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リアクション
一方、黄軍の陣地では、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が狙撃でディフェンスの人数を減らしたところに、紅軍の生徒たちが突入の機会をうかがっていた。
「閃光弾でも使えれば、投げた隙に突入できるのだが……」
どこから突入しようとしても身の危険を感じる状態で、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は唸る。
「ここは、俺の出番かな。ライゼ!」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)を呼び、黄軍陣地からの攻撃から守ってもらいながら外側のバリケードのところまで来ると、いきなり歌を歌い始めた。
「みんなおやすーみー、ねんねんよ〜♪」
「……何だ?」
外側と内側のバリケードの間に掘られた塹壕に潜んでいたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は、思わずその声に耳を傾けてしまった。急速に眠気が差してくる。
「これは……メイドの、『子守唄』……か……?」
まずい、と思った次の瞬間には、もうイレブンは夢の世界に旅立っていた。歌いながら、そっとバリケードから顔を出して内側を確認した垂は、手を振って仲間たちを呼んだ。
「はーいっ、今行きますぅ〜」
元気にお返事した後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)の口を、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が慌ててふさぐ。
「な、なに? もうこっちのディフェンス残ってないんですか?」
内側のバリケードの側から下の様子をうかがっていた月島 悠(つきしま・ゆう)のパートナー麻上 翼(まがみ・つばさ)は、紅軍の生徒たちがほとんど攻撃を受けずに外側のバリケードまでたどりついたことに驚いた。慌てて身を乗り出してモデルガンで迎え撃とうとするが、そこへ健勝の狙撃が命中する。
「ごめんなさい、当たっちゃいました……」
「気にするな、あなたの分も私が頑張るから!」
涙目になる翼を、棒を支えている悠が慰める。
その間にも、相変わらず狙撃手に徹している健勝の援護を受け、紅軍の生徒たちはバリケード内に侵入した。寝ているイレブンに手をあわせながらとどめをさし、ディフェンス担当を離れてオフェンスに加わったロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)とパートナーのアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)が、バーストダッシュを使って内側のバリケードに盾ごと体当たりをする。塹壕を掘った時に出た土を盛って補強したバリケードはなかなか壊せなかったが、何度かぶつかると、柱が根元からぼっきりと折れて、内側に倒れた。
「来たっ!」
『死守』と書かれた鉢巻を巻いた、黄軍ディフェンスの剣の花嫁百二階堂 くだり(ひゃくにかいどう・くだり)が叫んだ。
「ここを守り抜けば、まだ勝機はありますわ!」
ネット型光条兵器を手から下げた沙 鈴(しゃ・りん)が、棒を支えている彼女のパートナーの剣の花嫁綺羅 瑠璃(きら・るー)と、くだりのパートナーのビクトリー・北門(びくとりー・きたかど)、そして悠を庇うように立った。勝敗は棒が倒れたかどうかで決まるが、棒を支えている生徒に攻撃が命中すれば、その生徒は安置所送りとなるため、その分棒が倒れやすくなる。ここを守り抜けなければ、おそらく黄軍は敗北するだろう。
「みんな、頑張って!」
イレブンのパートナー、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、瑠璃とビクトリーと悠にパワーブレスを使う。
「だっきさま……」
樹理は、銃を構えた李鵬悠、そして弓矢をこちらに向けている妲己と対峙していた。
「彼女は、私が」
妲己は樹理を見つめたまま、鵬悠に言った。鵬悠は何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わずに銃口をロブに向けた。
「行くぞ、みんな!」
クレアの掛け声と共に、紅軍の生徒たちは攻撃を開始した。鵬悠とカッティはロブを撃ったが、ロブは盾を掲げてそれを防ぎながら、棒に向かって突進する。
「乱戦だと『子守唄』は使えないし、ここは正攻法かな!」
垂は残っていたペイント弾をすべて、棒を支えている生徒に向けて叩き込んだ。
「光条兵器も、こういう使い方なら反則ではありませんわ!」
鈴がネット型光条兵器を振り回して、ペイント弾を叩き落す。
「ビクトリーに弾は当てさせないぜ!!」
くだりはビクトリーに覆いかぶさり、ビクトリーに弾が当たるのを防ぐ。
「鈴さん、申し訳ありません! でも、戦うからには負けたくないのです!」
アリシアは、バリケードを倒した時同様、盾を構えてバーストダッシュで鈴に突っ込んだ。鈴もとっさに盾を構えて、それを受ける。二人はぎりぎりと盾で押し合った。そして、
「ごめんなさい、だっきさま! じゅりちゃん、竹やりあたぁ〜っく!」
樹理は、盾とランスを構えて妲己に向かって突っ込んだ。妲己の放つ矢を盾で受け、ランスで腹を突く。だが、それと同時に、妲己が最後に放った矢が、樹理のヘルメットに当たった。
「……おあいこ、ね」
妲己は静かに微笑む。
その間に、クレアとロブ、そして銃を捨てた垂は、棒を支えている生徒たちを踏み台にして棒によじ登った。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
頭を踏まれて、ビクトリーが叫ぶ。鵬悠が、三人を撃とうと銃口を向ける。
「危ないッ!」
ライゼが、鵬悠に飛びついた。そのまま、激しいもみ合いになる。
「うおおおおお!!」
ビクトリーが絶叫した。棒に登った三人が、棒を揺らし始めたのだ。
「こ、これは、きつい……!」
瑠璃が悲鳴を上げた。
「翼に約束したんだ、翼の分も頑張るって……!」
悠は歯を食いしばる。しかし、棒が傾いたところへ三人分の体重をかけられては持ちこたえられなかった。
黄軍の棒は、ついに倒れた。競技終了を告げるホイッスルが、演習場に響き渡る。
「だっきさま……」
複雑な表情で、樹理は妲己の前に立った。だが、競技開始の時と同じように、妲己は樹理の手を握った。
「後鳥羽さん、おめでとう。頑張りましたね」
「だっきさまぁ……!」
いろいろなものがこみ上げて来て、樹理はふえーんと泣き出した。
「ああ、ほら、泣かないでください」
妲己はポケットから出した汕頭刺繍のハンカチで、樹理の頬をぬぐった。
「す、すみませんだっきさま! ハンカチ、あとで洗っておかえしします!」
樹理は泣くのを忘れて飛び上がって恐縮し、それからコメツキムシのようにぺこぺこと頭を下げた。
「いいのよ。……そうね、このハンカチは、あなたに差し上げましょう。頑張ったご褒美です」
妲己は、ハンカチを樹理に差し出した。
「いいんですか? ほんとうに?」
樹理は涙に濡れた目を瞬かせた。妲己は微笑み、うなずいた。
「た、たからものにしますー!!」
樹理はハンカチを押し頂きながら受け取った。
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