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【第7章・対決の行方】

 十数分ほど前のこと。
「そこだアル! フェル、サポートを!」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は、パートナーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)を餌に釣りを行っていた。
 イーオンは、光精の指輪をつかって魚を集め、下へ指示したりして頭を使いながら釣りをしていた。このとき追っていたのはクモヒラメ。
 アルゲオは「いきます……!」という掛け声と共に、打ち合わせどおり剣を針に見立てて口元に突き刺し、轟雷閃でしびれさせる。
 それでもまだ暴れるクモヒラメに、フェリークスと協力しながらしっかりと柄を放さないようにするアルゲオ。やがて、動きが衰えたところを見計らって、イーオンがドラゴンアーツで見事クモヒラメを釣り上げた。
 そして、現在。時刻はもう夕方頃で、辺りも赤らみ始めていた。
 暗い中での釣りは危ないと判断し、釣りを切り上げた三人は校長たちを探していた。
「結局釣果はクモヒラメが一匹とクモイワシが二匹だけ、か」
「ええ、しかしイオの指示が悪かったわけではないです」
「そうだな。あの場所にはあまり魚がいなかったのかもしれない」
 あまり満足のいく結果ではなかったようだが、それでも、
「まあいい。俺達のこの釣果は、校長達に謙譲するとしよう」
 そんな風に言うイーオンだった。
 そこへ、
「クモサンマの解体ショー! はーじまーるよー」
 のんびりした調子の声が聞こえてきた。見ると、ほとんどの生徒が集まっている。
 そこでは、敷かれたビニールシートの上で、東條カガチ(とうじょう・かがち)がバスタードソード(消毒済み)で豪快に解体を始めていた。
 まずはどーんとクモサンマの頭をとりアラをとっていき…………それだけで大仕事ゆえ、十分ほど時間経過後。巧みな剣捌きで身を捌いていくカガチ。そうしてまた数分ほど経ってある程度解体し終えた後、まずは脂の乗った一番美味そうな部分を刺身の形状にし、周りの生徒達に配っていた。
「ささ、ルミーナさん、アーデルハイトちゃんも是非ご賞味くださいませ!」
「ありがとうございますわ」「うむ! やはりクモサンマ、いけるのぉ」
 そんな二人に近づくイーオン達は、肝心の校長ふたりの姿が見えないのに気がついた。それを尋ねると、アーデルハイトは刺身をほお張ったまま別の一角を指差した。
 そこでは、大きな鍋がいくつか置かれていて、そちらにも生徒達が大勢いた。
 料理をしているのは陽神光(ひのかみ・ひかる)。彼女は3枚おろしにしたクモサンマを包丁でミンチ状にし、みそ、しょうが、卵、片栗粉、少量のお酒を加えてつみれをつくっていた。そして鍋の汁は味噌味、中にいれる具材は彩りと食べあわせを考えて、人参、大根、椎茸を使用していた。
 そのつみれ汁が、まさに出来上がってあとは食べてもらうだけという状況になったようで、そこにいた環菜とエリザベートに味見をしてもらっていた。
「うん、おいしいわよ」「完璧ですぅ、文句のつけようないですっ!」
 OKがでたのに喜ぶ光は、さっそく釣りから帰ってきた人につみれ汁を提供していく。
 そこへ、小型飛空挺を使い移動していた光のパートナーレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が、その場にやってきた。
「クモサンマをいただいてきましたよ」
「あ! ありがとうレティナ。そこに置いといてね!」
 レティナは言われるままクモサンマを置き、そして『とある場所』に目をやり、もうこれ以上は材料は必要なさそうだなと判断し、料理は苦手(味付けが)な彼女はつみれ作成のミンチ状にしたりする調理を手伝うことにした。
 そしてイーオン達も釣果を環菜とエリザベートに献上しておいた。
「ああ、悪いわね」「ふふっ、なかなか殊勝な心がけですぅ」
 それをふたりは、皆の釣果が置かれている『とある場所』に一緒に置いておいた。そこにある『それ』を見て、イーオン達は驚きを隠せなかった。
「これは……すごい……」
 それは雲のヌシ、クモバスだった。全長100メートルもの超巨体。蒼い光沢のその体はまさに空の王者といった貫禄で。他の10メートルクモサンマが霞んでしまうほどに、圧巻の姿を晒す魚であった。
「ほんとすごいでしょぉ? 私が釣ったんだからねぇ」
「釣り上げたのは皆で、でしょう。その辺り間違えないで欲しいわね」
「カンナうるさいっ! 釣り上げる時たいして役にたたなかったくせにぃっ!」
 そうして言い争い始めるふたりに、
「あ、校長先生! こっちにも来てくださーいっ」
 と、声をかけてきたのは別のところで調理をしている小鳥遊美羽(たかなし・みわ)と、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)のふたりだった。
 美羽は自分の光条兵器である大剣で手ごろな大きさにクモサンマをカットし、
 ベアトリーチェの方は熱した鍋にオリーブオイル、みじん切り玉ねぎ、にんにく、オレガノを入れて炒めつつ、次にトマト缶と赤ワインを加えて煮込み……それをミキサーに移してピューレ状にしていた。
 そしてそれにチーズ、片栗粉、塩、こしょうを加えて火にかけ、軽くあぶったサンマにかけて、ガーリックチップを乗せ……出来上がった料理は。
「どうぞ……あぶりサンマのトマトフォンデュです」
 相変わらず険悪調子のふたりだったが、それを食べるや、
「へぇ、おいしいわね。これ」「わぁ、はまりそうですぅ!」
 一気に頬をほころばせる。そして、
「よかったです、おふたりに喜んでいただけて」
「やっぱり美味しい料理を食べれば、それだけで心が落ち着いちゃうよねっ」
 ベアトリーチェと美羽のその言葉に、環菜とエリザベートはどちらともなく顔を見合わせ、微妙な苦笑いの表情になっていた。
 そうしてまたベアトリーチェは調理に戻り、美羽は近くにいた生徒に料理を配って、
「美味しいでしょー? 私が作ったんだよ!」
 と、さも自分が全部作ったかのように自慢していた。
 そこへ、高所のタシガン空峡に強風が吹き荒んだ。美羽の超ミニスカートの蒼空学園制服は、当然めくれ上がってくるわけで。料理を運んでいたので、どうしても押さえきれないわけで……。
 うっかりそっちに目をやっていたイーオンやカガチは、笑顔の美羽に、
「後で殺すからね☆」
 と脅される結果となったりしていた。
 そんな風に、和気藹々とする生徒達の様子を料理片手に眺める、環菜とエリザベート。そしてルミーナとアーデルハイトも近づいてきた。
「それで? 結局勝負とか対決とか……そういうのはどうするの?」
「ふ、ふんっ。こんな空気の中でそんな話するなんて、カンナは野暮極まりないですぅ」
「あらあら。ふふふ、確かにそうですわね」
「ま……クモサンマも食べられたし、ヌシも釣れたしのぉ。私は十分満足じゃが」
「それじゃ、引き分けでいいわね。後で文句はいいっこなしよ」
「今日のところはそれで手をうつですぅ」
「勝者は全員ということですね。美しいですわ」
「私はそういうのは好きではないのじゃが、今回はそれで終幕とするかのぉ」
 そうして、四人の間で起こった今回の釣り対決は終了した。

