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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その2

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その2

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第6章


 時間は少し戻りまして、ここはおやじを捕まえた平原。
「さて、色々と吐いてもらいますよ。質問に答えてもらえれば、これ以上はしません」
 鳩尾に蹴りを加えた刀真はおやじにそう告げた。
 おやじはその言葉にそっぽを向いた。
 銃で撃ち抜かれ相当痛いはずなのだが、さすがドMといったところだろうか。
「ああ、気になっていたんですが、名前は?」
「シャガ・コチョウだ……」
「シャガ?」
 刀真はあまり聞いた事の名前に首を捻った。
「シャガは花だ。それも花言葉は『清らかな愛』! なんともピッタリな名前!」
 開いた口がふさがらない。
 頭痛のしてきた刀真は次の質問に移ることにしたようだ。
「ティセラは何故星杖を欲しがるのですか? 女王器と同じ位価値がある物なんですか?」
 この質問には食いつかず、黙りこくってしまった。
「もしかして星杖は契約者や持っている花嫁以外でも使えるんですか? それともティセラは全ての星剣を使えるのですか?」
「……」
 おやじはだんまり。
「なんでわざわざホイップを呼んだの? 勝手に杖を持っていけばよかったのに」
 月夜は質問を投げかけた。
 それについても、おやじはそっぽを向いてしまった。
「さて、次の質問です。ティセラの鞭とかヒールって言ってましたけどティセラにはそっちの趣味があるんですか?」
「ティセラ様があるわけないだろう!? あの本当に嫌がってる態度で冷たくあしらわれるのが最高なんじゃないか! そんな事も分からないのか!?」
 誰もわかるわけがない。
「ドSプレイに慣れた奴の手練手管は確かに凄い……それは認める! だが、しかし! そんなものに魅力はない!」
 おやじは言いきった。
「……月夜、このおやじ踏んでやって下さい」
「えと、ゴメンなさい」
 刀真の言葉に従い、月夜はおやじを踏みつけた。
「ひゃっほーいっ! あふんっ!」
「調子に乗るな」
「えぅ」
 これはツボだったらしい。
 体をくねらせ気持ち悪い。
「……怖かった」
 おやじの側を離れ、刀真の後ろに隠れると、刀真を振り向かせ涙目で睨んだ。
「……えーと、ゴメン」
 刀真の質問が終わると今度は、待っていた洋兵が出てきた。
「ある程度聞きたい事は済んだんだろう? もう杖持って行けよ。お前らはまだやる事があるんだろう? 俺はコイツを許す気はさらさらねぇ! 徹底的にてめぇのやったこと、後悔させてやるよ!」
 洋兵はおやじに対してまた銃を向ける。
 周りの人達はその気迫にゾッとした。
「ユディ、素顔で良いぞ」
「良いんですか!? ありがとうございます、洋兵さん! この性格疲れるんですよね……こんな地面に這いつくばっているウジ虫なんて焼いちゃっても構いませんよね? ジワリジワリと焼くのが私の好み。さあ、私にその汚くて心地いい悲鳴を聞かせなさいよ、ウジ虫」
 ユディはその右手に火術で作った火の玉を出現させた。
 目は冷酷で全てを見下しているような雰囲気を出していた。
「はい、ちょっとストーップ」
 そこに水を差したのは終夏だ。
「邪魔するってんなら容赦しないと、さっき言ったよなぁ?」
「それは聞いてた。でも、コイツには村人やホイップちゃんに謝ってもらわなきゃいけないからさ。杖と一緒に連れて行かないとね。その後でなら何しても良いんじゃない?」
「……」
 終夏の言葉にあまり納得は出来ていないようだが、確かにと思ったのか一時引く事にしたようだ。


