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リアクション
第一章 それぞれの敵を見極めろ
「キュォォォォォォォォ」
刀の如くに鋭き鱗を身に纏い、大空を舞い雄叫びをあげるは五聖獣が一つ、「黄水龍」である。
パラミタ内海ヴァジュアラ湾に突如現れた巨大な龍に一同の誰もが瞳を奪われていた。
見上げ見つめて見とれながらアリシア・ルードに問い呟いたは百合園女学院のナイト、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)である。
「あの美しい龍は、一体何なのです?」
「文献でしか見た事はありませんが、おそらくは……黄水龍」
「文献……ですか?」
「はい、黄水龍は青龍の女王器が具現化した姿だと言われています。青刀の双岩に封じられし龍が黄水龍だったとは存じませんでしたが、」
アリシアが言う最中に、巨大なシーサーペントが海中から跳ね飛びて来た。裂ける様に開いた口が2人へ向かい来たのだ。
シーサーペントの姿を捉えて認識をした、その瞬間がセリナの体を硬直させた、アリシアも同様の事だったのだろう、動きが止んでいた。
飲み込まれる。跳びて向かいた勢いのままに、セリナに襲い掛かるシーサーペント。
2人が大きく瞳を見開いた瞬間、シーサーペントの体が勢い良く弾けて飛んでいた。
「大丈夫か? あぁ、失礼しました、大丈夫ですか? アリシアさん」
シーサーペントに一撃を入れたのは蒼空学園のセイバー、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)である。両手でハルバードを構えながらに振り向いて言った。
「湾内に大量のシーサーペントが居ます、シーワームの姿も見えました。危険ですから下がって下さい」
湾内を見渡せる岩場の先、すなわちそれは海中からも姿を見る事が出来るという事であるからして。
「フェリシア、パワーブレスを頼む」
「えっ、でも……」
2体のシーワームが海面を飛び出した。シーサーペントよりもずっと小柄だが、大きな牙が2つ、そして細かな歯がびっしりと生えている。
「どうしてワームに牙が、生えているんだっ!」
ウェイルのハルバードがシーワームを両断する。それでも自分の体ほどもあるシーワームの皮肉、やはり固く重く感じた。
「フェリシア、早く! パワーブレスだ」
「ダメ…… ダメだよ、ウェイル!」
ウェイルの背を見つめながら、悲を抱いて叫ぶのはウェイルのパートナーでプリーストのフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)である。その只ならぬ声と色にウェイルの拳は握りを緩めいていた。
「フェリシア?」
「だって、私、さっきキュアポイゾンを使ってる。パワーブレスも使ったら、もう、ヒールが使えない」
魚人たちが急に変貌して暴れ出した、その原因を調べる為にフェリシアは魚人の一人にキュアポイゾンをかけたのだ。魚人たちの変貌が、毒性のある何かを原因とするならば、キュアポイゾンで正気に戻るはずだ、という推測であったが、結果は魚人に変化は無し、全くに効果が無かった。
消費SPを考えた時、フェリシアはパワーブレスとヒールの両方を使う事は出来ないのだ。
「心配するな」
向けたままの背。微かに見えるウェイルの横顔は優しく笑んでいた。
「誰も傷つかない。フェリシアも、俺自身も守ってみせる。ヒールを使う場面なんて無いんだ」
「私も協力しますわ」
セリナが光条兵器を構えて並んだ。セリナは5メートル近い巨大なランスを水面を撫でる様に滑らせた。
「誰かが傷つく姿は見たくありません」
柔らかい瞳を鋭くしている、そんなセリナの姿にウェイルもフェリシアも心地よく奮い立たされた。
「フェリシア」
「うん! 行くよ、ウェイル」
フェリシアがウェイルにパワーブレスを唱えた。
ウェイルにフェリシア、そしてセリナ。海面へ向かう3人背を見てから、アリシアは宙を舞う黄水龍へと瞳を向けた。
「あの龍は、俺たちにやらせてくれ」
小型飛空艇に乗り込みながら、蒼空学園のセイバー、葉月 ショウ(はづき・しょう)はアリシアに声を投げていた。
「あんな龍と戦えるなんて。楽しくなってきた」
「あなたたちだけでは、危険だと思いますが」
「危険じゃない戦いなんて無いでしょう、それに、そんな事も見えなくなる程に、あの龍は魅力的だ」
「その考えには大いに賛成、賛同しよう」
アリシアとショウの背後から、高圧的な声を発したのはイルミンスール魔法学校のウィザード、ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)である。彼は今、縛られている、地に寝転がり、見上げながらに自信に溢れた表情をして、高圧的な声を発して。縛られている。
「もっとも、僕は龍の背に乗る男に興味がある。あの男は何者だ?」
「分かりません。しかし彼には、黄水龍の暴走を止める素振りが見えません、すなわち黄水龍の行いは彼にとって不都合では無いという事なのでしょう」
答えたアリシアは見下ろしながら。ブレイズのパートナーでセイバーのロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)と、ナイトの成田 甲斐姫(なりた・かいひめ)もブレイズの前に立ちて空を見上げた。
「物騒で、気分の悪い笑い声を上げたのは彼、ですね」
「なるほど、龍の暴走だけでなく、龍の出現にも関わったやも知れんという訳じゃのう」
「倒すべきは彼、という事ですね」
「その通り、だが、ロージー、その前にやるべき事が……」
