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第五章 李梅琳の憂鬱

 ここで教導団少尉李 梅琳(り・めいりん)と、その頼れる僚友エレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)の輝かしい経歴をご覧いただこう。


6月 先輩として新入生の訓練にあたる。後輩から慕われたり、憧れられたり、アプローチされたりした。


――以上である。

 なまじ優秀だった梅琳は、前線に出ることなく後方支援の任務を続けていたのである。すなわち書類を作成し、整理し、苦情を聞き、予算の間違いを見つけ、ツァンダの商人に交渉し、地図を描き、名簿をソートし直し、地球に苦情の手紙を送り、税金に頭を悩ませ、食料を試食し、名刺を刷り直し、訓練カリキュラムを検討し、上官に頭を下げる……といった日々を送っていたのだ。

 さてそんな鬱屈とした日々が続いて、気がつけば9月。
 ようやく梅琳に下された辞令はキマク行きだ。それもヴァイシャリーのラズィーヤからの協力要請らしい。
 胸躍らせて詳細を聞いてみれば……この有様だ。

 しかし梅琳はすぐに頭を切り換えた。
 各校の大物と面識を持つ絶好のチャンスではないか。


 そんな梅琳を指名したのは、デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)とそのパートナー、
ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)の3名だった。
 この日はコスプレの日ではなかったが、軍服で接客するわけにもいかないので、梅琳は珍しくドレスを着ていた。このあたりの事情は教導団員(特に女性であれば)に共通だったようで、デゼルは2枚衿ドレスシャツにジャケット、ルケトはジーンズにTシャツ、ルーは白のワンピースという格好だった。

「あなたのことは見覚えがあるわ――デゼルね。訓練では優秀な成績を残していたわ」
 ここまでは思い出したが、あとの二人には見覚えがなかった。
「あ〜……まあなんだ、こんなところで再会とは思わなかったぜ……コレ」
 そういって持参したアネモネの花束を梅琳に手渡す。
「ありがとう。気が利いているじゃない」

 挨拶が終わると、デゼルはコーヒーを、ルケトは果実ジュース、ルーは砂糖がたっぷり入ったヒラニプラ茶を注文した。梅琳は果実ジュースを頼む。

 上官相手に何を話したものかとデゼルが悩んでいると、ボーイのガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)が飲み物を運んできた。見たところまだ12歳程度のようだが、きちんとスーツを着こなしている。
「コーヒーひとつ、果実ジュースふたつ、それにヒラニプラ茶がひとつです」

 梅琳はとりあえずデゼルの近況など聞いてみる。後輩が今では騎狼部隊の一員として活躍していると聞いて、誇らしくもあり、妬ましくもあった。
話しているあいだじゅう、ルケトは何か不満があるらしく合間合間に皮肉を言い、ルーはデゼルにしがみついたまま
「るーちゃん でぜる わたさない! るー!!」
と梅琳を威嚇してきた。

 コーヒーを一杯飲み干したあたりで、意を決したデゼルが本題を切り出す。

「頼みがあるんだが……。コイツ(ルケト)に女っていうものを教えてやってくれないか」
 突然のことにジュースを吹き出しそうになる梅琳。
「な、何を言いだすの!?」
 しかしデゼルの表情は真剣だ。
 ルケトにとっても寝耳に水だったのだろう、ひどく狼狽して、
「そんなことのためにここに連れてきたのかよ!」
と怒鳴っている。
「あなたのパートナーでしょう。自分で面倒を見てやりなさいよ」
「そりゃあ、これの問題だ」
 自分の胸を親指でビシッと指すデゼル。ルケトはそれを見て露骨に機嫌を悪くした。
 梅琳は改めてルケトを見た。機晶姫だが、端正な少年の顔をしている。
「まあ、可愛い男の子だとは思うけど……」

「オレは……女だぁぁぁぁっっ!!」



「……行き違いがあったようだな。女らしさを教えてやって欲しかったんだがよ……」
「“らしさ”の3文字くらい省かないでよ……」
 そういうと、梅琳は花束からアネモネを一輪手折って、それをルケトの髪に挿した。


梅琳の売り上げ:800G



第六章 コーヒーを買いに

 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)がリリーハウスを訪れた理由は若干変わっていた。コーヒーが目当てだったのである。
 やっては来たものの、想像と違う華々しい雰囲気に戸惑うばかり。指名を聞かれた翡翠は、特に親しいわけでもないが桜井 静香(さくらい・しずか)を選んだ。人付き合いが苦手なので、写真を見て一番クセのなさそうな女の子を選らんだだけのことである……


「しっかりしてくださいな、静香さん」
 ぺちぺち。ほっぺたを軽く叩く音。
「ぅうーん……むにゃむにゃ……」
「静香先生、大丈夫でしょうか?」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が心配そうにしている。
 静香の様子を楽しそうに見ていたラズィーヤだったが、さすがに放ってはおけなくなった。
「仕方がありませんわね、静香さんは休ませてあげて頂戴。あとはわたくしと、百合園のコでお相手しますわ☆」


 翡翠を出迎えたのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だった。派手でない、上品で可愛いミニスカチュニックを着ている。
「いらっしゃいませ! 静香おねえちゃんはいま忙しいから、ボクがお相手します♪」
 びくっ、と翡翠の頬が引きつった。予想外の事態にパニックを起こしかける翡翠。
(いや、これはむしろ人付き合いの苦手意識を克服する機会です……まずはコーヒーを頼んで落ち着くところから……)

 というわけで、翡翠は当然のようにコーヒーを2人前注文しようとしたのだが、ヴァーナーは果実ジュースを注文してしまった。ついでに軽食としてサンドイッチ。

 コーヒーが来るまでのあいだ、ヴァーナーは翡翠の強ばった表情を見て、この場の空気を和らげようとした。

「翡翠おにいちゃん!」
「お、おにいちゃん!?(ピク)」
「そう呼ばせてもらえるとうれしいです!」
「(お、落ち着くのです)じゃあそれで構いません」
 そっけないかんじではあるが、刺々しさは出ないようにしたつもりだ。

 このあたりで注文したコーヒーが運ばれてくる。その香りで鼻腔を満たすと、だいぶ気が楽になった。
 落ち着いてから見ると、ヴァーナーは結構な美少女である。
 しかしその美少女にすり寄られ、膝の上に乗られようとしたりすると……なまじ美少女のほうが緊張せざるをえない。

 翡翠の精神はたいへん危うい均衡状態にある。

「翡翠おにいちゃんは、蒼空学園に通ってるの?」
「ええ、そうです」
「ボクは百合園に通ってるんです」
「そうですか」
「……百合園のこと、聞きたいですか?」
「別に」
「……じゃあ蒼空学園のことをお話してください」

 人に話しかけられるくらいなら、まだ自分で話したほうがマシかもしれない。そう割り切った翡翠は、聞かれることについて答えることにした。ヴァーナーにとっては男女共学というだけでも興味があるようだった。

 時間が来るころには、それほどストレスなくヴァーナーと話していることに気づく翡翠だった。


ヴァーナーの売り上げ:1800G