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第13章 敵か味方か

 『カンナ様劣勢』の報告を受けて、“カンナ様の使用人”ことシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)雨宮 夏希(あまみや・なつき)が駆けつけた。

「カンナ様には絶対に勝っていただきたい。それはそれとしてコスプレは和服で」
ということで環菜は慣れない和服を着ることになったのだが、一人ではどうしても時間がかかってしまう。環菜は面倒なので
「浴衣でいいんじゃないの?」
と言うのだが、せっかくなので和服に詳しいであろう信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)が着付けを手伝う。
「わぁあ、可愛いわぁ校長センセ」
 和装に似合うよう、日野 晶(ひの・あきら)が髪型をアレンジする。
「今日はメイド服に三つ編み、と考えていたのですけれどね」
といいながら、髪をまとめてかんざしを挿した。

 頑張りはしたものの、大幅な時間の消費は避けられない。慌てて駆けつけると、すでにシルバが日本酒を飲んでいる。

「私が来る前から飲んでいるとは、あなたも結構なご身分になったものね?」
 口ぶりは普段と変わらないが、着物のせいでただごとではない迫力が醸し出されている。
「あ゛あ〜、これは……売り上げで勝負をなさっている゛とのお話でしたがら……」
 シルバはすでにろれつが回っていないが、事情を聞いてしまっては環菜も強くは怒れない。この機会にデレておく練習でもするか、と思いつく。
「そ、そうなの。ずいぶん飲んでいるようだけど大丈夫?
 ……べ、別にあなたの心配をしているわけじゃないわ! ただ、私の使用人にみっともない真似をされたら困るから気にしているだけよ!」

 柱の陰から荒巻 さけが『その調子です』と合図を送っている。

 思ったほどカンナ様が怒っていないようなので、シルバはカンナ様をカラオケに誘ってみた。
「仕方ないわね……いいわ、歌うわ」

(そういえばカンナ様が歌うのって聞いたことないな……どんな歌を歌うんだろう)
とシルバが思っていると、曲が始まった。


『波羅蜜多ラプソディー』

(※都合により歌詞は表示できません。ご了承ください)


 夏希はふたりのデュエットを盛り上げようと、曲に合わせてタンバリンを叩いた。想定外の選曲にシルバは戸惑いながら、なんとか一緒に歌いきった。

「カンナ様はこういう歌がお好きでしたのですね。意外でした」
「別に好きってわけじゃないわ。ただ服装に合わせて選んだだけよ」
 夏希の質問に、環菜はつまらなさそうに答えた。



環菜の売り上げ:+4000G(計7100G)


 まだ余裕のある環菜に、次の指名が入る。今度のコスプレはシスター希望とのことで、大急ぎで着替えて戻ってくる。

 席で待っていたのはパラ実の巫丞 伊月(ふじょう・いつき)ラシェル・グリーズ(らしぇる・ぐりーず)だった。
「ご指名ありがとう、環菜よ」
 伊月はにやっとしてこう言った。
「あらあら、シスターとしてそのしゃべり方は、どうかしらねぇ〜?」
 環菜は少しムッとした。シスターっぽい口調と言われてもよくわからない。ルミーナがプリーストだったことを思い出して、参考にしつつ挨拶し直してみる。
「御神楽 環菜ですわ。あなたに神のご加護のあらんことを」
 ラシェルが今のやりとりをメモする。

 伊月はヒラニプラ茶、ラシェルは黄金の蜂蜜酒を注文し、さらに環菜のぶんとして果実ジュースを頼んでおく。一方的に酔わせようという魂胆だ。

「じゃあ早速だけどぉ、環菜ちゃんの初恋って何時? 相手は?」
 普段の環菜なら一喝するところだが、そういうわけにもいかない。
「シスターの身ですので、私が心を捧げているのは神様だけですわ」
 メモるラシェル。
(やるわねデコの子)
と内心思う伊月。しかし攻撃の手はゆるめない。

「山葉 涼司ちゃんは幼馴染って言ってるけど、環菜ちゃんはあの子を今はどう思ってるのかしらぁ?」
「涼司さんとは小中学校時代からのお友達です。それ以上の関係はありませんわ」
「ほんとにぃ?」
「ただ、あの子のことは今でも残念に思いますわ……」
 涼司には、妹のように思っていた女の子を事故で亡くした過去があった。花音・アームルートはその子によく似ていて、それだけに涼司の花音に対する想いは並々ならぬものとなっていた。
 つきあいの長い環菜は、その子とも面識があったし、涼司の境遇についても理解があったのだ。
 メモるラシェル。

「じゃあ最後の質問よぉ。

 なんでそんなにおデコを気にしてるの?」



 環菜がフッ、と鼻で笑った。

「あんまり蒼空学園をナメないほうがいいわよ。
 なんだったら今この場で、あなたが必死で隠している体重を発表したって構わないけど?」
 そういいながら紙ナプキンに秘密の数字を書き付けて伊月に見せる。

(なんで知ってるのぉ……! っていうかデコでマジギレするのぉ〜!?)

 メモろうとするラシェルを止める伊月であった。



環菜の売り上げ:+700G(計7800GG)




第14章 それはたぶん同姓同名の誰か

 李 梅琳(り・めいりん)、2日目のコスプレはラズィーヤの要望でチャイナドレスに。
 さて指名が入ったのでお客を出迎えてみると、教導団の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)であった。岩造は梅琳に会えたのがよほど嬉しかったらしく、興奮した様子で話し始めた。

「おお梅琳、久しぶりだな。まずはツァンダビールでも飲もう」
 そういうとツァンダビールを2杯注文。

「さっそくだ、教導団の栄光と俺たちの友情を祝して乾杯!!」
「か、乾杯……」

 岩造はあっという間にビールを飲み干し、二杯目を注文。しかし梅琳はビールに口をつけようとしない。

 ところでシナリオガイドを確認していただきたいのだが、このシナリオでお酒を飲めるNPCは「ルミーナ・レバレッジ」「アーデルハイト・ワルプルギス」「エレーネ・クーペリア」の3人(+パラ実のメンバー)だけである。李 梅琳はこのシナリオではツァンダビールを飲めない。
 そういうわけで、梅琳は複雑な表情でビールを見ていた。

「今のパートナー(フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる))と出会うまえは、おまえが俺のパートナーだったっけなあ。あのころは二人でよく師匠の関羽に戦い方を教えこまれたもんだ。あのとき厳しく鍛えられたこと、今では感謝しているぜ」
「は、はぁ……」

 岩造、さらに三杯目。

 『パートナー契約』とは“地球人とパラミタ人が”結ぶものである。岩造、梅琳ともに地球人であり、パートナーだったという事実はない。……どうやら、岩造は誰か別の梅琳と人違いをしているようだ。


 しばらくすると、岩造のパートナーであるフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が空手衣をまとって姿を現した。梅琳に負けまいとして彼女もドリームメイデンとなっていたのだ。

「岩造様、私の闘士としての姿を見てください!!!」
と言いながら演舞を始めるフェイト。酔いの回った岩造は、
「フェイトの空手衣は闘士は熱く感じてしまうなぁー」
とろれつの回らぬ様子でご満悦。
「あの……お花を摘んできます……」



「……梅琳ちゃん、どうしたの?」
「運命を切り開くのって、案外難しいですね……」
 保健室で梓先生と黄昏れる梅琳だった。



フェイトの売り上げ:500G