ブレイズの言葉尻はエンジン音に掻き消されていた。ショウの小型飛空艇に乗り込んだガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)は離陸の準備を終えようとしていた。
「お兄ちゃん、いつでもイケるよ」
「よし、俺たちは行くぜ、あんまり待たせると駄々をこねそうだからな」
「えっ、僕そんな事しないよ」
「ガッシュじゃない、龍の事を言ったんだ」
小型飛空艇が宙への飛び走りを始める。それを見たロージーは空飛ぶ箒を取り出し、甲斐姫はロージーに手を差し出して体勢を整えた。ブレイズは、そう、転がったままに。
「相手の武器も戦闘スタイルも分からぬ。慎重にのう」
「了解です。行きます」
「行きます、じゃない!縄を解け、今すぐに、お縄を解くんだ!!」
もぞもぞ、などではない、バタンバタンとブレイズは体をくねらせていた。
黄水龍の翼風は刀状の氷術を含んでいて、それはまるで氷柱のように鋭く巨大な氷矢が次々に水面に刺し入られているようであった。
雄たけびと共に黄水龍は水面に向かって落ち進んで行った。
黄水龍の出現と共に揺れが止んだ洞窟内では、生徒と魚人との戦いが再開されていたが、戦況としては大神殿のそれが、生徒たちにとっては最も悪いと言えるものであった。
生徒数名を、数え切れない程の魚人が集まり囲んでいる。魚人の誰もが目に殺気を帯びており、己が仕掛ける機会を計っているようだった。
石柱の通路の先には階段があり、そこを登れば玉座が一つ、そしてその上部には青刀の双岩の下部が洞窟内天井から生えるように突き出ている。今は真っ赤に染まった双岩の間に、黄水龍が湾の空まで昇った際に破り開けた穴が開いている。突き破った岩盤が周囲の岩をも隆起させ、洞窟内から空までの通路を作ってしまったようである。海水が流れてくるではなく、通路の先には太陽の光が見えていた。
「これは……、規格外すぎるな」
通路の真下から光を見つめて閃崎 静麻(せんざき・しずま)は声を上げた。蒼空学園のソルジャーである。手に持つアサルトカービンの感触が、それを短剣で防いだフラッドボルグの動きと表情を思い出させて、彼の目頭を強張らせた。
ついた膝を伸ばしながら立ち上がったは、同じく蒼空学園のローグ、樹月 刀真(きづき・とうま)である。彼はフラッドボルグに不意打ちを受けたの腹ではなく、頭部に手を当てていた。
「全く、長い事、人を踏みつけやがって。絶対に許さねぇ……、あっと失礼、絶対に許しません」
「別にどっちでも構わないぜ。それよりもコイツは、なかなかにヤバイんじゃないか?」
静麻は階段の下を見下ろした。魚人に囲まれた生徒たち、その中にはベルバトス・ノーム教諭の姿もあったが、共に身動きが取れない様である。
また少し離れた所には、数名の生徒が魚人に取り押さえており、その中には刀真のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の姿も見えた。
「月夜は……、捕えられたままか。はっ、ルファニーは?」
「あそこだ!」
静麻が指差した先、階段の最下段に差し掛かろうとしている魚人の集まりがある、その中にルファニーの後姿があった。それは彼女が魚人たちを操っている事の裏付けであるように、魚人たちが彼女を取り囲み、正に守護していた。
刀真は強くバスタードソードを握り構えた。4体の魚人たちが階段を駆け登ってきたからである。
「まずは月夜を助ける、それから教諭の援護にまわる」
「あぁ、それが良い。俺はもう一工作、させてもらうぜ」
刀真は段下へ飛び出すと、迫る魚人を跳び越えて月夜の元へと駆けた。同時に静麻は刀真とは逆方向に駆けて魚人たちの視界から姿を消したのだった。
刀真が宙を舞った時、魚人の拳をホーリーメイスで受け弾かれたのはイルミンスール魔法学校のプリースト、和原 樹(なぎはら・いつき)である。弾かれた体を受け支えたパートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)に礼を言いながら愚痴も零した。
「一撃が重いすぎる。!!!!」
「はぁっ」
追撃を狙った魚人に対し、フォルクスが足元に氷術を放ち、牽制した。
「樹、雷術は使ってもいいか」
「あぁ、仕方がない、ただし気絶させる程度にしろよ。ノーム教諭!!」
二人の後方で腕組みをしている教諭に樹は怒声を投げた。
「どうするんだ!どうするが良い!!どうするつもりだ!!!」
投げかけられた教諭は頬を緩めて笑み言った。
「ふぅむ、君はどうすれば良いと思うかぃ?」
「どうすればって。まずはここを突破して脱出する、だろ?!」
「そうだねぇ、それが良いだろうねぇ」
「何を呑気に」
「脱出は、急いだ方が良いだろう」
フォルクスが天井を見上げる。黄水龍が起こした揺れが洞窟内の崩壊を起こしていた。天井からも岩が落ち始めている。
ハルバードを構え、息を切らして戻ってきた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、魚人を睨みながらに教諭に問いた。
「教諭は、この状況を予想していたのですか?」
「そうだねぇ、大方予想どおりで。まるで面白くない」
「魚人たちに取り囲まれる事もですか?」
「もちろん。駒が集まったら始めよう。それまでは待機だ」
「待機って、そんな悠長な」
驚きを浮かべる優希の表情にもお構いなしに、教諭は徐に「声帯ガチガチ換エル」を取り出して口元に当てた。
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