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攻城戦・あの棒を倒せ!

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攻城戦・あの棒を倒せ!

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 しかし、黄軍の攻撃も、オフェンスの人数が減ったものの、相変わらず激しい。
 「ケーニッヒたちの作戦は失敗したが、諦めるわけには行かん!」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、パートナーの守護天使クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)に抱え上げてもらい、直接棒に取り付く作戦に出た。本来は、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)らが丘の地盤を緩ませて、棒を倒しやすくしたところで棒を狙う予定だったが、こうなっては仕方がない。
 しかし、
 「お、重たいですわ……」
 クレーメックを抱えて飛ぶということは、ヴァルナにとってはクレーメックを抱えて走るのと同じだ。抱えているだけで大変だし、スピードは遅く、動作も鈍くなる。とても、一気に棒の上まで飛んでいくようなわけには行かない。しかも、
 「ふん、そうはさせないよ! セシル、勝ったら購買でアイスクリーム奢るって約束、忘れないでね!」
 「そっちこそ、人にこんな肉体労働をさせておいて、負けたら承知しませんよ?」
 パートナーの守護天使セシル・グランド(せしる・ぐらんど)におぶわれて、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)が迎撃に上がって来る。しかも、長身のクレーメックを華奢なヴァルナが抱えているより、比較的体格の良いセシルに小柄な森次が背負われている方が、運動性能は上だ。
 「棒には絶対近づけないぞ!」
 森次が繰り出す槍を避けながら、ヴァルナとクレーメックはどうにか棒に接近しようとするが、避けるだけで精一杯だ。そのうちに、ヴァルナが疲れてだんだんと高度が下がって来た。
 「あの高さなら私でも!」
 棒の下に移動して上空からの攻撃を警戒していた月見里 渚(やまなし・なぎさ)は、狙いを定めて引金を引いた。何発か撃った後、ようやく当たったのは、ヴァルナがクレーメックを抱えていた腕だった。
 「きゃーっ!」
 疲れていたヴァルナは、悲鳴と共に手を離してしまった。落下するクレーメックを、エルダが飛び出してどうにか空中で捕まえる。
 「悪いが、一応決着はつけさせてもらう!」
 ヴァルナとクレーメックに、ヴォルフガングの放った弓が命中した。
 「くっ……」
 よりにもよってヴォルフガングの手で戦線離脱に追い込まれ、クレーメックは悔しそうに呻いた。
 「……君は、なぜ教導団に居るのですか」
 クレーメックと同じ『新星』のメンバーであるマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、弓を下ろしたヴォルフガングに複雑な表情で訊ねた。
 「軍隊には規律と秩序が必要不可欠です。多少窮屈ではあっても、教導団員ならば、金団長の定めた秩序に従うのは当然の義務であると思われます。どうしてもそれが気に入らないと言うのならば、教導団をやめて、別の学校に行けば良いのではありませんか?」
 「まず、我々が教導団の規律に違反していると言うのであれば、具体的に指摘したまえ」
 ヴォルフガングは口調は静かに、だが、激しい視線でマーゼンを見返して言った。マーゼンは息を飲む。
 「……そう、我々は何も、規律に違反はしていない。ただ、風紀委員と査問委員が、生徒でありながら教官並みに大きな力を持つこの学校のありかたに疑問と不満を抱いているだけだ」
 だからこそ、金鋭鋒も彼らを学校から排除することは出来ないのだ。
 「そして、我々がただ単に、中国系の生徒が大きな力を持っていることが面白くないから反発しているだけだと考えているなら、それは大きな間違いだ。……まだ戦闘は続いている。持ち場に戻りたまえ」
 きびすを返すヴォルフガングを、クレーメックを地上におろしたエルダが追う。