 ……かに思われた、その数日後。
「こ、これは……なんですぅ―――――――――っ?」
 エリザベートの叫びが彼女の部屋に轟いていた。
 インターネットのとある釣りサイトに、なぜかエリザベートの釣りの様子が公開されていたのである。ヌシを引き上げようとしている表情や仕草など事細かに映っていて、
  エリザベート校長キタ――(゚∀゚)―――!
  必死さ、燃え&萌え―――――――――!
 とかいうコメントでそのサイトは大いに盛り上がっていた。
「これはどうやら、してやられたようじゃな……」
 アーデルハイトの呟きを裏付けるように、一通のメールが届いていた。
『偶然あなたと会えてとても幸運だったわ。本来なら私が依頼人の為に、釣り場を盛り上げる予定だったのだけれど。あなたの必死さのほうがいい宣伝になるかと思って、サイトに映像アップしてみたら、大当たりだったわ。おかげで予想以上に釣り場にはお客さんが来てるみたい。依頼人からも感謝されたわ。ありがとう、それじゃあね。御神楽環菜』
 自分が結果的に利用されたと悟ったエリザーベートは、
「あ、あ、あの女ぁ―――――――――――――――っ!」
 環菜とはやはり相容れないようだと再認識したのであった。
                                                            おわり

担当マスターより

▼担当マスター

雪本 葉月

▼マスターコメント

 はじめましての方も、そうでない方もこんにちは、マスターの雪本葉月です。
 今回のテーマは『運』、そして『協調性』です。
 まずクモサンマ等の魚に関しては、事前にも多少記述しましたがサイコロの出目が大きいほど、デカイ魚や目的の魚などがGETできる確率が高くなるようにはからいました。数人で釣りをしていても、出目が多い方に魚は食いつく仕様です。その辺りはご容赦を。
 そして。ヌシに関してはパートナー、校長達、そして一緒に釣りをする皆でいかにして協力するかによって釣り上げられるかどうかという基準にし、本文のような結果としました。