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蒼空歌劇団講演!

リアクション

 吹雪姫が王子様を見つけても、白雪姫が目覚めるまでは終わらない。
 舞台上段、エレベーターのように上下する舞台装置に乗って、奈落から樹月刀真(きづき・とうま)とパートナーの玉藻前(たまもの・まえ)が登場した。刀真はブラックコートを着て、プロレスマスクで顔を覆っている。役名は黒き魔王Gブリンガーだ。玉藻前は黒いローブを目深にかぶり、片手にリンゴを持っている。役名は魔女との事。
 舞台上の役者たちは「なんだ、ありゃあ?」と危機感ゼロだったが、恐怖の時間はここから始まるのだ。
「俺の名は『黒き魔王 Gブリンガー』この黒きG剣で貴様らを討つ! さあっ覚ゴフッ」
 刀真が名乗りを上げて光条兵器の黒い片手剣を出した瞬間、ターンと音がして床に倒れた。
 樹月刀真、再起不能(リタイア)
 早ええ!
「月夜、刀真が白目剥いて倒れたぞ! どうすれば良い?」
 もう一人の刀真のパートナー漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)に、玉藻前は携帯で連絡を取った。
「私の剣をゴキブリと同列に扱わないで!」
「あの、月夜?」
「刀真はいいわ。玉ちゃん、私の邪魔をする者は何人たりとも生かしておかんと言って一人ずつ指差して」
「ん? こうか? 私の邪魔をする者は何人たりとも生かしておかん」
 玉藻前がそう言って、ユリを指差すとターンと音がして彼女は床に倒れた。
 ユリ・アンジートレイニー、再起不能(リタイア)
「ユリ! リリ、ユリは一体何をされたんだ。大丈夫なのか?」
「ララ、これを見てくれ……」
 リリは側に転がっていた弾丸を、ララの目の前に持って来た。
「模擬弾であろうな。当たると失神するぐらい痛い弾だ」
 狙撃者・月夜は二階客席に身を隠していた。
 スナイパーライフルを手に、シャープシューターを用いてヘッドショットを狙っているのだ。
「うむ、コレはコレで面白い。私の邪魔をする者は……」
 玉藻前がまたしても指を指す、ターンと音がして狭霧は倒れた。
 氷翠狭霧、再起不能(リタイア)
「このまま好きにはさせへんで! とっておきを見せたるわ!」
 そう言うと、社は懐から星形のボール紙を取り出し、雷術で全身に稲妻を走らせた。
 何故、星を出したか。気になる所であるが、気になるまま置いといて欲しい。 
 幾度となく宙返りをしながら、玉藻前のいる上段に社は飛び込んで来た。
「折角、楽しくなって来たのに、邪魔をする気か?」
「ちゃうわ。俺やなくてそっちが邪魔しとるっちゅーねん!」
 玉藻前は指差して社を狙撃の対象にするが、動きが素早く捕らえる事は出来なかった。
 社はくるくるとバク宙を繰り返して、狙撃を回避し、その内に玉藻前が使った舞台装置の穴に落っこちた。
「無敵でも落とし穴は無理やでええええええ!!!」
 日下部社、再起不能(リタイア)
「そこまでにしてもらおう! これ以上の殺戮を私は決して許さない!」
 ララは怒りで震える唇を噛み締め、玉藻前に剣を突きつけ言い放った。
「一体何の目的があってこんな事をするんだ!」
「花音ちゃんのためよ!」
 玉藻前の携帯から月夜の大声が聞こえた。
 舞台上の人間に一斉に睨まれたのを感じつつ、涼司は質問した。
「な、なんで花音が出てくんだよ……?」
「花音ちゃん放ったらかしにして、涼司くんだけ王子様なんて許さないんだから。だから私たちは、花音ちゃんを白雪姫にするの。花音ちゃん意外のお姫様も、涼司くん意外の王子様もいらないんだから。私がヘッドショットで二人だけの世界を作ってあげるわ! あ、涼司くん、花音ちゃん舞台袖に来てるからね!」
 気持ちはわからんでもないが、他の役者陣にしてみればいい迷惑である。
「……と言うわけで、私の邪魔をする者は何人たりとも生かしておかん」
 ターンと言う音と共に、ララは倒れた。彼女は倒れる時も美しさを忘れなかった。螺旋を描くように回転しながら倒れた。客席から「キャー! ララ様ーっ!」といつの間にか定着したファンから悲鳴が上がった。