 「そろそろ、出番かしらね」
 黄軍陣地内で突撃の機会を伺っていた黄軍の一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、クレーメックが撃墜されたのを見て、パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)や、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)に声をかけた。
 「あっちは陣地の周囲の草が刈り込んであるから、どこまで行けるかわからないけど。どうせやられるなら、華々しく散りましょ」
 四人は、既に生徒の数が少なくなって来ている演習場を大回りして、紅軍の陣地の裏側へ向かった。陣地の周囲の草はサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)によって五分刈り状態にされているため、バリケードの手前で黄軍オフェンスの姿は丸見えになってしまう。しかも、紅軍のバリケードには銃眼があり、月実たちから紅軍のディフェンスの生徒の姿はほとんど見えない。結局、盾を掲げて弾の下を潜り抜けることになった。月実が背負っている盾に、ペイント弾がぺちぺちと音を立てて当たる。
 「そっちだけ隠れているなんて、卑怯だよっ!」
 リズリットがぶうぶう文句を言うが、守る紅軍も必死で策を練ったのだから、八つ当たりと言うものだろう。
 「壕がありますから、気をつけて下さい!」
 ルースとレーゼマンで盾を掲げて月実とリズリットをかばい、紅軍が本来の出入り口として作ってあった外側のバリケードの切れ目にたどりつく。
 「えいっ!」
 リズリットは、そこから陣地の中へ、うさぎのぬいぐるみ型の光条兵器を投げ入れた。ぬいぐるみは地面に転がる……と思いきや、地面の中にひゅーと吸い込まれてしまった。
 「お、落とし穴?」
 リズリットは目を丸くした。
 「陣地内にもとはえげつない……これは、内部にも色々仕掛けてあると思った方が良さそうですね」
 レーゼマンが呟く。
 「気をつけながら、急いで行きましょう」
 「オレが先頭に立ちますよ。一ノ瀬はオレが守りますから」
 ルースが申し出た。月実はこっくりと頷く。先頭にルース、しんがりにレーゼマン、その間に月実とリズリットが入り、高い内側のバリケードをより安全に乗り越えられそうな場所がないかと走って行くと、行く手を遮るように、大きな板が立てられているのに行き当たった。
 「『38×26は1000より大きいか?』……何ですか、これは」
 ルースが思わず足を止める。先頭が止まって、他の三人の足も止まった。
 「もらったぜ!」
 光学迷彩で姿を隠して四人をやり過ごした紅軍のディフェンス大岡 永谷(おおおか・とと)が、ランスでレーゼマンの背中を突いた。問題を書いた板は、永谷が青 野武に話していた『精神的トラップ』だったのだ。すかさず月実が応戦し、永谷とランス同士の激しい戦いになった。
 「ルース、リズリット、進んで! 止まっていたら敵の的になるわ! 誰でもいい、誰かが棒を倒せば勝てるんだから!」
 既に、紅軍のオフェンスが彼女たちの居る場所に集まりつつある。
 「わかりました!」
 「月実の分も頑張るね!」
 ルースとリズリットは、月実を後に残して前進を始めた。しかし、
 「ここは絶対に通しません!」
 盾とランスを持ったレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が、その前に立ちふさがった。その後ろからパートナーのエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)がルースの足を狙う。
 「おうわっ!」
 ルースは反射的に銃でエリーズを撃とうとしたが、
 「いやああああっ、エッチ!」
 エリーズが絹を裂くような悲鳴を上げたので、動揺して狙いを外してしまった。
 「え、え!? いや、オレは何も!!」
 「ごめんねー!」
 エリーズはちゃっかりと、ルースの懐にもぐりこんで、防具に剣を突き立てる。
 「……マジですか……て言うか、これはないでしょう……」
 ルースはがっくりとその場に座り込んだ。これでもう、リズリットを守る者はいない。
 「……蹴る……月実、後で絶対蹴り入れるっ!」
 レジーヌの槍でやられてしまったリズリットは地団駄を踏んで悔しがったが、これは月実の作戦に穴があったと言うよりは、紅軍の陣地が強固すぎたと言うべきだろう。