 なんとか落ち着くと杖を奪っていたジェイコブは、エルに杖を渡そうとしていた。
 どうしてもホイップに直接運びたいという熱意に負けたようだ。
「頼む」
「勿論!」
 ジェイコブがエルに杖を渡そうとした瞬間――
「その杖は私のものよっ!」
 頭上から声が響き、煙幕ファンデーションが投下された。
 視界が奪われる。
 ジェイコブの手から杖が奪われた。
 奪ったのはなんと、さっきまで両足を撃たれ転がっていたおやじだ。
「この杖はティセラ様のもの!」
 自分の足から血を出しながら走っている。
 滑空してきたメニエスとロザリアスに杖はあえなく取られてしまった。
「この世の物は全部おねーちゃんのものなの!」
 杖を持ったロザリアスはあかんべーをして上空へと上がって行こうとした。
「契約により吸血鬼にならせてもらっただけの者など、蚊と同じよ」
 上がろうとしたロザリアスの杖は背後から近付いてきていた馬に乗ったラグナ・アールグレイ(らぐな・あーるぐれい)の手に渡った。
「あら、例え他の契約者はそうだとしても私は特別よ」
 ラグナの言葉を聞いたメニエスはこめかみに青筋付けながらそう言い放った。
 そのまま、ルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)が操る馬でエルの元へと向かおうとする。
「通りすがりの便利屋さん。ロックスター商会参上。なぁんてね」
 しかし杖は、後ろから来たバイクにかすめ取られてしまった。
 取ったのはトライブだ。
「別にホイップとかいう人には恨みがあるわけじゃないんだけどねぇ」
 トライブは上空で待機しているベルナデットに杖を投げた。
「恨みがないなら杖は返してもらうさね!」
 馬に乗っていたフィーネは馬の背を蹴り、飛んだ。
 杖はベルナデットに渡る前にフィーネの腕の中へとおさまった。
 フィーネは走らせていた馬の背に着地するとダークネスウィップで馬の尻を叩いて、スピードアップをはかった。
「それをトライブに渡すのじゃーっ!」
 上からは杖を受け取り損ねてしまったベルナデットが火術、氷術、雷術を雨のように降らせてくる。
 よけきれないと踏んで、フィーネは杖を隣に走っていた武尊とシーリルの2人に投げた。
「これはティセラ様のものだと言っているだろう!」
 投げたものをまたもおやじが奪った。
 いつの間にかおやじは自分のバイクのタイヤを交換していたのだ。
 そのまま走り去ろうとするおやじ。
 今度も武尊がシーリルに狙撃を指示。
「行きます」
 シーリルはタイヤに狙いを定めている最中だ。
「杖と戦闘は我が引き受ける。貴公は例の褒美の準備でもしていろ」
 おやじに声を掛けたのはマコトだ。
「ああ!?」
 おやじは素っ頓狂な声を上げる。
「先ほど、少しだけ反応が遅れた攻撃があっただろう? あれは我だ。さあ、杖をこちらに」
 おやじへと手を伸ばすマコト。
 背後ではシーリルの照準がもう少しでロックオンされてしまいそうな状況。
「ちっ……じゃあ、任せた――なぁ〜んて言うと思ったか! 何がなんでもティセラ様に直接渡すんだ!」
 おやじはマコトの誘いに乗らなかった。
 おやじを信用させて杖を奪い、ホイップに返そうとしていたマコトの作戦は失敗してしまったようだ。
 シーリルの照準が合った。
「これでも食らえ!」
 肩越しに投げつけたのは胡椒爆弾だ。
 地面に接触し、直ぐに中身が周りに充満する。
 照準はクシャミと鼻水、涙により外れてしまった。
「ひょっほーい!」
 逃げ切れそうなおやじは雄叫びをあげた。
 傷は痛くないのだろうか。
「こんな部下しかいないなんて可哀相だよね〜」
 そんな声が聞こえてきたと思ったら、杖はあっという間に強盗鳥に盗まれてしまった。
 上で強盗鳥から杖を受け取ったのはマッシュだ。
 小型飛空艇を操縦しているのはシャノン。
「それは同感だけど、その杖は返してもらうよ!」
 次の瞬間、辺りは光に包まれ、目が一瞬見えなくなる。
 エルの光術による、目くらましだ。
 マッシュの目が見えないうちに、氷術をマッシュの手に当てて杖を落とさせる。
 杖を下で受け取るとエルはそのままホイップの元へと走りだした。
 その護衛をするように、エルの後ろをミレイユ、シェイド、デューイが付いて行く。
 杖奪取失敗とみて、メニエスは腹いせにテロルチョコをおやじの口へと突っ込んで逃げて行った。
「そこの高貴ぶってる吸血鬼! あなたの顔、覚えておくわよ!」
 メニエスはラグナへの捨て台詞も忘れていなかった。
 フィーネは呆然としているおやじをロープで縛りあげ、エル達の更に後ろをついて行くのだった。

「しつこいなぁ〜」
 まだ付いてきていたトライブを発見したミレイユはサンダーブラストで牽制。
 しかし、それで怯むような相手ではない。
「…………」
 それを見たデューイが煙幕ファンデーションを使用し、こちらの動きを分からないようにした。
 撒いたように見えた。
 勿論、まだ諦めていない連中はこっそりとその後を付けて行くのだった。