。母さん今日は月曜日なのにタコの酢の物が半額じゃないか〜」
等と、妙な言葉の漏れる彼女の視線の先にいるのは十メートルを越す異形である。十メートル。二秒もあれば人は走り抜けられる距離ではあるが、高さとしては十トントラックなんぞより遥にでかいのだ。下手をすれば一軒家並みの大きさである。
タコの如き巨大な頭部に毛羽毛現のごとき全身を覆う体毛。推察できる体格から四足歩行であろうか? 時折前足の鋭い爪が体毛の隙間から覗く。
個体差が非常にバラ付いているため、巨獣としか呼ばれていないパラミタ深部の人の理解を超える一つである。
「呆けている暇があったら逃げろ!」
と、ジーナを横から掻っ攫っていったのは五条 武(ごじょう・たける)。
「あ、う、あ、ありがとうございます……!」
「礼は、」
地面にジーナを下ろし、痺れ薬を塗ったリターニングダガーを構える。
「助かってからにしな!」
投擲。空を裂いて走ったダガーが頭部から伸びる触手を一本切り落とすが、何の事はないらしくゆっくりと視線を彼等に向けただけであった。
「ちぃ……、効いていねぇのか回りが遅いだけなのか分からんな……」
「援護します」
と、反対側からイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が巨獣に突進をしかけ、カルスノウトで前足の当たりを斬りつける。
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
物を震わせるかのような重低音の声が響き、巨獣の触手がイビーを襲う。
「くッ……!?」
「イビー!?」
触手が四肢を引きちぎらんと彼女を束縛し、関節機構からメギッという音が響く。武のダガーだけでは触手を全て切り落とすということは出来はしない。
「ツイン・スラァァァァァァァァァァァッシュッ!!」
大剣の類であれば可能ではあるが。触手の群れを一刀の元に両断し、イビーを小脇に抱える男が一人。
「俺のアインヴァルトに斬れない敵じゃねぇ!」
そう名づけた剣を肩に乗せ、吼える男の名は田桐 顕(たぎり・けん)。
「だからと言って過信はしないでくださいね」
と反対方向からそんなことを言いつつ、火術を援護として放つのは相方のリリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)。
「この生き物、まだろくにダメージを受けていません。狙うなら頭か、体毛に保護された胴体です」
「あいよッ!」
リリスの助言に従って、武がダガーを頭部に向けて投げ、顕が大剣を横っ腹から打ち付けるように振るう。が、
「効いてねぇ……!」
「刃がとおらねぇ!?」
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
「くそッ!」
振り回された爪を回避するため、大きくバックステップする顕。しかし爪先が腹部を掠める。
(間合いが広すぎる!?)
「頭部は滑って刃を滑らせ、体は体毛がたいていのものを防いでしまう。中々手ごわいですね」
火術の詠唱を再び始め、リリスが連続で火球を召喚する。
「ですが、滑りは熱で以って固めてしまえば……!」
「いける……!」
火球と共にイビーは走り、スキルを放つ。
「ツイン・スラッシュッ!!」
着弾点から発生する爆炎にまぎれるように突進し、カルスノウトを走らせる。ツイン・スラッシュは広範囲への攻撃技であるが、ここまででかいのだ。笑えるように当たる。
SPをまとった青い切っ先が通った先から、青い液体が噴出した。
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!。
「効いたのか!?」
「魔術と上手く組み合わせてやれば、いけないことはないみたいだな」
「んじゃ、こっちもコンビプレイとしゃれ込みますかッとおぉぉぉぉッ!!」
と、顕の大剣を武が巨獣へ向けて投擲する。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
途中体毛に阻まれるが、そこへ更に顕が突っ込み、飛び蹴りを柄尻に無理矢理当て、体毛で止まった斬撃をもう一段階斬り込ませる。
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!?。
「よし、もう一発だ!」
巨獣の体を蹴って大剣を引っこ抜き、再び武に剣を渡そうとしたところで、
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!。
巨獣前進。
「な、いきなり!?」
「この場で戦うよりも、ドラゴンを先に襲ったほうがよいと判断したのでしょう! 止めますよ!」
「応ッ!」
中々に歩みの速い巨獣を追いかけるため、全員が急いで追いかける。ジーナもカメラを抱えて走った。
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
しかし巨獣の足は速い。彼等よりも早くヨウのいる土壁へと突撃せんとしていた。
「くそ、やらせはせん。やらせはせんぞぉッ!」
ビー・フーがドラゴンアーツを展開したまま、巨獣を真っ向から止めんと突撃する。多少速度は遅くなったかも知れんが、焼け石に水である。
「うん、ちょいとそこをどいて欲しいのヨネ」
「!?」
ビー・フーが後ろを見たとき、そこにいたのはカービンと銃型光条兵器を構えたレベッカであった。
「いっくヨー、アリシア!」
「はい、術式展開。リミッター1.5まで解除。継続時間設定A。パワーブレスいきます!」
ズンッとレベッカの体が紅に輝き、銃身すら光が迸る。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ビー・フーがその場を飛びのくと同時に撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
塵芥に帰れといわんばかりに撃ち、巨獣の体を容赦なく吹き飛ばしていく。
「コイツはオマケだ! 取っときナッ!!」
挙句自作したのか、アサルトカービンにグレネード弾頭を取り付け、撃つ。
ゥトゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
「ぜぇ、はぁ……。キツイネ……、流石にコレダケ光条兵器を展開してるト……」
と、やるだけやりまくったレベッカが荒く息をつく向こうで、巨獣はその爪を振り上げていた。
あぁ、これは死んだなぁ……。等と、達観めいた感覚がレベッカを包む。
『あいや、大変お待たせした』
故に、後ろから聞こえた声もあの世の声の様に聞こえた。それほど、その声は澄んでいた。
キォッ
と、澄んだ音がした。レベッカの頭の上を光の柱が通り、まっすぐに巨獣へと突き進み、
「え?」
次の瞬間には巨獣の上半分がきれいに消し飛んでいた。
振り向いた先では、白いドラゴンの形をした繭に、大きな穴が開いていた。
『ようやく、私も空へと上がることが出来るのだな……』
メギリッと内側から力が加えられ、今まで彼を包んでいたそれが崩れる。
『数百年、これを見続けた……』
ヨウがその翼を広げ、天へと昇っていく。
白い体が上り始めた朝日を照り返し、光となって天へと向かっていった。
山を見るように、空を見るように、海を見るように、問答無用の美しさがそこにはあった。
「すごい……」
ようやく誰かが言葉を出すことが出来たのは、それから2,3分の時間が過ぎてからだった。
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