 ララは ララは 気高く咲いて
 ララは ララは 美しく散る



 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)、再起不能(リタイア)
 ララが倒れたのを確認し、月夜が弾を再装填しようとした時、彼女の頭に銃口が突きつけられた。
「よくも狭霧をやってくれたねぇ……!」
 眉間にしわを寄せたジェニス、その隣りで礼香が引き金に手をかけた。
「あれだけ大声を出せば居場所はわかります。覚悟はいいですね?」
「待っ……」
 何か言おうとした月夜だったが、ターンと言う音と共に、その場に崩れ落ちた。
 漆髪月夜、再起不能(リタイア)
 唐突だが、涼司は舞台を放り出して花音の元へ行ってしまった。
 山葉涼司、再起不能(リタイア)



 涼司王子には三人の従者がいる。隼人、ウィング、黎の三人であるが、涼司が花音への言い訳に行ってしまったので、彼らは主人を失ってしまったもう舞台に出てる役者の数も減っているので、独り立ちするのかと思いきや、残った王子にそれぞれ仕える事となった。
 さあ、もうラストは目前。
「ちょっと待ったァー!」
 ここでまさかのちょっと待ったコール。
「皆様、重要な登場人物を忘れてるわねっ? そう、白雪姫には双子の妹がいたのですわ!」
 四方八方からライトを浴びて、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が満を持しての登場だ。彼こそ三人目の黒雪姫である。ストレートロングのウィッグに体型の目立たない黒系でボリュームのあるドレス。童顔底身長のため大変よく似合っているが、言っとくが彼はれっきとした少年である。
 横に並んでいるのは、パートナーのヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)。狩人役だ。一幕での狩人不在の秘密が今明らかになったわけだが……たぶん誰も覚えてない気がする。劇にはあまり、いや、かなり乗り気ではない。


 同じくその美しさを妬まれて城を追い出された、黒雪姫
 追っ手だった狩人さんと森の中でひっそり暮らしていました
 けれど、美形の王子がやってくるという噂を聞きつけてやってきたのです



 ナレーションが入ると、ウィルネストは客席に向けて両手を広げた。
「あたくしこそが真の主役……、白雪姫の双子の妹、黒雪姫ッ!」
「え、えーと、こちらにおわす姫こそが真の……主役であらせられます?」
 投げやりな感じで、ヨヤはウィルネストを紹介した。
「……で、俺は何をすればいいんだ?」
「狩人の仕事は一つに決まってんだろ。愛美をヒロインの座から引きずり下ろして来い!」
 憮然とした顔のレイディスとトライブが、ヨヤを睨んでいた。
「で、おまえは?」
「王子様のキスをもらってきますわよ!」
 ウィルネストの目が怪しく光った。ターゲットは勿論女子王子の二人。しいて言えば、りを。
「気のせいかなぁ……、ウィルくん。私たちの事見てるような……」
「気のせいではありませんし、私たちではなくあなたですよ?」
 こうなったら、りをは必殺甘えんぼな妹攻撃を……。
「それは逆効果だからやめたほうがいいです」
 ここで長らく舞台から忘れ去られていた彼らが再登場する。いや、正確に言えば、彼らはずっと舞台の上にいた。ただ、彼らの活動が本筋とまったく関係なかったので特に触れられなかっただけだ。現によく見れば、れみりゃ姫こと九ノ尾忍が、さっきからずっと客席の紳士達からおひねりを頂戴している。
「おっと、手が滑りましたぁ!」
 譲葉大和演は、ティータイムで出した紅茶をウィルネストにぶっかけた。
「あっつー!!!」
「おお、これは失礼しましたね、手が滑って」
「絶対わざとだろうが! 大和! 思いっきり身体ごと来てたじゃねぇか!」
「ふっふっふ。征服の前に、白雪姫一族の血は根絶やしにしておきませんとね」
 そう言うと、大和は再びティータイムで紅茶を出した。
「摂氏98℃のお紅茶で、身体の芯まで暖まってくださいね……!」
「奇遇だなぁ……、俺もおまえを暖めてやりたくなったぜ」
 ウィルネストは両手に火術で炎を集め始めた。
 だが、彼は集めた炎を床に投げつけた。煙幕代わりに、大和の目をくらませたのだ。男とケンカするより女の子とキス。天秤に乗せるまでもない真理である。りをを見つけたウィルネストは光の早さで接近した。
「さあ、王子様。わたくしに熱いキッスを!」
「お、追いかけて来ないでよぉ……」
 追いつめられたりをは意を決してウィルネストの胸に飛び込むと、首筋にキスをした。
「おお! この柔らかな感触は……、ああ……、なんだか力が抜けて……」
 正確にはキスではない。りをは首筋に噛み付いていたのだ。吸精幻夜である。
「大人しくして、ウィルくん!」
「おう、俺、大人しいぜ!」
 ウィルネストは焦点の合わない目で、親指を力強くおっ立てた。



