First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
☆ ☆ ☆
戦いが終わり、森に入っていた生徒たちは全員、蒼空学園に戻ってきていた。幸い、大きな怪我をした生徒はほとんどいなかったが、それでもかすり傷や打撲などを負った生徒たちは数多くいた。
黒 金烏がそれらのけが人の治療に当たっている。ルカルカ・ルー、カーチェ・シルヴァンティエ、ノエル・ミゼルドリットらも、ヒールを使って怪我人たちの回復に尽力を尽くしている。
☆ ☆ ☆
「かわいい! とにかくかわいい!」
ドラゴニュートの赤ちゃんを一目見ようと生徒たちが集まっている。
救出されたドラゴニュートの赤ちゃんは、佐々良 縁と佐々良 皐月、そしてカルキノスによって、蒼空学園に運ばれ、手当てを受けていた。
「大丈夫かな…赤ちゃん」
「かるきん、なに弱気になってるのぉ?」
「だってあんな目にあったんだぜ? 心配にもなるぜ」
おおきい体に似合わず、カルキノスはドラゴニュートの赤ちゃんが心配でたまらないようだった。
「大丈夫だよ、かるきん! 心配しないで!」
皐月がばん!とカルキノスの背をたたくと、カルキノスはごほごほ、と咳き込んだ。
ドラゴニュートの赤ちゃんは麻袋に詰められ長い時間拘束されていたため、脱水症状を起こしていたが、体の方はかすり傷程度で済んでいた。
「キュウウ…」
それでも、随分とおびえた様子で最初はまったく麻袋の中から出ても来なかったのだ。
「大丈夫。由香や、ここにいる人間はおまえをさらったヤツらとは違うんだ。ひどいことはしない。絶対おまえをお母さんのところへ連れて行ってやるからな」
同じドラゴニュートのルークが優しく語りかける。
早川 あゆみと、メメント モリーもそっと麻袋の外から、ドラゴニュートの赤ちゃんを撫でている。
「もう大丈夫よ、お母さんのところに帰りましょうね」
あゆみは赤ちゃんもだが、ドラゴンの母親がどれほど心配しているのか、同じ母親として気になって仕方ないのだ。
「そうだわ、私、ドラゴニュートの赤ちゃんに歌ってあげたい」
引っ込み思案だが人の役に立ちたいと今回の作戦に参加したヒメル・アズール(ひめる・あずーる)が提案すると、あゆみがその言葉に顔をぱっと明るくする。
「私も一緒に歌わせて」
そう言って、二人は二重奏でそっと子守歌を歌いはじめた。美しい二人のハーモニーはドラゴニュートの赤ちゃんだけではなく、戦闘で傷ついた生徒たちの心も癒しはじめた。
歌声やみんなの優しい気持ちに安心したのか、ドラゴニュートの赤ちゃんは麻袋からそっと顔を出し、モリーの顔をじっと見つめている。
「もしかして、着ぐるみのモリーが気になるのかしら?」
あゆみの言葉に、モリーが赤ちゃんを驚かさないよう、体をかがめていると、赤ちゃんがきゅう、きゅう、と声を鳴らしはじめる。すると周囲から、ふあああ〜っと安堵のため息が漏れた。
「う〜ん。これって、昔取った杵柄ってやつだよねぇ〜」
「これはどうかな? 赤ちゃん?」
ケイが火術で温かな灯火を作り、見せてあげると、赤ん坊であってもファイヤードラゴン。ドラゴニュートの赤ちゃんは目をキラキラと輝かせ、小さな焔をぽおっと吐く。
「おお、幼くともファイヤードラゴンの名に恥じぬ炎じゃな。疲れたであろう。唐揚げをたんと食べるが良い。うむ、他に欲しいものはないかの? 芋けんぴで良ければすぐに作ってあげよう」
美しい銀の髪をさらり、とかき上げ、カナタはふふ、とドラゴニュートの赤ちゃんを見て笑っている。
カーマル・クロスフィールドとデンカ・クロスフィールドの二人もドラゴニュートの赤ちゃんの顔を見にやってきた。怪我の治療をしているドラゴニュートの赤ちゃんを見て、カーマルはほっとした表情を見せた。
「良かった…無事だったんだね…」
「ご無事であられましゅか〜」
デンカは初対面となるドラゴニュートの赤ちゃんの顔を、カーマルの頭の上からのぞき込み、挨拶する。
クナイとレミが、ドラゴニュートの赤ちゃんのヒールを担当する。
「よしよし、痛くないでしょ?」
レミは優しく赤ちゃんを撫でると、周がレミの後ろからそっとドラゴニュートの赤ちゃんをのぞき込む。
「可愛いなあ!! この子、男の子かな? 女の子かな?」
「周くん! 見境なさすぎるよ! まだこの子は赤ちゃんだから手を出しちゃダメ! もう、そこに正座してなさい!」
「…はい」
レミに叱られて、これまたしゅん、と正座してしまう周に周りからどっと笑いが起こる。
「北都、ドラゴニュートの赤ちゃんです。ほら、とても可愛いですよ、それとも興味がないのですか?」
クナイの言葉に北都は苦笑する。
「僕は愛でる行為が苦手というか…よく判らないから。表面だけ繕っても、敏感なドラゴニュートには偽りだと見透かされるだろうからねぇ。可愛い物が好きなのは本当だけど、自信がないんだ。だから、遠くからクナイが赤ちゃんを癒すところを見るだけにするよ。それに今回の出来事、僕なりに調べたことを環菜校長や葉士官、マーゼンたちに伝えてくるよ」
「…切ないことを言いますね、北都は」
クナイの言葉に、北都はほんの少しの微笑みを浮かべて立ち去った。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last