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【十二の星の華】シャンバラを守護する者

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者
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第4章


 村の外れではメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の提案で救護用のテントが設営されていた。
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)や無事な村人と共に張ったので、出来るのは早かった。
 近くにあった集会所から運動会などに使う様な大きな白いテントだ。
 さらに、英希とジゼルに協力してくれると言ってくれた他の集落の人達も来て、森の木々や草を伐採し炎をこちらにくるのを防いでくれたのだ。
「手伝い感謝する」
「なぁに、こっちこそ娘を助けてもらったからな」
 ジゼルの言葉に手伝ってくれると申し出てくれた男が返した。
「全てが終わったら近隣住民同士で一杯引っ掛けたいものだな」
「良いねぇ、あとでそう声を掛けるかな。ここの村の奴らもこれじゃあ食べ物とか必要だろうし」
 そう男は言うと一番近くにいた伐採中の男に話しかけ、自分達の村から食べ物を持ってくるように指示をしていた。
「う〜ん、やっぱり俺の策って決まるよねぇ〜」
 英希は楽しげに言うと、ドラゴンアーツを使って近くの木を伐採していった。
「……今年の抱負は世界征服ーとか言ってたが……こんなんで出来るのか?」
 ぼそりとジゼルは呟いたが英希の耳には全く入っていなかった。


「はい、どうぞ? あったまるよ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)はテントの近くで温かい飲み物を配っている。
 少しでも皆の不安を和らげようという気遣いだ。
 コンソメスープやコーヒー、紅茶を大きな鍋いっぱいに作っている。
「ありがとうね、お嬢ちゃん」
 紙コップを受け取るとおばあちゃんは笑顔でお礼を言う。
「私達も手伝うわ!」
 村の女性達も気付けばセシリアの周りで飲み物を配りだした。
「がんばろうねー!」
 セシリアはその様子を見て、嬉しそうに声を上げたのだった。
「急患ですわーーっ!」
 そこへ、救護対象者をテントに案内していたフィリッパが他の村人と一緒にやってきた。
 タンカの上にはあらぬ方向へと曲がった足と、うめき声をあげている男性がいた。
 急いでテントの中へと運ばれていく。
 中では声を聞いていたメイベルが待ち構えていた。
「大丈夫ですからねぇ! 足以外に具合の悪い所はありませんかぁ?」
「頭が……割れるように痛い……」
 よく見ると痙攣も起こしている。
 メイベルは確認してからナーシングを使う。
 徐々に痙攣がなくなる。
「和子さん、ヒールお願いしますぅ」
「任せて!」
 顔色がピンクではなくなったのを見て、鹿の治療が終わったばかりのカッチン 和子(かっちん・かずこ)に応援を求めた。
 和子は様子をメイベルに簡単に聞き、足にヒールを使用した。
 患者の顔からはだんだん眉間の皺がなくなってきた。
「ふぅ〜……もう大丈夫だからね!」
「ありがとうございました!」
「適材適所だよね!」
 そう言うと、2人はハイタッチをして自分の位置へと戻って行く。
 すぐにまた治療の必要な人がやってきた。

「はぁっはぁっ! 真奈! 宜しく」
 バーストダッシュでテントにやってきたのは七枷 陣(ななかせ・じん)だ。
 脇には子供が抱えられている。
「大丈夫ですか? すぐに良くなりますからね」
 意識はあるがぐったりしている子供を見て小尾田 真奈(おびた・まな)が優しく声を掛ける。
 子供を横にならせようとしたが、布団が足りず、そのまま陣の腕の中での治療となった。
 愛の宿り木を使用し、即座に回復を図る。
「おねえちゃん……ありがとう……おにいちゃんも」
 まだ体は重そうだが、少し元気になった子供はにこりと笑って2人にお礼を言った。
「顔色がよくなって何よりや!」
「無茶はしちゃダメですよ」
 陣はぐしゃぐしゃと頭を撫で、真奈はほっと胸を撫で下ろし笑いかけた。
「ご主人様もです」
 真奈はすぐに行こうとする陣を引きとめSPリチャージを掛けた。
「おう! サンキューな。……グランさんは、動きなし……と。んじゃ、行って来る」
 グランへと視線を向けてから陣はテントの外へと出た。
 外では薬屋のおやじがぽつねんと立っていたのが気になったようだが、助けを求める声が聞こえたので、そのまま向かって行ったのだった。