「革命の時は来たっ!」
 期を待っていた隼人とウィングは、礼香とジェニスに背後から峰打ちを食らわせた。
「な、何をするんですか……?」
「何って最初っからこのつもりだったんだよ」
 従者としてキスに一番近い王子役を徹底的にマーク。いざとなれば、美味しい所だけを頂戴する。それが彼らの計略。やはり舞台の上は速蛇の巣である。権謀術数がぐるぐると渦巻く花道なのだ。
「しかし、まさかウィングもこんな事を企んでいたとはな」
「それはこっちの台詞ですよ。ここからは早い者勝ちですからね」
「わかってるぜ!」
 目指すは愛美の眠るガラスの棺。
 二人は走り出した。だが、すぐパンと乾いた音がして、隼人が床に突っ伏した。
 客席に光条兵器の銃剣を構える、隼人のパートナー、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)の姿があった。
「べっ、別に隼人がキスをする事が気に入らないわけじゃないわよ! 隼人がお話をぶち壊したのが許せないだけなんだから!!」
 風祭隼人、再起不能(リタイア)
「これはもしかして、私の一人勝ちコースなのでは!?」
 半ばスキップまじりに走るウィングであったが、世の中そうそう甘くはないのだ。
「渡る世間は諸行無常っ!」
 背後から錫杖が振り下ろされた。
「こんな所で遺体に不埒な真似をする同僚を持った覚えは御座いません」
 黎はそう言うと、袈裟を脱ぎ捨てた。その下には騎士装束が着込まれていた。
「僧侶とは仮の姿。我は騎士、誰かの守護の盾である事を旨とする者」
 ウィング・ヴォルフリート、再起不能(リタイア)
「おい……、レイディス。なんだか全員居なくなっちまいそうな感じじゃねぇか?」
「別にいいだろ、トライブ。愛美の無事は保証されるんだしさぁ」
「でも、白雪姫の舞台が終わらないじゃねぇか……」
 ごくりとつばを飲んで、トライブは愛美を見つめた。
「妙な事考えてるんじゃないよな……、トライブ?」
「な、何の話だ。俺は別に何も……」
 レイディスは目を細めて、トライブの喉元にバスタードソードを突きつけた。
 そして、最後の登場人物にして最後の王子役、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が登場した。
 ヴァーナーはとてとてとガラスの棺の前に来ると、変な空気のレイディスとトライブには構わず、愛美のほっぺたにちゅーをした。同時にぎゅっとハグもして、愛美にヒールをかけた。
「あれ、ここは……」
 目覚めた愛美に、ヴァーナーはニッコリ微笑んだ。
「もう大丈夫、みんなで幸せになろう」
「ヴァーナー、お前、キスしちゃったの?」
「俺たちが今までして来た事って一体……」
「うん、二人にもしてあげるね」
 腰砕けになったレイディスとトライブにも、ヴァーナーはほっぺにちゅーをしてあげた。それから、舞台上で気を失ってる団員達にもほっぺにちゅーとヒーリングハグ。そうこうしてる内に、舞台に再起不能組がぞろぞろと現れ始めた。全員ヴァーナーのちゅーとハグ済みである。
「白雪姫! あなたの母よ! 魔法が解けて元の姿に……!」
「ああ、ついに親子の感動の再会です……!」
 確か本当の王妃のサフィが、おおよと涙をこぼしつつ愛美を抱きしめた。
 クライスもその後ろで感動の再会に涙でハンカチを濡らしているのだが……。
「えっと……、誰だったかな……?」
 寝起きの愛美は、今までの流れをよく思い出せないようだった。
 とそこへまだ目覚めていない王大鋸が運ばれて来た。
 先ほど全裸で気を失ったため、白い布がドレスのように巻かれている。
「可哀想に悪のメガネに操られてたんだね。ボクのちゅーで目覚めておくれ!」
 ヴァーナーがちゅーすると、大鋸はむくりと起き上がった。
「……ん? 俺様どうしちまったの?」
 大鋸はまだぼんやりと寝ぼけているようだ。
 そして、さりげなく全ての罪をなすり付けられたメガネは、未だ彼女に弁解中であった。
 ヴァーナーはとことこ舞台の中心やってくると、両手を広げて客席に向かって叫んだ。
「白雪姫はちゅーが世界を救うお話なんです!」



 めでたし めでたし