 テントの中ではまだまだ、治療が続けられている。
「あれ? そういえば、ボビンは――」
「和子様、お願いしますわ!」
「はいっ!」
 和子はパートナーであるボビン・セイ(ぼびん・せい)の姿が見えないのを心配して探そうとしたが、フィリッパの連れてきた動物によって中断されてしまった。
「ふ、ふわぁ〜……っと」
(小さすぎる俺に何が出来ると? 治療してる人とか子供に踏みつぶされるだけだって。ここで大人しくしてる方がお互いの為――ん?)
 とうのボビンはグランのカバンの中で欠伸をしていたが、何やら声が聞こえたので考えるのをやめ、聞き耳を立てた。
「グランは何かホイップの事を知っているのか?」
 治療を施しながら早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が隣で同じくヒールによる治療をしているグランに声を掛けた。
「急にどうしたんです?」
「ホイップは……実は剣の花嫁だ」
「……はい」
「そして、女王候補を名乗る者が現れてから十二星華と名乗る剣の花嫁達が暴れている……もしかして――」
「そこから先はホイップちゃんに直接聞いて下さい。……きっとホイップちゃんは答えてくれると思いますよ。皆さんの事をだいぶ信用しているみたいですから……」
(信用……和子が聞いたら喜びそうだな)
 ボビンは和子が聞いた時の顔を想像に少しだけ笑った。
 呼雪は治療の終わった人をテントの外へと向かわせた。
 グランも治療が終わったようだ。
「何故、信用していると?」
「こうしてあなた達を呼んだでしょう? この場所の近くは……あぁ、この間もいらっしゃったんですよね……ホイップちゃんの杖がありますから。あまり近づいて欲しくはないはずです。それなのに、こうして皆さんに連絡をとり、助けを求めた。少し前までは人とあまり関わろうとしていなかったのに、です」
「……」
 呼雪は少しだけ黙る。
「あの杖は魔物か何かを封印していたりするのか……? いや、もし辛い過去なら別に話さなくても――」
「魔物より性質(たち)が悪いですよ……」
「それは――」
「コユキーーーーっ!」
 呼雪は更に聞きだそうとしたが、慌てて入ってきたファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)の声に中断されてしまった。
 ファルが連れていた白馬のシオンの上に2人とヌウ・アルピリ(ぬう・あるぴり)の背中に3人も怪我人が乗った状態で現れたのだ。
「一応、ナーシングはかけたよっ!」
「ヌウ、慎重に運んだ。皆、同じ場所に、居た」
 ファルとヌウは交互に説明をした。
 呼雪は1つ頷くと5人全員にリカバリを使用した。
 更に、グランが1人1人火傷の場所をヒールを掛け、重点的に治療していく。
「大丈夫だよね? コユキなら助けられるよね?」
「大丈夫だ、だからヌウ達は、出来る事をやろう」
「……うん。コユキ、グランさん頑張ってね!」
 ファルに応援され、2人は笑顔で返す。
 それを見て安心したファルは先に行ってしまったヌウを追いかけてシオンにまたがり、駆けていった。
 そのまま、忙しくなってしまい話す機会を失ってしまった。

 テントまで村人を避難誘導してきた珠樹はふとある人物に目を止めた。
 キョロキョロと辺りを見回し、ちょっと挙動不審なその人は、薬屋のおやじだった。
「怪しいですわね……」
 そう言うと珠樹はそっと背後から近付き、おやじの背後を取る。
 そのままおやじの腕を捻りあげてしまった。
「さあ、なぜキョロキョロ見回していたのかキリキリお吐きになって! あなたが火事を起こしましたの!? 事と次第によっては許しませんわ!」
「い、痛い! 痛い! 解った話す! 話すから、腕を離してくれ!」
 捻りあげた腕を下へと下ろす。
 しかし、腕は掴んだままだ。
「ふぅ〜……この村に弟がいるはずなんだ。だから探していただけだ」
「本当ですの?」
 珠樹はにわかには信じられないと疑いの目を向けたままだ。
「う……この火事の犯人なら、知っている」
「誰ですの!?」
 おやじの言葉に食い付く。
「それは……」
「それは?」
「ホイップちゃんだ」
「ホイップ……?」
「ああ、この火事の応援を皆に頼んだ人物だ」
 珠樹はおやじが口にした名前を幾度を繰り返し呟き、ホイップを探しに行ったのだった。